2019-05-17

母と子の物語/『壊れた脳 生存する知』山田規畝子


『「自分で考える」ということ』澤瀉久敬

 ・病気になると“世界が変わる”
 ・母と子の物語

・『壊れた脳も学習する』山田規畝子
『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重
『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー

必読書 その五

 もとを正せば、山鳥重〈やまどり・あつし〉先生の本の「人間の行動は『記憶』である」という言葉に衝撃を受け、神経生理学というものにかみついてみた結果が、この本だ。
 その山鳥先生に解説をしていただけるなんて、先生の解説を読んで、涙が出た。親にもほめられたことのない私をこんなにほめてくださり、事細かな解説をしてくださった。恥ずかしながら、自分の症状に「ああ、あれはそういうことだったのですか」と、今さら納得してうなずいている。人間、生きていれば、こんなにいいことも、うれしい出会いもある。
 生死を画する一線から、こちら側に引き込んでくれたのは、姉夫婦、片木良典〈かたぎ・りょうすけ〉・留美子〈るみこ〉両氏だ。親子二人の生活を、折に触れて明るいものにしてくれてありがとう。
 この本は、私がよたよたと生きてきた40年目の記念碑でもある。最愛の息子・真規〈まさのり〉には、母が生きた証(あかし)、彼を世界中の誰よりも愛した証として、近くに置いておいてもらいたい。

【『壊れた脳 生存する知』山田規畝子〈やまだ・きくこ〉(講談社、2004年)/角川ソフィア文庫、2009年)以下同】

必読書」を精査するために再読した。二度目の方が感動が深かった。山田の父親も医師だった。少々複雑な家庭環境であったようだがあっけらかんと本音をさらしている。裏表のない性格が行間から伝わってくる。

「当たり前のこと」ができなくなった時にこそ生きる姿勢が問われる。少し前に知り合った男性の老人は「何もすることがない」「寝るのが仕事だ」「生きているのがイヤになってくる」と独りごちた。心が暗くなってしまえば暗い世界が現出する。自己否定に傾く心を否定する精神力が求められる。

 障碍(しょうがい)を背負うことになった山田はやがて離婚し、一人息子と二人三脚で雄々しく生きる。

〈いつもお母ちゃんを助けれくれたまあちゃんへ〉
 雨の日、風の日、いつもいっしょに歩いたね。でこぼこ道、暗い道、まあちゃんはお母ちゃんの手を引いてくれたね。
 まあちゃんがいてくれたから、お母ちゃんは天国に行かなくてすんだよ。いっしょに救急車に乗って、手を握っていてくれたね。真冬の夜中、暗い大学病院の待合室で、お母ちゃんが手術室に入ったあと、おばあちゃんが来るまでひとりで待っててくれたね。
 まあちゃんが寒くないかなって気になって、お母ちゃんは帰ってこられたよ。
 お母ちゃんのところに生まれてきてくれたのがまあちゃんだったから、お母ちゃんは生きてこられたよ。ほかの子だったらだめだったかもしれない。(以下略)

 この部分を5回読んで5回泣いた。巻末見開きに掲載されている真規〈まさのり〉君は賢そうな顔つきで笑っている。

 山田は友人にも恵まれ、本書自体が多くの医師仲間に支えられて出版の運びとなった。医師も捨てたものではないと思いたいところだが現実は異なる。ま、私が知る限りでは7~8割の医師は人間のクズだ。まともな常識すらないのが大半である。年がら年中病人と接しているから連中の精神も病んでいるのだろう。



ラットにもメタ認知能力が/『人間らしさとはなにか? 人間のユニークさを明かす科学の最前線』マイケル・S・ガザニガ

2019-05-13

「わかった」というのは感情/『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重


『「自分で考える」ということ』澤瀉久敬
『壊れた脳 生存する知』山田規畝子

 ・「わかった」というのは感情
 ・人間の心は心像しか扱えない

・『「気づく」とはどういうことか』山鳥重
『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ

 わかったというのは感情なのです。
 知らない花を見つけて、名前を教えてもらい、実はそれが前から知っていた花だったりすると、そうかと納得します。わかったと感じるのです。

【『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』山鳥重〈やまどり・あつし〉(ちくま新書、2002年)以下同】

 山鳥重〈やまどり・あつし〉は神経内科医で高次脳機能障害研究の第一人者である。私は山田規畝子〈やまだ・きくこ〉の著書で知った。「わかったというのは感情」という指摘が鋭く胸に突き刺さる。山鳥は臨床で「わからなくなってしまった人々」(高次脳機能障害)を相手にしている。時計の針が読めない、階段は見えているのだが昇りか下りかがわからない、靴の向きを間違えるなどが具体的な症状だ。わからなくなってしまった不思議を思えば、わかることもまた不思議なのである。

「わかった」という体験は経験のひとつの形式であって、事実とか真理を知るということとは必ずしも同じではありません。
 真理を発見して興奮出来る人は古今東西を問わず、わずかな人たちにすぎません。しかし、「わかった!」「わからん!」はすべての人が毎日繰り返し繰り返し経験することです。わかったからといって、その都度、真実に近づいているわけではありません。わからなかったからといって、その都度、真実から遠ざかっているわけでもありません。「わかった!」からと言って、それが事実であるかどうかは、実はわからないのです。わかったと感じるのです。あるいはわからないと感じるのです。

 特定の思想や哲学・宗教を信じる人々は皆が皆、「わかった気に」なっている。彼らは自分こそが正しいと「わかって」いるのだ。しかも閃(ひらめ)きや悟りに近い経験をする人も少なくない(例えばパウロ)。人間が誤謬(ごびゅう)から脱却できないのは「わかった」という実感を合理性と錯覚するためなのだろう。

