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2019-06-24

国民に納税しろと命じるずうずうしい日本国憲法/『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ


 ・笑い飛ばす知性
 ・時は金なり
 ・国民に納税しろと命じるずうずうしい日本国憲法

『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎
『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル
『パーキンソンの法則 部下には読ませられぬ本』C・N・パーキンソン
『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

必読書リスト その三

 日本の憲法には「納税は国民の義務」という条文がありまして、例によってお上に従うのが大好きな日本人は、これをありがたく遵守しています。一方、アメリカ合衆国憲法には「議会は税を課し徴収することができる」としかありません。
 欧米諸国において憲法とは、国民の権利と国家の義務を規定したものなのです。日本はまるっきり逆。国民に納税しろと命じるずうずうしい憲法は世界的に見てもまれな例です。
 スペインの憲法には「納税の義務」が記されていますが、税は平等であるべしとか、財産を没収するようなものであってはならぬなど、国家に対する義務も併記されています。日本では納税しないと憲法違反となじられますが、役人が税金を湯水のごとくムダ遣いしても憲法違反にはならず、はなはだ不公平です。
 一方的に国民に納税を要求する取り立て屋のような憲法があるのは、日本・韓国・中国くらいものですから、こんな恥ずかしい憲法はもう、即刻改正しなければいけません。

【『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ(イースト・プレス、2004年/ちくま文庫、2007年)以下同】

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 憲法改正といえば9条を巡る議論となりがちだが、こうした角度を変えた視点が新たな問題意識を与えてくれる。日本が源泉徴収制度を採用したのは戦前のこと。確かナチス・ドイツが最初で日本がそれに続いた。ドイツは敗戦によって源泉徴収をやめたが日本は維持し続けた。時折、「世界最古の源泉徴収制度国家」と書いてある本があるのはこのためだ。

 源泉徴収は本来であれば納税者と税務署が行う仕事を事業者に押しつける暴挙で、税務署の負担を減らし、納税者から納税意識を奪う。むしろそれが目的なのであろう。

 日本の租税負担率(所得税+国税+地方税+消費税+社会保障費)は42.5%(平成30年/2018年)である。財務省はこれを知らせたくないようで定期的にURLを変えている。

平成30年度の国民負担率を公表します : 財務省
負担率に関する資料 : 財務省


国民負担率(対国民所得比)の国際比較(OECD加盟35カ国)

「国民負担率の内訳の国際比較」は単純にそのまま比較するわけにはいかない。なぜなら法人税の違いがわからないからだ(主要税目の税収(一般会計分)の推移)。

 2015年で赤字法人の比率は64.3%である(梶原一義)。厳密には赤字でも法人税を支払うケースはある(三井啓介)が、実際には節税を目的とした赤字化が多い。

「一番うれしいのは納税できること。社長になってから国内では税金を払っていなかった」(2014年3月期の決算発表)――豊田章男社長の衝撃的な発言を覚えているだろうか? トヨタは2009年から2013年までの5年間にわたって法人税を支払ってこなかった(『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎)。メガバンク3行は10年以上法人税を収めてなかった。「諸々の制度の活用により、大企業の税負担率は、名目上の税率よりも実際には低いものとなっている」(村井隆紘)。

 一方、源泉徴収されるサラリーマンの場合、見なし経費として給与所得控除が設けられている(No.1410 給与所得控除|所得税|国税庁)。改正された特定支出控除はそれほど旨味がある制度ではない(宮塚達夫)。税法上は収入-必要経費=所得となるが、サラリーマンの場合、一律の給与所得控除が悪平等になってしまうケースもある。

 チンパンジーの世界でも「所有と分配の両方が行なわれている」(『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール)。最後は全員に餌が行き渡るというのだから我々はチンパンジー以下かもしれない。

 かつてこう書いた。「もしも完璧な政府が生まれ、完璧な税制を行えば、支払った税金は100%戻ってくるはずだ。否、乗数効果を踏まえれば増えて戻ってくるのが当然である」(借金人間(ホモ・デビトル)の誕生/『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート)。平均以下の収入の人々には該当すると思うがどうか?

