2018-04-18

オラショ/『黄金旅風』飯嶋和一


『青い空』海老沢泰久

 ・オラショ

・『出星前夜』飯嶋和一
『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』飯嶋和一

キリスト教を知るための書籍

「ところがそれは、般若心経(はんにゃしんぎょう)ほどのもので、ほんの一部にすぎないもののようでございます。天主教の経典は大層長い、何十巻にも及ぶもののはずでございまして、それぞれの一部ずつを大勢の者たちが、諳んじて後の世に伝えようとしたもののようでございます。私が覚えさせられましたのは、『タダの十二』と聞いております。そして、私が諳んじておりますその部の前後を覚えております者の名を教えられました」
「それが、富松なのか?」
「はい、そのとおりでございます。富松が『タダの十一』。私が『十二』。そして、その後、『タダの十三』は市助、『十四』が吉兵衛でございます。『十五』は、吉兵衛の話ですと新町に住む女だそうで、『十』も確か女だと、富松が行っておりました。もちろん、その前後の者たちとは、一切の関わりを持ってはならないと、親からもきつく言い含められておりました。が、5年ばかり前に私は、どうしてもその前後を諳んじている者に会ってみたいと思うようになりました」(中略)
 文字として書き残されたものが許されないのならば、記憶しておくしかない。経典を細かく章に分けて、それぞれを覚えの早い子どもに記憶させ語り伝えさせる。何十章にも及ぶ天主教の経典を、長崎の内町、外町を問わず何百人もの人々が、頭の中に刻み込み、それを後世に伝えようと大切にかかえている。

【『黄金旅風』飯嶋和一〈いいじま・かずいち〉(小学館、2004年/小学館文庫、2008年)】

 本書以前の飯島作品については、『汝ふたたび故郷へ帰れず』のリンクを参照のこと。

 本当にこのようなことがあったのかと、かなり時間を掛けて調べた。どうやら「オラショ」というらしい。動画も見つけた。



 長い歳月を経て形骸(けいがい)だけが辛うじて残ったのか。意味不明な呪文にしか聞こえない。それでも尚、「伝わった」事実が重い。伝えようとした意志の痕跡であることは確かだろう。

 本書以降、飯嶋和一はキリスト教を物語の主要な要素として扱っているが、初期作品のような輝きが鈍くなったように感じる。虐げられた人々が存在するのは「悪い社会」である。つまりキリスト教を光として描けば日本社会は闇とならざるを得ない。私がすっきりしないのは東京裁判史観の臭いを嗅ぎ取ってしまうためだ。善の設定が弱者に傾きすぎていて、権力=悪という単純な左翼的構図が透けて見える。

 それでも今のところ「飯嶋和一にハズレなし」である。

2018-04-16

【経済討論】財務省主導の経済でいいのか?日本


日本の財政再建は「統合政府」で見ればもう達成されている:高橋洋一

当局の片棒を担いで赤化教員の転向を推進した創価学会/『創価学会秘史』高橋篤史


 ・当局の片棒を担いで赤化教員の転向を推進した創価学会

『ジャーナリズムの現場から』大鹿靖明
『週刊東洋経済 2018年9/1号 宗教 カネと権力』

 まったく感心できないことだが、創価学会は過去の歴史を正しく伝えていない。それは対外的な宣伝だけでなく組織内の学会員各層に向けたものでも同じである。とりわけ1950年代までの歴史に関しては、むしろ隠したがっているようにすら見える。
 創価学会の歴史を知る最も有力な手掛かりは、その当時の機関紙誌を調べることである。創価学会の主な機関紙誌類としては古いものから順に『新教』(のちに『教育改造』と改題)、『価値創造』の戦前版、『大善生活実証録』、『価値創造』の戦後版、『大百蓮華』、そして現在誰もが知るところの『聖教新聞』の六つが挙げられる。(中略)
 では、東京・八王子にある創価大学や創価女子短期大学はどうか。信じがたいことに、1951年4月創刊の『聖教新聞』のうち、付(ママ)属図書館が所蔵・公開しているものは1980年1月以降の分だけである。丸々30年分が所蔵すらされていないのだ。
 さらに首をひねりたくなるのは1949年7月創刊の『大百蓮華』である。創刊号からほとんどを所蔵しているものの、公開しているのは1971年1月以降の分だけなのだ。つまり創価大学の学生・教職員でもそれ以前のもの、丸々20年分は、原則、見ることができないのである。

