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2020-02-18

「自由・平等・博愛」はフリーメイソンのスローガン/『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳、グループ現代


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦
『平成経済20年史』紺谷典子
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎

 ・貨幣経済が環境を破壊する
 ・紙幣とは何か?
 ・「自由・平等・博愛」はフリーメイソンのスローガン
 ・ミヒャエル・エンデの社会主義的傾向
 ・世界金融システムが貧しい国から富を奪う
 ・利子、配当は富裕層に集中する

・『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎
・『無税国家のつくり方 税金を払う奴はバカ!2』大村大次郎
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー

必読書リスト その二

 フランス革命のスローガンである『自由・平等・博愛』は革命前からある言葉で、もとはフリーメーソンのスローガンにほかなりません。

【『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代(NHK出版、2000年/講談社+α文庫、2011年)】

 悪夢の民主党政権で鳩山由紀夫首相は「友愛」を掲げた。祖父の鳩山一郎はフリーメイソンのメンバーだった(Wikipedia)。「フリーメイソンは、中世ヨーロッパの石工職人組合を祖にして生まれた秘密結社だが、その後、政財界や知識階級などのエリート達が集う、世界的な巨大組織に発展した」(ユダヤ=フリーメイソン説)。このくらいは大勢の人が知っていることだろう。

 フリーメイソンと陰謀がセットになっているのはその影響力の大きさによる。アメリカ合衆国大統領はジョージ・ワシントンを始めとする14人が会員だった。日本に縁のある人物だと黒船のマシュー・ペリーやダグラス・マッカーサーもフリーメイソンである。音楽界だとモーツァルト、バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーンなど。ボーイスカウトやロータリークラブ、ライオンズクラブなども派生団体である。

 プロビデンスの目や原型であるホルスの目などを調べてゆくと、キリスト教が古代宗教の寄せ集めであることまで見えてくる。


【ホルスの左目】プロビデンスの目とは?由来と解説、さらに企業ロゴや身の回りに隠されているものをまとめてご紹介【万物を見通す目】 – Gossip Repository

 かつてのフリーメイソンから宗教色を取り除いたのはフランス大東社で、石工(いしく)の職人団体から知識人の友愛団体へと変貌を遂げた。実は歴史の潮流がここから変わるのだ。ピーター・F・ドラッカーが唱えた「知識社会」の源流を見出すこともできよう(ドラッカーの父親はフリーメイソンのグランド・マスターだった:『傍観者の時代』)。

 つまりだ、友愛団体となったフリーメイソンは超国家組織となって潰されたテンプル騎士団の生まれ変わりなのだろう。彼らは科学革命を背景に理神論を唱え、啓蒙思想を牽引し、フランス革命で近代の扉を大きく開いた。ナポレオン・ボナパルトもフリーメイソンの会員だった。

 国民国家となったフランスでユダヤ人は初めて国民として認められた。プロテスタントとは異なる第三の道が示されたわけだ。

フランス市民革命におけるメイソンとユダヤ人解放令

 フランス市民革命は、アメリカ独立革命の影響が旧大陸に波及したものである。ユダヤ人にとっては、アメリカにユダヤ人も自由に活動できる「自由の国」ができた後、フランスで市民革命を通じて、ユダヤ人の解放がされることになった。
 フランスでは、早くからロックの思想が摂取され、急進化していた。また、18世紀後半のフランスでは、フリーメイソンが活動していた。絶対王政やカトリック教会を批判した啓蒙主義者、百科全書の編纂者等には、メイソンがいた。また市民革命の指導者には、多くのメイソンがいた。
 フランス啓蒙思想は、イギリス啓蒙思想を源流として発達した。その発達には、フリーメイソンの組織と活動が関係している。
 フランス啓蒙思想の成果の一つが、『百科全書』である。1751年に第1巻が刊行された『百科全書』は、イギリスのチェインバーズ百科事典のフランス語訳を、ドゥニ・ディドロが行ったことを契機とする。チェインバーズ百科事典は、編纂者も版元もフリーメイソンだった。ディドロは不明だが、盟友のジャン・ル・ロン・ダランベールはメイソンだった。百科全書派は、総じてメイソンの影響を強く受けている。

