2013-12-22
ジョン・ル・カレ、増田悦佐、マシュー・スチュアート、ギュンター・アンダース、ジャン・ハッツフェルド、他
12冊挫折、2冊読了。
『青い城』モンゴメリ:谷口由美子訳(篠崎書林、1980年/角川文庫、2009年)/『赤毛のアン』シリーズを2冊しか読んでいないので何となく手にした。「青い城」って妄想なんだよね。50歳の私が付き合うべき作品ではなかった(ため息)。Wikipediaによると、「少女期から『赤毛のアン』を愛読していた作家の松本侑子は、1990年代に原書で読み直したところ、中世から19世紀にかけてのイギリス文学のパロディが、大量に詰め込まれていることを発見し、1993年に詳細な注釈つきの『赤毛のアン』の改訳版を刊行した」とのこと。松本侑子訳を読んでみるか。
『反撃のレスキュー・ミッション』クリス・ライアン:伏見威蕃〈ふしみ・いわん〉訳(ハヤカワ文庫、2008年)/出だしが乗れず。というか他の本を読んでいるうちに失念していた。
『魔女遊戯』イルサ・シグルザルドッティル:戸田裕之訳(集英社文庫、2011年)/巻頭の殺人事件で掃除婦たちがぞろぞろ付いてくるのが不自然。
『飛ぶ教室』エーリヒ・ケストナー:池田香代子訳(岩波少年文庫、2006年)/昔は「エーリッヒ」だったよな。小学生の時分、我がクラスでは本書のタイトルが大流行したことがある。「飛ブー」と言いながらジャンピング・ニー・アタックの要領で屁をこくのだ。ナチス前夜に書かれた作品らしいが、どうしても馴染めない西洋の香りがする。
『自律神経をととのえるリラクセーション』綿本彰〈わたもと・あきら〉(主婦と生活社、1997年)/飛ばし読み。綿本は粗製乱造気味ではあるが説明能力が高いため、ついつい読んでしまう。あと『綿本彰のパワーヨーガ パーフェクト・レッスン』を読んで卒業する予定。
『隣人が殺人者に変わる時 ルワンダ・ジェノサイド生存者たちの証言』ジャン・ハッツフェルド:ルワンダの学校を支援する会(服部欧右〈はっとり・おうすけ〉)訳(かもがわ出版、2013年)/訳が悪い。もっと性差を強調すべきではなかったか。編集の手薄すら感じた。
『われらはみな、アイヒマンの息子』ギュンター・アンダース:岩淵達治訳(晶文社、2007年)/それにしても、なぜ公開書簡としたのか。たぶん読んだ方がいいのだろうが、何となく腑に落ちないものを感じつつ本を閉じた。著者はハンナ・アーレントの元夫。
『ヒトラーのスパイたち』クリステル・ヨルゲンセン:大槻敦子訳(原書房、2009年)/好著。上下二弾で330ページ、写真も豊富で2800円は安い。ただ私の時間がないだけ。
『ドーキンス博士が教える「世界の秘密」』リチャード・ドーキンス著、デイヴ・マッキーン(イラスト):大田直子訳(早川書房、2012年)/今時珍しい大型本だ。出来としては疑問。『ネイチャー』同様、イラストと文字のバランスが悪い。ビル・ブライソンに軍配が上がる。
『生の短さについて 他二篇』セネカ:大西英文訳(岩波文庫、2010年)/新訳。茂手木元蔵訳の方がいいのは知っていた。親切な古書店主は読者のために翻訳比較を紹介しようと企てたのだが、師走も迫るとそうそう親切にしているわけにもいかなくなったというわけ。amazonのカスタマーレビューを参照せよ。
『怒りについて 他二篇』セネカ:兼利琢也〈かねとし・たくや〉訳(岩波文庫、2008年)/名訳。他の本が色褪せてしまうほどの衝撃を受けた。半分ちょっと読んだのだが、姿勢を正して最初から読み直すことにした。ストア派の凛々しさが堪(たま)らん。
『宮廷人と異端者 ライプニッツとスピノザ、そして近代における神』マシュー・スチュアート:桜井直文〈さくらい・なおふみ〉、朝倉友海〈あさくら・ともみ〉訳(書肆心水、2011年)/今年最大の難関であった。とにかく文体が濃密でイギリス文学の薫りを放っている。中世の歴史にこれほど目配りできている作品は初めて。スピノザはダーウィン以前に革命を起こした哲学者であった。彼は合理的思考によって真理を神と表現した。俗人ライプニッツは当時の知性を代表する人物であったが時代の影響から免れることはできなかった。ライプニッツは隠れスピノザ主義者であった。だが彼はスピノザと直接見(まみ)えた後、アンチ・スピノザを標榜した。この謎に迫ったのが本書というわけ。まあ凄いもんだ。この二日間ほどあらん限りの精力を注入して百数十ページを読んだのだが、結局3ヶ月かかって100ページを残してしまった。私が哲学に興味がないためだ。3800円+消費税と値は張るが並みの書籍の4冊分の価値はあるから決して損をすることはない。ホワイト著、森島恒雄訳『科学と宗教の闘争』と同じ光を放つ傑作だ。ジョン・ル・カレと文体がよく似ている。
63冊目『危機と金(ゴールド)』増田悦佐〈ますだ・えつすけ〉(東洋経済新報社、2011年)/文章が軽いためゴールド万歳本かと思いきやそうでもない。クルーグマン批判などがキラリと光る。最大の瑕疵はリスクを明示していない点だ。その意味でバランスはかなり悪い。ゴールドの歴史、裏づけのない紙幣の役割、コモディティの中でなぜゴールドなのかがよく理解できる。中長期的観点に立てば、ドル円が下がり初めてからゴールド(現物)を買うのが正しい。
64冊目『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』ジョン・ル・カレ:菊池光〈きくち・みつ〉訳(ハヤカワ文庫、1986年)/旧訳。村上博基訳の評判があまりに悪いため入手し直す。流麗な筆致でぐいぐい読ませる。ただし構成が緻密すぎて時折混乱を招く。もちろん私の脳味噌の問題だ。社員食堂の本棚にあった『スマイリーと仲間たち』を読んだのはもう30年以上前のこと。殆ど記憶に残っていない。カーテンを閉ざした部屋の談合から始まるのだがまるで影絵だ。そして終始会話を基調としてストーリーは進む。本書はイギリス文学の匂いが立ち込める戯曲といってもよい。と突然途中で胸が悪くなった。それ以前の007型スーパーマンスパイから米ソ冷戦構造のリアルな本格スパイを描いた本書が官僚を描いている事実に気づいたためだ。大英帝国の美しい物語は植民地主義に支えれれている歴史を忘れてはなるまい。スマイリーが妻の浮気に平然としているのも不自然である。異彩を放つのは敵方(ソ連情報部)のカーラだ。超然とした振る舞いがどこか映画『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスを思わせる。
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