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2022-02-09

アリストテレスとキリスト教会/『時間の逆流する世界 時間・空間と宇宙の秘密』松田卓也、二間瀬敏史


『進化する星と銀河 太陽系誕生からクェーサーまで』松田卓也、中沢清
『科学と宗教との闘争』ホワイト

 ・『バッハバスターズ』ドン・ドーシー
 ・時間の矢の宇宙論学派
 ・アリストテレスとキリスト教会

『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』松田卓也
・『宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体』ブライアン・グリーン

時間論
必読書リスト その三

 宗教、政治的権威から離れ、実利的目的からすら離れた自然現象や天文学の研究は、紀元前6世紀にイオニアの自然哲学者とよばれる一群の思索者達の出現を待たなければならなかった。有名なとこでは自然哲学の祖とされ、万物の根源は水としたターレス、後に南イタリアに移った数学のピタゴラス、原子論を唱えたデモクリトスなどがいる。ターレスは紀元前585年5月28日に小アジアで起こった日食を予言したと伝えられている。またピタゴラスは地球が丸くかつ自転しており、天体の運動は円運動であると唱えた。宗教あるいは政治的権威に支えられることなく、無為無用の哲学者が存在できたのは、オリエント社会にはなかった自由な精神といったものがギリシャのポリス社会にあったからだろう。もっとも奴隷の存在の上にたった自由ではあるが。
 その後プラトン、アリストテレスが現れ、ギリシャの自然哲学は完成されていく。

【『時間の逆流する世界 時間・空間と宇宙の秘密』松田卓也〈まつだ・たくや〉、二間瀬敏史〈ふたませ・としふみ〉(丸善フロンティア・サイエンス・シリーズ、1987年)以下同】

「奴隷の存在」をきちんと指摘しているところを見逃してはなるまい。我々日本人だけがストレートに批判できる資格があるのだ。国家という枠組みで見れば、奴隷がいなかったのは日本くらいなものだろう。天皇陛下を中心とする一君万民思想があったればこそである。江戸時代の士農工商は職能に重きを置いた身分であったが、ヨーロッパのような階級社会となることはなかった。

 アリストテレスによると宇宙は有限であり、地球を中心とする九つの球面があり、太陽、月そして火星や木星といった惑星が一つ一つの球面にくっつき、一番遠くの球面に恒星がくっついているという。今日のわれわれから見れば滑稽なモデルであるが、観測技術が未熟で精密な観測ができず、また観測そのものにあまり価値をおかない当時にあってはモデルの論理的な無矛盾性と美しさが最も重要であった。その点からみるならアリストテレスの宇宙論はうまくできている。たとえば、一番外側の球面が有限の距離にあるのは次のように説明できる。地球から見て恒星は24時間で一回りしている。したがって一番外側の球面も24時間で一回りする。その球面の距離が遠ければ遠いほど速度は大きくなっていく。もし無限のかなたにあれば無限大の速度で回らねばならず、無限大などはナンセンスだから宇宙は有限である。その外は無である。それなりに説得力があるではないか。
 このアリストテレスの説が権威となって、それが後にキリスト教会の権威と結び付き、ヨーロッパの科学は16世紀まで続く暗黒時代に入っていくのである。(中略)
 特にアリスタルコスは太陽の大きさが地球より遥かに大きいことを示し、大きな太陽が小さな地球のまわりを回っているのは不自然であることを主張したのであるが、アリストテレスの権威の前に無神論者という汚名まできせられたという。



 あまりにも偉大であったためにアリストテレスの学説は後世の人々の思考を束縛し続けた。中世の暗黒を支えたのが教会の権威とアリストテレスの権威であった。具体的には魔女狩りと帝国主義〈「発見の時代」(Age of Discovery/大航海時代)〉という形で表出する。内外で殺戮を繰り返しながらヨーロッパは世界を征服する。

 アリストテレスとキリスト教会の絶大なる権威も15世紀ルネサンスにいたって衰えていき、まず空間観が天体の精密な観測からくずれていく。一方、時間についてインドでは輪廻の思想があり、一定の周期で無限に繰り返していくと考えられたが、そのような思想はヨーロッパにはなかったようである。

 古代ギリシャにはあったはずだが、キリスト教によって滅ぼされてしまったのだろう。生と死を繰り返す自然の摂理や、周期がある星の運行などを考えれば、輪廻(りんね)こそが自然である。地球を巡る水の循環もまた輪廻といってよい。

 数千年の未来から振り返れば、私はまだ中世暗黒の時代は終わっていないように思う。一神教がなくならない限りは。

2022-02-06

時間の矢の宇宙論学派/『時間の逆流する世界 時間・空間と宇宙の秘密』松田卓也、二間瀬敏史


『進化する星と銀河 太陽系誕生からクェーサーまで』松田卓也、中沢清
『科学と宗教との闘争』ホワイト

 ・『バッハバスターズ』ドン・ドーシー
 ・時間の矢の宇宙論学派
 ・アリストテレスとキリスト教会

『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』松田卓也
・『宇宙を織りなすもの 時間と空間の正体』ブライアン・グリーン