ユダヤ42~フランス市民革命におけるメイソンとユダヤ人解放令 - ほそかわ・かずひこの BLOG

 ぶったまげた。こんなことは岡崎勝世ですら書いていない。近代の本質は「知識とマネー、そしてネットワーク」にあるのだろう。

「自由・平等・博愛」はフランスからカトリック色を漂白するための仕掛けか。この流れはアメリカに受け継がれ「民主政こそ正義」という概念に飛躍する。その後、フランスではドレフュス事件(1894年)が起こるのだがこれまた再考が必要だ。



フリーメイソンの「友愛」は「同志愛」の意/『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘
私の政治哲学 祖父・一郎に学んだ「友愛」という戦いの旗印:鳩山由紀夫
歴史という名の虚実/『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一
ネオコンのルーツはトロツキスト/『「米中激突」の地政学』茂木誠

2015-11-23

歴史という名の虚実/『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一


『逝きし世の面影』渡辺京二
『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織

 ・歴史という名の虚実

『武家の女性』山川菊栄
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
『國破れてマッカーサー』西鋭夫

 私はこの世に歴史はないと思っている。
 電車は通過しても線路の上に存在するが、事象は通過したとたんに消えてなくなる。残るのは、怪しげな書簡と危うい遺跡と心許(こころもと)ない口伝(くでん)だけだ。それもごくわずか、米粒のごときである。国の支配者はそれをいいことに好き放題料理する。虚を実にし、実を虚にして都合よく造っていくのだ。小説家もまたしかりだ。その陽炎(かげろう)にも似た米粒を拾い集めて、自分の歴史などというものを描くのである。

【『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一〈かじ・まさかず〉(祥伝社文庫、2009年/祥伝社、2006年『あやつられた龍馬 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』改題)以下同】

 E・H・カーが「すべての歴史は『現代史』である」とのクローチェの言葉を挙げ、「歴史とは解釈である」と言い切る(『歴史とは何か』1962年)。また「歴史は武器である」(『歴史とはなにか』2001年)という岡田英弘の指摘も見逃せない。つまり「歴史は勝者によって書かれる」(『中国五千年』陳舜臣、1989年)のだ。

 偽勅と偽旗(錦の御旗の偽造)によって成し遂げられた明治維新は薩長なかんずく長州の歴史といってよい。その後「陸の長州、海の薩摩」といわれ日本は戦争へ向かう。

 明治維新を決定づけたのが薩長同盟であり、その立役者が坂本龍馬であった。本書では龍馬暗殺についても驚くべき想像を巡らせている。龍馬を英雄に持ち上げたのは司馬遼太郎であるが、最近の明治維新ものでは極めて評価が低い。「グラバー商会の営業マン」「武器商人」といった見方をされている。余談になるが勝海舟もさほど評価されていない。

「薩摩藩など新政府側はイギリスとの好意的な関係を望み、トーマス・グラバー(グラバー商会)等の武器商人と取引をしていた。また旧幕府はフランスから、奥羽越列藩同盟・会庄同盟はプロイセンから軍事教練や武器供与などの援助を受けていた」(Wikipedia)。苫米地英人は「もっとはっきりいえば、当時の財政破綻状態のイギリスやフランスの事実上のオーナーともいえたイギリスのロスチャイルド家とフランスのロスチャイルド家が、日本に隠然たる影響力を行使するため、薩長勢力と徳川幕府の双方へ資金を供給したと見るべきなのです」(『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』2008年)と指摘する。

「ヨーロッパに銀行大帝国を築いたロスチャイルド家の兄弟の母は、戦争の勃発を恐れた知り合いの夫人に対して『心配にはおよびませんよ。息子たちがお金を出さないかぎり戦争は起こりませんからね』と答えたという」(『嬉遊曲、鳴りやまず 斎藤秀雄の生涯』中丸美繪〈なかまる・よしえ〉、1996年)。戦争の陰にロスチャイルド家あり。