 元々たばこ税は印紙税として始まり、日清・日露戦争の戦費調達を目的に対象を広げた歴史がある(Wikipedia)。戦争と税金には切っても切れない縁がある。

 要はこうだ。国民は「欲しがりません勝つまでは」と酷税に耐える。で、戦争に勝てば国家は富み栄えて国民に恩恵を施す。じゃあ負けたらどうなるんだ? その時は民主政あるいはGHQによって政府がすげ替えられる。それでもかつての日本が高度経済成長を遂げたのはアメリカの戦争に便乗したためだ。

 鎌倉幕府は二度にわたる蒙古襲来(元寇)を斥けたが、借金をして馳せ参じた武士に恩賞を施すことができず、苦肉の策として徳政令(永仁5年/1297年)という借金棒引き政策を行ったが結局失敗して滅んだ。延(ひ)いては徳政令を求める土一揆が多発し遂には応仁の乱に至るのである。政治の根幹が経済と戦争であることが理解できよう。



税を下げて衰亡した国はない/『税高くして民滅び、国亡ぶ』渡部昇一

2009-04-27

時は金なり/『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ


 ・笑い飛ばす知性
 ・時は金なり
 ・

『働かない 「怠けもの」と呼ばれた人たち』トム・ルッツ
『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル
『パーキンソンの法則 部下には読ませられぬ本』C・N・パーキンソン
『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

必読書リスト その三

 インチキイタリア人(※翻訳者も見当たらないので多分、本当は日本人)と思われるパオロ・マッツァリーノだが、卓越した諧謔(かいぎゃく)を支えているのは広範な知識である。例えばこう――

 14世紀、ルネサンス期になると、アルベルティーなる人物が「時は金なり」というキャッチフレーズコピーを使い始めます(ただし「時は金なり」を本格的に広めたのは、元祖ベストセラービジネス書ライターでもあった、18世紀アメリカのフランクリンです)。神の所有物であった時間を、人間が労働のために売り買いするようになったのです。労働者が時間で管理されるようになりました。ルネサンスというのは、人間性の尊重、個性の解放などを目指した文化の革新運動だったはずです。でも、尊重・解放されたのは金持ちだけで、貧乏人は皮肉なことに、一層キビシク管理されるようになったのです。

【『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ(イースト・プレス、2004年/ちくま文庫、2007年)以下同】

 一般的に「時は金なり」はフランクリンの言葉として知られている。「くろご式 ことわざ辞典」でもそのように紹介している。こういった細かいところに目が行き届いているから、パオロ・マッツァリーノは侮ることができない。

 で、「くろご式」にはフランクリンのテキストが掲載されている――

 時は金なりということを忘れてはならない。自らの労働により1日10シリングを稼げる者が、半日出歩いたり、何もせず怠(なま)けていたりしたら、その気晴らしや怠惰に6ペンスしか使わなかったとしても、それだけが唯一の出費と考えるべきではない。彼はさらに5シリングを使った、というよりむしろ捨てたのである。

337 時は金なり

「時は金なり」って時給のことだったんだね。この辺りの労働文化史については、トム・ルッツ著『働かない 「怠けもの」と呼ばれた人たち』(青土社、2006年)が詳しい。

 ベンジャミン・フランクリンが生きたのは、ちょうどイギリスで産業革命が起こった時代である。それまでは農業を営んでいた人々が、大量生産の担い手として新たな労働力となった。つまり、ここから「人生の切り売り」が始まったというわけだ。そして労働は、機械の一部となることを意味するようになった。上級奴隷――これは言い過ぎか。

 でも、現代にしたって、労働そのもので自己実現を可能にできる人は一握りしか存在しないことだろう。とすると、労働には人それぞれに何らかの強制力が働いていると考えられる。働く行為そのものが幸福感に包まれていなければ、「何かのために」働いていることになる。最も多い理由は「食うため」だろう。ほら、やっぱり上級奴隷だ。もちろん私だってそうだ。胸を張って答えるよ。

 人生の半分以上の時間を占める労働が、こんな状態でいいはずがない。一体全体、「自分の人生」はどこへ行ってしまったのだろう? 明日からでも探しに行こうと思う。「時は金なり」なんてえのあ、資本家を利するための虚言であろう。