時間論
必読書リスト その三

 時間・空間とはひとつの巨大な容器であると述べたが、まず容器があって、それから物がそのなかに入れられるのか。あるいは物が容器の形を決めるといったことがあるのか。伝統的な考えかたでは前者、つまり時間・空間がまず存在するという立場であった。ところが20世紀にはいってアインシュタインにより展開された一般相対論では、物が容器を決定するという立場をとる。また時間と空間は、それまではいちおう別々のものと考えられていたが、アインシュタインにより時空という一つの実体の二つの側面であることが明らかにされた。
 とはいえ時間と空間は完全に同質というわけではない。時間は一次元、空間は三次元ということのほかに、それらの間には重大な差が存在する。空間はあらゆる方向に対して対称である。つまり右に行くことができれば、左にい(ママ)くことも可能である。しかし時間についてはそうではない。過去と未来は非対称である。われわれに過去の記憶はあっても未来の記憶はないことは自明だ。時間は過去から未来に向かって一直線に流れているように見える。「光陰矢の如し」というように、時間の進行は矢に例えられる。だから時間の一方向性のことを【時間の矢】とよぶ。
 時間の矢の存在を物理学的に説明しようとすると、ぜんぜん自明のことではない。19世紀のボルツマン以来多くの学者がその答を求めてきた。本書では時間の矢の存在が宇宙論と深く関わっていることを示す。そして時間の矢が宇宙の初期条件によって規定されることを主張する。こういった立場を「時間の矢の宇宙論学派」とよぶ。われわれはその立場にたつ。

【『時間の逆流する世界 時間・空間と宇宙の秘密』松田卓也〈まつだ・たくや〉、二間瀬敏史〈ふたませ・としふみ〉(丸善フロンティア・サイエンス・シリーズ、1987年)】

 何とはなしに「宇宙開闢(かいびゃく)の歌」を思った。立川武蔵〈たちかわ・むさし〉も似たようなことを書いていた(『空の思想史 原始仏教から日本近代へ』)。

 時空の面白さは存在論と逆方向へ向かうところにあると勝手に考えている。西洋哲学は「神 vs. 自分」という思考の枠組みに束縛されて存在を希求する。「我思う、故に我あり」なんてのはキリスト教史においては事件かもしれないが、東洋人にとっては唯識(ゆいしき)の入り口でしかない。

 確か物理的には時間を逆方向にしても問題がないはずだと思った。しかし我々は逆転させた動画を見れば直ちにそれに気づく。私の理解では時間の矢を支えるのはエントロピー増大則である。名前の挙がっているボルツマンがエントロピーを解明した(『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ)。

 少しばかり読み返したのだが滅法面白い。というわけで必読書に入れた。本書を読んだのは2016年のこと。松田卓也と二間瀬敏史を読み直す必要あり。

2021-03-09

ブラックホールの予想を否定したアインシュタインとアーサー・エディントン/『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』村山斉


『ゼロからわかるブラックホール 時空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』大須賀健
『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス
・『宇宙は何でできているのか』村山斉
・『宇宙は本当にひとつなのか 最新宇宙論入門』村山斉

 ・ブラックホールの予想を否定したアインシュタインとアーサー・エディントン

・『宇宙になぜ我々が存在するのか』村山斉
・『宇宙を創る実験』村山斉編著

 20世紀の初頭に、光さえも脱出できない天体があり得ることを予想したのは、ドイツの物理学者カール・シュヴァルツシルトです。それは、アインシュタインが一般相対性理論を発表してからすぐのことでした。アインシュタインが示した方程式を解いたときに出てくるひとつの答えが、ブラックホールだったのです(ちなみに、シュヴァルツシルトは16歳で天体力学について論文を出版し、20代で名門ゲッティンゲン大学の教授になったというすごい人ですこのブラックホールの難しい計算も、実は第一次世界大戦の前線で従軍中に成し遂げたのでした。しかし惜しくもその1年後には前線で病気にかかり、亡くなってしまいました)。
 シュヴァルツシルトは、極端に小さくて極端に質量の重い天体を考えて、一般相対性理論の方程式に当てはめました。すると、光の速度でも脱出できないという解が出ます。しかしアインシュタイン自身は、シュヴァルツシルトが自分の方程式を解いてくれたことは喜んだものの、現実にブラックホールが存在するとは信じていませんでした。
 その後、インド出身の物理学者スプラマニアン・チャンドラセカールが、ブラックホールの実在を予言する発見をします。それまで星の一生はすべて第二章で出てきた白色矮星で終わると考えられていましたが、チャンドラセカールは白色矮星がある値以上は大きくなれないことを発見し、重い星はブラックホールになるはずだと予想したのです。
 これは、彼の師匠にあたる学者とのあいだで大論争になりました。イギリスの天文学者アーサー・エディントンです。
 このエディントンは、アインシュタインの一般相対性理論が正しいことを裏づける観測をしたことで有名な人物です。(中略)
 エディントンが公式の場でチャンドラセカールの発見を笑いものにしたので、チャンドラセカールはイギリスを去らなくてはなりませんでした。
 しかし、間違っていたのはチャンドラセカールではなく、エディントンでした。やがて世界中の学者たちが、チャンドラセカールの理論を受け入れるようになったのです。