 本書はロスチャイルド家については触れていないが、イギリス諜報部が青写真を描き、フリーメイソンが志士たちをバックアップした様子が描かれる。

 この時代、すなわちボストン茶会事件からフランス革命までの間に、ゲーテが『若きヴェルテルの悩み』でドイツ人のハートをつかみ、ハイドンが「交響曲ハ長調」を発表。イギリスの歴史家ギボンが、かの勇名な『ローマ帝国衰亡史』を著(あらわ)し、モーツァルトが「交響曲39、40、41番」で、ヨーロッパの貴族たちを酔わせている。
 一見、なんの関係もない歴史的事実の羅列のようだが、そこにはある共通した結社が一直線に駆け抜けている。
 フリーメーソンである。
 ボストン茶会事件は、大勢のフリーメーソンが「ロッジ」と呼ばれる彼らの集会場から飛び出して引き起こしたものだし、意外かもしれないが、ゲーテ、ハイドン、ギボン、モーツァルト、彼らはみなまぎれもない、フリーメーソンである。
 アメリカの独立戦争、およびフランス革命。
 世界の二代革命の指導者層には、圧倒的多数のメンバーが座っており、ジョージ・ワシントンはフリーメーソン・メンバーの栄(は)えあるアメリカ初代大統領である。こう述べれば眉に唾を付ける人がいるが、私がフリーメーソンだという裏付は公式文書である。それ以外の人物は断言しない。

 ブログ内検索の都合上「フリーメイソン」と表記する。フランス革命のスローガンである「自由・平等・博愛」は元々フリーメイソンのスローガンであった(『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代、2000年)。

 本書によれば本来の石工組合を実務的メイソン、その後加入してきた知識人たちを思索的メイソンと位置づける。西洋社会を理解するためにはキリスト教と結社の歴史を理解する必要がある。フリーメイソンはキリスト教宗派を超えた結社であったという。となれば当然のようにユダヤ人的国際派志向が窺えよう(『世界を操る支配者の正体』馬渕睦夫、2014年)。キーワードは金融か。

 読み物としては十分堪能できたが、如何せん誤謬がある。本書ではグラバーをフリーメイソンと断定してはいないが、グラバー邸にあるフリーメイソンのマークが刻まれた石柱を傍証として挙げる。ところがこれは後に移設されたものである(Wikipedia)。瑕疵(かし)とするには大きすぎると思う。

2014-12-23

フリーメイソンの「友愛」は「同志愛」の意/『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘


『日本はテロと戦えるか』アルベルト・フジモリ、菅沼光弘:2003年
『この国を支配/管理する者たち 諜報から見た闇の権力』中丸薫、菅沼光弘:2006年
『菅沼レポート・増補版 守るべき日本の国益』菅沼光弘:2009年
『この国のために今二人が絶対伝えたい本当のこと 闇の世界権力との最終バトル【北朝鮮編】』中丸薫、菅沼光弘:2010年
『日本最後のスパイからの遺言』菅沼光弘、須田慎一郎:2010年
『この国の権力中枢を握る者は誰か』菅沼光弘:2011年
『この国の不都合な真実 日本はなぜここまで劣化したのか?』菅沼光弘:2012年
『日本人が知らないではすまない 金王朝の機密情報』菅沼光弘:2012年
『国家非常事態緊急会議』菅沼光弘、ベンジャミン・フルフォード、飛鳥昭雄:2012年

 ・フリーメイソンの「友愛」は「同志愛」の意
 ・日本にとって危険なヒラリー・クリントン

『誰も教えないこの国の歴史の真実』菅沼光弘:2012年
『この世界でいま本当に起きていること』中丸薫、菅沼光弘:2013年
『神国日本VS.ワンワールド支配者』菅沼光弘、ベンジャミン・フルフォード、飛鳥昭雄
『日本を貶めた戦後重大事件の裏側』菅沼光弘:2013年
『この国を呪縛する歴史問題』菅沼光弘:2014年

