2014-06-12

ドナルドダックの腕時計


 小学校1年の時、私はドナルドダックの腕時計を持っていた。たぶん入学祝いであったのだろう。さほど気に入っていたわけでもなかったし、そもそも時間を気にする年齢ではない。太陽が沈みかけたら家に帰るまでのこと。当時は苫小牧に住んでいて家の裏が海であった。嵐の日などは波の泡が自宅前の国道36号線にまで降ってきた。残念なことに泳げる海ではなかった。波が高い上、水温も低かったことだろう。それでも無謀な試みを企てる若者が必ずいる。毎年、人が死んでいた。子供が波にさらわれたこともあった。私たちはカップルの姿を見ては「アベックー!」と叫んで堤防の陰に身を伏せた。ある日、腕時計のバンドが切れた。静かに振ってみると中に砂が入っているような音がした。友達にもそれを聞かせた。「ああ、もうダメだな……」。壊れるのは時間の問題であった。それ以降、私は腕時計を見向きもしなくなった。大人になってから再び砂の音がする腕時計を見た。それは自動巻きの音であった。

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