2008-08-28

残酷なまでのユーモアで階層社会の成れの果てを描く/『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル


『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ

 ・残酷なまでのユーモアで階層社会の成れの果てを描く

『パーキンソンの法則 部下には読ませられぬ本』C・N・パーキンソン
『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

必読書リスト その三

 階層社会におけるエントロピー増大の法則といった内容。教育学博士であるローレンス・J・ピーターが編み出した法則とは以下のもの――

 階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能のレベルに到達する。

【『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル:渡辺伸也訳(ダイヤモンド社、2003年、新装版、2018年)以下同】

 やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる。

 仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行なわれている。

 管理職が無能な理由が明快に解き明かされている。人間には無限の可能性が秘められているが、不特定多数の人々は人間には限界があることを雄弁に物語っている(笑)。文章にするとピーターの法則は、悪い冗談のように思えるが、極めて数学的な概念である。社長や代表取締役までの段階は数える程度しかないものの、サラリーマンにとっては無限に続く階段のようなものだろう。

 この世に生を享けた以上、人は必ず老いる。太陽も必ず沈む。その意味でローレンス・J・ピーターが奨励する“創造的無能”は、太陽を正午の時間で止めてしまうような無謀さを露呈している。しかしながらその本意は、欲望に任せて昇進を遂げるよりは、自分の才能を発揮しながら楽しい人生を歩むよう促しているのだろう。

 パオロ・マッツァリーノ著『反社会学講座』と併せて読めば、社会学の天才になれるかもよ。

2008-07-26

笑い飛ばす知性/『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ


 ・笑い飛ばす知性
 ・時は金なり

『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル
『パーキンソンの法則 部下には読ませられぬ本』C・N・パーキンソン
『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

必読書リスト その三

 既に10冊ほど読み終えているのだが、如何せん書評にする作業が進まない。その間にも記憶は蜘蛛の糸のように細く、はかなく揺らめいている。あっ、今何本かが消えた(笑)。

 インチキイタリア人と思われるパオロ・マッツァリーノである。インチキというのは「なりすまし」の意。名前からしてこうなんだから、内容は推して知るべし。ブラックジョークを基調にしながらも、「知力」というスパイスを効かせている。常識のデタラメを突く槍の切っ先は鋭い。しかし、傷口から流れ出るのは、血ではなく笑いである。全くもってお見事。中学あたりの教科書に採用して、「笑い飛ばす知性」を身につけさせるべきだと思う。

 昭和50年代の後半には校内暴力の増加が社会問題としてクローズアップされていました。横浜銀蝿が人気を博し、ツッパリがブームになったのも、この頃でした。それまでは、教師が生徒を殴るのが普通だったのが、ここから立場が逆転し始めたのです。
 青少年の反抗がブームや流行というのもおかしな話ですが、60年代の学生運動だって、大部分の若者にとっては一時の熱に浮かされたブームだったのです。その証拠に、学生運動家もツッパリもほとんどが、ブームの終焉とともに平凡なサラリーマンになっているのです。
 不思議なことに、こういった、ファッションで反抗を試みていた人たちというのは、就職すると見事なまでに体制に順応します。企業が社員に課す、人権侵害も甚だしい研修、軍隊式特訓、カルト宗教もどきの苦行を、嬉々としてやるのですから。

【『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ(イースト・プレス、2004年/ちくま文庫、2007年)以下同】

 全学連共闘世代も、卒業すると大手企業に就職した。日本で思想を堅持するのは、かようなほど難しい。ひょっとすると、転向が好きな民族なのかも知れない。

 いまから2000年前ちょっとのこと、ベツレヘムの地に男の子が生まれました。彼は29歳まで両親の家に住み、たまに父親の大工仕事を手伝うくらいで、ぶらぶらしていました。30歳でようやく家を出て本格的な布教活動に精を出しますが、わずか2年ほどで、生涯独身のまま死刑にされてしまいました。
 このように成人後も親と同居する独身者を、近年の日本では「パラサイトシングル」と呼んでいます。ですからイエス・キリストは世界初――かどうかはともかく、世界一有名なパラサイトシングルであることは確かです。なにしろ全世界で20億人の信者から愛されているのですから。
 布教活動で有名になったものの、故郷ではイエスの評判は芳しくなかったと伝わっていますが、それはたぶん、故郷の人たちは彼がパラサイトシングルでフリーターだったことを知っていたからでしょう。