 それに彼の祖父の鳩山一郎さんがフリーメイソンだったということもあります。フリーメイソンの標語の一つに「友愛」というのがある。それで彼は友愛精神だとか友愛外交だとかやたらに「友愛」と言っていたのです。
 戦後の日本占領を指揮した連合軍最高司令官のマッカーサーはフリーメイソンです。それで鳩山一郎さんは、日本自由党総裁として首班使命を受ける直前に公職追放されたりしたものだから、マッカーサーの歓心を買うためにフリーメイソンに入った。
 ワシントン郊外に「コリングウッド」という有名な建物がある。現在はフリーメイソンの博物館として使われています。その2階がマッカーサーなど著名な軍人のフリーメイソンの展示室になっていて、そこにフリーメイソン日本支部に関する資料があり、その中に占領時代の日米両国の指導者たちの名前が並んでいます。幣原喜重郎〈しではら・きじゅうろう〉や星島二郎などの政治家とともに、ちゃんと鳩山一郎の名前があります。
 1955年の保守合同自由民主党を結成したときに、その綱領の最初に自主憲法の制定を掲げ、それまでの吉田茂内閣の対米従属路線を転換して日ソ国交回復を成し遂げたのは鳩山一郎さんです。
 孫の鳩山由紀夫さんがフリーメイソンかどうか知りませんが、お祖父さん以来のそういう関係があるものだから、アメリカとの強いパイプがあると彼は確信していたのです。
 それでお祖父さん譲りの対米自主路線ということを言ってもうまくいくと考えたのでしょう。アメリカにはフリーメイソンの「友愛の朋」がいる、彼らが助けてくれると。ところがうまくいかなかった。お祖父さんの一郎さんですらうまくいかなかったのですから、そう簡単にいくはずがありません。
 鳩山さんが言っている「友愛」というのは、フリーメイソンが掲げる「フラタニティ」という言葉を訳したものですが、「フラタニティ」というのは本来、フリーメイソンの仲間だけの「同志愛」という意味です。それを一般的な「友愛」という日本語に置き換えて自分のスローガンにしたのです。
 中国の「国父」と呼ばれる孫文もフリーメイソンでした。南京に中山陵という孫文の墓がありますが、そこに「博愛」の文字が刻まれています。これもおそらく「フラタニティ」を日本語訳したもので、誤訳か意訳かわかりませんが、孫文はそれをそのまま自分の思想にしたわけです。

【『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘(徳間書店、2012年)】

「フランス革命のスローガンである『自由・平等・博愛』は革命前からある言葉で、もとはフリーメーソンのスローガン」だった(『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代)。フリーメイソンについては以下のページが詳しい。

フリーメーソンの深層(PDF)

 元々は石工職人のギルド(組合)であったが、薔薇十字運動やテンプル騎士団が絡んでくるあたりから変質したのだろう(フリーメーソンとオカルティズム)。

 あるコミュニティから生まれた強い思想は伝染力をまとって外部にまで共感の輪を広げる。人々が「正しい」と認識し、心から納得すれば脳の構造まで変わる。つまり思考の枠組みに革命を起こすのだ。ナポレオンがフリーメイソンであったという証拠はないが、4人の兄弟は全員がフリーメイソンであった(フリーメイソンだった有名人一覧)。

 例えば仏教の因果応報、マルキシズムの進歩史観、ユダヤ教の契約、キリスト教の正義と愛など数え上げれば切りがない。脳は「合理」に逆らえない。たとえ錯覚であったとしても当人が「理にかなっている」と思い込んだ瞬間にアルゴリズムが変わるのだ。

 ある意味で信じることはたやすい。騙される人が多いのがその証拠だ。振り込め詐欺には引っ掛からなくても、政治家やメディアの嘘にまんまと騙される人々は多い。広告に煽られて買い物をしてしまう人は注意が必要だ。

 近頃、流布した価値観のひとつに新自由主義がある。限りない競争を是としながらも、先進国においては国が金融機関のケツを拭くというデタラメなものだった。ナオミ・クラインが『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』で徹底的に糾弾している。

 ある時代においては魔女狩りをすることが正しかったり、インディアンを虐殺することが正しかったり、黒人を奴隷にすることが正しかった。虐殺は正義の名のもとに行われる。今、我々に必要なのは欧米の価値観を疑うことである。特に一強となったアメリカの政治的目論みに与(くみ)しないことが重要だ。彼らは国益という本音を隠しながら、世界をダシにして議論を仕掛ける。

 2015年から2016年にかけて世界経済は再び混乱することだろう。長年にわたって行われてきた金融緩和でジャブジャブになったマーケットがコントロール不能な暴走に至る。その時、世界各国で国粋主義が台頭する。キリスト教に変わる価値観が出現するまで人類は混乱を繰り返す。

