2019-06-26

『チャイルド44』のノンフィクション版/『子供たちは森に消えた』ロバート・カレン


『チャイルド44』トム・ロブ・スミス

 ・『チャイルド44』のノンフィクション版

『標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録』ジョージ・ジョナス

 2周間後、ブハノフスキーはブラコフのために7ページにわたるレポートを書き上げた。レポートのなかでブハノフスキーは、捜査員たちが捜査の拠(よ)りどころとしている仮説を徹底的に批判した。この事件は、性的な人格異常が原因と考えてほぼまちがいない、と彼は断言した。犯人は、他人に苦痛を味わわせることによってのみ性的な満足をおぼえるサディストである。精神医学の文献にも、ナイフや針を使って他人に浅い傷を負わせることに快感を見いだすサディストの例が載っている――ブハノフスキーはそうつづけた。
 犯人は強い強迫観念に悩まされている。犯人の胸に殺人の衝動がいったん生じたら、ちょうど飢えた人間が食べ物を食べずにはいられず、渇きに苦しむ人間が水を飲まずにはいられないように、だれかを殺さずにはいられなくなるのだ。犯人は獲物を見つけ出すために計画を練り、そしてその計画に従って行動することができる。たとえそれが、いかに複雑で微妙な計画であっても。しかし、殺人によって開放感を得た場合をのぞき、犯人は鬱屈と苛立ちに悩まされる。頭痛や不眠症にも苦しんでいるかもしれない。月の満ち欠けや天候といった周期的な事象が、犯人の殺人衝動の引き金となっている可能性もある。

【『子供たちは森に消えた』ロバート・カレン:広瀬順弘〈ひろせ・まさひろ〉訳(早川書房、1993年/ハヤカワ文庫、2009年)以下同】

 読書は次のタイプに分かれる。1.読みたい本、2.資料、3.参考書、4.類書である。テーマを決め、腰を据えて20~30冊ほど読み込めばどんな分野でも輪郭程度はつかめる。ま、ハズレをつかむことも多いのだが、修行を積むとハズレの見極めが早くなる。このようにして読書の枝は分かれ、2~4の本を読むことが増えるわけだが、決して楽しい読書体験とはいえない。それでも珠玉のような一冊と巡り合うためには長い道のりを歩くことが必要なのだ。

 本書は類書である。『チャイルド44』に描かれた事件のノンフィクションである。1978年から1990年にかけて52人もの人々を殺害した連続殺人犯を追う物語だ。

 文章は硬質で飾り気がなく、骨太のノンフィクションとなっている。何となくジョージ・ジョナス著『標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録』と作風が似ている。

 猟奇殺人を犯すサイコキラーを理解しようとすれば精神の平衡を失う。異常な事実を見極めればいいのであって、そこから先へ進んでしまうと自分も闇に飲み込まれてしまう。犯罪をおかさずに済んだ可能性も考慮する必要はない。なぜなら犯行は本人が選択した結果なのだから。

 かつて進歩的文化人が礼賛したソ連の実態が見事に描かれているので教科書本とした。社会主義は進歩ではなく退化であることがよくわかる。いまだに赤い旗を掲げている人々の気が知れない。

「おれが? 証言台に立たせろ! 弁護士を呼べ!」チカチーロはアクブジャノフの説明を聞くと絶叫した。「おれは何も告白しなかったぞ! 死体があるんなら見せてみろ!」と、チカチーロは檻の鉄棒に頭を押しつけて叫んだが、兵士たちにまた地下に連れていかれた。
 傍聴席では血の復讐を求める声が渦巻いた。「あいつを犬っころのように切り裂いておくれ」と、アレクセイ・ホボトフの母リージャ・ホボトヴァが言った。「うちの息子のように、これ以上ないというくらい恐ろしい死に方をすればいいんだ」
「この手であいつをバラバラにさせて!」と、別の女性が叫んだ。

