2014-09-27

宇沢弘文逝く


 この碩学(せきがく)にして人前であがることがあった。86歳で死去した経済学者の宇沢弘文さんが1983年に文化功労者になり、昭和天皇に招かれて話をしたときである。「ケインズがどうの、だれがどうした」。そのうち自分でもわけが分からなくなってしまったのだという。▼すると天皇が身を乗り出してきた。「キミ。キミは経済、経済と言うけれども、要するに人間の心が大事だと言いたいんだね」。その言葉に電撃的なショックを受け、目がさめた思いがした、と本紙の「私の履歴書」で振り返っている。人間の心を大切にする経済学は、宇沢さんの研究を貫く芯になったテーマでもあった。▼公害問題にのめり込み、水俣では水俣病の研究、治療に尽くした医師・原田正純さんと親交を結んだ。重篤な患者が原田さんを見るとじつにうれしそうな顔をして、はいずって近づこうとする姿に感動した。経済の繁栄と一人ひとりの生活の落差を目の当たりにし、解決の道を探るための経済理論づくりを進めたのである。▼米国で研究生活を送ったのは平和運動、ベトナム反戦運動が盛んなころだった。ともに運動に関わった同僚が知らぬ間に大学を解雇されたりした。知人に連れられてよく集会に行き、歌のうまい女子高校生に感心した。のちに日本でもよく知られたフォーク歌手のジョーン・バエズである。人間臭さにも満ちた生涯だった。

日本経済新聞 2014年9月27日

行間に揺らめく怒りの焔/『自動車の社会的費用』宇沢弘文
人の心を大事にする経済学:伊勢雅臣

始まっている未来 新しい経済学は可能か経済学と人間の心経済学は人びとを幸福にできるか社会的共通資本 (岩波新書)

2014-09-26

新自由主義に異を唱えた男/『自動車の社会的費用』宇沢弘文


『記者の窓から 1 大きい車どけてちょうだい』読売新聞大阪社会部〔窓〕
『交通事故鑑定人 鑑定暦五〇年・駒沢幹也の事件ファイル』柳原三佳

行間に揺らめく怒りの焔
・新自由主義に異を唱えた男

 かつて、東京、大阪などの大都市で路面電車網が隅々まで行きわたっていたころ、いかに安定的な交通手段を提供していたか、想い起こしていただきたい。子どもも老人も路面電車を利用することによって自由に行動でき、街全体に一つの安定感がみなぎる。たとえ、道路が多少非効率的に使用されることになっても、また人件費などの費用が多くなったとしても、路面電車が中心となっているような都市が、文化的にも、社会的にもきわめて望ましいものであることを考え直してみる必要があるであろう。この点にかんして、西ドイツの都市の多くについて見られるように、路面電車の軌道を専用とし、自動車用のレーンとのあいだに灌木を植えて隔離し、適切な間隔を置いて歩行者用の横断歩道を設けているのは、大いに学ぶべきであろう。

【『自動車の社会的費用』宇沢弘文〈うざわ・ひろぶみ〉(岩波新書、1974年)以下同】

 宇沢弘文が亡くなった。新自由主義の総本山シカゴ大学で経済学教授を務めながら、猛然とミルトン・フリードマン(『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン)に異を唱えた人物だ。

 本書は教科書本である。興味があろうとなかろうと誰が読んでも勉強になる。何にも増して学問というものがどのように社会に関わることができるかを示している。宇沢は日本社会が公害に蝕まれた真っ只中で自動車問題にアプローチした。

 高度成長がモータリゼーションを生んだ。だが政治は高速道路をつくることに関心が傾き、狭い道路をクルマが我が物顔で走り、人間は押しのけられていた。私が子供の時分であり、よく覚えている。

 自動車を極端に減らすことは難しい。さりとて道路行政も向上しない。そして人々は移動する必要がある。そこで宇沢が示したのは路面電車であった。眼から鱗が落ちた。何と言っても小回りが効くし公害も少ない。更に事故も少ないことだろう。現在、Googleなどが自動運転のクルマを開発しているが、むしろ路面電車の方が自動運転はしやすいのではあるまいか?

 そして、いたるところに横断歩道橋と称するものが設置されていて、高い、急な階段を上り下りしなければ横断できないようになっている。この横断歩道橋ほど日本の社会の新婚、俗悪さ、非人間性を象徴したものはないであろう。自動車を効率的に通行させるということを主な目的として街路の設定がおこなわれ、歩行者が自由に安全に歩くことができるということはまったく無視されている。この長い、急な階段を老人、幼児、身体障害者がどのようにして上り下りできるのであろうか。横断歩道橋の設計者たちは老人、幼児は道を歩く必要はないという想定のもとにこのような設計をしたのであろうか。わたくしは、横断歩道橋渡るたびに、その設計者の非人間性と俗悪さとをおもい、このような人々が日本の道路も設計をし、管理をしていることをおもい、一緒の恐怖感すらもつものである。

 今となっては歩道橋もあまり利用されていない。私なんかは既に10年以上渡った記憶がない。結局、経済成長を優先した結果、人が住みにくい環境になってしまった。戦後だけでも50万もの人々が交通事故で死亡している(戦後50万人を超えた交通事故死者)。この数字は原爆の死亡者(広島14万人長崎7.4万人)に東京大空襲の死亡者(10万人超)を足した数より多いのだ。まさに「交通戦争」と呼ぶのが相応しいだろう。

 宇沢の声が政治家の耳に届いたとはとても思えない。交通事故の死亡者数が1万人を割ったのも最近のことだ。しかもその数字は24時間以内のものに限られている。碩学(せきがく)は逝った。だがその信念の叫びは心ある学徒の胸を震わせ、長い余韻を響かせることだろう。