2011-06-11

宗教的ユートピアを科学的ディストピアとして描く/『絶対製造工場』カレル・チャペック


『「絶対」の探求』バルザック

 ・宗教的ユートピアを科学的ディストピアとして描く

『木曜の男』G・K・チェスタトン

 カレル・チャペックを初めて読んだ。私は長らく「庭仕事をやっているオヤジだろ?」くらいに思っていた。20代で刻印された先入観はそう簡単に消えるものではない。その後、「ロボット」という言葉をつくったのがチャペックであることを知った。

 本書はバルザック著『「絶対」の探求』に対するオマージュである。

 物語の後半が失速していて文学性や作品の完成度はバルザックに及ばないが、「絶対」というテーマを別角度から照らしていて一読に値する。脳機能を司る理性と感情は、外へこぼれ落ちて科学と宗教となる。人間が絶対や真理を求めずにいられないのは脳が二つに割れているためだ、というのが私の持論である。

 カレル・チャペックの柔軟さにベルトルト・ブレヒトと相通ずるものを感じた。

人間を照らす言葉の数々/『ブレヒトの写針詩』岩淵達治編訳

 チェコスロバキアと東独が隣り合っていたことと関係しているのだろうか? ただし文化的な共通点は少ないようだ。

チェコとドイツは人々も建物もなんとなく似ているように見えるのですが、具体的にどの辺が違うのでしょうか?

 硬い性質はわかりやすいものの反発力に変化がない。柔軟さの奥深いところは、ぶつかった力を受け入れた後に反動を加えて投げ返すところだ。チャペックやブレヒトには弓や鞭のような精神のしなやかさがある。この弾力性がユーモアの源だ。

 発明
 収益性の非常に高い、どの工場にも好適のもの 個人的理由により即時売却――問い合わせ先ブジェヴノフ 1651 R・マレク技師

【『絶対製造工場』カレル・チャペック:飯島周〈いいじま・いたる〉訳(平凡社ライブラリー、2010年)以下同】

 新聞広告にボンディの目が留まる。マレクは青年時代の親友であった。

「(※現代技術の問題が)ビジネスだなんて全然ちがうよ、わかるか? 燃焼だ! 物質の中に存在する熱エネルギーの完全な燃焼だ! 考えてみろよ、石炭からは燃焼可能なエネルギーの、ほんの10万分の1しか燃やしていないんだよ! ちゃんとわかってるか?」(マレク)

 戯曲『ロボット(R.U.R.)』が1920年、その次に発表されたのが本書で1922年(大正11年)のこと。オットー・ハーンが原子核分裂を発見したのは1938年である。カレル・チャペックは明らかに原子力発電の可能性を見越していた。正真正銘のサイエンス・フィクションといってよい。しかもハードSF。

「聞いてるかい、ボンディ? あれは何十億も何千億もの金をもたらすぞ。でもその代わり、良心に対する恐ろしい害毒を引き受けなきゃならない。覚悟しろよ!」

「ぼくの完全カルブラートルは、完全に物質を分解することで、副産物を作り出す――純粋な、束縛されぬ【絶対】を。化学的に純粋な形の神を。言ってみれば、一方の端から機械的なエネルギーを、反対の端から神の本質を吐き出すのだ。水を水素と酸素に分解するのとまったく同じさ。ただ、それよりおそろしく大規模なだけだ」

 原子力発電の着想もさることながら、有害物質ではなく有益物質としたところにチャペックの卓抜したアイディアが光る。厳密にいえば有益というよりは、多幸症(ユーフォリア)を惹き起こす物質であった。

「ぼくは信じているが、科学は神を一歩一歩閉め出している、あるいは少なくとも、神の顕現を制限している。そしてそれが、科学の最大の使命だとぼくは信じる」

 マレクは自ら製造したカルブラートルに対して否定的だった。幸福が「状態」を意味するのであれば、棚ぼた式の啓示や悟りでも一向に構わないはずだ。しかしマレクは飽くまでも科学的真理を求めた。

「でも想像してみろよ、たとえば、本当にどんな物質の中にも神が存在すること、物質の中になんらかのやり方で閉じ込められていることを。そしてその物質を完全に破壊すれば、神はぱりっとした格好で飛び出すのだ。神は完全に解放されたようになる。物質の中から、まるで石炭から石炭ガスが蒸発するように蒸発する。原子を一つ燃焼させれば、地下室いっぱいの【絶対】が一気に得られる。【絶対】があっと言う間に広がるのには、びっくりするぜ」

