2019-07-13

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2019-07-10

レッドからグリーンへ/『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男


『人類史のなかの定住革命』西田正規
『砂糖の世界史』川北稔
『砂の文明・石の文明・泥の文明』松本健一

 ・動物文明と植物文明という世界史の構図
 ・黒船ペリーが開国を迫ったのは捕鯨船の補給地を確保するためだった
 ・中東が砂漠になった理由
 ・レッドからグリーンへ

『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博
『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲
『石田英一郎対談集 文化とヒューマニズム』石田英一郎
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」がうまれたとき』山極寿一、小原克博
『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を超えて』加藤茂孝
『感染症の世界史』石弘之

必読書リスト その四

石●「レッドからグリーンへ」というのが、最近の皮肉をこめたスローガンとなっているぐらいです。つまりマルキシズムの居城を失った思想家たちの一部が、環境に生きる道を見出したわけです。

【『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之〈いし・ひろゆき〉、安田喜憲〈やすだ・よしのり〉、湯浅赳男〈ゆあさ・たけお〉(洋泉社新書y、2001年/新版、2013年)】

 第二次世界大戦中におけるマルキストの浸透については以下の書評に書いた。

大衆運動という接点/『折伏 創価学会の思想と行動』鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし

 ソビエトスパイの暗号解読文書「ヴェノナ」(Wikipedia/『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア)は公開されたものの歴史を修正するところにまでは至っていないのが現状だ。

 学生運動や安保闘争が高まる昭和30年代、左翼は公害病にもコミットしていた。石牟礼道子〈いしむれ・みちこ〉の言葉はあまりにも有名だ。「極端な言い方かもしれませんが、水俣を体験することによって、私たちがいままで知っていた宗教はすべて滅びたという感じを受けました」(水俣病事件と「もうひとつのこの世」:萩原修子)。

 左翼勢力は更に空港(三里塚闘争)やダム建設の反対運動にも関わる。

 公害問題は環境意識への芽生えではあったが、企業vs.被害者というレベルの意識に留(とど)まっていた。1962年(昭和37年)にレイチェル・カーソンの『沈黙の春』が、そして1972年(昭和47年)にドネラ・H・メドウズの『成長の限界 ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』が刊行された。日本では1974年(昭和49年)から有吉佐和子が朝日新聞に『複合汚染』の連載を開始した。

 人々の概念が少しずつ変化する中でオゾン層破壊が明らかとなる(1974年)。1985年にオゾン層の保護のためのウィーン条約が採択され、日本も1988年に加わった。これが環境問題のハシリだろう。その後1990年代から家庭ゴミの分別が始まる(「環境問題の歴史」を参照した)。

 環境問題は左翼にとっては渡りに舟であった。「地球に優しい」という標語には誰一人逆らえない。「レッドからグリーンへ」運動表現を変えた赤組はその後、人権~性差解消~ポリティカル・コレクトネスと看板を掛け替える。

 この間、進歩的文化人は良心的勢力・リベラルと仮面を付け替えた(進歩的文化人については谷沢永一著『こんな日本に誰がした 戦後民主主義の代表者・大江健三郎への告発状』『悪魔の思想 「進歩的文化人」という名の国賊12人』『誰が国賊か 今、「エリートの罪」を裁くとき』が詳しい)。



金儲けのための策略/『正義で地球は救えない』池田清彦、養老孟司

中東が砂漠になった理由/『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男


『人類史のなかの定住革命』西田正規
『砂糖の世界史』川北稔
『砂の文明・石の文明・泥の文明』松本健一

 ・動物文明と植物文明という世界史の構図
 ・黒船ペリーが開国を迫ったのは捕鯨船の補給地を確保するためだった
 ・中東が砂漠になった理由
 ・レッドからグリーンへ

『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』ジェームズ・C・スコット
『文明が不幸をもたらす 病んだ社会の起源』クリストファー・ライアン
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博
『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲
『石田英一郎対談集 文化とヒューマニズム』石田英一郎
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」がうまれたとき』山極寿一、小原克博
『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を超えて』加藤茂孝
『感染症の世界史』石弘之

必読書リスト その四

石●結局イスラムは、ブタを捨ててヤギとヒツジに頼ったわけです。ヤギとヒツジは、ある意味でいちばん自然を破壊する家畜ですよ。イスラム文化の支配したところが砂漠化していったのは理解できます。アラビア半島から始まってインド亜大陸、中央アジア、北アフリカ、スペイン南部まで、イスラムの支配した地域はほとんど砂漠です。ヤギとヒツジのせいだといってもいい。