自動車の社会的費用 (岩波新書 青版 B-47)

2014-09-25

孫崎享


 1冊読了。

 67冊目『戦後史の正体 1945-2012』孫崎享〈まごさき・うける〉(創元社、2012年)/朝日新聞の書評欄で佐々木俊尚が「陰謀論」と切り捨てた。それに対して郷原信郎〈ごうはら・のぶろう〉が反論。ネット上では「トンデモ本」とかまびすしい。ラジオで佐藤優が孫崎の言論活動に対して「日本の国益を損なう」と発言したのを聞いて、これは読まねばと思った次第である。佐藤優の著作を数冊読んだ限りでは、どうも肝心なことを書いていないような気がする。むしろ該博な知識をもって何かを隠しているようにすら見える。著者は対米追随派と対米自主派という枠組みで歴代首相を捉え、アメリカとの綱引きによって日本がどのように動いてきたかを検証する。陰謀論・トンデモ本と一言で片付けるわけにはいかない労作である。本書は既に20万部以上売れている。売れれば売れた分だけ批判が出ることは避けようがない。でもまあ、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』を読めば、孫崎の主張がそれほどおかしいとは思えない。いずれにせよ日本人がGHQによる占領の意味を考える上で重要なテキストだと思う。この分量で1620円は破格の値段だ。

天木直人:孫崎享氏と対談した事について書く
「孫崎亨氏の解釈間違」佐藤優

2014-09-24

日本と国際インテリジェンス戦争











ロックフェラー兄弟財団、化石燃料投資から撤退宣言


 世界最大の石油財閥であるロックフェラー一家(Rockefellers)が22日、化石燃料に対する投資を止めると発表し、米ニューヨーク(New York)で23日に開かれる国連(UN)の気候変動サミットにとって大きな後押しとなりそうだ。

 サミットを翌日に控え、民間機関や個人、地方自治体などによる連合はこの日ニューヨークで、化石燃料に対する計500億ドル(約5兆4000億円)以上の投資撤退を宣言した。この連合には資産規模8億4000万ドル(約900億円)のロックフェラー兄弟財団(Rockefeller Brothers Fund)も含まれており今後、化石燃料との関わりを可能な限り減らし、また環境に最も有害なエネルギー源とされる石炭灰と油砂(オイルサンド)へのすべての投資を止めると発表した。

 ロックフェラー兄弟財団は、ジョン・D・ロックフェラー(John D. Rockefeller)の子孫たちによる財団。石油王ロックフェラーが創始したスタンダード・オイル(Standard Oil)の後身である世界最大級の石油大手、米エクソンモービル(ExxonMobil)は、気候変動に関する取り組みの敵となることが多い。

 化石燃料産業全体の規模に比べれば投資撤退の規模は小さいが、気候変動問題に取り組む人々からは歓迎の声が上がっている。南アフリカのデズモンド・ツツ(Desmond Tutu)元大主教は、この宣言を歓迎するビデオ・メッセージを発表し「私たちはこれ以上、化石燃料への依存を支えるわけにはいかない」と述べた。

AFP 2014年9月23日

2014-09-23

ヒップホップの鎮魂歌(レクイエム)


「Def Tech - いのり feat. SAKURA」は25歳で亡くなった日本を代表するサーファー佐久間洋之介を、「DJ KRUSH - Candle Chant (A Tribute) feat.BOSS THE MC」は24歳で亡くなったラッパーのラフラ・ジャクソンを歌った曲だ。そして2Pacは友人であったマイク・タイソンの試合を観戦した帰りに銃撃を受け死亡した。まだ25歳だった。「死を悼(いた)む」営みこそ真の優しさである。亡き友が思い出されてならない。「Life goes on」を聴くと私の心臓は本当に鼓動が激しくなる。





佐々淳行、沢木耕太郎


 2冊読了。

 65冊目『インテリジェンスのない国家は亡びる 国家中央情報局を設置せよ!』佐々淳行〈さっさ・あつゆき〉(海竜社、2013年)/菅沼光弘の発言(「謀略天国日本 日本は情報戦をどう戦うか?」か「さようなら韓国、さようなら戦後体制」のどちらか)を確認するために読んだ。「瀬島龍三はソ連のスリーパー(潜伏スパイ)だった」。確かに書いてあった。瀬島は伊藤忠商事会長を務め、中曽根首相のブレーンにまでなった人物だ。最大の仕事は東芝機械ココム違反事件(1987年)で、規制されていた工作機械をソ連に輸出し原子力潜水艦のスクリュー音を静かにすることが可能となった。瀬島は誓約引揚者だった。後藤田正晴のもとで八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍をする姿を赤裸々に綴っており、佐々はフレデリック・フォーサイスの小説にまで登場している。こんな凄い人物だとは思わなかった。

 66冊目『』沢木耕太郎(新潮社、2005年/新潮文庫、2008年)/山野井泰史・妙子夫妻を描いたノンフィクション。かつてテレビ番組で紹介されていたので粗筋は知っていた。夫婦ともに世界トップクラスのクライマーである。どれどれと思いながら開いてみたところ、一日半で読み終えてしまった。8000メートルをわずかに下ることから今まで注目されてこなかったエベレストに連なるギチュンカンへの無酸素アタック。『神々の山嶺』そのままの世界だ。山野井泰史が単独で制覇。下山の際に夫妻は雪崩に襲われる。衝撃で二人は目が見えなくなる。素手でクラックをまさぐり、1本のハーケンを打ち込むのに1時間を要した。ロープだけのブランコ状態でのビバーク、ライターを落とし手袋まで落としてしまう。それでも二人は生還した。後日譚がまた泣かせる。山野井夫妻ほど自由に人生を謳歌している人物を私は知らない。