【『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』村山斉〈むらやま・ひとし〉(集英社インターナショナル、2012年)】

 集英社インターナショナルの「知のトレッキング叢書」というシリーズの第一弾。実際の内容はハイキングレベルである。むしろ「知の一歩」と名づけるべきだろう。B6判で新書よりも横幅がある変わったサイズである。価格が安いのは薄いため。

 村山斉は5冊ばかり読んだが今のところ外れがない。読みやすい文章で最新の宇宙情報を届けてくれる。諜報(インテリジェンス)の世界では情報に対価を支払うのは当然であり、等価交換の原則が成り立つ。その意味からも私は書籍に優る情報はないと考えている。

 天才科学者ですら老いて判断を誤る。況(いわん)や凡人においてをや。世代交代の時に新旧の確執が生じるのはどの世界も一緒であろう。老境に入りつつある私も自戒せねばならない。

 相対性理論が面白いのは発見者の思惑を超えて宇宙の真理を示した点にある。アインシュタインは静的宇宙を絶対的に信じていたが実際は膨張していた。それも凄まじい速度で。科学的真理はどこまでいっても部分観に過ぎない。それでも尚、広大な宇宙の新たな事実が判明するたびに心を躍らせるのは私一人ではあるまい。

 科学の世界ですら古い巨人が後進の行く手を遮(さえぎ)るのであるから、政治の世界は推して知るべしである。私は57歳だが体力と共に知力・判断力の低下を実感している。政治家や大企業の取締役は55歳以下にするのが望ましい。長幼序ありの伝統に従うなら、老人で参議院を構成すればよい。

2020-08-17

宇宙と素粒子のスケール/『宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎』村山斉


『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『本当にあった嘘のような話 「偶然の一致」のミステリーを探る』マーティン・プリマー、ブライアン・キング

 ・宇宙と素粒子のスケール

・『宇宙は本当にひとつなのか 最新宇宙論入門』村山斉

 もちろん、物質を原子レベルまでバラバラにするのは容易ではありません。たとえば直径10センチメートルのリンゴをバラバラにすると、ざっと1026個ぐらいの原子になります。どんなに鋭いナイフで刻んでも(その刃は必ず原子より大きいので)無理ですね。
 ちなみに、リンゴ1個と原子1個の大きさの比は、天の川銀河と地球の軌道の大きさの比と同じぐらい。天の川銀河がリンゴだとすると、地球の軌道は原子1個程度の大きさしかないということです。
 さて、原子1個の直径は10-10メートル。かつては、これが「この世でいちばん小さいもの=素粒子」だと考えられていました。
 しかし、やがて原子にも「内部構造」がある――つまり「もっとバラバラにできる」ことが判明します。原子の中心には「原子核」と呼ばれるものがあり、そのまわりを「電子」がくるくると回っている。先ほどの「原子の直径(10-10メートル)」とは、電子が回る軌道の直径だったわけです。
 そして、電子の軌道から原子核までの距離は、決して近くありません。地球と人工衛星ぐらいの距離感をイメージする人が多いと思いますが、原子核の直径は電子の軌道よりはるかに小さく、10-15メートル。電子の軌道の10万分の1です。もちろんミクロの世界の話ですから、私たちの目から見ればどちらも同じようなものですが、実際は5桁も違う。富士山の標高と地球の直径でさえ、4桁しか違いません。原子核から見ると、電子ははるか彼方を飛び回っているのです。
 この原子核の発見によって、「素粒子」のサイズは一気に小さくなりました。ところが、話はそこで終わりません。原子核にも「陽子」や「中間子」といった内部構造があり、その陽子や中間子も、いくつかの粒子によって形づくられているのです。
 その粒子が「クォーク」と呼ばれるもの。いまのところ、クォークこそが真の「素粒子」だと考えられています。その大きさは、どんなに大きく見積もっても10-19メートル。かつて「素粒子」だと思われた原子とは9桁、その真ん中にある原子核とも4桁違うのです。
 さらに重力と電磁気力、そしてあとで説明する強い力と弱い力も統一すると期待されている「ひも理論」では、素粒子の大きさは10-35メートルだと考えられています。

 宇宙は1027メートル、素粒子は10-35メートル。この途方もないスケールが、私たちが存在する自然界の「幅」ということになります。その両端にある宇宙研究と素粒子研究のあいだには62桁もの距離がある、と言ってもいいでしょう。

【『宇宙は何でできているのか 素粒子物理学で解く宇宙の謎』村山斉〈むらやま・ひとし〉(幻冬舎新書、2010年)】

 するってえと1万メートルを基準にすればべき乗は31で釣り合うことになるわけだな。1メートルを基準にするのはヒトの身長に合わせたもの。あるいはヒトの視力と言ってもいいだろう。1メートルの大きさなら、かなり離れてもよく見える。

 一番驚かされたのはミクロ世界の方が8桁もの奥行きがあることだ。真に広大なのは外なる宇宙ではなく微小な宇宙とは俄(にわか)に信じ難い。しかもその全てが、物質もエネルギーも光も性質も性格も本を正せば一点から生じたのである。これに優る不思議はない。

