2016-08-31

バブル崩壊で借金を棒引きするアメリカ/『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓


 ・バブル崩壊で借金を棒引きするアメリカ

『新・マネー敗戦 ――ドル暴落後の日本』岩本沙弓
『あなたの知らない日本経済のカラクリ 対談 この人に聞きたい!日本経済の憂鬱と再生への道』岩本沙弓
『21世紀型大恐慌 「アメリカ型経済システム」が変わるとき』山崎養世
『超帝国主義国家アメリカの内幕』マイケル・ハドソン

必読書リスト その二

「ドル高は徐々に、ドル安は急激に」で借金目減り

 米国内に入ってきた投資資金は設備投資、米国債購入などに向けられますが、とくに米国株式と諸外国の株式の連動が強い時期は、株式市場へと流入した資金が米国株価を吊り上げて、世界同時の株高をつくり上げるのに役立ちます。
 その後、米国の株価が短期間で暴落すると、各国からの投資資金は目減りするので、米国内から海外へと流出する資金が少なくなります。
 つまり、ドル高で徐々に積み上げていったバブルを一気に壊したほうが、米国にとっては借金の目減り、あるいは米国内に資金をとどまらせるのに役立つということになります。そして、ドルが安くなれば米国資産価格が安くなり、再び米国資産を買いやすくなります。70年以降の変動相場制移行後はとくに、「ドル高→金融危機→ドル安→米国へ資金流れる→ドル高で投資促進」のパターンの繰り返しになっています。

【『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓〈いわもと・さゆみ〉(翔泳社、2009年)】

 その典型がロケット・サイエンティストと渾名(あだな)された知性が集ったヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(以下、LTCM)であった。クリントン政権はアメリカ経済を製造業・重化学工業からIT・金融へと舵を切り、2000年には財政を黒字転換した。下半身はだらしなかったが、極めて有能な政治家といってよい。ただし日本に経済戦争を仕掛けた人物でもある。

 ロケット工学を学んできた連中が金融界に進出し、アルゴリズムを駆使してコンピュータに売買される手法が確立された。LTCMはノーベル経済学賞を受賞したマイロン・ショールズとロバート・マートンの二人を擁し、「ドリームチームの運用」と持てはやされた。当初は年利40%を叩き出したが5年目から運用成績が悪化。アジア通貨危機(1997年)、ロシア財政危機(1998年)で巨額の損失を出し、1998年10月に破綻した。

 2007年のサブプライム・ショック~2008年のリーマン・ショックも同様の手口である。

 もちろん大企業を意図的に破綻させることはあり得ない。しかしマネーの流れを見ると、アメリカに還流した資金が流出しない不思議な結果に驚かざるを得ない。

 アングロ・サクソン人が世界を牛耳っているのは大きな戦略を描けることに由来する。日本人は行き当たりばったりで大東亜戦争に敗れた。明治維新ですら同じ感がある。ただし昔は戦争によって磨かれた識見を持つ指導者が存在した。今時は言葉をこねくり回すだけで肚の定まった人物がいない。つまり日本の国富はまたぞろアメリカに簒奪(さんだつ)される可能性が大きい。

円高円安でわかる世界のお金の大原則 (大人の社会科)
岩本 沙弓
翔泳社
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ラリー・ローゼンバーグ、ウィリアム・ハート


 2冊読了。

 135冊目『ゴエンカ氏のヴィパッサナー瞑想入門 豊かな人生の技法』ウィリアム・ハート:日本ヴィパッサナー協会監修、太田陽太郎訳(春秋社、1999年)/良書。タイトルに難あり。具体的なヴィパッサナー瞑想については全く書かれていない。また原書タイトルに「Mr.」がないのに「氏」はおかしいだろう。ゴエンカが名前であることを示すならば「師」とすべきである。「ミャンマーに伝わる仏教瞑想の心構え」といった内容である。注目すべきは死後の生命に関する記述で、『時間の終焉 J・クリシュナムルティ&デヴィッド・ボーム対話集』の後に読むのがいいだろう。優れた内容ではあるが日本ヴィパッサナー協会10日間コース(費用は喜捨)を宣伝する結果となっており、プロパガンダ本であるとの謗りを免れない。呼吸の瞑想についてはラリー・ローゼンバーグがラベリング(膨らむ・縮む)を説くのに対し、ゴエンカ師の場合はただ呼吸を観察するとの相違がある。

 136冊目『呼吸による癒し 実践ヴィパッサナー瞑想』ラリー・ローゼンバーグ:井上ウィマラ訳(春秋社、2001年)/書き忘れていた。これはオススメ。「悟りとは」の最後に入れた。西洋人を通した仏教翻訳が新たな視点を与えてくれることは少なくない。質量ともに文句なし。

