2019-06-01

デンマークで放送された家庭内暴力の恐ろしさを訴えるCM


2019-05-29

学者の凡庸さ/『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』佐藤眞一


 ・学者の凡庸さ

『アルツハイマー病は治る』 ミヒャエル・ネールス
『アルツハイマー病 真実と終焉 “認知症1150万人”時代の革命的治療プログラム』デール・ブレデセン

 見当識に障がいがある状態を理解してもらうために、私はよく、「眠っている間に、知らない場所に連れて行かれてしまったら?」と尋ねます。
 もしもあなたが、眠っている間に、知らない場所に連れて行かれてしまったら、目が覚めたとき、どんな気持ちがするでしょうか?
 自分の部屋だと思っていたのに、どこかわからない別の部屋の中にいる。今が朝なのか昼なのか、夕方なのかもわからない。親しげに声をかけてくる人がいるけれど、誰なのかわからない。あなたは誰? ここはどこ? 今はいつ? 私はなぜ、こんなところにいるの?
 と、そんな風に、不安で不安で仕方がないはずです。自分が置かれた状況が理解できあにと、私たちはとても不安になるのです。
 しかも認知症になると、記憶にも障がいが出ます。もしも知らない場所で目覚めたら、私たちは必死で、眠る前の状況を思い出そうとするはずです。昨夜は友人と飲みに行って、最後はカラオケで、疲れが出て眠ってしまったんだった。かすかに、友人と一緒にタクシーに乗ったような記憶が……。とすると、ここは友人の家か? といった具合です。
 ところが認知症が進むと、眠る前の状況を思い出そうとしても、思い出せません。

【『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』佐藤眞一〈さとう・しんいち〉(光文社新書、2018年)以下同】

 時間的・空間的・社会的な自分の位置を正しく認識するのが見当識である。見当違いの見当が語源。失見当識は記憶喪失の状態と変わらない。記憶の糸を辿ることができなくなる。

 佐藤は、日常会話によって認知機能を評価する尺度(スクリーニング方法)の「CANDy」(キャンディ)を開発した一人。15項目の合計点が6点以上の場合、認知症の疑いがある。ただし飽くまでもふるい分けの尺度に過ぎないので専門医に診てもらう必要がある。


 初めに述べておくと、現在、認知症予防にいいとされているもので、認知症を予防できるという科学的な証拠があるものはありません。研究は世界中でなされていますが、まだ結果が出ていないのです。ではなぜ、認知症予防にいいと言われるものがあるのでしょうか?
 計算ドリルなどに認められる効果は、「認知機能の低下予防」であって、「認知症予防」ではないのですが、それが混同されているのです。

 ミヒャエル・ネールスは初期~中期のアルツハイマーは治ると指摘している。日本だと河野和彦によるコウノメソッドも知られている。佐藤は「予防」と書いているが、受け身の姿勢が凡庸さをよく表している。誰かが道を拓いてくれるのを待っているのだろう。

 自分の恩師である大学教授が介護施設では「さん付け」で呼ばれていた事実にショックを受ける。

 答えは、ケースバイケースで考えていくことの中にしかないでしょう。単純に、「みんな平等だから、さん付けでいい」というのでは、認知症の人の世界を大事にすることはできません。

 この件(くだり)はいかにも現場を知らない学者が馬脚を露(あら)わしたもので、公私混同も甚だしいと言わざるを得ない。佐藤は認知症を知っているのかもしれないが、認知症患者を知らないのだろう。お笑い草である。

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佐藤眞一
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2019-05-26

煩悩即菩提/『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー


『ニューソート その系譜と現代的意義』マーチン・A・ラーソン
『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人
『アファメーション』ルー・タイス
『「原因」と「結果」の法則』ジェームズ・アレン
『「原因」と「結果」の法則2 幸福への道』ジェームズ・アレン

 ・煩悩即菩提

『未来は、えらべる!』バシャール、本田健
・『バシャール・ペーパーバック1 ワクワクが人生の道標となる』ダリル・アンカ、バシャール
『潜在意識をとことん使いこなす』C・ジェームス・ジェンセン
『こうして、思考は現実になる』パム・グラウト
『こうして、思考は現実になる 2』パム・グラウト
『自動的に夢がかなっていく ブレイン・プログラミング』アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ
『あなたという習慣を断つ 脳科学が教える新しい自分になる方法』ジョー・ディスペンザ
『ソース あなたの人生の源はワクワクすることにある。』マイク・マクナマス

 前向きに考えるための基本を身につけてください。「思考が道具であること」「心で感じたものが引き寄せられてくること」「人間は、心で想像したとおりになること」、この三つがわかれば、何でも前向きに考えられるようになります。

【『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー:富永佐知子〈とみなが・さわこ〉訳(きこ書房、2012年/きこ書房、2003年『マーフィー 世界一かんたんな自己実現法 驚異のイメージング』)以下同】

 原著刊行は1952年(昭和27年)。GHQの日本占領が終わった年である。新しい思考は余暇から生まれる。文明発達の目的は自由な時間の獲得、すなわち余暇にある。枢軸時代の思想家を生んだのは鉄器であったと武田邦彦が指摘している。鉄器によって農業の生産性が格段に上がり、余剰を蓄えることが可能となった。

 願望実現のベクトルが内側に向けられると自己啓発となり、外側に向かうとマーケティング理論になるというのが私の考えだ。ジョセフ・マーフィーの後塵を拝すようにしてヴァンス・パッカードマーシャル・マクルーハンが登場している。