【『創価学会秘史』高橋篤史(講談社、2018年)】

 秀逸なノンフィクションである。しかも創価学会が発行する昭和期前半の機関紙・誌という第一次資料にこだわっており、学術論文に引用できるレベルの高さとなっている。更に感情の暗い翳(かげ)が微塵もなく公正さに心を砕いた跡が窺える。『小説 人間革命』と『若き日の日記』を資料として採用していないのはさすがである(『小説 聖教新聞 内部告発実録ノベル』グループS)。

 本書の目的は創価学会の歴史修正主義を指摘するところにあり、単なる教団批判に陥っていない。誰しも好き嫌いという感情から自由になることは難しいが、公正な視点に立とうと努めるところに理性の本領がある。これをもう一歩進めるとメタ認知となる。

「この歴史修正主義が否定的な意味で使われているのは、それこそ歴史的な経緯があるのです。その大きな理由は、ナチス・ドイツによるホロコースト(大虐殺)の否定論者が自分たちのことを『歴史修正主義者』としたからです」(真屋キヨシ)。徹底したプロパガンダでホロコーストを神話にまで高めたユダヤ人(『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』ノーマン・G・フィンケルスタイン)がこれを許すはずもない。

 昨今、日本の近代史を見直すムーブメントを歴史修正主義と非難する左巻きが多いが、新たに判明した事実を基(もと)に行うのは「歴史の修正」であり、「主義」や「主義者」とは無縁である。尚、歴史修正主義の意味についてはWikipediaよりもニコニコ大百科の方が優れている。

 創価学会の歴史修正主義は正当を問う西洋的な性質ではなく、第3代会長の正統を巡るシナ文化を踏襲している。ところが高橋はもっと初期の段階から、現在創価学会が唱える平和主義と異なる歩みがあったことを資料によって明かす。

 牧口の論文のなかで特に興味をそそられるのは、長野行きにあたりあらかじめ内務省から長野の警察部に電話をかけてもらっていたという記述だ。牧口の論文タイトルがまさにそうであるように、このことは当時、国がとっていた転向政策と創価教育学会が乗り出した折伏による会員拡大とが軌を一にしており、そのため連絡を密にしていたことを意味する。当局からすれば左翼思想にかぶれた本来優秀な元教員たちを転向させてくれる団体は好ましい存在であり、牧口らからすれば弾圧で心に傷を負ったそうした元教員たちは折伏するのに格好の相手だった。

 当局の片棒を担いで赤化教員の転向を推進した創価学会の歴史は、教団の汚点というよりは黒歴史そのものといってよい。公明党が政権与党入りしたのもむべなるかな。

 ここから底の浅い批判を加えることは避けたい。当時の牧口常三郎(1871-1944年)の立場を思えば、戦争になることも敗戦することも知らないのだから。

 それにしても近現代史におけるマルクス主義の影響は計り知れない。人は【概念の中で生きる】動物である。概念というソフトを上書きしたり、インストールし直したりすることをやめることはできない。

