2017-05-29

悟り四部作/『人類の知的遺産 53 ラーマクリシュナ』奈良康明


『ローリング・サンダー メディスン・パワーの探究』ダグ・ボイド

 ・悟り四部作

・『インドの光 聖ラーマクリシュナの生涯』田中嫺玉
『あるヨギの自叙伝』パラマハンサ・ヨガナンダ
『クリシュナムルティの神秘体験』J・クリシュナムルティ

悟りとは

 しかるにラーマクリシュナの(※エクスタシー)体験は、1回2回というものではない。しばしば脱我の域に没入し、そのまま数時間、ときには旬日にわたることもあった。医者の診断によると、脈拍も心臓の鼓動も感ぜられなかったという。その状態を無分別三昧というのであるが、あるときはほとんど6ヵ月のあいだ、間断なくそのままで居つづけたともいわれる。

【月報第57号/「ラーマクリシュナの神秘性を廻って」玉城康四郎〈たましろ・こうしろう〉】

 私が読んできた限りでは冒頭リンク(田中嫺玉〈たなか・かんぎょく〉を除く)が「悟り四部作」といってよい。これらを古典と位置づけた上で最近刊行されている預流果(よるか)本を開くと理解が一層深まる。共通項は「インド」である。厳密に言えばローリング・サンダーはインド人ではないがアメリカ先住民が「インディアン」と呼ばれた不思議を思わずにはいられない。

 玉城康四郎は仏教学者だがクリシュナムルティに関する論文がある。で、クリシュナムルティの著作を翻訳している藤仲孝司〈ふじなか・たかし〉が批判している。

クリシュナムルティと仏教の交照 玉城康四郎氏の誤読を正す

 私の興味は飽くまでも悟りにあり宗教学なんぞどうでもいい。まして悟っていない外野同士が争うことに意味は見出せない。宗教が民族形成の原動力であることは確かだろうが、近代以降は科学や経済が宗教のポジションに格上げされた。21世紀となってからは原理主義という姿で辛うじて形骸を残している。そう考えると最後の宗教はイスラム教といってよい。

 宗教体験が純正であるかどうか。これは、一つには、その人の日常生活の中に見られる思想や行為から知るほかはない。神秘体験はあくまでも情動的で、その人の内面の精神の問題である。論理、知性の世界の出来事ではない。論証して正しさを証明するものではないのである。ただ、彼は自己のうちに絶対なる何ものかを見、否応(いやおう)なしに自分はそれと一なる存在であることを、今や、知っている。おのずと人格や生活行為の中に、それなりの宗教的自覚と境涯が表出されてくるのは当然なのであって、そこにこそ彼の宗教性の深さが験(ため)されることとなる。
 体験の純正さの証(あかし)としてもう一つ重要なことは、古来よりの宗教伝承を本質面において受け継いでいるか否かということである。自覚的に体験された真実が、師匠に伝えられてきた内容と同じであると師匠が判断すれば問題ないわけで、つまり、仏教流にいえば、師資相承と印可証明の問題である。
 この点、ラーマクリシュナは特定の師匠というべき人をもっていない。特に学校とか僧院で宗教的訓練を受けたわけでもない。19世紀の西ベンガル地方の一農村に貧しいバラモンの息子として生まれ、学校教育もろくに受けていない。しかし、特異な宗教的資質に恵まれ、少年時代から素朴な宗教体験をもっている。20歳頃から自分の信ずるカーリー女神を、「大実母」(マー)と呼び、ちょうど、子供が母親に甘え、すがっていくように、ひたすらな信愛(バクティ)を捧げてマーを見たいと願っていた。その結果、遂に目のあたりに女神の姿を見て、いわゆる見神体験をもった人である。

【『人類の知的遺産 53 ラーマクリシュナ』奈良康明〈なら・やすあき〉(講談社、1983年)】

 智ギ(天台大師)の弟子である章安の言葉に「自解仏乗」(じげぶつじょう)とある。23歳で法華三昧の中で悟りを開いた智ギの徳を称(たた)えたものだ。


 ラーマクリシュナは天衣無縫の人であった。数少ない写真からは全く構えることのない姿が窺える。

 奈良の指摘はもっともであるが常識の範疇(はんちゅう)を出ていない。社会的価値はクルクルと移り変わる。戦前までは見合い結婚が主流であった。私が子供の自分は教師が体罰を下すことは珍しくはなかった。戦争や事件、あるいは技術革新や経済的発展によって価値観はガラリと変わる。悟りという状態が非日常であれば、それを非常識と言い換えてもよかろう。常識で測るのは無理がある。

 悟りを考える上でぶつかるのが人格神の問題である。クリシュナムルティも最初の覚醒の時には神と邂逅(かいこう)している。当てずっぽうで言ってしまえばヒンドゥー教の影響だと思う。情報としてのヒンドゥー教文化が真理を化身化するのではないだろうか。私は人格神を重んじないのでどうしてもラーマクリシュナやヨガナンダに肩入れできない。

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奈良 康明
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