・『ゼロからわかるブラックホール 時空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』大須賀健
・『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス
・『宇宙は何でできているのか』村山斉
・『宇宙は本当にひとつなのか 最新宇宙論入門』村山斉
・ブラックホールの予想を否定したアインシュタインとアーサー・エディントン
・『宇宙になぜ我々が存在するのか』村山斉
・『宇宙を創る実験』村山斉編著
20世紀の初頭に、光さえも脱出できない天体があり得ることを予想したのは、ドイツの物理学者カール・シュヴァルツシルトです。それは、アインシュタインが一般相対性理論を発表してからすぐのことでした。アインシュタインが示した方程式を解いたときに出てくるひとつの答えが、ブラックホールだったのです(ちなみに、シュヴァルツシルトは16歳で天体力学について論文を出版し、20代で名門ゲッティンゲン大学の教授になったというすごい人ですこのブラックホールの難しい計算も、実は第一次世界大戦の前線で従軍中に成し遂げたのでした。しかし惜しくもその1年後には前線で病気にかかり、亡くなってしまいました)。
シュヴァルツシルトは、極端に小さくて極端に質量の重い天体を考えて、一般相対性理論の方程式に当てはめました。すると、光の速度でも脱出できないという解が出ます。しかしアインシュタイン自身は、シュヴァルツシルトが自分の方程式を解いてくれたことは喜んだものの、現実にブラックホールが存在するとは信じていませんでした。
その後、インド出身の物理学者スプラマニアン・チャンドラセカールが、ブラックホールの実在を予言する発見をします。それまで星の一生はすべて第二章で出てきた白色矮星で終わると考えられていましたが、チャンドラセカールは白色矮星がある値以上は大きくなれないことを発見し、重い星はブラックホールになるはずだと予想したのです。
これは、彼の師匠にあたる学者とのあいだで大論争になりました。イギリスの天文学者アーサー・エディントンです。
このエディントンは、アインシュタインの一般相対性理論が正しいことを裏づける観測をしたことで有名な人物です。(中略)
エディントンが公式の場でチャンドラセカールの発見を笑いものにしたので、チャンドラセカールはイギリスを去らなくてはなりませんでした。
しかし、間違っていたのはチャンドラセカールではなく、エディントンでした。やがて世界中の学者たちが、チャンドラセカールの理論を受け入れるようになったのです。
【『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』村山斉〈むらやま・ひとし〉(集英社インターナショナル、2012年)】
集英社インターナショナルの「知のトレッキング叢書」というシリーズの第一弾。実際の内容はハイキングレベルである。むしろ「知の一歩」と名づけるべきだろう。B6判で新書よりも横幅がある変わったサイズである。価格が安いのは薄いため。
村山斉は5冊ばかり読んだが今のところ外れがない。読みやすい文章で最新の宇宙情報を届けてくれる。諜報(インテリジェンス)の世界では情報に対価を支払うのは当然であり、等価交換の原則が成り立つ。その意味からも私は書籍に優る情報はないと考えている。
天才科学者ですら老いて判断を誤る。況(いわん)や凡人においてをや。世代交代の時に新旧の確執が生じるのはどの世界も一緒であろう。老境に入りつつある私も自戒せねばならない。
相対性理論が面白いのは発見者の思惑を超えて宇宙の真理を示した点にある。アインシュタインは静的宇宙を絶対的に信じていたが実際は膨張していた。それも凄まじい速度で。科学的真理はどこまでいっても部分観に過ぎない。それでも尚、広大な宇宙の新たな事実が判明するたびに心を躍らせるのは私一人ではあるまい。
科学の世界ですら古い巨人が後進の行く手を遮(さえぎ)るのであるから、政治の世界は推して知るべしである。私は57歳だが体力と共に知力・判断力の低下を実感している。政治家や大企業の取締役は55歳以下にするのが望ましい。長幼序ありの伝統に従うなら、老人で参議院を構成すればよい。
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