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2021-09-13

新しい信念と古い信念が拮抗する/『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ


『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』ジャック・D・シュワッガー
『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』矢口新
『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー
『一目均衡表の研究』佐々木英信
『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ

 ・「正しい分析」が身を滅ぼす
 ・スロットマシンプレーヤーの視点
 ・新しい信念と古い信念が拮抗する

『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス
『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス
『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』カーティス・フェイス
『ワイルダーのアダムセオリー 未来の値動きがわかる究極の再帰理論』J・ウエルズ・ワイルダー・ジュニア
『フルタイムトレーダー完全マニュアル』ジョン・F・カーター
『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA
『なぜ専門家の為替予想は外れるのか プロが教える外国為替市場の不都合な真実』富田公彦
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

【私たちが信念として採り入れる新しい考えや概念は、それまで本当だと思っていた考えや概念のうちで、新しいものと対立や矛盾をするもののエネルギーが減った程度に応じてしか、機能しない。】(中略)
 採り入れようとしている新しい信念が十分に機能するためには、それと対立している信念が完全に働かなくなる必要がある。それがまったく機能しないと確信するためには、エネルギーがすべて放出されて、その信念が崩れる必要がある。私が話していることを分かりやすく説明するために、薪で考えよう。薪は木という物質を構成する原子や分子から成り立っている。これを原子以下のレベルで見ると、木はエネルギーとして存在する。薪に火をつけたら、木のエネルギーは放出されて、薪は灰と化す。木は灰になったが、いまだに存在する。しかし、灰となってしまっては、薪のようなエネルギーはもはやない。
 私たちはもう自分の目的には役立たないと考えた信念を打ち壊す場合も、まったく同じことが当てはまる。

【『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ:長尾慎太郎〈ながお・しんたろう〉監修、山口雅裕〈やまぐち・まさひろ〉訳(パンローリング、2017年)以下同】

 思考には人を動かし人を縛るほどのエネルギーがある。ソ連を支配してきた共産主義の呪縛を解いたのもミハイル・ゴルバチョフ大統領が掲げた新思考外交ペレストロイカグラスノスチであった。

 大衆は潮位のような変化しか感じないが、最初の一波はドラスティックな飛沫を散らす。人々の抑圧された精神に亀裂を入れるのは一人の人間に他ならない。常識は少しずつ変わりゆくが、古い思考の鎖を断ち切るのはたった一つのユニークなアイディアだ。

 それにしても冒頭の一節が凄い。ビジネスマンでこれほどの哲学性を有する人物が果たして何人いるか。ゾーン三部作は明らかに唯識を志向している。

合理性を阻む宗教的信念/『思想の自由の歴史』J・B・ビュァリ:森島恒雄訳

【私たちは信念を初めから存在しなかったかのように消し去ることはできない。だが、情報の受け止め方や行動の仕方に何の影響も及ぼさないように、信念から十分なエネルギーを奪い取ることはできる。つまり、信念のエネルギーが非常に小さくなれば、事実上、存在しないのとおなじになる。】

 新しい信念と古い信念が拮抗(きっこう)する。例えばこうだ。投資で利益を出し続ける人は数%に過ぎない。なぜか? 多くの人々は「容易に金儲けができることをよしとしない」からだ。それは幼い頃から労働と対価について刷り込まれているためだ。あるいは「カネは汚いもの」という日本特有の文化もあろう。更には意図的に「自分を罰する」場合すらある。無意識や深層心理がトレードを支配するのだ。

 ここまでくると業(ごう)の概念そのものである。つまり業もまたエネルギーなのだ。新しい信念は過去の否定から生まれる。歴史は学ぶべき対象であって信じるものではない。思い込みを一掃すれば、心の中に新しい風が吹き流れる。その空隙(スペース)を確保できるかどうかが問われる。

2021-09-08

スロットマシンプレーヤーの視点/『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ


『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』ジャック・D・シュワッガー
『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』矢口新
『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー
『一目均衡表の研究』佐々木英信
『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ

 ・「正しい分析」が身を滅ぼす
 ・スロットマシンプレーヤーの視点
 ・新しい信念と古い信念が拮抗する

『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス
『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス
『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』カーティス・フェイス
『ワイルダーのアダムセオリー 未来の値動きがわかる究極の再帰理論』J・ウエルズ・ワイルダー・ジュニア
『フルタイムトレーダー完全マニュアル』ジョン・F・カーター
『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA
『なぜ専門家の為替予想は外れるのか プロが教える外国為替市場の不都合な真実』富田公彦
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

 つまり、こういうことだ。
 まず、スロットマシンの結果はまったくランダムなので、勝ちも負けもいつ、いかなる順序でも現れる。そのため、私たちは毎回、勝つとは思わないようになる。そして、毎回勝つと思っていなければ、ほかに起きることは負けることだけだと間違いなく分かる。
 第二に、たとえスロットマシンに組み込まれたコンピューターチップがランダムに結果を出すように設計されていると知っていても、チップにどういう力が働いて勝ち負けが決まるのかはまったく分からない。そのため、ボタンを押すかレバーを引いてマシンを動かしたあとに、どういう結果が出るかを絶えず正しく予測する合理的な方法はない。先程述べたように、結果がランダムなことははっきりしているので、結果を予測しようとするのは無意味だということはすぐ分かる。
 第三に、プレーの過程で私たちが決める必要のあることは何もない。つまり、結果に影響を及ぼすためにできることは何もない。だから、結果をコントロールすることはできない。私たちが確実に勝つ方法はないし、プレーをしないこと以外に損を止める方法は絶対にない。
 第四に、勝ち負けを支配する条件をコントロールすることはできないし、結果を予測するどんな方法もないと知っていれば、ほかの場合なら結果に対して感じる責任を感じないで済む。結果に対して責任がなければ、勝たなかったときに自分を負け犬や失敗者、あるいはどこかおかしいと考える必要はない。
 負けたときに自分を責める必要がなければ、負けた経験によって、本当に負けているとは感じない。

【『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ:長尾慎太郎〈ながお・しんたろう〉監修、山口雅裕〈やまぐち・まさひろ〉訳(パンローリング、2017年)以下同】

 所謂、ランダム・ウォーク理論である。マーク・ダグラスが主張するのは、偶然がマーケットを支配するのだから徹底してトレードルールを守れということに尽きる。スロットマシンプレーヤーはまさしく偶然に賭けている。確率や統計をもってしてもスロットマシンで勝ち続けることは無理だろう。感覚的には宝籤に近い。

 上記テキストの直前にこうある。「これは人生で起きることに対する感情的な反応が、その人の見方にどれほど影響されるかの好例だ」。そしてスロットマシンプレーヤーの特長は「マイナスの感情から自由」なところにあると。

 一つ悟った。ブッダが説いた因果は我々が感じる因果とは別次元であることを。凡夫の因果を支えているのは「感情」なのだ。苦痛、恐怖、嫉妬、劣等感、怒りなどの感情は、傷ついた自我から生まれるものだ。その状態をブッダは三悪道四悪趣と説いた。例えば恋心を抱く女性に自分の想いを打ち明けたとしよう。彼女は少し沈黙した後で「あなたのことは決して嫌いじゃない。でも、できることならお友達のままでいて欲しい」と告げる。男は奈落の底に叩きつけられる。「自分には男としての魅力がない」「体よく断られただけで『嫌いじゃない』なんて言葉にしがみつくほど俺は落ちぶれていない」「『あんたなんか不特定多数の友人の一人よ』と言われたも同然だ」――背中には非モテ系男子の烙印が連打される。ま、こんな具合だろう。

 いじめられた、受験に失敗した、就職試験が不採用だった、顧客からのクレームに対応しきれなかった、結婚できなかった、離婚した、子供が真っ直ぐ育たなかった、リストラされた、などなど、不確実性を思い知らされることはしばしばある。しかしながら、「だから自分は駄目なんだ」という結論を導くのは誤っている。なぜなら本当の原因や理由を我々は知ることができないからだ。

 ところが我々は特定の結果から誘引される感情に支配されてしまう。人間関係にまつわる悩みは相手と自分の直線関係でしか問題を捉えていない。ともすると「あいつのせいで」「あいつさえいなければ」と考えがちだが、後で振り返ると自分の誤解だったということも決して少なくない。ヒトの脳には時系列で関係のない出来事を因果と結びつける癖がある(宗教の原型は確証バイアス)。

 スロットマシンをやっているうちに、私たちはある時点で次のことを受け入れる。

1.何が起きるか分からない。
2.これから起きることを知る方法はない。
3.起きることに何の影響も及ぼせない。

 これはまったく不確かでランダムだ。【まったく不確実でコントロールできないものだ。】

 全く当たり前のことだ。ところが現実は違う。なぜなら我々は予測しなければ一歩も動くことができないからだ。人間の行動は予測することで成り立っている。道を歩いていても、無意識の内に落とし穴や地雷がないことを予測している。古女房が作った味噌汁に毒が入っていないことを予測し、電車の運転士が二日酔いでないことを予測し、勤務先の高層ビルに2機の飛行機が突っ込んでこないことを予測している。

