2013-12-02

天然痘と大虐殺/『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス


ラス・カサスの立ち位置
スペイン人開拓者によるインディアン惨殺
・天然痘と大虐殺

 神はその地方一帯に住む無数の人びとをことごとく素朴で、悪意のない、また、陰ひなたのない人間として創られた。彼らは土地の領主(セニョール)たちに対し、また、現在彼らが仕えているキリスト教徒たちに対しても実に恭順で忠実である。彼らは世界でもっとも謙虚で辛抱強く、また、温厚で口数の少ない人たちで、諍(いさか)いや騒動を起こすこともなく、喧嘩や争いもしない。そればかりか、彼らは怨みや憎しみや復讐心すら抱かない。この人たちは体格的には細くて華奢でひ弱く、そのため、ほかの人びとと比べると、余り仕事に耐えられず、軽い病気にでも罹(かか)ると、たちまち死んでしまうほどである。彼らは恵まれた環境の中で育てられたわれわれの君主や領主の子息よりはるかにひ弱く、農耕を生業とするインディオとて例外ではない。
 インディオたちは粗衣粗食に甘んじ、ほかの人びとのように財産を所有しておらず、また、所有しようとも思っていない。したがって、彼らが贅沢になったり、野心や欲望を抱いたりすることは決してない。

【『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス:染田秀藤〈そめだ・ひでふじ〉訳(岩波文庫、1976年/改訂版、2013年)】

 インディアンについては、あの殺戮者クリストファー・コロンブスでさえ称賛している。

侵略者コロンブスの悪意/『わが魂を聖地に埋めよ アメリカ・インディアン闘争史』ディー・ブラウン

 彼らはあまりにも善良で人を疑うことを知らなかった。白人が欲しい物は何でも与えた。そして殺された。

 インディアンと初めて遭遇した時、白人たちはたじろいだ。彼らの存在が聖書に書かれていなかったためだ。中世の西洋的思考ではキリスト教の神を信じない者は人間として認められなかった。

 ラス・カサスの言葉は逆説的だ。神がインディアンを創造したという前提で書かれているが、実はインディアンの善性が神の地位を押し上げているのだ。

 インディアン虐殺はピルグリム・ファーザーズから始まっていた。そしてインディアンの多くは白人たちがアメリカ大陸に持ち込んだ天然痘などの疫病(えきびょう)で死んだ。これが反ラス・カサス派の根拠となっている。具体的なデータを私は知らないので判断が難しいところだ。

 コロンブスは中米のインディアン諸部族を艦隊を率いて数年にわたり虐殺し、その人口を激減させた。インディアンたちを黄金採集のために奴隷化し、生活権を奪ったためにインディアンたちは飢餓に陥り、疫病が蔓延し、その数をさらに減らした。白人のもたらした疫病が中米のインディアンを減らしたのではない。コロンブスによる大量虐殺が、疫病によるインディアンの激減を招いたのである。

Wikipedia:インディアン戦争

 いわゆるジェノサイド“民族大虐殺”というヒットラーの殺した600万人のユダヤ人、イスラム教徒対ギリシャ政教のボスニア大虐殺等と変らない民族大虐殺が起きたのだ。

先住民族迫害史:アメリカ国立公園特集

 インディアン戦争は苛烈で、捕虜の殺害や、一般市民を攻撃目標にしたり、また他にも民間人への残虐行為が双方で見られた。今日でも知られている出来事としては、ピット砦のイギリス軍士官が天然痘の菌に汚染された毛布を贈り物にし、周辺のインディアンにこれを感染させようとしたことである。

Wikipedia:ポンティアック戦争

 パレスチナを侵略したイスラエルと同じ手口だ。その後白人たちは珍しい品物を与えることでインディアンの分断工作を図る。

 結局インディアンはヨーロッパ人の文明と歴史の前に敗れたといってよい。戦争はトリッキーなやり方で相手を騙した方が勝つ。これが孫子の兵法の極意だ。

兵とは詭道なり/『新訂 孫子』金谷治訳注

 もう一つの歴史の重要な機能とは、「歴史は武器である」という、その性質のことである。文明と文明の衝突の戦場では、歴史は、自分の立場を正当化する武器として威力を発揮する。

【『歴史とはなにか』岡田英弘(文春新書、2001年)】

歴史の本質と国民国家/『歴史とはなにか』岡田英弘

 その上ヨーロッパ人には合理的な宗教まであった。神を背景とした正義にインディアンたちが適(かな)うはずもない。文字を持たなかったアフリカ人も同じ運命を辿っている。

インディアスの破壊についての簡潔な報告 (岩波文庫)

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