創価学会秘史
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2018-04-14

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2018-04-11

恐るべき未来予測/『月曜閑談』サント=ブーヴ


 ・ラ・ロシュフコーの素描
 ・恐るべき未来予測

 現代においては、例えば偉大な発見であるとか、偉大な事業というような大きな事がおこなわれることがある。しかしこれは、われわれの時代に偉大さを加えることにはならない。偉大というものは、特にその出発点や、その動機や、その意図のうちに存在するのだ。89年[1789年、フランス革命の始まった年]には、人は祖国のため、人類のためにすべてのことをやった。帝政時代[ナポレオンの第一帝政]には、光栄のためにすべてのことをやった。つまりその点にこそ、偉大の源があったのだ。現代では、結果が偉大に見える時でさえも、それは利害の観点から作られただけのものである。そしてそれは投機に結びついている。そこに現代の特質がある。

【『月曜閑談』サント=ブーヴ:土居寛之訳(冨山房百科文庫、1978年)】

 サント=ブーヴの主著である『月曜閑談』(全15巻)が書かれたのは1851~62年のことで、続篇(全13巻)は1863~70年に及んだ。フランス革命(1789-1799年)から半世紀後だから、現代の日本人で言えば2001年に大東亜戦争を振り返るような歴史感覚だろう。貴族に対する反抗が全市民を巻き込んで国民国家の成立にこぎつけたわけだが、ひとたび国家ができるや否や、ゲームが戦争から経済に変わる様相を鮮やかに描いている。ピーター・F・ドラッカーですらこれほど長期的な未来予測はできまい。

 結局のところ大航海時代(15世紀半ば-17世紀半ば)に獲得した植民地から生まれる富が革命を後押ししたのだろう。ま、大雑把に言ってしまえば十字軍(1096-1272年)-大航海時代-国民国家の誕生-帝国主義-世界大戦-有色人種国家成立となろうか。

 ヨーロッパ世界の千年紀を「キリスト教の世俗化」と要約することもできる。それゆえちょうど真ん中の1517年にルターの宗教改革が起こっている。腐敗した伝統と清らかな過激主義がぶつかり合う中で魔女狩りが行われた。不思議なことにルターを筆頭とする新教の方が魔女狩りに情熱を燃やした。清らかさは諸刃の剣(つるぎ)だ。真剣さを伴って残虐なまでに正義を実現しようとする。新しい時代は常に大勢の犠牲者を必要とするのか。

「資本主義経済の最初の担い手は投機家だった。資本主義制度における最初にして最大の投機対象は株式会社そのものである」(『投機学入門 市場経済の「偶然」と「必然」を計算する』山崎和邦)。世界の果てを目指す船に個人として投資をするのはリスクが高すぎる。そこで投機家たちは共同出資をした。これが株式会社の原型である。

「フランス革命のスローガンである『自由・平等・博愛』は革命前からある言葉で、もとはフリーメーソンのスローガンにほかなりません」(『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代)。「博愛(友愛)」の本当の意味は「同志愛」だ(『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘)。ユダヤ資本がバックアップしたフランス革命によってそれまでヨーロッパ中で虐げられてきたユダヤ人が初めて「国民」と認められた。

 ロスチャイルド家はワーテルローの戦い(1815年)で盤石な資産を築いた(『ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ 影の支配者たちがアジアを狙う』宋鴻兵〈ソン・ホンビン〉)。更には若きビスマルクを支援し(『通貨戦争 影の支配者たちは世界統一通貨をめざす』宋鴻兵〈ソン・ホンビン〉)、極東日本の明治維新にまで投資をしている(『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人)。

 21世紀に入ると企業が国家を超える規模となり、法律をもあっさりと飛び越え、租税すら回避し始めた(『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』ニコラス・シャクソン)。フランス革命はアンシャン・レジームを引っ繰り返したが、投機による富の集中はかえって強固なものとなった。

 レジームといえば、かつて安倍首相は戦後レジームからの脱却が必要であり、そのために憲法を改正すべきだと主張した(『美しい国へ』文春新書、2006年/改訂版『新しい国へ 美しい国へ 完全版』文春新書、2013年)。果たして今我々に「光栄」を目指す意欲があるだろうか? 並々ならぬ憂国の心情があるだろうか? それとも黒船の次は中国からの赤船を待つのだろうか?

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