 この件(くだり)は動画があるので一番下に貼り付けておく。銃殺では死者が浮かばれないことだろう。

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2019-06-25

倒れた人を起こす方法


 前々回のサイクリングで家を出た直後に尻餅をついているオジイサンを見掛けた。直ぐに自転車を降りて声を掛けた。「大丈夫ですか? 起き上がれます?」と。ジイサンは「すみませんが手を貸してもらえますか」と答えた。「助けて下さい」と言わないところがさすがである。

 年寄りを立たせることは私にとって赤子の手をひねるようなものだ。「ハイ、じゃあ力を抜いて下さい。上半身を少し前屈みにして、腕を胸の前で組んで下さい」。で、一瞬にして立たせた。この時、直ぐに手を離してはいけない。目眩(めまい)でまた倒れる可能性があるためだ。きちんと立てたら打撲と骨折の確認をする。手・肘・尾骨・背骨に痛みや傷があるかどうか。特に高齢者の場合、頭を打っているかどうかを厳密に調べる必要がある。打撲による脳血管障害があった場合、症状が数日後に現れるケースがあるためだ。

 起こし方については必ず覚えておくこと。家族がいる人は実際にやってもらいたい。少し想像力を働かせればわかることだが、災害や、線路・道路などでの人命救助でこれを知っているのと知らないのとでは天地雲泥の差が出る。


 私が更に詳しい解説をして進ぜよう。相手の腕を握るのではなく、中指・薬指・小指の3本を第2関節で曲げて引っ掛けるようにして持ち上げるのが正しい(※動画の腕の位置はよくない。相手の手首と肘の間に指を引っ掛ける)。人差し指は不要だ。自分の腕には力を入れない。持ち上げる腕に力を入れれば相手の体もそれに応じて緊張してしまう。そして体を相手の背中にぴったり密着させ、一度後ろ側に揺すってから真っ直ぐに自分の腰を上げる。この時、特に非力な女性にありがちなのだが、絶対に上半身を前に倒してはならない。前屈みから垂直方向の動きが腰痛をもたらすからだ。感覚としてはスクワットと全く同じで踵(かかと)はしっかりと地面につける。

 何かあってからオロオロするよりも、普段から有事に備えて準備をしておくことが大切だ。他にも色々な方法はあるのだが一番汎用性の高いやり方を紹介した。

2019-06-24

国民に納税しろと命じるずうずうしい日本国憲法/『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ


 ・笑い飛ばす知性
 ・時は金なり
 ・国民に納税しろと命じるずうずうしい日本国憲法

『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎
『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル
『パーキンソンの法則 部下には読ませられぬ本』C・N・パーキンソン
『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

必読書リスト その三

 日本の憲法には「納税は国民の義務」という条文がありまして、例によってお上に従うのが大好きな日本人は、これをありがたく遵守しています。一方、アメリカ合衆国憲法には「議会は税を課し徴収することができる」としかありません。
 欧米諸国において憲法とは、国民の権利と国家の義務を規定したものなのです。日本はまるっきり逆。国民に納税しろと命じるずうずうしい憲法は世界的に見てもまれな例です。
 スペインの憲法には「納税の義務」が記されていますが、税は平等であるべしとか、財産を没収するようなものであってはならぬなど、国家に対する義務も併記されています。日本では納税しないと憲法違反となじられますが、役人が税金を湯水のごとくムダ遣いしても憲法違反にはならず、はなはだ不公平です。
 一方的に国民に納税を要求する取り立て屋のような憲法があるのは、日本・韓国・中国くらいものですから、こんな恥ずかしい憲法はもう、即刻改正しなければいけません。

【『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ(イースト・プレス、2004年/ちくま文庫、2007年)以下同】

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 憲法改正といえば9条を巡る議論となりがちだが、こうした角度を変えた視点が新たな問題意識を与えてくれる。日本が源泉徴収制度を採用したのは戦前のこと。確かナチス・ドイツが最初で日本がそれに続いた。ドイツは敗戦によって源泉徴収をやめたが日本は維持し続けた。時折、「世界最古の源泉徴収制度国家」と書いてある本があるのはこのためだ。

