2019-05-13

「わかった」というのは感情/『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重


『「自分で考える」ということ』澤瀉久敬
『壊れた脳 生存する知』山田規畝子

 ・「わかった」というのは感情
 ・人間の心は心像しか扱えない

・『「気づく」とはどういうことか』山鳥重
『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ

 わかったというのは感情なのです。
 知らない花を見つけて、名前を教えてもらい、実はそれが前から知っていた花だったりすると、そうかと納得します。わかったと感じるのです。

【『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重〈やまどり・あつし〉(ちくま新書、2002年)以下同】

 山鳥重〈やまどり・あつし〉は神経内科医で高次脳機能障害研究の第一人者である。私は山田規畝子〈やまだ・きくこ〉の著書で知った。「わかったというのは感情」という指摘が鋭く胸に突き刺さる。山鳥は臨床で「わからなくなってしまった人々」(高次脳機能障害)を相手にしている。時計の針が読めない、階段は見えているのだが昇りか下りかがわからない、靴の向きを間違えるなどが具体的な症状だ。わからなくなってしまった不思議を思えば、わかることもまた不思議なのである。

「わかった」という体験は経験のひとつの形式であって、事実とか真理を知るということとは必ずしも同じではありません。
 真理を発見して興奮出来る人は古今東西を問わず、わずかな人たちにすぎません。しかし、「わかった!」「わからん!」はすべての人が毎日繰り返し繰り返し経験することです。わかったからといって、その都度、真実に近づいているわけではありません。わからなかったからといって、その都度、真実から遠ざかっているわけでもありません。「わかった!」からと言って、それが事実であるかどうかは、実はわからないのです。わかったと感じるのです。あるいはわからないと感じるのです。

 特定の思想や哲学・宗教を信じる人々は皆が皆、「わかった気に」なっている。彼らは自分こそが正しいと「わかって」いるのだ。しかも閃(ひらめ)きや悟りに近い経験をする人も少なくない(例えばパウロ)。人間が誤謬(ごびゅう)から脱却できないのは「わかった」という実感を合理性と錯覚するためなのだろう。

誤った信念は合理性の欠如から生まれる/『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ

 限られた脳内情報が結び合い、つながった瞬間に「わかった」との自覚が生まれるのだろう。きっとシナプス結合がすっきりしたのだろうが、それが事実かどうかはわからないのだ。家の中の整理整頓をしたところで世界が片づいたわけではない。

 わかるためには「わからない何か」がなくてはなりません。「わからない何か」が自分の中に立ち現れるからこそ、「わかろう」とする心の働きも生まれるのです。

 人生で最も大切な姿勢は「問う」ことである。問いの中身にその人の生き様が表れる。疑問をウヤムヤにしてしまうと眼が曇り、心は鈍くなってしまう。問わずして悩む姿を煩悩と名付ける。

2019-05-12

八菅神社周辺(愛川町)


 ラベルを自転車自転車本、サイクリングと分けることにした。

 ヒルクライマーを名乗るのはさすがに恥ずかしいので今後は「ゆるクライマー」を自称する。

 八菅(はすげ)神社周辺は木陰が多く、川も流れていて爽やかな登坂(とうはん)を楽しむことができる。


 八菅橋を渡って神社の正面に突き当たる。そこを左折し、八菅山いこいの森の手前左側にある橋を渡り左側を上ってゆく。で、上り切った場所が以下である。


 左側は林道が続くが舗装されていない。


 個人的な印象では土山峠(清川村)と同程度のレベルである。左側にガードレールがないので注意が必要だ。落ちてしまえば軽く二度か三度は死ねるほどの崖が続く。またハイカーもいるので下りはゆっくりと下りるのが望ましい。路面が荒いので自然と減速するだろう。


 で、帰路の八菅橋~中津大橋が実は一番きつい。でもまあ55歳の脚力で足はつかなかったので初心者のトレーニングにはうってつけのコースだろう。

 息が上がり鼻呼吸ができなくなると周囲の景色が目に入らない。そこで木の葉を見やり、口を閉じて鼻から静かに息を吸い込み、深々と吐き出す。これが自転車の瞑想である。

神経系は閉回路/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

 言い換えればこうなる。私たちに物が見えるのは、そもそも網膜からのメッセージ(これからしてすでに、たんに網膜が感知した光以上のもの)を受け取ったからではない。外界からのデータを内的活動と内部モデルに結びつけるための、広範囲にわたる内的処理の結果だ。しかし、こう要約すると、二人の主張が正しく伝わらない。実際には、マトゥラーナヴァレーラは、外界から何かが入ってくることをいっさい認めていない。全体が閉回路だと二人は言う。神経系は環境から情報を収集しない。神経系は自己調節機能の持つ一つの完結したまとまりであって、そこには内側も外側もなく、ただ生存を確実にするために、印象と表出――つまり感覚と行動――との間の整合性の保持が図られているだけ、というわけだ。これはかなり過激な認識論だ。おまけに二人は、この見解自体を閉鎖系と位置づけている。とくにマトゥラーナは、認識論に見られる数千年の思想の系譜と自説の関連について議論するのを、断固拒絶することでよく知られている。完璧な理論に行き着いたのだがから、問答は無用という理屈だ。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

 ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・バレーラはオートポイエーシス理論(1973年)の提唱者である。

「神経系は閉回路」であるとの指摘は、「世界は五感の中に存在する」という私の持論と親和性がある。閉回路と言い切ってしまうところが凄い。例えるなら池が私であり池に映った映像が世界である。映像は池そのものに接触も干渉もしない。つまり閉回路である。と言ってしまうほど簡単なものではない。

 私の乏しい知識と浅い理解で説明を試みるならば、まず宇宙が膨張しているのか静止しているのかという問題があって、そこからエントロピーに進み、どうして生物はエントロピーに逆らっているのかという疑問が生まれ、散逸系というアイディアが示され、自己組織化に決着がつくと思われたまさにその時、オートポイエーシス論が卓袱台(ちゃぶだい)を引っくり返したわけである。

 個人的には科学が唯識に追いついた瞬間を見た思いがする。人生は一人称である。縁起という関係性はあっても因果は自分持ちだ。

「私」は閉鎖系である。コミュニケーションというのは多分錯覚で実際は「自分の反応が豊かになる」ことを意味しているのだろう。人が人を理解することはない。ただ同調する生命の波長があるのだろう。ハーモニーは一つであっても歌う人がそれぞれ存在する状態を思えばわかりやすいだろう。違和感を覚えるのは音程やスピードが合わないためだ。

 私があなたの手を握ったとする。物理学的に見れば手と手は触れ合ってはいない。これは殴ったとしても同様である。必ず隙間がある。もしも隙間がなかったら私とあなたの手は合体するはずである。厳密に言えば「握られた圧力を脳が感じている」だけなのだ。つまり私とあなたが一つになることはない。

 これからヒトが群れとして進化するならば必ず「識の変容」があるはずだ。その時言葉を超えたコミュニケーションが可能となる。

読み始める

日本「衆合」主義の魔力―危機はここまで拡がっている (1982年)
小室 直樹
ダイヤモンド社
売り上げランキング: 1,225,573

自衛隊幻想 拉致問題から考える安全保障と憲法改正
荒木和博 伊藤祐靖 荒谷卓 予備役ブルーリボンの会
産経新聞出版
売り上げランキング: 212,838

戦う者たちへ (日本の大義と武士道)
荒谷 卓
並木書房 (2015-08-31)
売り上げランキング: 40,940

心を空っぽにすれば夢が叶う
相川圭子
講談社インターナショナル
売り上げランキング: 56,184

オートポイエーシス論入門
山下 和也
ミネルヴァ書房
売り上げランキング: 940,748

バシャール・ペーパーバック1―ワクワクが人生の道標となる (VOICE新書)
バシャール ダリル・アンカ
ヴォイス
売り上げランキング: 15,592

バシャール・ペーパーバック2―人生の目的は「ワクワク」することにある (VOICE新書)
バシャール ダリル・アンカ
ヴォイス
売り上げランキング: 53,971




失われた名前 サルとともに生きた少女の真実の物語
マリーナ・チャップマン
駒草出版
売り上げランキング: 135,500

刑務所の読書クラブ:教授が囚人たちと10の古典文学を読んだら
ミキータ・ブロットマン
原書房
売り上げランキング: 280,195

ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室
キャスリーン・フリン
きこ書房 (2017-02-09)
売り上げランキング: 71,276

チャイルド・オブ・ゴッド
コーマック・マッカーシー Cormac McCarthy
早川書房
売り上げランキング: 287,161

限界点 上 (文春文庫)
限界点 上 (文春文庫)
posted with amazlet at 19.05.12
ジェフリー ディーヴァー
文藝春秋 (2018-02-09)
売り上げランキング: 97,930

限界点 下 (文春文庫)
限界点 下 (文春文庫)
posted with amazlet at 19.05.12
ジェフリー ディーヴァー
文藝春秋 (2018-02-09)
売り上げランキング: 117,928

007 白紙委任状 上 (文春文庫)
ジェフリー ディーヴァー
文藝春秋 (2014-11-07)
売り上げランキング: 403,334

007 白紙委任状 下 (文春文庫)
ジェフリー ディーヴァー
文藝春秋 (2014-11-07)
売り上げランキング: 338,815

英知の教育
英知の教育
posted with amazlet at 19.05.12
ジッドゥ クリシュナムルティ
春秋社
売り上げランキング: 677,905

2019-05-10

スズキバーディー50:ウインカーの不具合


 以前から時折ウインカーのカチカチ音がしなくなった。稀に点きっ放しになることもある。バイク屋でバルブ(電球)を見てもらったところ、バルブではなくウインカースイッチの不具合とのこと。しかも一体型になっているためバラすことができないという。走行距離は現在28000km台だが、やはり原付は25000km前後でメンテナンスが必要だ。既に中古のウインカースイッチをヤフーオークションで落札したが、全く別の物を取り付けることが可能かどうかがわからない。バイクの調子自体は頗(すこぶ)るよく平地でメーターを振り切るほどだ。

