2014-07-06

クリストファー・スタイナー、佐々木閑、齋藤孝、アルボムッレ・スマナサーラ、他


 7冊挫折、4冊読了。

インド仏教変移論 なぜ仏教は多様化したのか』佐々木閑〈ささき・しずか〉(大蔵出版、2000年)/「大乗仏教は、部派仏教の延長線上に現れた、出家者僧団の宗教であった」という説を提示。『仏教研究』誌に掲載された8編の論文が元になっており、後に佛教大学(※本文では仏教大学と表記)の学位論文として提出している。一般人からすれば重複した文章が多く冗長に感じた。私は学術的な意義に興味はなく、閃きを求めているゆえピンとこなかった。横書きというのも致命的だ。

科学するブッダ 犀の角たち』佐々木閑〈ささき・しずか〉(角川ソフィア文庫、2013年)/真面目な科学書。初歩的な内容なのでやめた。

「10年大局観」で読む 2019年までの黄金の投資戦略』若林栄四〈わかばやし・えいし〉(日本実業出版社、2009年)/過去の自分の姿に酔っている節があり薄気味悪い。名の通った元ディーラーだがチョビ髭は伊達じゃなかったのね。ナルシストは苦手だ。

アメリカは日本の消費税を許さない 通貨戦争で読み解く世界経済 』岩本沙弓〈いわもと・さゆみ〉(文春新書、2014年)/前著との重複が多い。たぶん読み返すことはないだろう。

流れよわが涙、と警官は言った』フレドリック・ブラウン:友枝康子〈ともえだ・やすこ〉訳(ハヤカワ文庫、1989年)/名作といわれているがサービス精神が旺盛すぎて安っぽい印象を受けた。後半をパラパラとめくり仕掛けがわかったが、今となってはちょっと古いね。ただし時折キラリと光る名言が出てくるのはさすがである。

竹林はるか遠く 日本人少女ヨーコの戦争体験記』ヨーコ・カワシマ・ワトキンズ著・監訳:都竹恵子訳(ハート出版、2013年)/ベストセラー。米国では中学の教科書に掲載されているとのこと。韓国でも刊行されたが後に発売中止に。『流れる星は生きている』(藤原てい)の方が面白い。若い人たちは読むといい。動画を紹介しておこう。




監獄ビジネス グローバリズムと産獄複合体』アンジェラ・デイヴィス:上杉忍訳(岩波書店、2008年)/学術書。民営化という手法で成立したのが監獄ビジネスだ。犯罪率と関係なくしょっ引かれている模様。これもショック・ドクトリンの影響だろう。

 40冊目『「やさしい」って、どういうこと?』アルボムッレ・スマナサーラ(宝島社、2007年)/内容はいいのだが薄っぺらいスカスカ本。スマナサーラは積極的に出版ビジネスを展開しているように見える。

 41冊目『偏愛マップ キラいな人がいなくなる コミュニケーション・メソッド』齋藤孝(NTT出版、2004年/新潮文庫、2009年)/面白かった。自分の偏愛マップも作ってみたい。齋藤孝の説明能力は評価するが、彼の文章はあまりにもバラ色すぎる。優秀なマーケティング野郎だと思うよ。

 42冊目『本当の仏教を学ぶ一日講座 ゴータマは、いかにしてブッダとなったのか』佐々木閑〈ささき・しずか〉(NHK出版新書、2013年)/これは読みやすかった。しかも勉強になる。ただし佐々木には閃きが感じられない。何かとオウム真理教を持ち出すところも感心しない。手垢にまみれたやり方だ。佐々木は『服従の心理』をしっかり読んで出直すべきだ。

 43冊目『アルゴリズムが世界を支配する』クリストファー・スタイナー:永峯涼〈ながみね・りょう〉訳(角川EPUB選書、2013年)/アルゴリズム本には必ず金融マーケットの話が出てくる。多少の知識がないとちょっと苦しいかも。「情報とアルゴリズム」に追加した。終盤の失速が惜しまれる。

2014-07-05

近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しない/『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃


・『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃

 ・近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しない

 この社会は「文明の衝突」に直面しているのかもしれない。国家の様態は清朝末期の中国に等しく、外国人投資家によって過半数株式を制圧された経済市場とは租界のようなものだろう。つまり外国人の口利きである「買弁」が最も金になるのであり、政策は市場取引されているのであり、すでに政治と背徳は同義に他ならない。
 TPPの正当性が喧伝されているが、近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しないのであり、70年代からフリードマン(市場原理主義者)理論の実験場となった南米やアジア各国はいずれも経済破綻に陥り、壮絶な格差と貧困が蔓延し、いまだに後遺症として財政危機を繰り返している。
 今回の執筆にあたっては、グローバル資本による世界支配をテーマに現象の考察を試みたのだが、彼らのスキームは極めてシンプルだ。
 傀儡政権を樹立し、民営化、労働者の非正規化、関税撤廃、資本の自由化の推進によって多国籍企業の支配を絶対化させる。あるいは財政破綻に陥ったところでIMFや世界銀行が乗り込み、融資条件として公共資源の供出を迫るという手法だ。それは他国の出来事ではなく、この社会もまた同じ抑圧の体系に与(くみ)している。
 我々の錯誤とは内在本質への無理解なのだけれども、おおよそ西洋文明において略奪とは国営ビジネスであり、エリート層の特権であるわけだ。除法平価の軍隊がカリブ海でスペインの金塊輸送船を襲撃し、中国の民衆にアヘンを売りつけ、インドの綿製品市場を絶対化するため機織職人の手首を切り落とし、リヴァプールが奴隷貿易で栄えたことは公然だろう。
 グローバリズムという言葉は極めて抽象的なのだが、つまるところ16世紀から連綿と続く対外膨張エリートの有色人種支配に他ならない。この論理において我々非白人は人間とはみなされていないのであり、アステカやインカのインディオと同じく侵略地の労働資源に過ぎないわけだ。
 外国人投資家の利益を最大化するため労働法が改正され、労働者の約40%近くが使い捨ての非正規労働者となり、年間30兆円規模の賃金が不当に搾取されているのだから、この国の労働市場もコロンブス統治下のエスパニョーラ島と大差ないだろう。

