2014-10-02

ジェノサイドの恐ろしさ/『望郷と海』石原吉郎


 ・目次
 ・ジェノサイドの恐ろしさ

『海を流れる河』石原吉郎
『石原吉郎詩文集』石原吉郎
『シベリア抑留とは何だったのか 詩人・石原吉郎のみちのり』畑谷史代
『内なるシベリア抑留体験 石原吉郎・鹿野武一・菅季治の戦後史』多田茂治
『失語と断念 石原吉郎論』内村剛介
『シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界』立花隆

 確認されない死のなかで
   ――強制収容所における一人の死

百万人の死は悲劇だが
百万人の死は統計だ。
アイヒマン

 ジェノサイド(大量殺戮)という言葉は、私にはついに理解できない言葉である。ただ、この言葉のおそろしさだけは実感できる。ジェノサイドのおそろしさは、一時に大量の人間が殺戮されることにあるのではない。そのなかに、【ひとりひとりの死】がないということが、私にはおそろしいのだ。人間が被害において自立できず、ただ集団であるにすぎないときは、その死においても自立することなく集団のままであるだろう。死においてただ数であるとき、それは絶望そのものである。人は死において、ひとりひとりその名を呼ばれなければならないものなのだ。

【『望郷と海』石原吉郎:岡真理解説(筑摩書房、1972年/ちくま学芸文庫、1997年/みすず書房、2012年)】

『望郷と海』が復刊された。みすず書房は最初から売れないものと決め込んだのだろう。3240円は高い。重複した内容が多いので『石原吉郎詩文集』の方がオススメできる。

 本書を「日本版 夜と霧」と評する向きもあるようだが的外れだ。石原吉郎は日本版プリーモ・レーヴィであり、本書は「日本版 アウシュヴィッツは終わらない」というべきだろう(『アウシュヴィッツは終わらない あるイタリア人生存者の考察』プリーモ・レーヴィ)。石原は長く生きたが、その末期(まつご)まで酷似している。

 強制収容所は労働を強制する場所だ。働けなくなればその場で殺されることも珍しくはない。石原自身何度も目の当たりにしてきた。彼らは単なる労働力であって人間と見なされることがない。石炭や石油と同じくエネルギーに例えることも可能だろう。

 石原が抱いた恐怖は存在に関わるものだ。まずシベリア抑留という国家から見捨てられた立場があり、次にいつ殺されるかわからない情況がある。つまり彼らは二重に否定された存在なのだ。

 人は尊厳を奪われるとただの動物と化す。石原は帰国後、失語症となり実際に言葉まで失った。

 血で書かれた言葉は石に彫(ほ)られた文字のように重い。その目方に耐えることのできる下半身の力が読み手に求められる。そんな本だ。

望郷と海 (始まりの本)
石原 吉郎
みすず書房
売り上げランキング: 182,218

2014-10-01

宮城谷昌光


 1冊読了。

 70冊目『三国志読本』宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(文藝春秋、2014年)/ソフトカバーで1620円という値段を見れば、販促本と思われても仕方がないだろう。ところがどっこいそれで終わっていない。構成の勝利だ。11人との対談と語り下ろしが収められている。本当は白川静との対談だけ読むつもりであった。全員の名前を挙げると、水上勉、井上ひさし、宮部みゆき、吉川晃司、江夏豊、五木寛之、平岩外四、藤原正彦、秋山駿、マイケル・レドモンド。最後の3人が本当に面白かった。『月刊 文藝春秋』で10年の長きにわたって続いた連載が完結。三国志読本であると同時に秀逸な宮城谷昌光入門となっている。宮城谷は対談も上手くて驚いた。

2014-09-30

リー・チャイルド


 2冊読了。

 68、69冊目『警鐘(上)』『警鐘(下)』リー・チャイルド:小林宏明訳(講談社文庫、2006年)/一日半で読了。テレビドラマみたいなミステリだ。都合よくストーリーが進む。リー・チャイルドは女性の描き方が拙い。「美しい」と書くのは文筆家の敗北宣言も同様だ。「だけど読み終えたんだろ?」と言われれば、「はい」と答えるしかない。読ませるだけの筆力があるだけに、どうしても文句を言いたくなる。

2014-09-29

渡邉哲也の致命的なツイート



2014-09-28

グレゴリー・コルベール「Ashes and Snow」


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Ashes and Snow by Gregory Colbert from Gregory Colbert on Vimeo.



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