 宇宙の営みは素粒子の移動とエネルギーの変換といえよう。その壮大さを思えば歴史や心理の意味も色褪せる。諸行は一瞬もとどまることなく移ろい、常ならざる様相を展開する。感情は人生に重みを与えるが進化の産物であり、集団内部で生存率を高めるところに本来の目的がある。



2乗や3乗などのn乗(べき乗)をHTMLで表示する方法 | DEVRECO

2020-07-31

カーター・エマート:三次元宇宙地図のデモ


『サイクリック宇宙論 ビッグバン・モデルを超える究極の理論』ポール・J・スタインハート、ニール・トゥロック

 ・カーター・エマート:三次元宇宙地図のデモ

太陽系のダイナミズム


 太陽系は太陽を中心に回っているわけではない。太陽系の共通重心が中心になっているという。


 地球と月の場合、共通重心は地球内部にあるため動きは抑えられる。


 もっと驚かされるのは太陽系そのものが天の川銀河を2億年かけて1周していることだ。我々の常識は静的な宇宙モデルに支配されていて太陽系のダイナミズムを実感することが難しい。

2020-05-31

ハッブル「天文学発展の歴史は地平線後退の歴史である」/『進化する星と銀河 太陽系誕生からクェーサーまで』松田卓也、中沢清


 ・ハッブル「天文学発展の歴史は地平線後退の歴史である」

『時間の逆流する世界 時間・空間と宇宙の秘密』松田卓也、二間瀬敏史
・『人間原理の宇宙論 人間は宇宙の中心か』松田卓也
・『時間の本質をさぐる 宇宙論的展開』松田卓也、二間瀬敏史
『2045年問題 コンピュータが人類を超える日』松田卓也
・『宇宙の謎 暗黒物質と巨大ブラックホール』二間瀬敏史

 天文学の発展の歴史は地平線の後退の歴史である、とはハッブルの言葉です。確かに望遠鏡の発達、大型化により、また60年代以降のX線、γ線、紫外線、赤外線、電波とあらゆる波長帯の望遠鏡の開発、発展により、我々の目のとどく範囲は広がり、宇宙の様々な姿がうきぼりにされてきました。しかし“地平線の後退の歴史”というのは、たんにこあれだけのことではないようです。天文学の発展の歴史が、すなわち我々の自然に対する古い考えの後退、すなわち自然の認識の拡大の歴史である、ということも意味しているようです。

【『進化する星と銀河 太陽系誕生からクェーサーまで』松田卓也〈まつだ・たくや〉、中沢清〈なかざわ・きよし〉(ブルーバックス、1977年)】

 文章にやや問題あり。私は松田卓也を通して二間瀬敏史〈ふたませ・としふみ〉を知った。知識や人脈というのは時に意外なつながりを見せることがあって侮れない。かつて地平線の彼方には海の淵があると考えられていた。


【Kansas - Point Of Know Return、1977年】

 人々は海が飲み込まれる場所を「Point Of Know Return」(帰還不能点)と考えて長い間航海をためらった。この常識を打ち破ったのが「発見の時代」(Age of Discovery/大航海時代)である。確かにハッブルが言うように遠くの地平線は宇宙への入り口にすぎない。

 望遠鏡が発明されたのは16世紀末で、ガリレオ・ガリレイが手製の望遠鏡を作成したのが1609年5月であった。一方、顕微鏡は16世紀後半に原型が生まれたが、17世紀後半にレーウェンフックの単式顕微鏡が作られた。電子顕微鏡が商用開発されたのが1939年のこと。人類は初めて原子を目の当たりにした(顕微鏡の歴史 | 顕微鏡を知る | 顕微鏡入門ガイド | キーエンス)。

 宇宙の輪郭がわかってきた時に、今度は量子論というミクロ宇宙が扉を開けた。地平線はまたぞろ遠ざかって結局元の位置にある(笑)。

2020-03-15

アーサー・エディントンと一般相対性理論/『ゼロからわかるブラックホール 時空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』大須賀健


『暗黒宇宙の謎 宇宙をあやつる暗黒の正体とは』谷口義明

 ・アーサー・エディントンと一般相対性理論

『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』村山斉
『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』レオナルド・サスキンド

 蛇足ですが、エディントンは会期中、「一般相対論は大変難解で、理解しているのは世界に3人しかいないというのは本当か?」という質問を受けたそうです。対して何も答えないエディントンに質問者は「謙遜しなくてもよいのでは?」と再度返答を促します。するとエディントンは「私とアインシュタインのほかは誰だろうかと思ってね」と答えたと伝えられています。一般相対論の難解さと、自信に満ちたエディントンの心境がよくわかるエピソードです。

【『ゼロからわかるブラックホール 時空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』大須賀健〈おおすが・けん〉(ブルーバックス、2011年)】

 スティーヴン・ホーキング著『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで
で紹介されているエピソードが一般的だがもっと正確な記述があったので紹介しよう。

 正真正銘の教科書本だ。自分の思い込みがいくつも訂正された。例えば赤方偏移など。読書量が多いことは何の自慢にもならないが(単なる病気のため)、知識が正確になるのは確かである。

