・『チャイルド44』トム・ロブ・スミス
・『チャイルド44』のノンフィクション版
・『標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録』ジョージ・ジョナス
2周間後、ブハノフスキーはブラコフのために7ページにわたるレポートを書き上げた。レポートのなかでブハノフスキーは、捜査員たちが捜査の拠(よ)りどころとしている仮説を徹底的に批判した。この事件は、性的な人格異常が原因と考えてほぼまちがいない、と彼は断言した。犯人は、他人に苦痛を味わわせることによってのみ性的な満足をおぼえるサディストである。精神医学の文献にも、ナイフや針を使って他人に浅い傷を負わせることに快感を見いだすサディストの例が載っている――ブハノフスキーはそうつづけた。
犯人は強い強迫観念に悩まされている。犯人の胸に殺人の衝動がいったん生じたら、ちょうど飢えた人間が食べ物を食べずにはいられず、渇きに苦しむ人間が水を飲まずにはいられないように、だれかを殺さずにはいられなくなるのだ。犯人は獲物を見つけ出すために計画を練り、そしてその計画に従って行動することができる。たとえそれが、いかに複雑で微妙な計画であっても。しかし、殺人によって開放感を得た場合をのぞき、犯人は鬱屈と苛立ちに悩まされる。頭痛や不眠症にも苦しんでいるかもしれない。月の満ち欠けや天候といった周期的な事象が、犯人の殺人衝動の引き金となっている可能性もある。
【『子供たちは森に消えた』ロバート・カレン:広瀬順弘〈ひろせ・まさひろ〉訳(早川書房、1993年/ハヤカワ文庫、2009年)以下同】
読書は次のタイプに分かれる。1.読みたい本、2.資料、3.参考書、4.類書である。テーマを決め、腰を据えて20~30冊ほど読み込めばどんな分野でも輪郭程度はつかめる。ま、ハズレをつかむことも多いのだが、修行を積むとハズレの見極めが早くなる。このようにして読書の枝は分かれ、2~4の本を読むことが増えるわけだが、決して楽しい読書体験とはいえない。それでも珠玉のような一冊と巡り合うためには長い道のりを歩くことが必要なのだ。
本書は類書である。『チャイルド44』に描かれた事件のノンフィクションである。1978年から1990年にかけて52人もの人々を殺害した連続殺人犯を追う物語だ。
文章は硬質で飾り気がなく、骨太のノンフィクションとなっている。何となくジョージ・ジョナス著『標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録』と作風が似ている。
猟奇殺人を犯すサイコキラーを理解しようとすれば精神の平衡を失う。異常な事実を見極めればいいのであって、そこから先へ進んでしまうと自分も闇に飲み込まれてしまう。犯罪をおかさずに済んだ可能性も考慮する必要はない。なぜなら犯行は本人が選択した結果なのだから。
かつて進歩的文化人が礼賛したソ連の実態が見事に描かれているので教科書本とした。社会主義は進歩ではなく退化であることがよくわかる。いまだに赤い旗を掲げている人々の気が知れない。
「おれが? 証言台に立たせろ! 弁護士を呼べ!」チカチーロはアクブジャノフの説明を聞くと絶叫した。「おれは何も告白しなかったぞ! 死体があるんなら見せてみろ!」と、チカチーロは檻の鉄棒に頭を押しつけて叫んだが、兵士たちにまた地下に連れていかれた。
傍聴席では血の復讐を求める声が渦巻いた。「あいつを犬っころのように切り裂いておくれ」と、アレクセイ・ホボトフの母リージャ・ホボトヴァが言った。「うちの息子のように、これ以上ないというくらい恐ろしい死に方をすればいいんだ」
「この手であいつをバラバラにさせて!」と、別の女性が叫んだ。
この件(くだり)は動画があるので一番下に貼り付けておく。銃殺では死者が浮かばれないことだろう。
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