湯浅●根まで食べちゃうわけですからね。

安田●インドがなぜ肉食をやめたのかということは、いずれにしても21世紀の大きなテーマになる。いずれ人類はそんなに肉を食えない時代を迎えるはずです。インドの紀元前5世紀における肉食の放棄は、結局、放棄するしかなかったということかもしれません。

【『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之〈いし・ひろゆき〉、安田喜憲〈やすだ・よしのり〉、湯浅赳男〈ゆあさ・たけお〉(洋泉社新書y、2001年)/新版、2013年)以下同】

 するってえとヤギとヒツジこそは一神教の父というわけだな。ユダヤ教からキリスト教が生まれ、キリスト教からイスラム教が生まれた。この三つを総称してアブラハムの宗教という。

 一神教は砂漠の宗教(『離散するユダヤ人 イスラエルへの旅から』小岸昭)で、多神教は森の宗教と考えられている。砂漠に存在するのは砂と風だけだ。呆気(あっけ)なく死んでしまうことも多かったことだろう。人々は救いを求めて天を仰ぐ。これが「信仰」の謂(いわ)れだ(東洋は信心)。

「砂漠では、心を動かされる何もないので、人の思考は自然に天に向かう。そして唯一の神を崇拝する宗教が誕生したわけだ」(長谷川良、2015年)。

「砂漠の中では砂か風しかない。そういうものでは人間の無力さを克服できない。だからこそ、もう「絶対的なもの」を求めないと、砂漠風土ではやっていけないと。こうなると、もう強大な力を持った一つの神様しか選択できない。こういう心理状況が働いたと考えたほうが理解し易いんじゃないでしょうか。だから砂漠の神が一神教。自然の豊かなものがあるところでは多神教が普通になる。そんな風土が生み出したものでもあるんです」(安岡譽)。

 新約聖書ではイエスを「善き羊飼い」に、そして信徒を「迷える羊」に喩(たと)える。ま、どっちにしてもあんたたちは中東を砂漠化したわけだよ。

 彼らが希(こいねが)った天国は水が豊富で滴り落ちるような緑に溢れていたことだろう。そう。我々にとっては見慣れた風景だ。砂漠と比べれば日本はまさに天国といってよい。

 奴隷は家畜文化から生まれた。日本に奴隷制度はなかった(『日本人と「日本病」について』岸田秀、山本七平)。現代においても先進国が発展途上国の資源を搾取し、労働や兵役を国民に押しつける形でソフトな奴隷制は温存されている。

2019-07-09

馬渡大坂~半原越


 馬渡大坂(まわたりおおさか)から半原越(はんばらごえ)にアタック。本当は牧馬峠(まきめとうげ)までも行くつもりだったのだが思った以上にきつくて帰ってきた。行きは愛川の水道みち地図)から。


 急斜面を駆け下りると里山に囲まれた田んぼが広がる。長閑(のどか)で心休まる場所だ。

 馬渡大坂は大したことがなかった。ところが半原越まで行くとなると話が変わる。最初はナメてかかっていた。「半原越よ、スピンバイクで鍛えた私の足元にひざまずくがいい」くらいに思ってたんだよね。56歳になった私の前に半原越は傲然と立ち塞がった。


【半原越入口付近で】

 牧馬峠(相模湖側)に次ぐ苦しさであった。ペダルを踏みながら神仏に罰せられているような気分になってくる。ま、私としては70~80代で行うはずのリハビリを先んじて行っている自覚があるから苦しいのは望むところだ。

 空気が湿っぽくなってきたので帰ることに。途中で前々から気になっていた道を確認する。Googleマップには載っていない(「Googleマップが劣化した」不満の声が相次ぐ ゼンリンとの契約解除で日本地図データを自社製に変更か - ITmedia NEWS)のだが航空写真だとはっきりわかる。ズザ沢湧水の脇にある道だ。


 ゲートの向こうの林道は舗装されていなかった。



 いつものようにJA県央愛川荒茶工場前を滑るように走り抜ける。時速57kmだ。そのまま来た道を戻る。スピンバイクの効果は平地でわかった。驚くほど足が回る。登坂で発揮できないのはどうしたことか? 筋力ではなく心肺能力の問題なのだろうか?