 そのアーサー・エディントンがブラックホールの存在を理論的に導いた教え子のスブラマニアン・チャンドラセカールを徹底的に批判する。功成り名を遂げた科学者ほど新しい理論を受け容れることが難しいようだ。

2020-03-04

ビッグバン理論の先駆者ジョルジュ・ルメートル/『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス


『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』スティーヴン・ホーキング
『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー
『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
『サイクリック宇宙論 ビッグバン・モデルを超える究極の理論』ポール・J・スタインハート、ニール・トゥロック

 ・ビッグバン理論の先駆者ジョルジュ・ルメートル

『宇宙はなぜこんなにうまくできているのか』村山斉
『宇宙を織りなすもの』ブライアン・グリーン

 ビッグバン・モデルの原型となるモデルを初めて提唱したのは、ベルギー人のカトリック司祭にして物理学者でもある、ジョルジュ・ルメートルという人物だった。いくつもの分野でひとかどの仕事をするという境域的な才能の持ち主だったルメートルは、はじめに工学を学び、第一次世界大戦では砲兵として従軍して叙勲された。1920年代になって司祭になるための勉強を始め、同時に専門を工学から数学に切り替えた。やがて宇宙論の分野に進み、著名なイギリスの天体物理学者サー・アーサー・エディントンのもとで研究を行ったのち、アメリカのハーバード大学に移り、最終的にはマサチューセッツ工科大学で物理学の博士号を取得した。それは彼にとって二つ目の博士号だった。
 1927年、まだ二つ目の博士号を取得する前のこと、ルメートルはアインシュタインの一般相対性理論の方程式をじっさいに解き、この理論が予想する宇宙は、静止していないということを示したばかりか、われわれが住むこの宇宙は、現に膨張しているという説を唱えたのである。それは途方もない話に思われたので、アインシュタインも、「あなたの数学は正しいが、あなたの物理学は忌まわしい」という強烈な言葉で反対を表明したほどだった。
 しかしルメートルは挫けず、1930年代には、膨張しているわれわれの宇宙は、無限小の点から始まったという説を提唱した。その点のことを彼は、「原初の原子」と呼び、おそらくは創世記の物語を念頭に置きながら、その始まりの時のことを、「昨日のない日」と呼ぶことができるだろうと述べた。

【『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス:青木薫訳(文藝春秋、2013年/文春文庫、2017年)】

 人間の叡智は現実に先駆けて科学原理を見出すことがある。例えばルメートルが指摘した宇宙膨張説、相対性理論による時空の歪み、ブラックホールも観測される前から既に予想されていた。更に面白いのは発見した科学者の思惑を超えて原理が自己主張を始めることだ。

 アーサー・エディントンについてはよく知られた有名なエピソードがある。

 1920年代のはじめに、あるジャーナリストが(アーサー・)エディントンに向かって、一般相対論を理解しているものは世界中に3人しかいないと聞いているが、と水を向けると、エディントンはしばらく黙っていたが、やがてこう答えたそうだ。「はて、3番目の人が思い当たらないが」。

【『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』スティーヴン・ホーキング:林一訳〈はやし・はじめ〉訳(早川書房、1989年/ハヤカワ文庫、1995年)】

 時空の歪みを最初に観測したのもアーサー・エディントンその人であった。

 猿も木から落ち、アインシュタインも誤る。ただし科学の誤謬は観測によって常に修正され、次の新たなステップへと力強く前進してゆく。


アーサー・エディントンと一般相対性理論/『ゼロからわかるブラックホール 時空を歪める暗黒天体が吸い込み、輝き、噴出するメカニズム』大須賀健

2019-05-04

科学の限界/『宇宙を織りなすもの』ブライアン・グリーン


『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス

 ・科学の限界

『生物にとって時間とは何か』池田清彦
『死生観を問いなおす』広井良典
『子供たちとの対話 考えてごらん』J・クリシュナムルティ

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 当然ながら、瞬間には時間の経過は含まれない(少なくとも、私たちが知覚しているこの時間の場合には)。なぜなら、瞬間とは時間の素材であり、ただそこに存在するだけで変化しないからである。どれかの瞬間が時間のなかで変化できないのは、どれかの場所が空間のなかで移動できないのと同じことだ。ある場所が空間のなかで移動すれば、別の場所になるだけのことだし、時間のなかである瞬間を移動したとすれば、別の瞬間になるだけのことだろう。このように、映写機の光が次々と新しい「今」に生命を与えていくという直観的なイメージは、詳しい吟味には耐えないのである。どの瞬間も、今このときに照らし出されており、いつまでも照らし出されたままだ。どの瞬間も、今このときに【実在している】のである。こうして詳しく吟味してみれば、時間は流れていく川というよりもむしろ、永遠に凍りついたまま今ある場所に存在し続ける、大きな氷の塊に似ている。
 この時間概念は、ほとんどすべての人が慣れ親しんでいる時間概念とはかけ離れている。アインシュタインは、この時間概念が彼自身の洞察から導かれたものであるにもかかわらず、これほど大きな考え方の変化をきちんと理解することの難しさに無理解ではなかった。ドイツの論理学者で科学哲学者でもあるルドルフ・カルナップは、このテーマでアインシュタインと交わした素晴らしい対話について次のように述べている。「アインシュタインは、今という概念をめぐる問題は彼をひどく悩ませると言った。そして彼は、人間にとって今という経験は特別なものであり、過去と未来とは本質的に異なるが、この重要な差異は物理学からは出てこないし、出てくることはありえないと説明した。彼にとって、科学が今という経験を捉えられないことは、辛いけれども諦めなければならないことであるらしかった」