 現在に留(とど)まる修行を「止観」と訳したのはさすがである。高速回転するコマの状態だ。誰もが幸福を願う。現在が不幸ゆえに。明日なき今日を生きるのが仏道だ。必然と偶然の物語から離れて、「ただ在る」今に生きることが正しい。

 感情の本来の目的は、コミュニティを正常に維持するためのシグナルであったように思われる。

 スロットマシンプレーヤーの視点に立つのはそれほど難しいことではない。わからなければ実際にスロットマシンをやってみればいい。

2021-09-06

「正しい分析」が身を滅ぼす/『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ


『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』ジャック・D・シュワッガー
『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』矢口新
『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー
『一目均衡表の研究』佐々木英信
『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ

 ・「正しい分析」が身を滅ぼす
 ・スロットマシンプレーヤーの視点
 ・新しい信念と古い信念が拮抗する

『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス
『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス
『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』カーティス・フェイス
『ワイルダーのアダムセオリー 未来の値動きがわかる究極の再帰理論』J・ウエルズ・ワイルダー・ジュニア
『フルタイムトレーダー完全マニュアル』ジョン・F・カーター
『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA
『なぜ専門家の為替予想は外れるのか プロが教える外国為替市場の不都合な真実』富田公彦
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

 分析によって生じかねない誤った安心感は幻想だ。自分自身の考え以外にその安心感の裏付けになるものはないからだ。リスクが消え去ったように見えるのは、それが本当だからではなく、本当だと自分が信じているからだ。本当に分かっているのは、売買注文はあらゆる市場参加者からどの瞬間にも取引所に入ってくる可能性があるということだ。それらの注文理由はあらゆることが考えられるし、注文数も実質的に制限はない。だから、ほかのトレーダーがどんな理由で何をするか「分かる」と信じていても、それは自分の頭で「ひねり出した」ものだ。なぜなら、それが本当だと証明できるどんな情報も入手できないからだ。
 混乱している人がいるといけないので、はっきりさせておきたい。勝ったときに、ほかのトレーダーたちが価格を自分の有利な方向に動かした理由の分析が正しいこともあり得る、という考えが幻想だと言いたいのではない。そうした分析が正しいか、正しかったと「分かる」という考えから幻想が生じる、と言いたいのだ。一見すると、これはわずかな違いに思われるかもしれない。しかし、リスクをどう認識して、それについて何をして何をしないかを決めるときに、「明確な分かる」と「ひょっとするとあり得る」とでは、天と地ほどの違いが出る。着実な成果を上げるという観点からこの違いを見れば、トレードにおける誤りとみなされる行為はいずれも、「分析に対する幻想」から生じるのだ。
 つまり、予測が正しい理由を適切に分析していると信じているから、自分が勝つのが分かると思うようになるのだ。私たちが犯しやすいあらゆる誤りを考えると、分析をしたから「自分には分かる」という考えでトレードに取り組めば、たとえ分析が結果的に当たっても、保証されるのは着実な成果が得られないということだけだ。

【『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ:長尾慎太郎〈ながお・しんたろう〉監修、山口雅裕〈やまぐち・まさひろ〉訳(パンローリング、2017年)以下同】

 仏教では将来という言葉を使わない。必ず未来とする(『仏教と精神分析』三枝充悳、岸田秀)。「将(まさ)に来(きた)る」は予測をはらんでいる。「未(いま)だ来らず」はランダム・ウォーク理論である。その意味から申せば「外典に曰く未萠(みぼう=未来)をしるを聖人(しょうにん)という内典(仏典)に云く三世(さんぜ)を知るを聖人という」と解釈した日蓮は誤っている。過去~現在~未来(三世)と因果関係を辿るのは科学である。

 本書はゾーン三部作の最終章となっているが、その内容からすれば最初に読むべきである。マーク・ダグラスの遺稿と夫人の共著であるが前二作が理解できない読者を想定している。

「わかった」と思い込めば不可知の可能性は消える。物理の世界はニュートン力学~相対性理論~量子力学と視野を拡大してきたが、現在に至ってもまだ全てを説明できるわけではない。量子論においては素粒子の存在すら確率として示される。その上、素粒子は粒でもあり波でもあるというのだから我々が認識する「ある」が大きく揺らぐ。五蘊仮和合(ごうんけわごう)の「仮」の字を思うのは私だけではあるまい。

 人間は不完全な情報システムである(『なぜ、脳は神を創ったのか?』苫米地英人)。複雑系科学やビッグデータは直線的な因果関係を超越した。

 そもそも、「わかる」とは「分ける」ことである(坂本賢三)。我々が知り得るのは部分情報に過ぎない。そして部分をいくら集めたところで創発を見出すことは困難だ。

「分析をしたので、自分は正しい」という考えを持ちつつ動くことのマイナス面は何か

 第一に、ドローダウン(資産の最大下落)が破滅的なほど大きくなりやすい。(中略)
 第二に、分析に幻想を抱きながらトレードすると、リスクを認識しないというトレードの典型的な誤りを犯しているときでも、それに気づかない。(中略)
 第三に、個々のトレードで正しくあろうとして分析をしていれば、間違いなく分析の堂々巡りに陥る。

「正しい分析」が身を滅ぼすのだ。投機の機とは確率の異名だ。飽くまでも確率の優位性に注目すべきである。分析に固執すれば損切りできなくなる。なぜなら「相場の動きが誤っている」との結論を導き出すからだ。

 マーク・ダグラスが説くのはまさしく「無知の知」である。しつこいほど同じことを繰り返し、言葉を変えて読者に訴えているのは、最初の思い込みを外すことの難しさを示している。

2021-06-05

オプション取引を学ぶ/『実戦のためのオプション』田中勝博


 八百屋にバナナを現金で買いに走るのが、現物取引。現金ではなくツケで買いに走るのが先渡し取引(フォワード取引)、1ヶ月後のバナナ購入を予約して、さらにキャンセル(反対売買)するかも知れないよと声を掛けるのが先物取引、家にあったリンゴを持ち出して、交換してよ!と頼むがスワップ取引、そして1ヶ月後に買う権利を頂戴!と頼むのがこれから勉強するオプション取引です。蛇足にはなりますが、リンゴとバナナの交換を将来の権利として売買するのがスワプション取引です。

【『実戦のためのオプション』田中勝博〈たなか・よしひろ〉(シグマベイスキャピタル、1998年)】

 2017年に読んだ。もちろん挫折している。オプションの概念を会得するのは難しい。時折思い出したようにオプション本を読んできたが一向に理解が進まない。買う権利(コールオプション)の買いと売りがあり、売る権利(プットオプション)の買いと売りがあるのだ。


 オプション最大の問題は「売り」の方が圧倒的に高確率で勝てるのだが、相場が大きく逆方向に動くと無限大の損失を被る点である。


 クレジット・スプレッドという手法を組めば損失は限定できるが、それでも素人が手を出せる世界ではない。

 本来は先物のヘッジとしてオプションは取引されている。例えば日経225先物を買った場合は、オプションのコールの買いかプットの売りを入れるという具合だ。要は日経先物の損失をオプションでカバーするのだ。もちろん利益も少なくなるわけだが、投資は生き延びてなんぼの世界なので確率の優位性に賭けるのが正しい。

 では手の内を明かそう。FRBは2022年まで量的緩和政策を継続するので株価は上がることが予測される。日経平均はかなり出遅れているため、史上最高値を更新し続けるダウが頭打ちになれば、アメリカのマネーが日本に流れ込む可能性もある。そう考えて私は5月から日経平均を買った(CFD)。

 今考えているのは来年以降の動きだ。2021年夏に開催されるダボス会議のテーマは「グレート・リセット」である。資本主義の支配者がこう掲げる以上、確実に世界システムは変更されるのだろう。新型コロナウイルス騒動はまさしく渡りに舟だ。米大統領選挙における民主党の勝利や、ゼロ炭素社会というムーブメントを鑑みると今後の世界は社会主義的色彩が強まるような気がする。

 リセットするためには大衆を手懐(なず)ける必要がある。つまり何らかのショック療法が行われるに違いない(『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン)。行き過ぎた資本主義の誤りを思い知らせるにはマーケットの暴落が一番手っ取り早い。失業率が高まれば国民は国家に依存する。大衆が放心状態に陥った瞬間が次代を築くきっかけとなるだろう。

