2014-04-03

被爆を抱えた日常/『夕凪の街 桜の国』こうの史代


 死体を平気でまたいで歩くようになっていた
 時々踏んづけて灼けた皮膚がむけて滑った

 地面が熱かった靴底が溶けてへばりついた

 わたしは
 腐ってないおばさんを冷静に選んで
 下駄を盗んで履く人間になっていた。

【『夕凪の街 桜の国』こうの史代〈ふみよ〉(双葉社、2004年)】

 昭和20年8月7日、広島。これは原爆が落とされた翌日の出来事である。その地獄絵図にどうしても私の想像が及ばない。私が知っている暴力は殴ったり蹴ったりするレベルのものだ。人間が人の形を維持したまま炭化したり、影しか残っていなかったりするのは一瞬の出来事である。そこに感情を喚起する余地はない。まったくない。化学反応のように始末あるいは処分されただけだ。それもボタンひとつで。

 マンガ作品としてはそれほど評価できない。物語が寸断されており、出来損ないのモザイク画みたいになってしまっている。ただし描こうとしたテーマは素晴らしいと思う。被爆を抱えた日常はそこはかとなく死とあきらめ、倦怠感に包まれている。

 広角で描かれた淡い景色が味わい深い。原爆ドームのカットを見るだけでも本書を読む価値がある。ラストにかけて絵は消え失せ、主人公の科白(せりふ)だけが続く。そこに強い憎悪は見られない。庶民の感覚からすれば「どうして?」という疑問は浮かんでも、この惨劇を遂行した人間の姿が浮かび上がってこないためだろう。人間の所業とは思い難い残酷を繰り返すのが人類の業(ごう)なのか。

 アメリカは原爆投下に関して一度も謝罪をしていない。そのアメリカに安全を保障してもらうというのだから日米安保ほど不思議なものもあるまい。原爆を落とされた唯一の国が戦後、アメリカの核の傘の下に入るというのも理解しにくい。傘から核が振ってくる可能性はないと言い切れるのか?

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

アメリカ人の良心を目覚めさせた原爆の惨禍/『トランクの中の日本 米従軍カメラマンの非公式記録』ジョー・オダネル
原爆資料館を訪れたチェ・ゲバラ/『チェ・ゲバラ伝』三好徹
米軍による原爆投下は人体実験だった/『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人

0 件のコメント:

コメントを投稿