2016-08-30

早瀬利之著『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』が文庫化

石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人 (双葉文庫)

 稀代の軍略家として知られる石原莞爾将軍。帝國陸軍の異端児だった関東軍作戦参謀は、満州攻略の作戦を立案しこれを遂行した。本書は貴重な史料や関係者へのインタビューを基に、石原莞爾の最晩年ともいえる東京裁判酒田法廷の模様を紹介し、天才・石原莞爾の思想を炙り出したもの。現代日本に石原在れば……と考えずにはいられない。2013年刊の同タイトル新書を文庫化。

天才戦略家の戦後/『石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人』早瀬利之

2016-08-29

杉田かおる、エドワード・O ウィルソン


 1冊挫折、2冊読了。

 『道徳性の起源 ボノボが教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール:柴田裕之訳(紀伊國屋書店、2014年)/著者の卑屈さが内容をなし崩しにしている。エドワード・O ウィルソンと内容が重なるだけに残念極まりない。理想的な思い込みが先にあり科学的な姿勢を欠く。牽強付会が捻じれば文章となってわかりにくい。

 133冊目『杉田』杉田かおる(小学館、2005年)/びっくりするほど面白かった。詐欺を繰り返す父親、精神の病んだ母親との確執。創価学会で一級の活動家となったものの、池田大作の実像に幻滅し、脱会するまで。そして24時間100kmマラソンが綴られている。誤読しやすいと思われるが著者は創価学会を批判するよりも、忠実に実体験を書いている。「杉田」とのタイトルは父親の姓で既に戸籍も変えたという。中年に差し掛かった女性が過去への訣別を綴る。不思議なことにマラソンで走ったコースは著者に縁のある土地であった。佐藤典雅著『ドアの向こうのカルト 九歳から三五歳まで過ごしたエホバの証人の記録』と併読せよ。姿勢としては杉田かおるの方が上だ。

 134冊目『人間の本性について』エドワード・O ウィルソン:岸由二〈きし・ゆうじ〉訳(思索社、1980年思索社新装版、1990年/ちくま学芸文庫、1997年)/何とか読了。難解ではあるが挿入されたエピソードはいずれも面白い。生物学者が利他性・道徳の起源を探る。「必読書」と「宗教とは何か?」に入れる予定。利他性という点ではフランス・ドゥ・ヴァールを先に読むべし。宗教だとニコラス・ウェイド著『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』と併読せよ。

2016-08-27

谷本道哉、石井直方、七里和乗、佐々淳行


 3冊挫折、3冊読了。

本質を見抜く力 環境・食料・エネルギー』養老孟司〈ようろう・たけし〉、竹村公太郎〈たけむら・こうたろう〉(PHP新書、2008年)/地理的側面が強すぎて私の興味に合わなかった。

自律神経を整える「長生き呼吸」 なぜ呼吸を変えると病気が治るのか?』坂田隆夫(マキノ出版、2016年)/スカスカ本。医学的な説明が少し目を惹いた程度。呼吸法としての内容は乏しい。

キッチン日記 J・クリシュナムルティとの1001回のランチ』マイケル・クローネン:高橋重敏訳(コスモス・ライブラリー、1999年)/少し前に大野純一訳が出た。古書は法外な値がついていただけに喜んでいるファンも多いことだろう。何となく高橋訳を再読したのだが読むに堪えず。マイケル・クローネンは単なる追っ掛けであり、アイドルに肩入れする少女のような情熱の持ち主で、薄気味悪いこと甚だしい。ただしクリシュナムルティの日常を描いた点では評価できる。新訳も読む気がしない。

 130冊目『私を通りすぎたスパイたち』佐々淳行〈さっさ・あつゆき〉(文藝春秋、2016年)/「マドンナたち」よりは面白いが「政治家たち」には劣る。フレデリック・フォーサイスとの友情が描かれている。佐々は大変ダンディな人物である。

 131冊目『池田大作 幻想の野望 小説『人間革命』批判』七里和乗〈しちり・わじょう〉(新日本出版社、1994年)/著者は「宗教学者」としか記されていない。「江藤俊介や七里和乗なんていないんです!」との記事を見つけた。赤旗の引用が多いところを見ると、覆面をした共産党関係者の可能性がある。政教分離に関してはやや誤謬があるものの、それ以外は常識的な批判で特に鋭さは感じられない。小説『人間革命』に関する考察を深めれば紙価も高まったことだろう。

 132冊目『5つのコツで もっと伸びる カラダが変わる ストレッチ・メソッド』谷本道哉、石井直方〈いしい・なおかた〉(高橋書店、2008年)/ほぼ全頁カラーで1242円は破格。早速、実践している。石原結實〈いしはら・ゆうみ〉を必読書リストから外したのでこれを入れておく。