2012-03-22
神戸・小学生連続殺傷事件:彩花さんの母・山下京子さん手記全文「どんな困難に遭っても、心の財だけは絶対に壊されない」
・『淳』土師守
・『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子
・『彩花へ、ふたたび あなたがいてくれるから』山下京子
・加害男性、山下さんへ5通目の手紙 神戸連続児童殺傷事件
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・元少年A(酒鬼薔薇聖斗)著『絶歌』を巡って
神戸市須磨区で97年に起きた小学生連続殺傷事件で亡くなった山下彩花(あやか)さん(当時10歳)の母京子さん(56)が、23日の命日を前に毎日新聞に手記を寄せた。全文は次の通り。
竜が台小学校の正門前にたたずんでいる彩花桜が、今年も小さな蕾(つぼみ)をつけはじめています。自分の命よりも大切な彩花を亡くして以来、つらい季節になってしまった春が、彩花桜の成長とともにようやく優しい姿で身近なところに戻って来ました。
あの日から丸15年。
5年、10年、15年……。数字の上ではそれを区切りと呼ぶのでしょうが、大切な人を亡くした遺族にとっては心の区切りなどないような気がします。でも、一歩一歩積み重ねてきた時間がもたらす恩恵は、想像以上に大きく、苦しかった五千数百日の道のりを俯瞰(ふかん)できる力を与えてくれました。そして、彩花が居た時のように屈託なく笑うことや心の底から喜ぶことを思い出させてもくれました。
突然、我が身に起きたあまりにも理不尽な出来事。身を切られるような苦しさと悲しみ。そのうえ、自宅で生活できないほどのマスコミの過熱報道……。まるで、真っ暗な闇に放り出されたような絶望的な日々が続き「彩花のところに行きたい」と何度願ったことでしょう。夫や息子がいなければ、そして、人との絆が無ければ、私はあの地獄のような日々を、とても耐えることはできなかったでしょう。
その後、二度も病魔に襲われ死を覚悟した時にも、多くの支えの中で病気に立ち向かうことができました。ふり返れば、私たち家族を見守り、寄り添い、励まし、支え続けてくれたたくさんの温かい真心のおかげで今日という日があるのだと、あらためて感謝の思いがこみ上げてきます。
昨年3月11日、東日本で未曾有の大震災が起きました。
大切な人を突然亡くされ深い悲しみを抱えた人。家族の行方がわからず探し続ける人。生き残ったことに罪悪感を持っている人。家や仕事を失い途方にくれる人。住む家があるのに原発の影響で帰ることができない人。美しいふるさとを奪われた人……。津波や原発事故は私たちの国にあまりにも大きな爪(つめ)痕を残しました。決して取り戻すことができない尊い命を奪い、穏やかな生活を踏みにじってしまいました。
「どんな困難に遭ったとしても、心の財(たから)だけは絶対に壊されない」という大好きな言葉があります。
この15年間、私たち家族は、日常の中で揺れ動きながら、時に絶望して泣きながらも目の前の壁に挑んできました。どんなに苦しくても、あきらめなければ必ず笑顔と幸せを取り戻すことができる。心の財さえ壊されなければ、人は再び、いえ、何度でも立ち上がることができる、ということを東日本大震災で被災された全ての人たちに身を持ってお伝えします。そして、私に出来る支援をこれからも続けていきたいと思っています。
大きくなった彩花桜を見上げたら「ずっとそばに居るよ、姿は見えなくても」と、彩花の弾むような声が聴こえたような気がしました。
山下京子
【毎日新聞 神戸版 2012年3月21日】
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