 というわけで、「プットオプションの買い」一手で下げ相場に対応できるかどうかを勉強中である。

2021-02-19

「連想」ではなく「類推」と訳すべき/『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス


『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』ジャック・D・シュワッガー
『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』矢口新
『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー
『一目均衡表の研究』佐々木英信
『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ
『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ

 ・「連想」ではなく「類推」と訳すべき

『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス
『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』カーティス・フェイス
『ワイルダーのアダムセオリー 未来の値動きがわかる究極の再帰理論』J・ウエルズ・ワイルダー・ジュニア
『フルタイムトレーダー完全マニュアル』ジョン・F・カーター
『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA
『なぜ専門家の為替予想は外れるのか プロが教える外国為替市場の不都合な真実』富田公彦
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

必読書リスト その二

連想

 連想とはわれわれの思考方法のひとつで、類似する外部世界の情報が自動的に関連づけられることである。その形態は次の二つに大別される。そのひとつは顕著な特徴を持つ人間や物体などを区別し、それらを類似するグループに分類することを指す。(中略)
 連想のもうひとつの形態は、外部からの知覚情報をある出来事と関連づけることである。

【『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス:関本博英〈せきもと・ひろひで〉訳(パンローリング、2007年)】

 たとえ原書が「association」であったとしても、ここは「類推」と訳すべきだ。致命的なミスといってよい。

アナロジーは死の象徴化から始まった/『カミとヒトの解剖学』養老孟司

 マーク・ダグラスの科学的視点が「連想」だとぼやけてしまう。小さなことではあるが見逃せない瑕疵(かし)だ。

2021-02-17

外国為替は資産ではない/『なぜ専門家の為替予想は外れるのか プロが教える外国為替市場の不都合な真実』富田公彦


『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』ジャック・D・シュワッガー
『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』矢口新
『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー
『一目均衡表の研究』佐々木英信
『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ
・『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス
『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス
・『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ
『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』カーティス・フェイス
『ワイルダーのアダムセオリー 未来の値動きがわかる究極の再帰理論』J・ウエルズ・ワイルダー・ジュニア
『フルタイムトレーダー完全マニュアル』ジョン・F・カーター
『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA

 ・外国為替市場でテクニカル分析は絶滅した
 ・外国為替は資産ではない

『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

【FXつまり外国為替市場は、資産運用の場ではありません。
 外国為替は、株式や債券、不動産などといった資産ではない】からです。資産ではないものを対象として、どうやって「資産運用をする」というのでしょう? まったく違う世界のものだからこそ、株式や不動産などの「資産」との価格の連動性が低いのです。

【『なぜ専門家の為替予想は外れるのか プロが教える外国為替市場の不都合な真実』富田公彦〈とみた・きみひこ〉(ぱる出版、2015年)以下同】

 ドルとダウは連動性が低いが、円と日経平均には連動性がある。ただし「外為が資産ではない」との指摘に眼を開かれる。その価値は金利差分でしかなく、価格の上下動によってあっさりと吹き飛ぶ範疇に収まる。しかも経済政策は緩やかなインフレを目指すため通貨の価値は常に押し下げられる。

 為替取引の優位性はその流動性と24時間可能な取引時間にある。株式相場は9:00~15:00(昼休み1時間を含む)までだからザラ場を見ることが難しいサラリーマンも多いことだろう。その上株式の場合、売買が白熱すると値がつかないことも多い。FX会社はそこに目をつけたのだろう。「外国為替市場は、資産運用の場ではありません」。しかし利殖の機会ではある。

 ひとこで言えば、外国為替市場とは「【通貨と通貨との交換比率に賭ける鉄火場】」です。世界中のプロが、壮絶な闘いの末に瀕死の重症を負ったり、あえなく討ち死にしたりしている場所です。素人が、用もないのに近づくところではありません。

 プロの本音といえば聞こえはいいが、ではなぜプロが通貨の取引をするのか? それは圧倒的な流動性があるからだ。よもや実需筋の外貨調達だけで仕事をしているわけではあるまい。

 最後に味わいのあるテキストをいくつか紹介しよう。

 相場の世界で「もし」などと言ったら、「お前はもう死んでいる」と言われるのが関の山です。

 外資系の世界は、徹頭徹尾「【性悪説の世界】」です。

【他人の相場観に頼る人は、プロではありません】。

 したがって、【「ヘッジファンドが動いた」という情報は、すべて作り話】ということになります。

 マネーと欲望で描くのがマーケットという物語である。全プレイヤーの合意が価格として示され、上昇と下降を繰り返す。真実は値動きのみ。乗るのも降りるのも自由なだけに規律を欠けば、いつでも破滅が待っている。

2021-02-15

外国為替市場でテクニカル分析は絶滅した/『なぜ専門家の為替予想は外れるのか プロが教える外国為替市場の不都合な真実』富田公彦


『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』ジャック・D・シュワッガー
『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』矢口新
『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー
『一目均衡表の研究』佐々木英信
『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ
・『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス
『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス
・『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ
『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』カーティス・フェイス
『ワイルダーのアダムセオリー 未来の値動きがわかる究極の再帰理論』J・ウエルズ・ワイルダー・ジュニア
『フルタイムトレーダー完全マニュアル』ジョン・F・カーター
『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA

 ・外国為替市場でテクニカル分析は絶滅した
 ・外国為替は資産ではない

『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

 プロの世界でも、生き残ったのはごく一部の方だけです。
【FXで安定的に儲け続けることは、九分九厘不可能です。】
 大勢のプロの方々が、最後には損をして静かに消えていくのを、わたしはこの目で31年間見続けてきました。生存率1パーセント未満という世界です。

【『なぜ専門家の為替予想は外れるのか プロが教える外国為替市場の不都合な真実』富田公彦〈とみた・きみひこ〉(ぱる出版、2015年)】

 富田公彦はJPモルガン・チェースのディーラーを務めた人物で、現在は中西健治参議院議員(自民党、神奈川選挙区)の政策秘書をしている。文章が平易で読みやすい。テレビCMで頻繁に見るようになったFX取引への警鐘を鳴らす内容となっている。

 外国為替市場というサーキットでは、プロのドライバーが猛烈なスピードでしのぎを削っています。プロは、高性能のF1マシンに乗り、強力なサポート・チームを引き連れて戦っています。それでも悪戦苦闘の連続で、安定的な収益を上げることができていません。
 そんな場所は、近所の販売店で買った量産車に乗ってサポートもなしに参戦してきた人がいます。個人投資家のみなさんです。

 けんもほろろの言い草で、amazonレビューの低い評価はさしずめFX個人投資家によるものだと思われる。富田に言わせれば「一昨日来やがれ」ということなのだろう。一番驚かされたのは以下の記述である。

 最大の懸念材料は、ほぼすべての方がテクニカル分析とかチャート分析(以下、テクニカル分析)と呼ばれる手法をとっていることです。
 これは正直言って驚きました。なぜなら、実は、この【テクニカル分析という投資法・分析手法は、外国為替市場のプロの世界ではずい分前に絶滅してしまったもの】だからです。
 おそらく今世紀のはじめには、世界中の主要な金融機関や運用会社からは消えていたはずです。成功された個人投資家のみなさんは、この事実をご存じなかったのだと思います。

 吃驚仰天である。随分前に読んだのでうろ覚えだが、結局は「ただ、値動きについてゆくだけ」みたいなことが書かれていたはずだ。通常、投資手法はテクニカル分析とファンダメンタルズ分析に大別できる。ファンダメンタルズとは経済の基礎的条件である。再度確認しよう。

 まず、誤解のないように申し上げておきます。テクニカル分析が絶滅したのは、あくまで外国為替市場です。
 さらに言うならば、「【外国為替市場の人間が、株式市場から勝手に持ち出してきて、使ってみたら大失敗だった】」という話です。わたしもその一人です。若い頃に異常なまでに没頭し、みずからの手で「役に立たない」ということを証明するハメになってしまいました。

 富田が外国為替のプロであることに疑問の余地はないが、説明能力が劣っているのもまた確かである。テクニカル分析以前にはチャートがなかったのだろうか? チャート研究はテクニカル分析そのものである。また、「ただ、ついてゆくだけ」ということはレートパネルの動きだけを見ていると思われるが、もしもそれで勝てるなら短期間で億万長者になっているはずだ。富田がやや狡(ずる)いのは自分の成績を明かしていない点にも現れている。

 実際、世界の富豪は殆どが株式による含み益や配当で富を増やしており、為替長者という存在は聞いたことがない。なぜなら外国為替は資産ではないからだ。

2021-02-11

トレーディングにおける七つの大罪/『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ


『マーケットの魔術師 米トップトレーダーが語る成功の秘訣』ジャック・D・シュワッガー
『実践 生き残りのディーリング 変わりゆく市場に適応するための100のアプローチ』矢口新
『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー
『一目均衡表の研究』佐々木英信