誤った信念は合理性の欠如から生まれる/『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ

 限られた脳内情報が結び合い、つながった瞬間に「わかった」との自覚が生まれるのだろう。きっとシナプス結合がすっきりしたのだろうが、それが事実かどうかはわからないのだ。家の中の整理整頓をしたところで世界が片づいたわけではない。

 わかるためには「わからない何か」がなくてはなりません。「わからない何か」が自分の中に立ち現れるからこそ、「わかろう」とする心の働きも生まれるのです。

 人生で最も大切な姿勢は「問う」ことである。問いの中身にその人の生き様が表れる。疑問をウヤムヤにしてしまうと眼が曇り、心は鈍くなってしまう。問わずして悩む姿を煩悩と名付ける。

2019-05-12

八菅神社周辺(愛川町)


 ラベルを自転車自転車本、サイクリングと分けることにした。

 ヒルクライマーを名乗るのはさすがに恥ずかしいので今後は「ゆるクライマー」を自称する。

 八菅(はすげ)神社周辺は木陰が多く、川も流れていて爽やかな登坂(とうはん)を楽しむことができる。


 八菅橋を渡って神社の正面に突き当たる。そこを左折し、八菅山いこいの森の手前左側にある橋を渡り左側を上ってゆく。で、上り切った場所が以下である。


 左側は林道が続くが舗装されていない。


 個人的な印象では土山峠(清川村)と同程度のレベルである。左側にガードレールがないので注意が必要だ。落ちてしまえば軽く二度か三度は死ねるほどの崖が続く。またハイカーもいるので下りはゆっくりと下りるのが望ましい。路面が荒いので自然と減速するだろう。


 で、帰路の八菅橋~中津大橋が実は一番きつい。でもまあ55歳の脚力で足はつかなかったので初心者のトレーニングにはうってつけのコースだろう。

 息が上がり鼻呼吸ができなくなると周囲の景色が目に入らない。そこで木の葉を見やり、口を閉じて鼻から静かに息を吸い込み、深々と吐き出す。これが自転車の瞑想である。

神経系は閉回路/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ


『身体感覚で『論語』】を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ

 ・ユーザーイリュージョンとは
 ・エントロピーを解明したボルツマン
 ・ポーカーにおける確率とエントロピー
 ・嘘つきのパラドックスとゲーデルの不完全性定理
 ・対話とはイマジネーションの共有
 ・論理ではなく無意識が行動を支えている
 ・外情報
 ・論理の限界
 ・意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる
 ・神経系は閉回路

『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登
『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ
『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル
意識と肉体を切り離して考えることで、人と社会は進化する!?【川上量生×堀江貴文】
『AIは人類を駆逐するのか? 自律(オートノミー)世界の到来』太田裕朗
『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー
『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』デイヴィッド・イーグルマン

必読書 その五

 言い換えればこうなる。私たちに物が見えるのは、そもそも網膜からのメッセージ(これからしてすでに、たんに網膜が感知した光以上のもの)を受け取ったからではない。外界からのデータを内的活動と内部モデルに結びつけるための、広範囲にわたる内的処理の結果だ。しかし、こう要約すると、二人の主張が正しく伝わらない。実際には、マトゥラーナヴァレーラは、外界から何かが入ってくることをいっさい認めていない。全体が閉回路だと二人は言う。神経系は環境から情報を収集しない。神経系は自己調節機能の持つ一つの完結したまとまりであって、そこには内側も外側もなく、ただ生存を確実にするために、印象と表出――つまり感覚と行動――との間の整合性の保持が図られているだけ、というわけだ。これはかなり過激な認識論だ。おまけに二人は、この見解自体を閉鎖系と位置づけている。とくにマトゥラーナは、認識論に見られる数千年の思想の系譜と自説の関連について議論するのを、断固拒絶することでよく知られている。完璧な理論に行き着いたのだがから、問答は無用という理屈だ。

【『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳(紀伊國屋書店、2002年)】

 ウンベルト・マトゥラーナとフランシスコ・バレーラはオートポイエーシス理論(1973年)の提唱者である。

「神経系は閉回路」であるとの指摘は、「世界は五感の中に存在する」という私の持論と親和性がある。閉回路と言い切ってしまうところが凄い。例えるなら池が私であり池に映った映像が世界である。映像は池そのものに接触も干渉もしない。つまり閉回路である。と言ってしまうほど簡単なものではない。

 私の乏しい知識と浅い理解で説明を試みるならば、まず宇宙が膨張しているのか静止しているのかという問題があって、そこからエントロピーに進み、どうして生物はエントロピーに逆らっているのかという疑問が生まれ、散逸系というアイディアが示され、自己組織化に決着がつくと思われたまさにその時、オートポイエーシス論が卓袱台(ちゃぶだい)を引っくり返したわけである。

 個人的には科学が唯識に追いついた瞬間を見た思いがする。人生は一人称である。縁起という関係性はあっても因果は自分持ちだ。

「私」は閉鎖系である。コミュニケーションというのは多分錯覚で実際は「自分の反応が豊かになる」ことを意味しているのだろう。人が人を理解することはない。ただ同調する生命の波長があるのだろう。ハーモニーは一つであっても歌う人がそれぞれ存在する状態を思えばわかりやすいだろう。違和感を覚えるのは音程やスピードが合わないためだ。

 私があなたの手を握ったとする。物理学的に見れば手と手は触れ合ってはいない。これは殴ったとしても同様である。必ず隙間がある。もしも隙間がなかったら私とあなたの手は合体するはずである。厳密に言えば「握られた圧力を脳が感じている」だけなのだ。つまり私とあなたが一つになることはない。

 これからヒトが群れとして進化するならば必ず「識の変容」があるはずだ。その時言葉を超えたコミュニケーションが可能となる。

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