 今月でロードバイクに乗り始めてからちょうど1年を迎える。ヤビツ峠に挑む前にもう少しトレーニングが必要だ。

 日野晃の本を読んで思ったのだが、「背中を丸める」とか「肩甲骨を開く」というのは「胸骨を下げる」意識にすると、かなり楽になる。

2019-07-08

黒船ペリーが開国を迫ったのは捕鯨船の補給地を確保するためだった/『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男


『人類史のなかの定住革命』西田正規
『砂糖の世界史』川北稔
『砂の文明・石の文明・泥の文明』松本健一

 ・動物文明と植物文明という世界史の構図
 ・黒船ペリーが開国を迫ったのは捕鯨船の補給地を確保するためだった
 ・中東が砂漠になった理由
 ・レッドからグリーンへ

『文化がヒトを進化させた 人類の繁栄と〈文化-遺伝子革命〉』ジョセフ・ヘンリック
『家畜化という進化 人間はいかに動物を変えたか』リチャード・C・フランシス
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『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」が生まれたとき』山極寿一、小原克博
『一神教の闇 アニミズムの復権』安田喜憲
『石田英一郎対談集 文化とヒューマニズム』石田英一郎
『人類の起源、宗教の誕生 ホモ・サピエンスの「信じる心」がうまれたとき』山極寿一、小原克博
『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を超えて』加藤茂孝
『感染症の世界史』石弘之

必読書リスト その四

石●石炭ガスが登場する以前、大都市の街頭の燃料にクジラの油を使っていて、1740年代のロンドンでは5000もの街灯が鯨油でともされていたそうです。これでは、いくら捕鯨をやっても足りないですよ。欧米で捕鯨の圧力が少し下がるのは、19世紀に入って石炭ガスが普及してきてからです。

(中略)

石●アメリカの捕鯨産業は1650年頃東海岸で始まり、1700年頃にはそこも捕り尽くして北極海に出ていく。それも、湯浅さんがいわれたとおり、1830年頃には資源は枯渇して太平洋に進出を余儀なくされる。19世紀半ばには、もう太平洋の東ではクジラが壊滅し、さらに西へ西へと進出したわけです。しかし、捕鯨船への燃料や水の補給ができなくなり、そこで強面のペリー提督を日本に送り込んで、捕鯨船への補給のために開国の圧力をかけることになる。

【『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之〈いし・ひろゆき〉、安田喜憲〈やすだ・よしのり〉、湯浅赳男〈ゆあさ・たけお〉(洋泉社新書y、2001年)/新版、2013年

 しかも欧米人は鯨肉を食さなかった。油を絞った後は巨大な遺骸を捨てていたのだ。黒船来航は1853年(嘉永6年)。それから100年余りを経て、今度は日本の捕鯨が欧米から問題視される(『動物保護運動の虚像 その源流と真の狙い』梅崎義人)。

 誰が何を食べようと文句を言われる筋合いはないはずだが、白人は「知性の高い動物を食べるべきではない」と宣(のたま)う。同じ人間であるはずの黒人や黄色人を散々差別してきた白人の動物に対する憐憫(れんびん)の情はどこか歪んだものを感じさせる。

 要は「ルールを決めるのは俺たちだ」と言いたいのだろう。もちろんその裏側には「お前らは黙ってルールに従えばよい」という人種差別感情がべったりと貼り付いている。

 日米和親条約(1854年)を始めとする不平等条約は「黒船レジーム」といってよい。これを解消するために日本は日清戦争日露戦争を戦い、やっとの思いで半世紀後の1911年に関税自主権を回復した。国際社会で対等な国家として認められるのに我々の父祖がどれほどの苦労をしてきたことか。

