2017-01-22
ユヴァル・ノア・ハラリ
5冊目『サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(河出書房新社、2016年)/下巻と合わせると500ページ強のボリュームで、内容を鑑みれば4000円は破格である。Kindle版だと1割引の価格だ。ユヴァル・ノア・ハラリは1976年生まれのイスラエル人歴史学者。天才といって差し支えない。マクロ歴史学という超高度の視点からホモ・サピエンス(賢いヒト)の歩みを辿る。7~5万年前にヒトは言葉と思考を獲得した。ユヴァル・ノア・ハラリはこれを認知革命と名づける(通常、認知革命とは認知科学の誕生〈ダートマス会議、1956年〉を意味する)。想像力を駆使して言葉というフィクションを共有することで人類は150人を超えるコミュニティを形成できるようになった。自動車メーカーのプジョーに具体的な存在はないが法人として人格を与えられている。法的擬制を通して著者はフィクションを暴く。続いて農業革命が起こる。これまた目から鱗が落ちる。一般的には農業革命によって富が創出されたと考えられているが、実際は貧困と死に覆われていた。そして大きなコミュニティと天候との戦いから宗教が生まれる。ここから貨幣の登場~帝国の誕生~産業革命という流れが下巻半ばにかけて描かれる。まあ度肝を抜かれるよ。金融・経済に関する記述も正確で、私が見つけ得た瑕疵(かし)は日本の近代化くらいなものだ(ヨーロッパのシステムを導入したと書かれているが、寺子屋という日本の教育システムに負うところが大きい)。何にも増してナチスに対する暗い感情が見受けられないところを個人的には最大に評価したい。特定の信条や思想が複雑な憎悪を生みだす。ユヴァル・ノア・ハラリは学問の力で軽々と感情を乗り越える。私が20代であれば本書を書き写したことだろう。まさしく驚天動地の一書である。併読書籍としては「物語の本質」「世界史の教科書」を参照せよ。必読書入り。柴田の名前の読みが「やすし」であることに初めて気づいた。翻訳はこなれているが校正が甘く、ルビの少なさにも不満が残る。河出書房新社の手抜きといっていいだろう。
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