スズキ バーディー50です(BA42A)左側前後ウインカーが点きません、Nラ... - Yahoo!知恵袋

2019-05-05

型破りな天才/『評伝 小室直樹』村上篤直


 卒業が近づくにつれて、進路指導が始まる。
 二人きりの職員室で、小林(貞治)と向かい合って、小室はいった。
「大学へ行かねいし」
「大学へ行かないでどうするんだ」
磐梯山(ばんだいさん)の麓に庵(いおり)を結んで、三顧の礼をもって首相に迎えられるまで動かないつもりだし」
(中略)
 小林は、ちょっと聞いてみたくなった。
「一応、聞くが、もしお前に頼みに来たとして、首相になって何をするのだ」
「新憲法を数年間停止して独裁政治をやるし。この憲法では日本中がテンヤワンヤになってしまうし。そして会津に大学を創って小林先生を学長に任命するつもりだし」

【『評伝 小室直樹』村上篤直〈むらかみ・あつなお〉(ミネルヴァ書房、2018年)以下同】

 小室直樹は小学校低学年にして辞書・漢籍の類いまで読み漁り、学校でも神童振りを発揮していた。幼い頃に父が逝去。女手ひとつで育てられるがその母親も中学生の時に亡くなる。親友の渡部恒三〈わたなべ・こうぞう〉を始めとする支援者が現れ、小室は学業を成し遂げることができた。

 高校時代にあっては数学・物理で教師を凌(しの)ぐほどの知識を有していた。実際に教えることもあったという。そんな小室が唯一人信頼するのが小林先生だった。若き天才の野望は常人とスケールが違った。そして小室の魂には会津人の恨みと敗戦の屈辱が刻み込まれていた。

 進学した京都大学で弁論部が結成される。小室も勇んで馳せ参じた。

 所定の時間となると、内田の司会のもと、各自、自己紹介をした。
 小室の番となった。
「小室直樹です。理学部1回生。物理学科志望です。高校は会津高校です。日本は戦争には勝っていたが、原子爆弾で敗けました。だから、湯川さんの研究室に入って原子力を研究し、もっとすごい原爆をつくって“アメリカ征伐”に行く。そのために京都大学に来ました」
 これには皆、驚いた。その上、小室は続けてマルクス批判もした。
 小室の自己紹介を聞きながら真砂泰輔(まさごたいすけ)は「ごっついのがおるなぁ」と感心した。
 他の参加者も同じ思いだった。

 小室は終生、型破りの人であった。天才は枠に収まらない。世間の常識を軽々と超えるところに天才の個性が輝く。奇抜な人物ではあったが学問の基本にはどこまでも忠実で国際的に通用する方法論を示し続けた。

 もしも小室があと20年遅れて生まれたならば、アメリカか中国が三顧の礼をもって迎えたに違いない。

 良書であるがフォントの大きさと改行の多さを思えば4800円はチト高い。

評伝 小室直樹(上):学問と酒と猫を愛した過激な天才
村上篤直
ミネルヴァ書房 (2018-09-18)
売り上げランキング: 16,509

評伝 小室直樹(下):現実はやがて私に追いつくであろう
村上篤直
ミネルヴァ書房 (2018-09-18)
売り上げランキング: 114,590

読み始める

ヒマラヤ聖者の超シンプルなさとり方
相川圭子
徳間書店
売り上げランキング: 160,961

脳が壊れた (新潮新書)
鈴木 大介
新潮社
売り上げランキング: 8,601

ハリー・クバート事件〈上〉 (創元推理文庫)
ジョエル・ディケール
東京創元社
売り上げランキング: 427,325

HHhH (プラハ、1942年) (海外文学セレクション)
ローラン・ビネ
東京創元社
売り上げランキング: 64,526

ハリー・クバート事件〈下〉 (創元推理文庫)
ジョエル・ディケール
東京創元社
売り上げランキング: 399,237

窓から逃げた100歳老人

西村書店
売り上げランキング: 194,797

ペナンブラ氏の24時間書店 (創元推理文庫)
ロビン・スローン
東京創元社
売り上げランキング: 145,036

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)
ガブリエル ゼヴィン
早川書房
売り上げランキング: 52,699

火星の人〔新版〕(上) (ハヤカワ文庫SF)
アンディ・ウィアー
早川書房
売り上げランキング: 60,187

火星の人〔新版〕(下) (ハヤカワ文庫SF)

早川書房
売り上げランキング: 35,065

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)
ケン リュウ
早川書房
売り上げランキング: 5,289

子供たちとの対話―考えてごらん (mind books)
J. クリシュナムルティ
平河出版社
売り上げランキング: 266,245

自由とは何か
自由とは何か
posted with amazlet at 19.05.05
J. クリシュナムルティ
春秋社
売り上げランキング: 1,014,542