 ・トレーディングにおける七つの大罪

『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ
・『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス
『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス
『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』カーティス・フェイス
『ワイルダーのアダムセオリー 未来の値動きがわかる究極の再帰理論』J・ウエルズ・ワイルダー・ジュニア
『フルタイムトレーダー完全マニュアル』ジョン・F・カーター
『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA
『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』富田公彦
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

第5章
 トレーディングにおける7つの大罪
 いかに戦い、打ち勝つか

 第1の大罪――すぐに損切りできないこと
 第2の大罪――利益を勘定すること
 第3の大罪――時間軸を変更すること
 第4の大罪――より多くを知ろうとすること
 第5の大罪――過度に自己満足に陥ること
 第6の大罪――間違った勝ち方をすること
 第7の大罪――正当化

【『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ:林康史〈はやし・やすし〉監訳、藤野隆太〈ふじの・りゅうた〉訳(日経BP、2002年)以下同】

 何となく男女関係を思わせる価値観である。第3の大罪は結婚を先延ばしにする無責任な男か(笑)。トレードとは交換の意である。その意味ではあらゆる経済行為がトレードといってよい。日常生活では「買う」と表現するが、トレード意識を持つことが重要だ。給与も同様である。一度時給換算をしてみるといい。

 個人的には第6と7の大罪が身につまされる。トレードは裁量であろうとシステムであろうと手法である。ゆえに勝ち方・負け方が問われる。結果オーライという考え方もあろうが、飽くまでも長期的視点に立つのが正しい。誤った勝ち方をすると取り返しのつかない癖がついてしまう。更にその結果を正当化すると「誤った成功体験」として記憶される。「あの時上手くいったから今度も大丈夫だ」という保証はない。マーケットは生き物なのだ。

 我々のアプローチはテクニカル手法である。マーケット心理の変化を反映し、信頼できるさまざまなチャートに基づく。チャートには、買い手と売り手の力関係が変化した瞬間を特定できるパターンがある。
 チャートはマネーの動きの足跡とでもいうべきものである。チャートは嘘をつかない。トレーダーにとってマーケットは患者なのであり、チャートは患者の内部を映し出すレントゲン写真なのである。

 アメリカの現役プロトレーダーの間では既にテクニカル手法は絶滅したと伝えられるが、チャートを丸っきり見ない人はいないだろう。それがどのような足であろうと建玉をする際はチャートを確認するはずだ。

 投資はゴルフ以上にメンタルの作用が大きい世界である。手法よりもメンタルが問われると言ってよい。

 私は横書きというだけで本を放り投げてしまうことが多いのだが、本書は最後まで読ませられた。

2021-01-21

思想はエネルギーである/『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス


『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ
『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ
『規律とトレーダー 相場心理分析入門』マーク・ダグラス

 ・ランダムな報酬が“嬉しい驚き”となる
 ・思想はエネルギーである

『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ
『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』富田公彦

 一貫して勝つ人間には、他人とは違った思考力があるのだ。

【『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス:世良敬明〈せら・たかあき〉訳(パンローリング、2002年)以下同】

 思考は内容よりも癖が問われる。つまり「何を考えるか」よりも、「どう考えるか」である。単純に分ければ楽観と悲観になるのだが、思考の方向性を決めるのは感情や成功体験であろう。そこにその人の世界が広がっている。

 成功体験というのは好きな言葉ではない。自己肯定体験と言い換えた方がよさそうだ。成功はあまりにも社会的な価値に隷属している。クルクルと変転する社会の波を巧みに泳いだところで人間性が磨かれるはずもない。

 私の先輩にスーパー営業マンがいる。彼は明らかに人とは違う発想の持ち主だった。更に「自分大好き人間」でもあった(笑)。以前、「人間として自己採点するなら何点?」と尋ねたことがある。「100点だな」と即答しきたので驚いた。「小野ちゃんは?」と訊かれたので「70点」と答えた。ま、及第点だ。

 思想はエネルギーである。言語で考えているため、自分の思想は、自分の考えている特定の言語にのっとった制限や規則で構造化されている。声に出して自分の思想を表現するとき、音波を作り出している。それもエネルギーの形だ。音は声帯が作用して発せられ、声色は自分のメッセージの内容で構造化されている。マイクロ波はエネルギーである。電話の音声がマイクロ波によって中継されているが、その伝達するメッセージを示すために、マイクロ波のエネルギーは構造化されていなければならない。レーザー光線はエネルギーである。今までにレーザー光線を用いたショーや、レーザー芸術の公演を見た経験がないだろうか。そのとき目にしているのは、純粋なエネルギーが、その芸術家の創造的願望を反映した形を描いているものなのである。

「思想」というとイデオロギーの悪臭がして日本人にはわかりにくいが、思念や念慮に置き換えれば理解可能だ。「一念岩をも通す」の一念だ。「思い」は泉のように湧くものだ。世界を映す鏡が私なら、思いと言葉は反射である。鏡は光も闇も映すことができる。

 羽生丈二〈はぶ・じょうじ〉の「思え。ありったけのこころでおもえ」(『神々の山嶺』夢枕獏)、また山野井泰史〈やまのい・やすし〉の「生きてるか!」(『凍(とう)』沢木耕太郎)といった言葉は生のエネルギーそのものだ。

 先日、知り合いのお年寄りが亡くなった。思い出されるのはその声である。記憶の中にある声が私の脳を振動させる。彼のバイブレーションは私の中で今も息づいている。

 思想よりもむしろ声こそがエネルギーであると思う。その点、プロの歌い手は羨ましい限りだ。その歌声は死しても尚、様々な音源となって多くの人々の心を潤すのだから。

ギャンブルは「国家が愚か者に課した税金」/『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会

 ・お金持ちになる方程式
 ・ギャンブルは「国家が愚か者に課した税金」

『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦

必読書リスト その二

 共産主義の国家では頭のいい人間は権力者の脅威になるので見つけてはいろいろと難癖をつけて、みんなの前で銃殺するのがお決まりのパターンですが、資本主義の国家では逆に頭が悪いということは大変重い罪で、その罪を償うためにこのようなさまざまな「税金」を払う必要があります。

 ギャンブルは「国家が愚か者に課した税金」といわれる所以です。

【『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希〈ふじさわ・かずき〉(ダイヤモンド社、2006年)】

 弱者は奪われる。自由を。ヤクザの賭場はテラ銭が20%といわれる。公営ギャンブルの控除率は25%前後で、宝くじやサッカーくじは50%を上回る。支払った瞬間にお金を失っているわけだから愚か者と言われても文句はあるまい。

 幸か不幸か私はギャンブルとは無縁だが、賭け事が古代からあったことは何となくわかる。幼い頃におやつなどを賭けたことは多くの人が経験しているに違いない。運試しは未来を占う行為だが現在性を強く自覚させる。ギャンブルと言えば聞こえは悪いが保険はギャンブルを通して発達した。自分が災難に遭う方に賭けるのが保険である。投資取引をトレードというが「交換」が原義である。リスクとリターンの交換といってよい。

 ギャンブルの依存性が高いのは「ランダムな報酬が“嬉しい驚き”となる」ためだ(『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス)。性的快楽を感じるのと同じ脳の部位が反応するとされる。本能を刺激するわけだから一旦ハマると中々やめることができないのだろう。脳がハッキングされた状態になるのだ。

 現在では煙草もまた「国家が愚か者に課した税金」となりつつある。今日もまた私は納税にいそしむ。

2017-11-20

お金持ちになる方程式/『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希


『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント 経済的自由があなたのものになる』ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015 知的人生設計のすすめ』橘玲
『世界にひとつしかない「黄金の人生設計」』橘玲、海外投資を楽しむ会

 ・お金持ちになる方程式
 ・ギャンブルは「国家が愚か者に課した税金」

『国債は買ってはいけない! 誰でもわかるお金の話』武田邦彦

必読書リスト その二

 お金持ちになる方法はたったひとつの方程式で完全に記述できます。

 資産形成=(収入-支出)+利回り×資産

 もう少し具体的に書くと、次のようになります。

 1年間で増える財産=(年間総収入-年間総支出)+年率運用利回り×運用資産

 このお金持ちになるための秘密の方程式にあいまいな点は全くありません。完全に正しい方程式です。要するに、お金持ちになるためには、(1)収入を増やすか、(2)支出を減らすか、(3)利回りを上げて投資からの収入を増やすという、みっつの方法しかないことがわかります。
 作家の橘玲さんによると、世の中の「金持ち本」は、すべてこのみっつのうちのどれかに分類できるそうです。

【『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希〈ふじさわ・かずき〉(ダイヤモンド社、2006年)以下同】

