2016-12-09
知覧特攻平和会館、工藤美代子、他
3冊挫折、2冊読了。
『ボーダレス・ワールド』大前研一:田口統吾〈たぐち・とうご〉訳(プレジデント社、1990年)/北野幸伯〈きたの・よしのり〉著『プーチン最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?』で紹介されていた一冊。案の定、北野が引用していた部分が白眉である。国債基軸通貨ドルのメカニズムを見事に解説している。「FX帝国」の章も勉強になった。
『エピクロスの園』アナトール・フランス:大塚幸男訳(岩波文庫、1974年)/新聞のコラムで「大衆」を知った。わずか5行の箴言であるが、これを読むだけでも本書の価値はある。
『容赦なき戦争 太平洋戦争における人種差別』ジョン・ダワー:猿谷要〈さるや・かなめ〉監修、斎藤元一〈さいとう・げんいち〉訳(平凡社ライブラリー、2001年)/菅沼光弘が指摘する通り、やはり左翼である。昨今話題のポリティカル・コレクトネスの姿勢がよく見える。誰も逆らえないという前提で人権という原理を振りかざし、そこからはみ出る歴史的事実を羅列しているだけのこと。文章がよいだけに注意が必要だ。そもそも白人帝国主義に対する反省を欠いており、遅れて参加した日本を同列に論じる視点に違和感を覚えた。そもそも日本にアメリカのような人種差別は存在しない。インディアンを虐殺し、黒人を奴隷にしてきた国が説く正義を鵜呑みにするな。
168冊目『われ巣鴨に出頭せず 近衛文麿と天皇』工藤美代子(日本経済新聞社、2006年/中公文庫、2009年)/まず読み物として100点満点だ。技巧やスタイルを駆使していないにもかかわらず見事な文章である。「上善(じょうぜん)水(みず)の如し」(老子)という他ない。興味の有無にかかわらず引きずり込まれることは私が請け合おう。高齢者の性に関する工藤本を立て続けに挫折していただけに予想外の衝撃を受けた。悪評の高い近衛文麿を見直したのは鳥居民〈とりい・たみ〉が嚆矢(こうし)と思われるが、工藤本はほぼ完全な形で近衛を捉え直した。敗戦後、国体を辛うじて護持し得たが、国民はGHQとは違う形で戦争責任を求めたのだろう。その世論感情を新聞がミスリードした。戦争を煽ってきたジャーナリズムが一転して戦争責任を問うことで、物を書く行為は責任を失った。民主政の洗礼を受けた知識人は進歩的文化人として左側に整列した。日本の近代史は否定されるべきものとして学校教育で教えられた。依るべき国家を見失った人々のアイデンティティが崩壊するのは時間の問題であったことだろう。戦後、経済一辺倒で走り続けてきた日本はバブル崩壊によって無慙な姿を露呈する。我々は近衛が飲んだ毒を思うべきである。
169冊目『いつまでも、いつまでもお元気で 特攻隊員たちが遺した最後の言葉』知覧特攻平和会館編(草思社、2007年/新装版、2011年)/小品である。海の写真が美しい。特攻隊の言葉に涙を催すのはなぜか? あまりにも清らかに生を燃焼させ、彼らは海に散っていった。その苛烈さを思えば、やはり政治家の軽さを感じずにはいられない。
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