【『宇宙を織りなすもの』ブライアン・グリーン:青木薫訳(草思社、2009年/草思社文庫、2016年)】

 主人公は時空である。宗教と科学が時間という軸によって接近することは何となく察しがついた。宗教を尻目に科学は相対性理論や量子論によって時間の本質に迫りつつある。ブッダは現在性を開き、キリスト教は永遠を説いたが宗教の足並みはそこで止まったままだ。

 時間の矢が逆転しても物理的には問題がないという。ところが我々の思考では割れた卵が元通りになることは考えにくい。時間に方向性を与えているのはエントロピー増大則だ。乱雑さは増大し形あるものは成住壊空(じょうじゅうえくう)のリズムを奏でる。

 瞬間に時間の経過は含まれない――とすれば瞬間の中にこそ永遠があるのだろう。そして科学は瞬間において自らの限界を弁えた。ここに科学の偉大なる自覚がある。教団は万能だ。あらゆることを可能にすると宣言し、無謬(むびゅう)であるかのように振る舞う。そこに自覚はない。汝自身を知らずして信者には夢だけ見させているのだ。薬事法を無視した健康食品さながらだ。

 瞬間という現在性に立脚するのが真の宗教性だ。ブッダが道を示し、クリシュナムルティが道を拓き、「悟りを開いた人々」がその後に続く。諸行無常、諸法無我、涅槃寂静(三法印)のみが真実なのだろう。

 

2017-08-18

サイクリックモデル/『サイクリック宇宙論 ビッグバン・モデルを超える究極の理論』ポール・J・スタインハート、ニール・トゥロック


『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン
『ホーキング、宇宙を語る ビッグバンからブラックホールまで』スティーヴン・ホーキング
『エレガントな宇宙 超ひも理論がすべてを解明する』ブライアン・グリーン
『ブラックホール戦争 スティーヴン・ホーキングとの20年越しの闘い』レオナルド・サスキンド
『物質のすべては光 現代物理学が明かす、力と質量の起源』フランク・ウィルチェック

 ・サイクリックモデル

カーター・エマート:三次元宇宙地図のデモ
『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス

 本書では、サイクリックモデルと呼ばれる、そのもっと大胆な説について説明する。この描像によれば、ビッグバンは時間と空間の始まりでなく、原理的には物理法則を使って完全に記述できる。しかもビッグバンは一度きりではない。宇宙は進化のサイクルを繰り返す。その各サイクルにおいて、ビッグバンが高温の物質と放射を生み出し、それが膨張冷却して今日見られる銀河や恒星が形成される。その後、宇宙の膨張が加速して物質は散り散りになり、空間はほぼ完全な真空へと近づく。そして1兆年ほど経った頃、新たなビッグバンが起こって再びサイクルが始まる。宇宙の大規模構造を作り出した出来事は、一つ前のサイクル、つまり一番最近のビッグバン以前に起こったことになる。
 このサイクリックモデルは、WMAPの結果をはじめ最近のあらゆる天文学的観測結果をインフレーションモデルと同じくらい正確に説明するが、その意味合いは大きく異る。サイクリックの描像によれば、WMAPの画像はクラークのモノリスと同じくらい奇妙だ。われわれを文字通り次元を超えた旅路へと連れていき、ビッグバン以前から遠い未来までにわたる数々の出来事を見せてくれるのだ。

【『サイクリック宇宙論 ビッグバン・モデルを超える究極の理論』ポール・J・スタインハート、ニール・トゥロック:水谷淳〈みずたに・じゅん〉訳(早川書房、2010年)】

 WMAPはNASAの宇宙探査機で宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の温度を測定している。WMAPの画像は衝撃的だった。手っ取り早く言えばビッグバンから40万年後の状態がそのまま膨張した姿で写っているのだ。


 ゆらぎからビッグバンが生じ、ビッグバンから宇宙のゆらぎが生じたことを思えば「ゆらぎ第二章」と名付けてよさそうだ。WMAPの調査によって宇宙の年齢(137億年)や、大きさ(780億光年以上)、組成(4%が通常の物質、23%が正体不明のダークマター、73%がダークエネルギー)などが導き出された。

 サイクリック宇宙論多元宇宙論の一つで、宇宙は無限に連続する自立的な循環を行うという理論である。

 宇宙の大規模構造は泡構造とも呼ばれるが、宇宙それ自体も泡を形成している可能性がある。


 しかも宇宙は動いている。脳には物事を止まった状態で考える癖がある。初めて太陽系の運行を知った時は度肝を抜かれた。


 まるで卵子を目指して進む精子のようだ。DNAも宇宙も螺旋状態があるべき姿なのだろう。時空は螺旋状に進む。

仏教的時間観は円環ではなく螺旋型の回帰/『仏教と精神分析』三枝充悳、岸田秀

 仏教やヒンドゥー教を始めとするアジアの時間論もサイクリックモデルである。我々にとっては親和性が高い。ひょっとすると一つひとつの宇宙に人間原理が働いているのかもしれない。