「あ!」と思った人は金持ちになれる。「なーんだ」と思えばそれまでのこと。所詮、足し算引き算なのだ。そして資産形成を左右するのは利回りである。利回りは時間を経るごとに大きな力を発揮する。つまり若いうちからマネーの勉強をするのが正しい。

『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』から順番で読めば投資のリスク(不確実性)をすんなりと理解できる。素人の甘い考えは呆気なく吹き飛ばされる。これがファイナンシャル・リテラシーの第一歩である。

 このように借金をして何かに投資することを、ファイナンス用語で「レバレッジをかける」といいます。(中略)

 所持金の何倍に値する株式を持っているかを、レバレッジ倍率といいます。
 3倍のレバレッジをかけていれば、持っていた株が30%上がると、3倍の90%もうかります。100万円の所持金で、レバレッジなしで株を100万円買っていたら30万円しかもうからなかったのが、3倍のレバレッジをかけていれば一気に90万円もうかるのです。
 逆に30%下がるとどうなるでしょうか? レバレッジなしだと30万円の損失です。しかし、3倍のレバレッジをかけると損も3倍になるので90万円の損失になります。(中略)

 さて、マイホームの話に戻りましょう。実は自分の全財産の何倍もの借金をして家を買うというのは、レバレッジをかけているのと同じことなのです。例えば、頭金1000万円で5000万の物件を買うというのは、レバレッジ5倍に相当しますし、頭金が500万円ならレバレッジ10倍になります。ファイナンスの常識から考えると、非常にハイリスクな投資といえます。
 マイホームを買うという行為は、投資という意味では、株を買うのとまったく同じです。損することもあれば、得することもあります。
 買った後に、土地の値段や家賃の相場が上がり不動産価格が上昇すれば、投資は成功したことになりますし、逆に下がれば、投資は失敗でお金を損したことになります。

「レバレッジ」とはレバー(梃子〈てこ〉)の作用を意味する。証拠金に対して現物(株式)の信用取引は3倍、外国為替証拠金取引(FX)は25倍、商品先物・指数先物は30倍前後となっている。リーマンショック以降法規制が進み、かつては100倍ほどだったレバレッジも25倍前後で落ち着いている。また多くの証券会社は有効比率が100%を割り込むとストップ(強制執行)するシステムを導入しており、昔のように投資で借金を背負い込むことはほぼない(※最近ではスイスフランショックという例外あり)。

 マイホームは借金が残っている間の所有者は銀行である(『金持ち父さん 貧乏父さん アメリカの金持ちが教えてくれるお金の哲学』)。ここを錯覚させるところが貸し方のマジックである。20年、30年とローンを組んでいる間は借家と何ら変わりがない。

 尚、上記テキストの損得は注意が必要で、決済(マイホームを売る)しなければ損得は実現されない。手っ取り早く言ってしまえば買値よりも高く売れることが資産価値であり、これを投資と名づける。不動産は流動性リスク(=買い手が少ない)が高く、売りたい時に直ぐ売れるとは限らない。バブル景気以前の土地神話は復活するべくもなく、少子高齢化という現状を見れば不動産市場は長期的に低迷を避けるのが難しいだろう。

 先程ツイッターで以下の記事を知った。

株高の今「資産100万円」の人が株式投資で成功するための戦略とは?=鈴木傾城(すずき・けいせい)

 さすが世界の闇を見つめているだけのことはある。やはり投資で成功する人は目の付け所が違う。

 若い人に投資の優位性があるのはドルコスト平均法を長期展開できるからだ。株式であればインデックス(日経平均、ダウ平均など)に妙味がある。資本主義の未来を信じる人は株式に投資すればよい。ま、わたしゃ信じないけどね(笑)。米株もそろそろバブルだろう。何と言っても米ドルが信用ならない。東アジアの戦争→米ドル失墜→新通貨体制発足という青写真をアメリカが描いているような気がする。そもそもニクソンショックで紙幣という紙幣は裏づけを失い、ただの紙切れになったことを踏まえると実に危うい信用世界である。

 個人的にお勧めするのは金現物かビッドコインの積み立てである。紙(紙幣・株式・債権)の価値が下がれば商品(コモディティ)の価値が上がる。ただしゴールドは戦争となれば国家に押収される可能性が高まる。いずれにせよリスクを取らない者はリターンを得ることができない。

2017-08-05

テクニカル分析で有効性が証明されたものはひとつもない/『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA


『先物市場のテクニカル分析』ジョン・J・マーフィー
『一目均衡表の研究』佐々木英信
『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ

 ・テクニカル分析で有効性が証明されたものはひとつもない

『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』富田公彦
『なぜ投資のプロはサルに負けるのか? あるいは、お金持ちになれるたったひとつのクールなやり方』藤沢数希

 ついでにテクニカル分析について一言だけ述べます。初めて投資をする個人投資家の多くは、最初にテクニカル分析の本を手に取ります。テクニカル分析で有効性が証明されたものは、事実上、ひとつもないにもかかわらず、今でもテクニカル分析の本が存在しているということは、人間が進化の過程で獲得してきた優れた認知能力とその後の学習によって、何もないところに、パターンを見つけてしまう、あるいはパターンを見つけようとするからでしょう。テクニカル分析から得られるものは何もありません。

【『週末投資家のためのカバード・コール』KAPPA(パンローリング、2013年)】

 衝撃的な内容である。富田本によれば2001年以降、テクニカル分析をしているプロは一人もいないという。著者のKAPPAは東大卒の現役医師。「予想はよそう」との一言が重い。

 推論という認知システムがパターンというフィクション(虚構)を作り上げてしまうのだ。ヒトの脳は単調さに耐えることができない。

 それでも尚、過去の値動きはチャートに頼らざるを得ない。しかも多くの投資家がテクニカル分析を行っている以上、フィクションは共有されていると考えてよかろう。

 やはりランダム・ウォーク理論が正しいのか。とすると個人投資家が行っているのは酔っ払いの千鳥足が次に下ろされる場所を当てずっぽうで推測しているだけのことだ。

 実際は自分がやるか金融機関がやるかの違いがあるだけなのだが。

2016-03-05

ジム・ロジャーズ氏:「確率100%」で米国は1年以内にリセッション入り


 ロジャーズ・ホールディングスのジム・ロジャーズ会長は、米経済が1年以内にリセッション(景気後退)に陥ると確信している。

 同氏はブルームバーグテレビジョンのインタビューで、米経済が1年以内にリセッション入りする確率は100%だと言明した。

 ロジャーズ氏は「米国が前回リセッションを経験してから7ー8年が経つ。歴史的に見ても、理由はどうあれ4ー7年ごとにリセッションを経験してきた。少なくともこれまではずっとそうだった」とし、「必ずしも4-7年ごとというわけではないが、債務を見れば分かる。膨大な額だ」と続けた。

 米経済が1年以内にリセッション入りする確率については、大抵のウォール街のエコノミストは33%未満と予想しており、ロジャーズ氏よりずっと低い。

 ロジャーズ氏は無秩序なレバレッジ解消やリセッションを引き起こし得る要因について具体的には説明しなかったが、中国や日本、ユーロ圏で景気が沈滞・減速している状況は、米国に悪影響をもたらし得る経路が数多くあることを意味していると指摘した。

 その上で、投資家が正しいデータに注目すれば、米経済の回復が既に腰折れしつつある兆候が読み取れると説明した。

 ロジャーズ氏は「(米国の)給与税を見れば、既に横ばい状態なのが分かる」とし、「政府が発表する数字ではなく、現実の数字に注意を払うべきだ」と述べた。

 また将来に経済的混乱が生じるとの自身の予測に基づき、同氏はドルをロング(買い持ち)にしている。

 ロジャーズ氏はドルについて、「バブルの状態になる可能性さえある」と指摘。「世界的に市場が急落するというシナリオが現実になったとしよう。そうすれば誰もがドルに資金を振り向け、バブル状態になる可能性はある」と述べた。

 円については、通常はリスクオフの環境で買われる通貨とされているが、日本銀行のバランスシートが膨大かつ引き続き拡大していることから、逃避需要が発生した際に恩恵を受けなくなると分析。2月26日に自身の円のポジションを解消したと説明した。

 原題:Jim Rogers: There’s a 100% Probability of a U.S. Recession Within a Year(抜粋)

Bloomberg 2016-03-05

2015-08-21

われわれは将来のために貯蓄したり、投資したりしている人々を滅ぼしつつある


Q:今は普通の時代ではないのだろうか

A:現在起きていることは歴史的にも異例なことだ。過去数千年の歴史において、金利が0%だったり、マイナス圏に突入するなどということは一度もなかった。われわれは将来のために貯蓄したり、投資したりしている人々を滅ぼしつつある。そうした人々は、仕事もしていないのに4、5軒の家を頭金なしで購入した人々の犠牲となって破綻しかけている。われわれは歴史上のすべての社会が最も必要としてきた人々に大打撃を与えているのだ。

