2021-06-10

1600年を経ても錆びることのないデリーの鉄柱/『人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理』永田和宏


鋼の庖丁を選べ
鉄フライパンの焼き直し

 ・1600年を経ても錆びることのないデリーの鉄柱

『森浩一対談集 古代技術の復権 技術から見た古代人の生活と知恵』森浩一

 インドのデリー市郊外の世界遺産クトゥプ・ミナールに、紀元4世紀に仏教国のグプタ朝期に建てられた鉄柱がある。直径42cm、高さ地上7m、重さ約7tで約1mは地中に埋まっていと言われている。鉄の純度は99.72%で、約1600年経つがほとんど錆が進行していない。このような大きな鉄の構造物を作った当時の技術はどのようなものであったであろうか。
 一方、我が国では、1400年前に建てられた法隆寺の修理の際、和釘が見つかっている。その和釘の表面は黒錆で覆われているが錆は進行しておらず、曲がりさえ直せば再度使えると言われている。1779年に作られた英国のアイアンブリッジや、1889年に完成したフランスのエッフェル塔も健在で、これらは前近代的製鉄法で製造された銑鉄(せんてつ)や錬鉄(れんてつ)でできている。

【『人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理』永田和宏〈ながた・かずひろ〉(ブルーバックス、2017年)】

「グプタ朝期に建てられた鉄柱」とはデリーの鉄柱である。一般的にアショーカ・ピラーと呼ばれているようだが誤り。アショーカ王碑文が認(したた)められているのは摩崖・洞窟・石柱である。

 また錆びない理由については「『純度の高い鉄製だから』という説明がされることがあるが、これは誤りである。(中略)1500年の間風雨に曝されながら錆びなかった理由は、鉄の純度の高さではなくむしろ不純物の存在にあるという仮説が有力である」(Wikipedia)。永田の記述はギリギリのところで踏みとどまっている。

法隆寺 千年の釘 – MAQ設計事務所

 デリーの鉄柱同様、黒錆が美しい。

 人の寿命を超えるものに惹かれるのは永遠への憧れもさることながら、エントロピー増大則に反するあり方そのものが面白いのだろう。その意味では生物の方がずっと面白いわけだが。

 新石器は青銅器を経て鉄器に至った。鉄器は生産性を爆発的に増加させ、都市の形成につながる。枢軸時代の思想革命も鉄器による余剰と余暇が生んだものと武田邦彦は指摘している。

 永田和宏については、『学問の自由が危ない 日本学術会議問題の深層』(晶文社、2021年)に名を連ねているところを見ると、評価できる人物ではなさそうだ。

ロシアのサンボ選手は筋トレで反動を使う/『ロシアンパワー養成法』足立弘成


 ・ロシアのサンボ選手は筋トレで反動を使う

『新トレーニング革命 初動負荷理論に基づくトレーニング体系の確立と展開』小山裕史
『身体を芯から鍛える! ケトルベルマニュアル』松下タイケイ
『動ける強いカラダを作る! ケトルベル』花咲拓実

 技術練習は学生と一緒に何とかこなしましたが、大学でのトレーニングは綱上りや懸垂など、専門的体力を鍛える負荷の強いものが多く、指を骨折していた私には無理な内容でした。この時ばかりは、ひたすら見学するしかありませんでしたが、ふとあることに気づきます。
 「あれーっ、めちゃくちゃ反動使ってる!」
 私がウェイトトレーニングの本から得ていた知識では、例えば、懸垂をする際は広背筋に刺激を集中させるため、反動を使わないのが常識でした。しかし、反動を使った方法を行っている選手は一人だけではありません。
 「もしかすると、日本の常識は非常識なのではないのか」――そんな思いが、私の心の中に芽生え始めました。

【『ロシアンパワー養成法』足立弘成〈あだち・ひろしげ〉(英知出版、2006年/晋遊舎復刻版、2010年)】

 読んだ瞬間、腑に落ちた。ケトルベルスイングがまさしく反動を使っているのだ。ボディビルダーが腕立て伏せを解説する際に、「腕を伸び切らせると負荷が抜けてしまう」とよく言うが、運動の実際を踏まえると持続的な負荷は悪影響しかない。彼らの目的は筋肥大であって運動能力の向上ではないのだ。

 上記テキストは初動負荷理論をも示唆している。ただし本書ではチューブトレーニングを採用しており、折角の「反動理論」が台無しになっている。

 体操選手は筋トレをしないという。彼らの筋肉は体操で自然についたもので負荷と解放の減(め)り張りが、しなやかな身体性を支えているのだ。運動をリードするのは骨と腱であると私は考える。

2021-06-08

相模野カントリー倶楽部(相模原市)の激坂をトレッキング


 ふと長い坂道を歩きたくなった。突然、相模野カントリー倶楽部を思い出した。崩落した道はもう直っていることだろう。自転車で登坂したのは3年前のことだ。




 早速バイクで向かった。三嶋神社付近から歩いた。往復で6.2km。ほぼ休みなし。


 自転車では見えなかった風景が目に入ってくる。新緑が目に染みる。崩落箇所は直っていたが、まだダンプがうようよしていた。谷底を北の方角に向けて整地していた。

 以前は気づかなかったのだが、崩落箇所からもう一段結構な坂が待ち構えていた。自転車乗りにはいいトレーニングになると思う。歩いた感覚では三嶋神社方面からの方がきつい印象だ。

 山の中からウグイスの鳴き声が響き、ゴルフ場はカラスの完全支配下にあった。復路でアスファルトの上をのたくり回るでかいミミズを2匹助けてやった。ミミズは我が友である。

 トレッキング6kmは平地12kmほどの疲労換算である。上り道は息を喘がせるほどきつい。古(いにしえ)の日本人は舗装されていない道を草鞋(わらじ)で歩いた。歩く行為は歴史を確認する作業だ。我々の祖先は遠くアフリカの大地から極東の地まで歩いてきたのだから。

2021-06-07

鉄フライパンの焼き直し


遠藤商事 鉄黒皮厚板フライパン 28cm 1550g

 ・鉄フライパンの焼き直し

鉄フライパンの油ならし

 結局私が好きなのは鉄だということに気づいた(鋼の庖丁を選べ)。宇宙の働きも最終的には鉄を形成する方向に向かっている。地球の内核も鉄だ。

 鉄フライパンの焼き直しを行った。尚、購入した際にシーズニングは施していない。これは貴重な経験となった。生きてるうちに一度はやった方がいい。フライパンが生まれ変わる様をとくと見れば、自分の内側にも青く光る何かが芽生えてくる。






 この青光りする色が現れた時の感動は名状し難いものがある。黒く煤(すす)けた鉄の塊を紙やすりで擦(こす)り、鈍い銀色を放つ地金が見えてくる。「ああ、確かに初めて会った時はそんな顔をしていたな」との感慨がよぎる。ところがガスコンロの火で炙(あぶ)り続けていると、まるで青い火が乗り移ったかのようにフライパンが青光りを放つのだ。

「私はもうかつての私ではない。ただのフライパンだと思ったら大間違いだ。炎で鍛錬された私はフライパンの中のフライパンだ。さしずめブルーメタルとでも呼んでもらおうか。のんべんだらりと代わり映えしない日々を送る男がきちんと私を扱えるのか?」と語りかけてくる。身の錆(さび)を振り落とすためには灼熱の出来事が必要なのだろう。

 尚、ケトルベルトレーニング(18.1kg)を行うと、28cmの鉄フライパンでも楽々と片手で振れるようになる。