2015-04-03

情報という概念/『宇宙を復号(デコード)する 量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号』チャールズ・サイフェ


『異端の数ゼロ 数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念』チャールズ・サイフェ
『量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』マンジット・クマール
『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー

 ・情報という概念

『史上最大の発明アルゴリズム 現代社会を造りあげた根本原理』デイヴィッド・バーリンスキ
情報とアルゴリズム

 熱力学の法則――物質のかたまりに含まれる原子の運動を支配する法則――は、すべての根底にある、情報についての法則だ。相対性理論は、極度に大きな速さで動いている物体や重力の強い影響を受けている物体がどのように振舞うかを述べるものだが、実は情報の理論である。量子論は、ごく小さなものの領域を支配する理論だが、情報の理論でもある。情報という概念は、単なるハードディスクの内容よりはるかに広く、今述べた理論をすべて、信じられないほど強力な一つの概念にまとめあげる。
 情報理論がこれほど強力なのは、情報が物理的なものだからだ。情報はただの抽象的な概念ではなく、ただの事実や数字、日付や名前ではない。物質とエネルギーに備わる、数量化でき測定できる具体的な性質なのだ。鉛のかたまりの重さや核弾頭に貯蔵されたエネルギーにおとらず実在するのであり、質量やエネルギーと同じく、情報は一組の物理法則によって、どう振舞いうるか――どう操作、移転、複製、消去、破壊できるか――を規定されている。宇宙にある何もかもが情報の法則にしたがわなければならない。宇宙にある何もかもが、それに含まれる情報によって形づくられるからだ。
 この情報という概念は、長い歴史をもつ暗号作戦と暗号解読の技術から生まれた。国家機密を隠すために用いられた暗号は、情報を人目に触れぬまま、ある場所から別の場所へと運ぶ方法だった。暗号解読の技術が熱力学――熱機関の振舞い、熱の交換、仕事の生成を記述する学問――と結びついた結果生まれたのが情報理論だ。情報についてのこの新しい理論は、量子論と相対性理論におとらず革命的な考えである。一瞬にして通信の分野を変容させ、コンピューター時代への道を敷いたのが情報理論なのだが、これはほんの始まりにすぎなかった。10年のうちに物理学者と生物学者は、情報理論のさまざまな考えがコンピューターのビットおよぎバイトや暗号や通信のほかにも多くのものを支配することを理解しはじめた。こうした考えは、原子より小さい世界の振舞い、地球上の生命すべて、さらには宇宙全体を記述するのだ。

【『宇宙を復号(デコード)する 量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号』チャールズ・サイフェ:林大〈はやし・まさる〉訳(早川書房、2007年)】

 驚愕の指摘である。熱力学の法則と相対性理論と量子論を「情報」の一言で結びつけている。「振る舞い」とのキーワードが腑に落ちれば、エントロピーで読み解く手法に得心がゆく。『異端の数ゼロ』で見せた鮮やかな筆致は衰えていない。

 ロルフ・ランダウアーが「情報は物理的」と喝破し、ジョン・ホイーラーが「すべてはビットから生まれる」と断言した。マクスウェルの悪魔に止めを刺したのはランダウアーの原理であった。

 よくよく考えるとマクスウェルの悪魔自身が素早い分子と遅い分子という情報に基いていることがわかる。思考実験恐るべし。本物の問いはその中に答えをはらんでいる。

 調べものをしているうちに2時間ほど経過。知識が少ないと書評を書くのも骨が折れる。熱力学第二法則とエントロピー増大則がどうもスッキリと理解できない。この物理法則が社会や組織に適用可能かどうかで行き詰まった。結局のところ新たな知見は得られず。

物質界(生命系を含め)の法則:熱力学の第二法則

 エントロピー増大則は諸行無常を志向する。自然は秩序から無秩序へと向かい、宇宙のエントロピーは時間とともに増大する。コップの水にインクを1滴たらす。インクは拡散し、薄く色のついた水となる。逆はあり得ない(不可逆性)。つまり閉じたシステムでエントロピーが減少すれば、それは時間が逆行したことを意味する。風呂の湯はやがて冷める。外部から熱を加えない限り。

 生物は秩序を形成している点でエントロピー増大則に逆らっているように見えるが、エネルギーを外部から摂取し、エントロピーを外に捨てている。汚れた部屋に例えれば、掃除をすれば部屋のエントロピーは減少するが、掃除機の中のエントロピーは増大する。乱雑さが移動しただけに過ぎない。