【『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉(三五館、2013年)】

 前著と比べるとパワー不足だが、言葉の切れ味とアジテーションは衰えていない。テレビや新聞の報道では窺い知るのことのできない支配構造を読み解く。ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』の後塵を拝する格好となったが説明能力は決して劣っていない。

 興味深い210の言葉を紹介しているが、人名やタイトルだけで出典が曖昧なのは三五館の怠慢だ。ともすると悲観論に傾きすぎているように感じるが、警世の書と受け止めて自分の頭で考え抜くことが求められる。元々ブログから生まれた書籍ゆえ、この価格で著者に責任を押しつけるのはそれこそ読者の無責任というべきだ。

 一気に読むのではなくして、トイレにおいて少しずつ辞書を開くように楽しむのがよい。前著は既に絶版となっている。3.11後の日本を考えるヒントが豊富で、単なる陰謀モノではない。

略奪者のロジック
略奪者のロジック
posted with amazlet at 18.06.17
響堂 雪乃
三五館
売り上げランキング: 236,811

アメリカに「対外貿易」は存在しない/『ボーダレス・ワールド』大前研一

読書人階級を再生せよ/『人間の叡智』佐藤優


労働力の商品化
・読書人階級を再生せよ

 そこで私が必要を強く感じるのが、階級としてのインテリゲンチャの重要性です。かつての論壇、文壇は階級だったわけです。編集者も階級だった。その中では独特の言葉が通用して、独特のルールがあった。ギルド的な、技術者集団の中間団体です。国家でもなければ個人でもなく、指摘な利益ばかりを追求するわけでもない。自分たちの持っている情報は、学会などの形で社会に還元する。
 時代の圧力に対抗するにはこういう中間団体を強化するしか道はない。なんでもオープンにしてフラット化すればよい、というものではありません。
 新書を読むような人はやはり読書人階級に属しているのです。ものごとの理屈とか意味を知りたいという欲望が強い人たちで、他の人たちと少し違うわけです。読書が人間の習慣になったのは新しい現象で、日本で読書の広がりが出てきたのは円本が出版された昭和の初め頃からでしょうから、まだ80年くらいのものではないですか。円本が出るまでは、本は異常に高かった。いずれにせよ、現代でも日常的に読書する人間は特殊な階級に属しているという自己意識を持つ必要があると思います。
 読書人口は、私の皮膚感覚ではどの国でも総人口の5パーセント程度だから、日本では500~600万人ではないでしょうか。その人たちは学歴とか職業とか社会的地位に関係なく、共通の言語を持っている。そしてその人たちによって、世の中は変わって行くと思うのです。

【『人間の叡智』佐藤優〈さとう・まさる〉(文春新書、2012年)】

 読者の心をくすぐるのが巧い。しかも本書が文庫化されないことまで見通しているかのようである(笑)。ニンマリとほくそ笑んだ挙げ句に我々は次の新書を求めるべく本屋に走るという寸法だ。

 佐藤優は茂木健一郎の後を追うような形で対談本を次々と上梓している。茂木と異なり佐藤の場合は異種格闘技とも思える相手が目立つ。その目的はここでも明言されている通り「中間団体の強化」にある。佐藤なりの憂国感情に基づく行動なのだろう。

 共通言語に着目すれば佐藤のいう中間団体はサブカルチャー集団とも考えられる。共通言語から文化が生まれ、規範が成り立つ(下位文化から下位規範が成立/『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』小室直樹)。人々の行動様式(エートス)を支えるのは法律ではなく村の掟、すなわち下位規範である。佐藤は驚くべき精力でそこに分け入る。

 佐藤の該博な知識は大変勉強になるのだが、どうも彼の本心が見えない。イスラエル寄りの立場が佐藤の存在をより一層不透明なものにしている。



問いの深さ/『近代の呪い』渡辺京二

2014-07-04

躍る影と舞う影


 久し振りにtumblrにアクセスしたところ、2枚のイカした画像を発見。


 身体の陰と地面の影が二重奏をかなでる。躍る影は不思議なほど明るさを帯びている。動きを寸断しているにも関わらず彫像のようにどっしりと安定している。ボールの位置がまた見事で右1/3、下1/3に配置。絶妙なバランス感を生んでいる。


 これまた私の好みにドンピシャリの一枚。海水のうねりと下部の陰影が秀逸だ。まるで女性が太陽から産み落とされた瞬間を捉えたような錯覚をおぼえる。海水で歪んだ太陽と弧を描く身体によって円環のモチーフが際立つ。光と影、水と空気、生と死が構成する小宇宙だ。