 目に見えぬ放射能のように絶対は拡散する。信仰者が目指す理想を状況として描くことで、チャペックは宗教の安易さを暴き立てている。つまり宗教的ユートピアを科学的ディストピアとして描画(びょうが)したのだ。まさに天才的手法。

「その間に、地下室にあの大きなカルブラートルを設置して、稼働させた。きみに話したように、もう6週間、昼も夜も動いている。そこではじめて、【こと】の全容を認識した。その日のうちに地下室には【絶対】が満ちあふれて裂けんばかりになり、家の中全体を徘徊しはじめた。いいかい、純粋な【絶対】はどんな物質にも浸透してくるんだ。固い物質の場合は少しゆっくりだがね。大気の中では光と同じくらい速く拡散する。ぼくが地下室へ入って行った時は、きみ、まるで発作のように襲ってきた。ぼくは大声でわめいた。逃げ出すだけの力が、どこから湧いたのかわからない。それからここ、上の部屋で、全部のことをよく考えた。最初の考えでは、それは新しい、気分を高揚させるさせるガスかなにかで、物質の完全燃焼から生じたのだ、ということだった。そこで、外からあの空調機を取り付けさせた。3人の工事人のうち2人が作業中に啓示を受け、幻影を見た。3人目はアル中だったから、たぶんそのせいでいくらか免疫があったのだろう。それはただのガスだ、と信じていた間は、それについていろいろ実験をした。興味深いことに、【絶対】の中では、どの光もずっと明るく燃える。【絶対】を梨の形のガラス器に密封できれば、電球にしたいところだがね。だが彼は、この上なく厳重に閉じられたどんな容器からでも蒸発してしまう。だからぼくは、彼は一種の超放射能物質だろうと考えた。しかし、電気の軌跡は一切ないし、感光板にもなんの痕跡もない。3日目には、家の管理人をサナトリウムに送らなきゃならなかった。管理人は地下室のうえに住んでたんだよ、それにその妻も」
「どうしたんだい?」ボンディ氏は尋ねた。
「人が変わってしまったんだ。霊感を受けて。宗教的な説教し、奇跡を行なった。その妻は預言者になった」

 大笑い。失礼。私が読んだのは福島の原発事故が起こる前だったのだ。許せ。

 スピリチュアル系の連中を嘲り笑うような場面である。現実離れした平和主義者も同じ俎(まないた)の上に載っている。

 マレクが逃げ出した姿が、映画『トゥルーマン・ショー』のラストシーンと重なり合う。自由が一切の束縛を拒絶するものであるならば、麻薬的な幸福感は隷属を意味する。

 チャペックは更に宗教を絡める。

「それはまちがってますよ、あなた」祝聖司教は快活に叫んだ。「まちがってますよ。教義(ドグマ)の欠けた学問はただの懐疑の集積です。もっと悪いのは、あなた方の【絶対】が教会の法律に反することです。真正さについての教えに対する抵抗です。教会の伝統を無為にするものです。三位一体の教えに対する乱暴な侵犯です。聖職者たちの使徒的な服従の無視です。教会の悪魔払い(エクソシズム)にさえも従わない、その他もろもろ。要するに、われわれが断固として拒否せねばならない振る舞いをしているのです」

 それまでは教会の専売特許であった啓示が工場で大量生産されるようになったのだから大変だ(笑)。ただし教会には神学という武器があるから理屈をこねくり回すのには事欠かない。彼らは現実よりもバイブル(聖書)を重んじるのだ。

 そしてほんのわずかな記述ではあるのだが、フリーメイソン神智学協会まで出てくる。恐るべき見識である。

 悪のない世界を描いたものとしては、福永武彦の「未来都市」(『廃市・飛ぶ男』所収)という作品があるが、両者に通い合うのは破壊の調べだ。

 カレル・チャペックは「絶対」という価値観に巣食うファシズム性をものの見事に暴いてみせた。



『カレル・チャペックの世界』
カレル・チャペック『絶対製造工場』
フリーメイソン