 ゲーデルの不完全性定理は神の地位をも揺るがした。

 ニューヨーク州立大学の哲学者パトリック・グリムは、1991年、不完全性定理の哲学的帰結として、神の非存在論を導いている。彼の推論は、次のようなものである。

 定義 すべての真理を知る無矛盾な存在を「神」と呼ぶ。
 グリムの定理 「神」は存在しない。

 証明は、非常に単純である。定義により、すべての真理を知る「神」は、もちろん自然数論も知っているはずであり、無矛盾でもある。ところが、不完全性定理により、ゲーデル命題に相当する特定の多項方程式については、矛盾を犯すことなく、その真理を決定できないことになる。したがって、すべての真理を知る「神」は、存在しないことになる。
 ただし、グリムは、彼の証明が否定するのは、「人間理性によって理解可能な神」であって、神学そのものを否定するわけではないと述べている。

【『ゲーデルの哲学 不完全性定理と神の存在論』高橋昌一郎〈たかはし・しょういちろう〉(講談社現代新書、1999年)】

神の存在論的証明

 では熱力学第二法則はどうか? 仏教東漸の歴史を見れば確かに乱雑さは増している。ブッダの時代にあっても人を介すほどに教えは乱雑になっていったことだろう。熱は冷め、秩序は無秩序へ向かう。しかしその一方で人間の意識は秩序を形成する。都市化が典型である。そして生命現象という秩序は、必ず死という無秩序に至る。

 宇宙的な時間スケールで見た時、生命現象にはどのような意味があるのか? それともないのか? 思考はそこで止まったまま進まない。

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2013-11-02

古代中国では、宇宙=世界を覆う屋根


 古代中国、後漢時代(25年~220年)に編纂された最古の部首別辞書『説文解字』()によれば、“宇”の文字はもともと建物の屋根の縁を示しており、そこから時間とともに“この世の限りを覆う大屋根”を指すようになっていったという。また、“宙”の文字は、もともと建物の屋根の中心である“棟木”の意味で使われていたが、徐々に“過去・現在・未来の時間の広がり”といった意味を含むようになったことが記されている。

宇宙という言葉はどこから来たの?:秋山文野

我々は闇を見ることができない/『暗黒宇宙の謎 宇宙をあやつる暗黒の正体とは』谷口義明

宇宙の終焉


宇宙の終焉
宇宙の最後

宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)宇宙創成〈下〉 (新潮文庫)サイクリック宇宙論―ビッグバン・モデルを超える究極の理論インフレーション宇宙論―ビッグバンの前に何が起こったのか (ブルーバックス)

ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)宇宙の始まりと終わり多世界宇宙の探検 ほかの宇宙を探し求めて仏教は宇宙をどう見たか: アビダルマ仏教の科学的世界観 (DOJIN選書)

2013-10-31

2012-05-22

太陽でもスーパーフレアが起きる可能性がある

太陽でも「スーパーフレア」起きる?日米で論争

 地球から遠く離れた太陽に似た天体で観測される「スーパーフレア」と呼ばれる超巨大な爆発現象を巡り、17日の英科学誌ネイチャー(電子版)誌上で日米の研究者の学術論争が起きている。

 京都大グループが天体観測の結果から「私たちの太陽でも起きる可能性がある」と主張、これに米国の天文学者が「理論的にありえない」と反論している。

 スーパーフレアは、太陽表面で起きる爆発現象「太陽フレア」の最大1万倍にも達する。太陽で起きれば強烈な電磁波が地球を襲い、電子機器があふれる社会は壊滅状態に陥るという。

 京大付属天文台の柴田一成教授らは、米航空宇宙局(NASA)の人工衛星が観測した太陽系外の天体16万個のデータを分析、太陽に似た10の天体で、14回のスーパーフレアが起きていたのを確認した。

 スーパーフレアは、太陽に似た天体が、近くを回る地球の10倍ほどの巨大惑星の磁場の影響を受けて起きるとされる。太陽の近くには巨大惑星はないが、スーパーフレアを起こした10の天体の近くにも巨大惑星はなかった。このことから、「太陽でもスーパーフレアが起きる可能性がある」とネイチャー誌で結論づけた。

 これに対し「巨大惑星説」を唱える、米・ルイジアナ州立大の研究者は、同誌上で「理論上、天体の近くに強力な磁界がないと起きえない。過去2000年の間に地球上での観測記録はなく、太陽では起きていない」と反論。柴田教授は「観測機器が発達していない時代に肉眼で見えないスーパーフレアは観測できない」として「今後、発生を示す科学的な補強材料を見つけたい」という。

YOMIURI ONLINE 2012年5月17日


◎巨大な太陽フレア
◎CNN
◎“金環日食”どころじゃない!“太陽の大異変”が地球を襲う
◎NICT 宇宙天気情報センター
◎NASAが撮影した巨大な太陽フレア

2012-02-03

リチャード・ドーキンスが語る「奇妙な」宇宙


 生物学者のリチャード・ドーキンスが、人間の視点から宇宙を理解することが どれほど難しいか考えながら「ありえないことを想像する」ことについて論じます。2005年7月 TEDGlobal 2005。







利己的な遺伝子 〈増補新装版〉神は妄想である―宗教との決別虹の解体―いかにして科学は驚異への扉を開いたか進化の存在証明

神経質なキリスト教批判/『神は妄想である 宗教との決別』リチャード・ドーキンス