 マーケティング理論には心理学が悪用され深層心理に働きかけることで消費者の購買意欲を煽った。広告、広告、広告だ。戦争と好景気を背景に人々は物欲を満たした。

 あなたが心で考えていること、それがあなたです。
「信頼」は、考え方や感じ方、つまり心構えや志のひとつです。人間は成功を「信頼」することも、失敗や不運、貧しさを「信頼」することもできます。そして、こうした心の状態はすべて人生にあらわれます。「信頼」が外に押し戻されるのです。そもそも、信頼するということは、心の中で何かをじっくり眺め、納得して受け入れるということです。もとより「信頼」は思考のひとつで、思考にはものを作る力があるので、考えていることを外部に作り出してしまいます。人間とは、心の中の思いが形を取ってあらわれ出たものだからです。わたしたちは、本当に信じていることを現実に作り上げます。心の底で何を信じているかが重要なのであって、通りいっぺんに納得するだけではだめです。

 結局何を信じるかである。信心・信仰・信念といっても一緒である。我々は何かを信じずには生きられない。そして自分が信じている多くのことが実は誤っている。人は解釈された世界を歩み、妄想の中を生きるのだ。

 年を重ねるに連れて自分の中に制限を見出す人が多い。仕事は学歴や資格で選択肢が狭まれ、能力や適性を発揮することもないまま中年期に至る。人生が何となく先細りになってゆくことを避けられない。

 加齢に伴う自己制限が不幸の大きな原因の一つであるように思える。

 自己実現が欲望の実現を目指しているならば実にわかりやすい煩悩即菩提の構図である。所願満足といってもよい。そう考えると後期仏教(大乗)が多くの人々を乗せることができる乗り物に喩えられたのは、欲望充足の巧みなデッサンを提示したためか。より多くの人々が信じられるものは、より易しくてわかりやすい教えだ。

 つまり自己啓発の思想は大乗の香りを放ち、鎌倉仏教のビートを奏(かな)でているのだ。神智学協会(1875年-)というコネクター(『仏教と西洋の出会い』フレデリック・ルノワール)が登場するのも偶然ではない。これはキリスト教世界における神仏習合なのだ。

 人類の思想史は肯定と否定の波を繰り返し、自己実現と諸法無我の間を彷徨(さまよ)い続けるのだろう。

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2019-05-25

密教化/『「原因」と「結果」の法則』ジェームズ・アレン


『「言葉」があなたの人生を決める』苫米地英人
『アファメーション』ルー・タイス

 ・密教化

『「原因」と「結果」の法則2 幸福への道』ジェームズ・アレン
『新板 マーフィー世界一かんたんな自己実現法』ジョセフ・マーフィー
『未来は、えらべる!』バシャール、本田健
『潜在意識をとことん使いこなす』C・ジェームス・ジェンセン
『こうして、思考は現実になる』パム・グラウト
『こうして、思考は現実になる 2』パム・グラウト
『自動的に夢がかなっていく ブレイン・プログラミング』アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ
『あなたという習慣を断つ 脳科学が教える新しい自分になる方法』ジョー・ディスペンザ
『ソース あなたの人生の源はワクワクすることにある。』マイク・マクナマス

 黄金やダイヤモンドは、ねばり強い調査と試掘のあとで、はじめて発見されます。そして私たちは、自分の心の鉱山を十分に深く掘り下げたときに、はじめて自分自身に関する真実を発見できます。
 もしあなたが、自分の思いの数々を観察し、管理し、変化させながら、それらが自分自身に、またほかの人たちに、さらには自分の人生環境に、どのような影響をおよぼすものなのかを入念に分析したならば……忍耐強い試みと分析によって、日常的で些細(ささい)な出来事をも含む、自分のあらゆる体験の「原因」と「結果」を結びつけたならば……「人間は自分の人格の制作者であり、自分の環境と運命の設計者である」という真実に必ず行き着くことになるでしょう。

【『「原因」と「結果」の法則』ジェームズ・アレン:坂本貢一〈さかもと・こういち〉訳(サンマーク出版、2003年/山川紘矢・山川亜希子訳、角川文庫、2016年)】

 原著は1902年に刊行されたという。デール・カーネギーに大きな影響を与えたらしい。とすると自己啓発本の嚆矢(こうし)に位置すると考えていいだろう。

 個人的には、イギリス経験論~プラグマティズム~ニューソート~自己啓発という流れで把握しているのだが、思想的な系譜よりも時代の動きを捉えた方がよく見えてくるものがある。更に私はこれを「密教化」と解釈する。飛躍するようではあるが、仏教の日本化とよく似ているように思われてならない。

 そしてまたブッダの教えも初期仏教~後期仏教(大乗)~密教という変貌を遂げた。仏教の密教化にはヒンドゥー教の匂いがプンプンしているがそれでも密教化の先祖返りという側面を見落としてはなるまい。

 では密教化とは何か? それは他人の言葉(テキスト)から離れて自分自身の内なる声に耳を傾ける営みであろう。加持祈祷はさほど重要ではない。答えを外に求めるのではなくして内側に見出す姿勢が肝要なのだ。

 世界を変えようとするのではなくして、世界を見つめる眼差しを変えるところに変容の鍵がある。



人は自分が探しているものしか見つけることができない/『心晴日和』喜多川泰