 投資をしたり貯蓄をしたりしている人々が大損害を被っているとき、その社会、経済、国には問題がある。米国はまさにそうしたことをしてきたのだ。将来のために貯蓄してきた人々のことを考えてみてほしい。彼らはバカみたいに見えるし、バカみたいだと感じてもいる。借金をした友人たちは、彼らの犠牲で救われているのだ。

ジム・ロジャーズ氏が不人気な資産を買っている理由

2015-04-14

優れたセルフコーチング術/『悩めるトレーダーのためのメンタルコーチ術』ブレット・N・スティーンバーガー


 自分の理想を表現できる役者などほとんどいない。われわれには長所もあるし才能もある。夢も野心もある。しかし、長い間見ていても、そうした理想が具体的に表現されている例は少ない。数日が数カ月になり、数年になり、ようやく(残念ながら決定的になった時点で)人生を振り返り、今まで何をやってきたのかと頭をひねるのが普通である。
 皆さんもそうだろう。「どうして闘う人間になれなかったんだろう。もしかしたら違う人生を生きていたかもしれないし、自分の理想を表現する役者になって、その実現を謳歌していたかもしれないのに」と、中高年者は過去を振り返る。

【『悩めるトレーダーのためのメンタルコーチ術 自分で不安や迷いを解決するための101のレッスン』ブレット・N・スティーンバーガー:塩野未佳〈しおの・みか〉訳(パンローリング、2010年)以下同】

 巧妙な詐欺師を思わせる文章だ。アメリカ人はプレゼンテーション能力が優れている。しかもブレット・スティーンバーガーは医科大学で精神医学と行動科学を教える准教授で臨床心理学博士という人物。ま、他人を操るのが仕事といってよい。タイトルに「メンタルコーチ術」とあるが正確にはセルフコーチング術である。動機の分析・修正・方向付けによって行動を変えるところに目的がある。

 良書だが乗せられてはいけない。著者は実社会で実現し得なかった自己実現が、あたかもマーケットでは可能であると読者に思わせたいのだろう。甘い、まったく甘いよ。マーケットの勝者は15%とされる。殆どの人々が苦渋を味わい、辛酸を嘗(な)め、敗れ去るといった点で実社会と何ら変わらない。ただしマーケットでは自由と平等が保証されている。買うのも売るのも自由だし、するしないも自由だ。

 自由競争が資本主義の原理である。だが実態は異なる。倒れかかったメガバンクや大企業には税金が投入され、会社内では同族が優遇され、学歴・資格・試験によって走るコースが変わる。スポーツの世界ですら自由競争が行われているかどうか怪しい。才能や技術よりも、カネやチームの都合が優先する。芸術の世界は多分スポーツよりも劣る。パトロンやコネ、賞などに支配されていることだろう。

 それでも義務教育を振り返ればわかるが、やはりスポーツ・芸術・学問は自由な競争が行われていると考えてよい。もちろん生まれ持った才能や素質はあるものの、周囲の評価は共通している。そして努力が報われる世界でもある。

 社会全般における競争はカネに換算される。資本主義はカネ(≒資本)の奪い合いをする世界の異名だ。学校法人や宗教法人までもが広告を打つのはそのためだ。あらゆる言葉がマーケティングを志向し、結果的にプロパガンダと化す。大衆消費社会は広告という嘘によって扇動される。

 そして自己を実現するのもまたカネである――と思い込まされるのが資本主義の罠だ。っていうか、「実現されるべき自己がある」と思っている時点で既にやられている。そんなものはない。今の自分が全てだ。他人と比較して自分に欠けたものを見出すことに意味はない。できないことは、できる人にやってもらえばいいのだ。

 日本人の大半は投資をしていない。でも、実は本人に代わって銀行や保険会社が運用している。自分で運転できないから、タクシーやバスを利用しているようなものだ。

 投資やマーケティングに関する書籍は生々しい言葉で競争の本質を描くところに魅力がある。

 頭脳には手とまったく同じパワーがある。世界を支配するだけでなく、それを変革するパワーが。
     ――コリン・ウィルソン

 こんな言葉が出てくるのだから、やはり侮れない。

悩めるトレーダーのためのメンタルコーチ術 (ウィザードブックシリーズ)
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2014-12-16

行き過ぎた格差にマーケットが鉄槌を下す/『富の不均衡バブル 2022年までの黄金の投資戦略』若林栄四


「米国GDPの70%以上を占める消費が、極めて少数の人たちの消費に依存している」という不健全な国の形であることが問題なのである。

【『富の不均衡バブル 2022年までの黄金の投資戦略』若林栄四〈わかばやし・えいし〉(日本実業出版社、2014年)】

 これを若林は「富の偏在による経済の不均衡」と指摘する。企業トップの報酬は近年、指数関数的に増えている。

 高い企業収益、低い法人税率、低い労働者の賃金というのは、いずれも1929年の株価大暴落前夜に酷似しているのである。

 富が公平に分配されていないとすれば、国家の機能が脆弱になっていると考えてよさそうだ。

 ともかく、こうした動きの結果、レーガン・アジェンダにより富の集中が一層進んでいるのである。
 1979年には「トップ1%の家族」が全米事業収入の17%を得ていた。2007年に同じグループは事業収入の43%を手に入れている。またこのグループは2007年の全米のキャピタル・ゲインの75%を得ている。
 グロテスクとしかいいようのない状況である。

 レーガン・アジェンダとはレーガノミクスのことだろう。レーガン大統領の市場原理に傾いた政策が双子の赤字を生んだ。この流れは子ブッシュ大統領によって加速度の限界を極める。新自由主義という名のもとに。

 アマゾンレビューの評価はボロクソであるが、それほど悪い本ではない。むしろ良書だと思う。文章に気取りや自己陶酔が散見されるが、それでもあの川合美智子の師匠である。学ぶべき点は多い。

 ダウ暴落の予測が外れたために多くの読者はこき下ろしているわけだが、私は外れたとは思っていない。まずテクニカルの読みとしては妥当なもので、オーバーシュート(行き過ぎた変動)は過剰なマネーサプライが原因であろう。アメリカに遅れて日本もマネーサプライを増やしているのだから、ダブついたマネーはちょっとした風でも大波になる。

 折しも衆院選挙投票日の前週からダウもドル円も下げ始めた。為替レートを決定するのは通貨の供給量である。FRBは既にQE3を終了しテーパリング(緩和逓減)を開始している。常識的に考えればもう一段の円安に向かう局面だが、ダウが大幅調整となればドル円も日経平均も引き摺られることだろう。

 いずれにしても全てが行き過ぎを示している。格差もドル円も原油も。マーケットが鉄槌(てっつい)を下すのも時間の問題だろう。

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極端な集中が国家を崩壊する/『2010年 資本主義大爆裂! 緊急!近未来10の予測』ラビ・バトラ
「大恐慌」は富に関する考察抜きには理解できない/『「1929年大恐慌」の謎 経済学の大家たちは、なぜ解明できなかったのか』関岡正弘
富の再分配と貧困の再分配/『無境界の人』森巣博

2014-12-02

リスクマネジメントを学ぶ/『伝説のトレーダー集団 タートル流 投資の黄金律』カーティス・フェイス


『伝説のトレーダー集団 タートル流投資の魔術』カーティス・フェイス

 ・リスクマネジメントを学ぶ

【不確実性】はリスクの源だ。われわれがもし、未来のありようを的確に見定めるすべを知っていたら、差し出されたリスクを引き受けるかどうかを、つねに潜在的な利得の見積もりだけで決めることができる。事の成否が予測可能であったり、確実であったりしたら、リスクなど存在しない。
 しかし、“妥当”な決断を下すのにじゅうぶんな情報が手もとにない場合もある。また、どんなに周到に調べても、あるいはどれだけの数の代案をどんなにくわしく検討しても、込み入った要素が多すぎて、未来の出来事を予測しかねる場合もある。1週間以上先の天気は、予測できない。一国の経済の変動は、予測できない。原油価格は、予測できない。ドルのレートは、予測できない。住宅市場の勢いは、予測できない。2カ月後のS&P500種株価指数の値は、予測できない。
 以上の例を整理すると、ふたつのタイプの不確実性が浮かび上がってくる。

【1 情報の不確実性……情報が不足していることによる不確実性】
【2 無秩序の不確実性……複雑すぎることによる不確実性】

【『伝説のトレーダー集団 タートル流 投資の黄金律』カーティス・フェイス:飯尾博信+常盤洋二監修、楡井浩一〈にれい・こういち〉訳(徳間書店、2009年)】

 アマゾンの評価が低いのは読者が投資手法を求めたことによるものだろう。それほど前著と内容が懸け離れている。まずタイトルに難あり。徳間書店が下劣な商魂を逞しくしたために読者をミスリードする結果となっている。内容は決して悪くない。

