・『天空の舟 小説・伊尹伝』宮城谷昌光
・『太公望』宮城谷昌光
・『管仲』宮城谷昌光
・『重耳』宮城谷昌光
・『介子推』宮城谷昌光
・『沙中の回廊』宮城谷昌光
・『晏子』宮城谷昌光
・『子産』宮城谷昌光
・術と法の違い
・策と術は時を短縮
・人生の転機は明日にもある
・天下を問う
・傑人
・明るい言葉
・孫子の兵法
・孫子の兵法 その二
・人の言葉はいかなる財宝にもまさる
・『孟嘗君』宮城谷昌光
・『楽毅』宮城谷昌光
・『青雲はるかに』宮城谷昌光
・『奇貨居くべし』宮城谷昌光
・『香乱記』宮城谷昌光
・『草原の風』宮城谷昌光
・『三国志』宮城谷昌光
・『劉邦』宮城谷昌光
「病気をなおす医者がもちいるのは、術です。また、いまの戦いで、兵を動かす将軍がもちいるのも術です。医術と兵術は、特別な人がもちるもので、法とはちがいます。術はそのときそこにいる人にかかわりをもちますが、法はそういう限定の外にあります。ゆえに術を知らぬわれは死にかけましたが、楚王と楚の国民を、法によって活(い)かすことも殺すこともできるのです」
【『湖底の城 呉越春秋』(全9冊)宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(講談社、2010年/講談社文庫、2013年)】
孫武〈そんぶ〉の言葉である。「あれ?」と思った目敏(ざと)いファンも多いことだろう。『孟嘗君』に登場するのは孫臏〈そんぴん〉で孫武の末裔である。1972年に「孫臏兵法」が発見され、『孫子』の著者は孫武が有力視された。
・兵とは詭道なり/『新訂 孫子』金谷治訳注
若き伍子胥〈ごししょ〉があまりにも賢(さか)しらで共感が湧きにくい。第七巻からは越国(えつこく)の范蠡〈はんれい〉が主役となる。ところが伍子胥とキャラクターが被っていて、段々見分けがつかなくなってくる。あまり好きになれない作品だが、再読に堪(た)える内容であることに間違いない。特に孫武が生き生きと躍動しており、『孫子』を学ぶ者にとっては必読書といえる。
孫武はそれまでの兵術を兵法にまで高めた天才である。枢軸時代を彩る主要人物の一人だ。
「西暦1700年か、あるいはさらに遅くまで、イギリスにはクラフト(技能)という言葉がなく、ミステリー(秘伝)なる言葉を使っていた」(『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』P・F・ドラッカー)。
「学、論、法、と来て、さらにいっそう頭より手の方の比重が大きくなると、何になるか、というと、これが術、なんです。術、というのは、アートです」(『言語表現法講義』加藤典洋」)。
・技と術/『プロフェッショナルの条件 いかに成果をあげ、成長するか』P・F・ドラッカー、『言語表現法講義』加藤典洋
もともと技は秘伝であったのだろう。孫武の兵法は術(手)から法(頭)の転換であり、兵士一人ひとりの技よりも大軍としての動きに注目した。それまでは雨滴のような波状攻撃が主流であったが、孫武は激流を生み出し、波浪を出現せしめた。軍にスピードを導入したのも孫武であった。戦局を卜(ぼく)で占いながら進む緩慢さを排したのだ。将軍が頭となり兵士が手足の如く動くことで、軍組織は生命体のように振る舞った。
法の訓読みは「のり」である。「則・矩・式・典・憲・範・制・程・度」も「のり」と読む(コトバンク)。語源は「宣(の)り」で、やがて「のっとる」意が加味されて、「乗り」に掛けられた。言葉には呪力(※呪には祝の義もある。祝の字は後に生まれた)があると信じられていた時代である。王の言葉はそのまま法と化した。
現代で兵法が最も生かされているのはスポーツの世界だろう。プロであっても監督次第で成績がガラリと変わる。一方、本来であれば最も兵法が発揮されなければいけない政治はといえば、官僚主導で省益の奪い合いをやっている始末で、世界からスパイ天国と嘲笑されても目を覚ますことがない。既に戦争を経験した政治家は存在しない。東大法学部出身の優秀な頭脳が乾坤一擲(けんこんいってき)の場面で判断を誤ることは大いにあり得る。
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