 イエスがフリーターだとは知らなかったよ。この件(くだり)は、フリーターなんぞは昔から存在したことを証明した箇所。この後、文明開化した明治期、米国では既に奴隷が解放されており、これをモデルにした日本が「勤勉さが美徳」であることを国民に叩き込み、富国強兵政策が国民から財産を収奪したことが指摘されている。

 パオロ・マッツァリーノの言葉に対する感覚の鋭さも見逃せない。

「いいかげん」が否定的に使われるようになったのは明治以降、「適当」が否定的な意味を持ったのは戦後になってからです。

 昨今、問題になっている派遣労働者の社会的地位の低さをヨーロッパと比較して炙(あぶ)り出している。

 フランスには、いわゆる日本式のアルバイト・パートという労働形態そのものがありません。JETRO(日本貿易振興会)パリセンターのレポートです。

 仏で「パートタイム労働」と言った場合、純粋に契約労働時間が他の社員より短いというだけの意味で、原則として「正社員(CDI)」は「期間限定社員(CDO)」である……したがって、仏ではマクドナルドにいる労働者もスーパーのレジ打ちも全て正社員なのである……たとえ1日の契約であっても社会保障・労働保険加入は必須であり、社会保障に入らない雇用(すなわち「闇労働」ということになるが)など考えられない。

 日本だって本当は、週五日フルに働いているフリーターやパートなら、社会保険や雇用保険に加入できるはずなんです。加入の基準があいまいなので、ほとんどの会社がしらばっくれているだけです。

 年金問題についても卓見が示されている。

(1億円以上の資産を持っている人に年金は支払わないという著者の私案に対して)また、こういう反論もあるはずです。「真面目に働いて老後の資金を貯めておいた者が年金をもらえず、老後の資金も貯めてないような遊び人がもらえるのは不公平じゃないか」。これは二通りの意味で間違っています。
 まずひとつには、真面目に努力をしたからといって、成功するとはかぎらないということです。中根千枝さんがかの有名な『タテ社会の人間関係』で書いているように、日本には、人の能力は平等で、努力によって結果が決まるという考えが根強く残っています。だから、貧乏なのは努力が足らないからだ、なんて暴論・結果論がまかり通ってしまうのです。
 現実には、どんなに真面目に努力しても、自力で老後の資金を1億円も貯められない人がほとんどであり、だからこそ救済措置として年金制度があるのです。65歳時点で1億円の資産を持っている人は、人生の勝ち組です。勝ち組になった人には、社会に貢献・奉仕する義務があるんです。会社案内のパンフレットに「当社は広く社会に貢献し……」なんて企業理念を書いておきながら、自分だけは勝ち逃げしようなんてのは許されませんよ、社長さん。
 もう一つの理由。現在日本が不景気なのは、個人消費が冷え込んでいるせいだと前回いいました。遊び暮らしていた人は、積極的な消費活動を行って日本経済を破綻から救っていたのです。もちろん、年金保険料だけはきちんと納めることが絶対条件ですが、それ以外の収入はすべて使いきって65歳時点でスッカラカンになっている人にこそ、その功績をたたえて年金をあげるべきなのです。

 近頃はメディアでも、「虐げられた側からの感情論」が目立っているが、経済の基本を押さえた上で、所得の再分配を促している。

 まだ、笑いながらこの本を読めるうちは恵まれた状況といえる。例えば数年後、あるいは数ヶ月後に「笑えない状況」が訪れたとしよう。ストレスまみれとなった一部の国民はあっさりと犯罪に手を染め、テロ行為に及ぶかも知れない。その時、真っ先に犠牲になるのは、社会保険庁の職員や、派遣労働者から利益を搾り取る資本家であろう。メディア関係者も危険でしょーな。政治家もお気をつけあそばせ。

 そうならないためにも、この本から学んでおくことは多い。笑っているだけじゃダメだよ(笑)。