 一寸先は闇というのが仏教の立場で、「未来」という言葉は「未だ来(きた)らず」の謂(いい)である。ここに願望や計画が紛れ込むと「将来」(将〈まさ〉に来〈きた〉る)と表現する。仏典に将来という語は出てこない。

 未来のことはわからない。この事実が肚に据えられていないと不測の事態に翻弄される羽目となる。事故・病気・怪我・失業など不慮の出来事と遭遇するたびに嘆き悲しみ、人生を恨んでも仕方がない。正しい判断と迅速な対処が求められる。ただそれだけのことだ。

 投資もギャンブルも不確実性(リスク)に賭けるゲームだ。本質的には競争相手ではなく時間との勝負になる。つまり、より長くゲームに参加できれば必然的に勝ちを収めることができる。そこで問われているのがリスクマネジメントであり、ポジションサイズと損切りが命運を分かつ。含み損を強い意志で切ることができないプレイヤーはあっと言う間に退場させられる。

 不確実な世界においては、生起事象は既定のものとして扱われる。未来に何が起こるかを正確に予測することなどできない。精いっぱいの推測をするしかないが、それでさえはずれることが多い。【現われた結果に対処する最善の方法は、それを悪いこととしてではなく、“避けられない現実”として見ることだ】。つまるところ、それが結果というものなのだから。

 我々は不運な出来事に遭遇すると「予測できなかったこと」を悔やむ。そこに愚かさがあるのだろう。一切が予測可能であれば、人生もゲームも全くつまらないものに変わってしまうだろう。人生とは不確実性を生きることである。運命も因果も及ばぬダイナミズムを私は不確実性と呼ぶ。

 最後に小林秀雄の言葉を紹介しよう。

小林●ぼくら考えていると、だんだんわからなくなって来るようなことがありますね。現代人には考えることは、かならずわかることだと思っている傾向があるな。つまり考えることと計算することが同じになって来る傾向だな。計算というものはかならず答えがでる。だから考えれば答えは出(ママ)るのだ。答えが出なければ承知しない。

【『人間の建設』小林秀雄(新潮社、1965年、『小林秀雄全作品 25』2004年/新潮文庫、2010年)】

伝説のトレーダー集団 タートル流 投資の黄金律人間の建設 (新潮文庫)

個性が普遍に通ずる/『小林秀雄全作品 25 人間の建設』小林秀雄

2014-06-02

バフェット氏はなぜタンガロイを選んだ?


 東京電力福島第1原子力発電所の南40キロメートル余りに本社・工場を構える超硬工具大手のタンガロイ(福島県いわき市)。米国の著名投資家、ウォーレン・バフェット氏が3月下旬の初来日の場所として選んだ会社だ。震災と原発事故で来日はキャンセルになったが、世界の経済人が「オマハの賢人」と敬愛するバフェット氏は、なぜわざわざタンガロイに足を運ぼうとしたのだろうか。

 IHI相馬工場と同じく、タンガロイも東日本大震災の被害に遭ったが早期の復旧を遂げた。そこには親会社であるイスラエルの切削工具メーカー、イスカルを中核とするIMCグループの強力な支援があった。「小さな家族経営」。IMCのエイタン・ベルトマイヤー会長は、何よりも社員の気持ちを大切にする経営理念を掲げる。バフェット氏はこの考え方を高く評価し、IMCに巨額の投資をしている。ベルトマイヤー会長の経営がいかにタンガロイの現場の人々を励まし危機を乗り切るための支えとなったのか。そこには、窮地にある日本企業が学ぶべき教訓がある。

 今回、バフェット氏は3月21日から2日間、タンガロイを訪れる予定だった。まずは、バフェット氏とタンガロイ、そしてIMCのベルトマイヤー会長、この3者の関係について詳しく紹介しよう。

 タンガロイは2008年11月、超硬工具で世界2位のIMCに買収された。その2年前の2006年、IMCにはバフェット氏が当時の邦貨換算で4800億円を投じて、8割の株式を取得している。

バフェットが驚いた「小さな家族」経営

 これは当時、バフェット氏にとって初めての米国以外での大型投資だった。決断の裏にはIMCのベルトマイヤー氏が実践している優れた経営があった。その極意は「社員の1人ひとりを大切にする、思いやりのある『小さな家族主義』経営」だ。目先のことよりも、社員の気持ちを大切にし、100年先を見据えて会社を動かす。バフェット氏は当時、「こんなすばらしい経営はみたことがない」と驚き、巨額投資を決断した。

 もともと、投資話はベルトマイヤー会長から持ちかけたものだ。イスカルは非上場のため企業買収が難しいという悩みを抱えていた。世界最大手であるスウェーデンのサンドビックを追撃するためにはアジアなどでのM&A(買収・合併)は急務。バフェット氏のグループに入ることができれば、世界戦略は大きく前進する。バフェット氏は巨額投資をしても、経営そのものはベルトマイヤー会長に任せてくれた。そして同社にとって空白地帯に近かった日本で手に入れたのが、かつて「東芝タンガロイ」として知られたタンガロイだった。

 ベルトマイヤー会長がバフェット氏の初来日に際してぜひとも見せたかったものがあった。タンガロイの新工場のオープニングセレモニーだ。単なる工場の竣工(しゅんこう)式ではなく、「タンガロイ復活の象徴」のイベントだったからだ。

 IMCがタンガロイを買収したのはリーマン・ショック直後の2008年11月。主力顧客の自動車業界が設備投資を一斉に凍結し、注文した部品はキャンセルの嵐に見舞われた。タンガロイは大赤字に転落し、競合他社のような大規模なリストラは避けられそうにない状況に陥っていた。

 東芝の子会社時代には業績悪化のたびに本社からの要請を受けて何度も人員削減した。しかし、リーマン・ショック後の危機を受けた打開策はこれまでとは全く異なるものだった。ベルトマイヤー会長はタンガロイの上原好人社長が温めていた新工場の建設計画をすぐに実行するように指示する。09年春のことだ。投資額は100億円強。売上高の2割以上に相当する額だ。

イスラエルから放射能の専門家派遣

 危機こそ好機――。この決断がタンガロイの復活を後押しする。上原社長は「他社に先行して設備を発注できたため、古い工場建屋に導入して、2010年からの需要回復に対応できた。本当に良い会社に買収してもらったと思う」と語る。最新鋭の建屋は今年1月に完成し、大震災にもびくともしなかった。古い工場建屋から設備を移し、生産の早期回復にもつながっている。ベルトマイヤー会長が同社を家族のように扱ってくれるため、現場の士気が高まっていることも大きい。

 上原社長は「震災でもイスラエルからの支援は素早かった。社員も喜んでいる」と話す。タンガロイのいわき工場は東電福島第1原発から40キロメートル程度しか離れていない。そのため、タンガロイ製品についての「風評被害」が出ていた。IMCはイスラエルの政府系機関から放射能測定の専門家を4月11日に派遣してきた。世界から認められた公的機関が製品の放射能を測定し、問題ないことを示す認証を与える。さらに、設備内に入る放射能を遮断するためにどんな方策が必要なのかを細かく教えてくれた。例えば、「工場内の芝生には入らないように」ということ。靴に放射能物質が付着しやすいからだという。IMCは主力輸出先である欧州でも、ベルギーの公的機関に依頼して、物流倉庫で製品の放射線量を調べ、顧客の心配の芽をすばやく取り除いた。

 こんなこともあった。超硬工具の生産工程で重要なのがタングステンなどの原料を焼き固める焼結炉だ。新工場ではドイツの機械メーカーから購入し、4月にも据え付ける予定だった。だが、原発事故でドイツ人技術者が来日を拒否した。上原社長らが困っていると、イスラエルの本社から「タンガロイの技術者をすぐに送ってこい」との指示があった。焼結炉の据え付けや試運転に詳しいIMCの社員が2週間かけてすべてのノウハウを教えてくれる、というのだ。上原社長は5月中旬から2人の技術者を送り込んだ。「困ったことがあれば、なんでも面倒を見てくれる。子会社とはいえ、ここまで親身な親会社があるのか」と、上原社長も舌を巻いた。

 ベルトマイヤー会長がタンガロイを全面支援するのは単なる「優しさ」だけからではない。そこには長期を見据えた深い戦略がある。

 タンガロイが成長すれば欧米や韓国などにあるグループ企業との競争が激しくなる。そして各社による切磋琢磨(せっさたくま)によって企業グループはより強くなれる、という計算があるのだ。中核のイスカルは、複雑な形状の超硬工具を生産できる世界有数のプレス技術を持つ会社。360度すべての角度から圧力をかけて、切削する先端部を増やすような技術だ。こうした秘伝のノウハウもすべて、グループ会社には伝授される。タンガロイの新工場にはすでに、イスカルが使う独自のプレス機械が入れられている。