 源泉徴収は本来であれば納税者と税務署が行う仕事を事業者に押しつける暴挙で、税務署の負担を減らし、納税者から納税意識を奪う。むしろそれが目的なのであろう。

 日本の租税負担率(所得税+国税+地方税+消費税+社会保障費)は42.5%(平成30年/2018年)である。財務省はこれを知らせたくないようで定期的にURLを変えている。

平成30年度の国民負担率を公表します : 財務省
負担率に関する資料 : 財務省


国民負担率(対国民所得比)の国際比較(OECD加盟35カ国)

「国民負担率の内訳の国際比較」は単純にそのまま比較するわけにはいかない。なぜなら法人税の違いがわからないからだ(主要税目の税収(一般会計分)の推移)。

 2015年で赤字法人の比率は64.3%である(梶原一義)。厳密には赤字でも法人税を支払うケースはある(三井啓介)が、実際には節税を目的とした赤字化が多い。

「一番うれしいのは納税できること。社長になってから国内では税金を払っていなかった」(2014年3月期の決算発表)――豊田章男社長の衝撃的な発言を覚えているだろうか? トヨタは2009年から2013年までの5年間にわたって法人税を支払ってこなかった(『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎)。メガバンク3行は10年以上法人税を収めてなかった。「諸々の制度の活用により、大企業の税負担率は、名目上の税率よりも実際には低いものとなっている」(村井隆紘)。

 一方、源泉徴収されるサラリーマンの場合、見なし経費として給与所得控除が設けられている(No.1410 給与所得控除|所得税|国税庁)。改正された特定支出控除はそれほど旨味がある制度ではない(宮塚達夫)。税法上は収入-必要経費=所得となるが、サラリーマンの場合、一律の給与所得控除が悪平等になってしまうケースもある。

 チンパンジーの世界でも「所有と分配の両方が行なわれている」(『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール)。最後は全員に餌が行き渡るというのだから我々はチンパンジー以下かもしれない。

 かつてこう書いた。「もしも完璧な政府が生まれ、完璧な税制を行えば、支払った税金は100%戻ってくるはずだ。否、乗数効果を踏まえれば増えて戻ってくるのが当然である」(借金人間(ホモ・デビトル)の誕生/『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート)。平均以下の収入の人々には該当すると思うがどうか?

 元々たばこ税は印紙税として始まり、日清・日露戦争の戦費調達を目的に対象を広げた歴史がある(Wikipedia)。戦争と税金には切っても切れない縁がある。

 要はこうだ。国民は「欲しがりません勝つまでは」と酷税に耐える。で、戦争に勝てば国家は富み栄えて国民に恩恵を施す。じゃあ負けたらどうなるんだ? その時は民主政あるいはGHQによって政府がすげ替えられる。それでもかつての日本が高度経済成長を遂げたのはアメリカの戦争に便乗したためだ。

 鎌倉幕府は二度にわたる蒙古襲来(元寇)を斥けたが、借金をして馳せ参じた武士に恩賞を施すことができず、苦肉の策として徳政令(永仁5年/1297年)という借金棒引き政策を行ったが結局失敗して滅んだ。延(ひ)いては徳政令を求める土一揆が多発し遂には応仁の乱に至るのである。政治の根幹が経済と戦争であることが理解できよう。

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2019-06-23

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2019-06-20

マネーによる民主政/『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー


『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳、グループ現代

 ・マネーによる民主政

・『今だからこそ、知りたい「仮想通貨」の真実』渡邉哲也
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ

 新しいタイプの通貨を創るなどという考えは、多くの人には奇異で無意味な企てに思えるだろう。現代に生きるほとんどの人は当たり前のように、通貨とは各国が発行する紙幣や硬化だと思っている。通貨を発行する権限こそ、国家の有するもっとも重要な力の一つであり、それはバチカン市国やミクロネシアなどの小国であっても変わらない。
 しかし、これは比較的新しい現象なのだ。アメリカも南北戦争までは流通している貨幣の多くは民間銀行が発行したものであり、多種多様な貨幣が混在していた。そして発行元の銀行が倒産すれば紙屑になった。当時は多くの国が、他国が発行した硬貨を使っていた。
 金(きん)、貝殻、石片、桑白皮(ソウハクヒ)など、人類が飽くことなく通貨のよりよい形態を探すなかでは、こうした状況が長いあいだ続いてきた。
 通貨のよりよい形態を探すことは、身のまわりのモノの価値を測るための、より信頼性の高い、そして統一的方法を見つけることである。材木1本、1日分の大工仕事、森を描いた絵画など、さまざまなモノの価値を信頼性のあるかたちで比較できる単一の指標である。社会学者ナイジェル・ドッドの言葉を借りれば、よい通貨とは「さまざまなモノの質的違いを量的違いに転換し、交換できるようにするもの」だ。
 サイファーバンクのめざす通貨は、通貨のもつ標準化という特徴をとことん追求し、どこでも使える普遍的なものった。国境を越えるたびに両替しなければならないなどの制約の多い国ごとの通貨とは違う。

【『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー:土方奈美〈ひじかた・なみ〉訳(日本経済新聞出版社、2016年)以下同】

 読んで直ぐ必読書に入れた。しばらくして外した。ビットコインの理念は崇高なものだが現在の金融システムを支配している連中が黙って見過ごすわけがない。実際に私は本書を読んで仮想通貨を購入し、更に渡邊本を読んでから売却した。直後に私が利用していた取引所のZaifで不正アクセスによる70億円の不正出金が発覚した。

 大衆消費社会では神を信じる人も神を信じないも、お金の価値だけはしっかりと信じている。マネーこそは現代の神であり誰もが疑うことのない常識だ。ところが我々は財布の中の紙幣や硬貨がどのような仕組みで生まれているかを知らない。金融機関に勤めている人でも信用創造を理解する人は稀だ。

 1971年8月15日のニクソン・ショックによってブレトン・ウッズ体制は崩壊した。兌換(だかん)紙幣の終焉はマネーの仮想化を意味する。金(ゴールド)の裏づけを失った紙切れを信用の名の下で交換する行為はまさに宗教的である。

 エリックがビットコインの世界に飛びこんだ理由はカネであってカネではなかった。フェイスブックの投稿でビットコインの存在を知った直後から、その価値が天文学的ペースで成長するだろうと予測できた。しかしそうした成長は、ビットコインの複雑なソースコードによって、ウォール街の金融機関や各国政府など既存の権力構造が覆(くつがえ)された結果、実現するものだとずっと信じていた。インターネットが郵便制度やメディ業界にもたらした変化が、金融世界でも起きると思っていた。ビットコインが成長すれば金持ちになれるだけでなく、政府が勝手に戦争にカネを出すようなまねはできなくなり、個人が自分のおカネと運命を管理できる、もっと正しく平和な社会が実現するのだと見ていた。

 つまりビットコインの理念はマネーによる民主政といってよい。インターネットは距離と時間の革命であった。通貨を管理するのは国家であり、国内で使用すれば税が課され、外国と取引すれば為替レートに振り回され、更に両替手数料が発生する。第二次世界大戦以降は米ドルが基軸通貨となっておりオイルや兵器の支払いは米ドルで行われれる。サダム・フセインは原油のユーロ決済を認めたことで殺された。

「お金とは何か?」を我々は教えられてこなかった。税についても同様である。日本国憲法では納税が国民の義務と規定されているが、政府や官僚には何の義務も課されておらず血税を湯水の如く無駄遣いする温床となっている。

 アメリカの金融とメディアを牛耳っているのはユダヤ資本である。アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備銀行)は日銀などとは異なり完全な民間会社である。アメリカ政府は一株も持っていない。FRBがドルを印刷して米国債を購入する。FRBは紙と印刷代だけで国債の利息を手に入れるのである。つまり発行されるドルはそのまま米国民の債務となる。銀行券ではなく債券証書なのだ。

 大統領のリンカーンやケネディは政府による通貨発行を企てて暗殺された。とすればビットコインがどれほど優れた技術に裏づけられたとしてもドル基軸体制を揺るがすことは考えにくい。

 正真正銘の良書である。ただし仮想通貨には手を出すな。

デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語
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