 鯨のために開国を強いられ、開国すると鯨のために弾劾される。日本にとっては忌まわしい動物と言えなくもない。

近未来の車輪とタイヤとロボット・ドローン






2019-07-07

黒船を歌う江戸時代の人々/『幕末外交と開国』加藤祐三


『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新
『逝きし世の面影』渡辺京二

 ・黒船を歌う江戸時代の人々

日本の近代史を学ぶ
必読書リスト その四

 黒船来航、そのニュースはまたたく間に国内を駆け巡った。公文書、浮世絵、狂歌・狂句、瓦版(ミニ新聞)、手紙、日記、そして口コミ。
◎泰平の眠りをさます上喜撰(じょうきせん) たつた四はいで夜も眠れず
  煎茶の銘柄に「上喜撰」があった。「蒸気船」と同音である。煎茶を四杯も飲めば目が冴えて眠れない。四隻(四杯)の蒸気船では「夜も眠れず」。作成年代は不明、後の明治期とする説もある。似た歌に「アメリカを茶菓子に呑んだ蒸気船 たつた四杯で夜もねられず」があり、アメリカに飴をかけている。
◎井戸の水あつてよく出る蒸気船 茶の挨拶で帰るアメリカ
  井戸とは、2名置かれた浦賀奉行の一人(江戸城詰め)の井戸石見守(いわみのかみ)との語呂合わせである。水質が合って程よく出た上喜撰を飲んで、茶飲み程度の軽い挨拶で帰帆。確かに、ペリーの第1回滞在は、わずか10日間である。
◎アメリカが来ても 日本はつつがなし
  筒(大砲)がないことと、恙無い(無事)を掛けている。
◎日本へ向ひてペロリと下をだし
  ペリーの名はオランダ語風にペルリ、ヘロリなどとも書かれている。ペロリ、あかんべ~か。
◎馬具武具屋 渡人さまとそつといひ
  泰平の時代がつづき、馬具や武具を扱う商売はさびれていたが、黒船来航でいいよいよ天下大乱か。商売繁盛、だが大声では言えない。
◎兵糧の手当に米の値があがり 武家のひそかに黒船さま
  武士の俸給は米である。まずは食用にしたが、残りは売って現金に換えた。兵糧手当に米の値上り。ありがたや。
◎永き御世(みよ)なまくら武士の今めざめ アメリカ船の水戸のよきかな
  水戸とは警世家で対外強硬派ともいわれた御三家(ごさんけ)の水戸(茨城県)の徳川斉昭(なりあき)をさす。目の前の黒船が、長い平和ですっかりなまくらになった武士の覚醒剤となった。水戸殿は溜飲を下げる。
 内容からみて、これらの歌は、10日間で終わった第1回ペリー来航の時に詠まれたものであろう。安堵した気配や、揶揄や好奇心が強く出ている。艦砲射撃で街が焼かれた、武士達が艦隊に切り込んだなど、緊迫した様子のものは一つもない。これがほかならぬ現実であった。

【『幕末外交と開国』加藤祐三〈かとう・ゆうぞう〉(ちくま新書、2004年/講談社学術文庫、2012年)】

 言葉のセンスがツイッターとは桁違いである。その圧縮された情報の濃度は流行歌をも軽々と凌(しの)ぐ。更には遊びの精神が横溢(おういつ)しながらも単なる駄洒落に堕していない。

 俳句の俳という字は「おどけ、たわむれ」を表し(俳 | 漢字一字 | 漢字ペディア)、俳句の源流である「『俳諧』には、『滑稽』『戯れ』『機知』『諧謔(かいぎゃく)』等の意味が含まれる」(俳諧 - Wikipedia)。ユーモアとは現実を突き放して見つめて悲しみや苦しみをも笑い飛ばす精神である。四季を愛(め)でる美意識や、もののあはれもさることながら、日本人のユニークさは「現実を面白がる心持ち」にあるような気がする。

泰平のねむりをさますじようきせん たつた四はいで夜るも寝られず/『予告されていたペリー来航と幕末情報戦争』岩下哲典

 この手の話が好きなので紹介したが、本書は――検索しながら別の本に辿り着き、更に検索してはまた別の本を辿ってしまう悪循環が2時間以上続く。その後数本の動画を見て、結局寝てしまう――黒船来航後、仁王立ちとなって安政の改革を断行した阿部正弘〈あべ・まさひろ〉と、ペリーとの交渉役を命ぜられた林大学頭〈はやし・だいがくのかみ/林復斎〉による外交の歴史が詳述されている。

 戦前を「未発達の黒い歴史」と捉えるのが左翼の進歩史観であるが、史実を知ればマシュー・ペリー同様、江戸時代の日本人を見直さざるを得ない。

 明治維新の立役者は下級武士であったが身分という枠組みで見るのは片手落ちだ。維新~開国を成し遂げたのは知識人たちであった。豊臣秀吉はヨーロッパ人がアジア諸国を侵略し植民地化していることを知っていた(『戦国日本と大航海時代 秀吉・家康・政宗の外交戦略』平川新)。そして幕末の知識人は阿片戦争で清国がイギリスに敗れた事実を把握していた。

 黒船を歌う江戸時代の人々は実に呑気(のんき)であった。彼らの精神は江戸時代に埋没したまま日本の激動を予期し得なかった。阿部正弘が成し遂げた改革や人事を思えば、彼こそが明治維新という舞台の土台をつくったといっても過言ではないだろう。それまで発言権のなかった外様大名の声を聞き、島津斉彬〈しまづ・なりあきら〉などを幕政に参加させた。また、勝海舟を登用したのも正弘であった。

 軍事力では圧倒的に劣る日本が外交交渉を通して新しい国家の形を模索する。林大学頭のタフネゴシエーター振りも際立っている。その胆力・見識・知謀は現在の大臣級では足元にも及ばないだろう。

 こうして日本は鎖国という平衡系世界から開国という非平衡系世界へ船出する。

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