お金持ちでも「ランチは1日1度」

 ベルトマイヤー会長とはいったいどんな人物なのだろうか。会長は創業者であるステフ・ベルトマイヤー名誉会長の息子。ステフ名誉会長はイスラエルの英雄として、尊敬を集める経済人であり、政治家でもあった。その創業者の経営哲学を息子が受け継いでいるのだ。

 ステフ氏は1930年代後半、ナチスドイツによるユダヤ人の迫害から逃れ、現在のイスラエルに渡ってきた。48年にイスラエルが独立を宣言した後の第1次中東戦争で義勇兵となる。ただ、名誉会長は手先が器用だったため、工作機械で使う超硬工具の開発を志した。武器を製造する基盤技術として重要だったからだ。現在のレバノンから近い北部の町テフェンの自宅で、52年にイスカルを創業した。

 この会社の存在を一挙に世界に知らしめたのが67年の第3次中東戦争だった。アラブ諸国に配慮したフランスが、戦闘機「ミラージュ」のイスラエルに対する禁輸を決定した。イスラエル空軍は頭を抱えた。戦闘機エンジンを開発していくにはタービンブレードの加工が必要だが、その技術は極めて難易度が高いからだ。だがエンジン部品を削るために世界でも最高レベルの超硬工具を名誉会長らの技術チームは見事に開発した。

 エイタン会長は「イスカルが長年成功できたのは父の存在が大きい。父は常に従業員を家族のように大切にしてきた」と語っている。何度も経営危機に直面したが、雇用にはほとんど手をつけていない。例えば、2008年秋のリーマン・ショックでも業績は一時的に悪化したが、従来と比べて単位時間当たりの切削量を3倍に増やした旋盤の超硬工具など強力な新製品を相次いで投入し、危機を乗り越えた。

 ベルトマイヤー会長が社員を大切にするエピソードは数多い。同会長はバフェット氏にイスカルの8割の株式を売却したが、その売却益は1952年の創業以降、イスカルに所属していた従業員すべてに還元された。草創期からの従業員には亡くなっている人も多いが、それでも会長の指示で子供や孫を捜し出して、多額の「感謝金」を支払った。ベルトマイヤー会長は言う。「お金をたくさん持っても、ランチは1日に1度しか食べられない。1度しか寝られない。大切なのはポケット(お金)よりもハート(心)だよ」と。

【日経産業新聞 2014年5月31日】

最後のバブルがやってくる それでも日本が生き残る理由 世界恐慌への序章

2014-04-02

あなたの現実はあなたの信念によって形成される/『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ


『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ
『ゾーン 最終章 トレーダーで成功するためのマーク・ダグラスからの最後のアドバイス』マーク・ダグラス、ポーラ・T・ウエッブ
『ゾーン 「勝つ」相場心理学入門』マーク・ダグラス

 ・あなたの現実はあなたの信念によって形成される

『なぜ専門家の為替予想は外れるのか』富田公彦

 彼の最大の問題点は、エンジニアになるのには8年も勉強したにもかかわらず、投資はだれもが簡単にできるものと甘く見て十分な勉強をしなかった点である。これでは素人が橋を建造するようなものだ。仕事は素人ではできないが、市場では素人で通用する、というわけだ。素人が橋を造れば崩壊する。同じように素人が投資するということは、口座の死を意味するのである。

【『タープ博士のトレード学校 ポジションサイジング入門 スーパートレーダーになるための自己改造計画』バン・K・タープ:長尾慎太郎監修、山下恵美子訳(パンローリング、2009年)以下同】

 投資とは資本を投ずること。ま、わかりやすくいえばカネを貸すことだと思ってよい。貸す相手も知らずにお前は投資をするのか、という助言である。確かに。そして投資とはリスクを引き受ける行為でもある。株式(現物)であればその企業の未来を買っているわけだ。先のことは誰にもわからない。当てが外れれば当然損失を被る。ただし貸す相手が確かであれば(預金や国債や投資信託など)旨味は少ない。

 ギャンブルをするのであれば投資をした方がよい。特に若い人は小口で投資の経験を重ねてゆけばリスクマネジメントが身につくことだろう。あらゆるマネーは最終的に投資される。銀行や保険会社が行うか、自分がやるかだけの違いだ。自動車に例えればタクシーに乗るか、自分が運転するかの違いである。バン・K・タープは会社を立ち上げるつもりで事業計画を練るように投資をせよと警鐘を鳴らす。

 洒脱な文章でグイグイ読ませる。価格も良心的だ。投資手法はポジションサイズに極まる。

 ギャンブル本や投資本の妙(面白味)は人間心理の洞察に尽きる。賭場や相場で身を滅ぼす人は決して珍しくない。大小の差はあれど利益は生、損失は死を意味する。

 分かりやすい例を見てみよう。マレーシア出身の私のめいは19歳のときに私たちの元にやってきた(アメリカの大学を卒業するまで私と妻が面倒を見た)。ここに来て1年ほどたったある日、彼女は私に言った。「おじさん、私、次に生まれてくるときは、もっときれいで有能に生まれたいわ」。めいは非常に芸術的(彼女は芸術畑を歩んできた)で、まるで歌うために生まれてきたように歌がうまい。文系肌でありながら、大学では生物医学工学を修め、主席で卒業した。有能さという点では合格点に達しているのではないだろうか。美しさという点でも、私から見れば驚くほどの美人で、会う人々は口々に彼女の美しさをたたえる。これほど美しく有能な女性であるにもかかわらず、彼女が自分のことを美しくもなければ有能でもないと嘆くのは彼女の信念によるところが大きい。【あなたの現実はあなたの信念によって形成される】のである。(中略)
 同じように、あなたがどういう人間なのかはあなたの自分自身についての考え方によって決まる。ついでに言えば、あなたがトレードするのは市場ではなく、市場についてのあなたの信念なのである。自己改善を図るうえでのひとつのキーポイントは、自分の信念を吟味し、それが役に立つかどうかを見極めることである。役に立たない信念であれば、役に立つ別の信念に改める。これは自己改善を図るうえで最も重要なことである。

 思考も信念も現実化する。そんなことは当然である。客観的な世界が「目の前」にあるわけではない。世界とは自分の感覚や認識および解釈の中に存在するのだから。それゆえ楽しい人の周りには楽しい出来事が多いし、悲観的な人には不幸が押し寄せる。それにしても見事な文章だ。「あなたの現実はあなたの信念によって形成される」ことを仏典では次のように説かれている。


 五陰(五蘊〈ごうん〉とも)とは人間を形成している五つの要素のこと。仏教では人間を五蘊仮和合(ごうんけわごう)と説く。「仮に和合」しているから死ぬわけだ。そして世界は五蘊に収まる。今の世界に違和感を覚える人ほど不幸になりやすい。運がよい人の世界はバラ色だ。だから世界が暗いわけではなくて、お前が暗いだけってな話だ(笑)。

「あなたがトレードするのは市場ではなく、市場についてのあなたの信念なのである」――これはどんな世界にも当てはまる。トレードとは交換を意味する。因みにディーリングのディールは取引、スワップポイントのスワップも交換の意である。会社では労働力と賃金がトレードされている。宗教団体ではご利益と奉仕(あるいは修行)がトレードされている。人間の営みはすべてがトレード行為といってよい。ボランティアだって労力や時間を自己満足や感謝の言葉とトレードしていると見なすことが可能だ。そこに我々の信念が反映されている。少しの過不足もなく。

 で、相場である。テクニカル分析(チャート分析)にせよファンダメンタル分析(経済要因分析)にせよ、プレイヤーは必ず何らかの信念に基いて売買を行う。自分の意に反した動きがあると「相場がおかしい」と決めつける。「この動きは誤っている」と判断した時から損失はどんどん膨らむ。そしてストップ(強制執行)となり、挙げ句の果てには追証(おいしょう=追加証拠金)を求められる。撤退を想定しない戦闘行為は必ず敗北を招く。投資は博打(ばくち)に似て博打には非ず。リスクマネジメントとは損失の計算に他ならない。

 売買回数が増えれば増えるほど損失が拡大することが既に数学的に証明されている。やはり個人投資家の場合、中長期投資が正しい。日本社会は格差という形のリスクが顕著となりつつある。普通預金の金利は現在、年利0.02%で、スーパー定期(300万円以上)で年利0.034%である。これを上回るパフォーマスはそれほど難しくはない。何と言っても難しいのは「自己改善」である。

2013-08-04

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