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2021-04-28

既得権益の象徴「保育業界」/『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎


『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎 2012年
『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎 2012年
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎 2015年
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎 2015年
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎 2016年
『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎 2018年
『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎 2018年
『愛国左派宣言』森口朗

 ・開業医丸儲け
 ・既得権益の象徴「保育業界」

・『日本人が知らない日本医療の真実』アキよしかわ
『脱税の世界史』大村大次郎 2019年

 業界団体による既得権益の保護と言えば、その最たるものが「保育所」である。

【『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(悟空出版、2018年)以下同】

 はてな匿名ダイアリーに「保育園落ちた日本死ね!!!」がアップされたのは2016年2月15日だった。「日本死ね」という言葉が保守層の逆鱗(げきりん)に触れた。しかし、その感情は理解できる。幼子の前途に不安を感じた母親の怒りはむしろ当然であろう。その後、ハフィンポストが書き手にインタビューをしているが“予算の問題”として扱っている。

 公的な保育施設がなかなか増えないのは、実は保育業界が増やすのを拒んでいるからなのである。
 現在の保育園には、多額の補助金が支払われている。そして、保育業界にとっては、それが巨大な既得権益になっている。そのため、保育業界側が保育施設をむやみに増やそうとしたがらず、新規参入を拒んでいるのだ。つまり、それが待機児童問題がいつまでたっても解決しない、最大の要因なのである。

 守旧派は競争を嫌う。サービスの質を上げ価格を下げることが権益を損なうからだ。だったら私的な保育施設を増やせばいいのでは? と思うだろうがそうは問屋が卸(おろ)さない。

【民間の認可保育所(保育園)というのは、実は非常に儲かるビジネスなのである。】
 0歳児を一人与れば、毎月20万円以上の補助金がもらえる。規定では保育士は0歳児3人につき一人つけておけばいいことになっている。そして、保育士の給料は20~30万円だ。ということは、0歳児が3人いれば、補助金から保育士の給料を差し引いても30~40万円の収入になる。
 これにプラスして、保護者から徴収する保育料がある。保育料は、地域や保護者の所得によって異なるが、児童一人あたり2万円程度はもらえることになる。ということは、児童を30~40人も抱えていれば、毎月数百万円の収入になるのだ。
 しかも、認可保育所には固定資産税や法人税がかからない。だから、固定費も非常に安く済む。認可保育所をつくるためには土地と建物が必要なので、初期投資を行わねばならないが、それが済めば、後はかなりの収益を見込める。
 そして、もし土地と金とコネを持っているなら、これほどおいしいビジネスは滅多にないというわけだ。
 民間の保育所の経営者というのは、地主であったり、寺社であったりなど、その地域の有力者である場合が多い。彼らが自分の広い土地に保育所をつくり、税金もほとんど払わず、補助金をガッポリもらって潤い続けてきたのである。

 たまげた。わざわざ0歳児一人に20万円の補助金を出すなら、親に直接20万円与えた方が手っ取り早いだろう。数時間のベビーシッターなら十分賄(まかな)える。むしろ高齢者などの雇用促進につながるので経済的な波及効果は決して小さくない。

 驚くべきことに厚生労働省が主導して参入障壁を設けていた。

 しかも保育所は、その設置数が自治体によって調整されている。児童不足で保育所が経営難に陥らないように、自治体のほうが気を配っているのだ。
 これは、厚生労働省からの指示によるものである。
 信じがたいことに、厚生労働省は自治体に対して「需要以上に保育所をつくらないように」という通知を出しているのだ。
「児童が不足して保育所が潰れるのはまずい」
 そして、そのためには
「保育所が不足して待機児童が増えるのは構わない」
 ということなのである。
 しかも、この通知は非公開でも何でもなく、誰もが知ることができる。平成12年(2000年)に厚生労働省から全国の自治体に発せられた「保育所の設置認可について」という通知である。

 官業の完全な癒着構造がくっきりと見える。子供は日本の未来そのものだ。その子供たちを犠牲にしながら利権に与(あずか)っている保育業界は日本の将来を破壊するブラック企業といってよい。

「保育園落ちた日本死ね」から5年経っても、待機児童問題が解決しないワケ 保育所はビジネスとして儲からない

 瀬地山角〈せちやま・かく〉という東京大学教授がまるで見当違いな指摘をしている。東京大学の保育所経営に関わっている人物ですらこの程度の認識なのだ。

 高橋洋一や原英史〈はら・えいじ〉であればこうした事実を知っていることだろう。だが彼らですら、ここまで踏み込んだ発言はしていないと思われる。規制緩和・制度改革が遅々として進まないのは、牢固とした権益が存在する証拠だろう。若い母親を苦しめる厚生労働省は焼き討ちにすべきである。

2021-04-27

開業医丸儲け/『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎


『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎 2012年
『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎 2012年
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎 2015年
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎 2015年
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎 2016年
『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎 2018年
『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎 2018年
『愛国左派宣言』森口朗

 ・開業医丸儲け
 ・既得権益の象徴「保育業界」

・『日本人が知らない日本医療の真実』アキよしかわ
『脱税の世界史』大村大次郎 2019年

 しかし残念ながら、あなたはけっして金持ちにはなれない。
 というのも、あなたには金持ちになるための決定的な要素がないからだ。
 それは「悪」である。
 誤解を恐れずに言うと、金持ちの99%は、何らかの「悪事」を働いている。それは、少しばかり「性格が悪い」というようなライトな話ではない。その実情を知れば、誰しもが激しい嫌悪感を抱くような、かなり「本格的な悪」である。

【『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(悟空出版、2018年)以下同】

「人間らしさは何か?」と問われれば善性や思いやり、親切と答える人が多い。確かに高等知能の特徴ではあるが実は違う(『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール)。知能という点で考えると「相手を騙(だま)す」ところに真の人間らしさがある。騙すためには相手の信念を理解する必要がある。つまり優れた共感能力を駆使して相手を不幸に陥れるところに騙す行為の本質があるのだ。

 悪の臭いを放つ金持ちと聞いて真っ先に思い浮かぶのが政治家と教祖だ。庶民が想像する金持ちは贅沢な暮らしといったレベルであるが、彼らは多くの人々や組織を自由に動かす。他人の人生を翻弄するほどの権力を有している。目には映らないその影響力を決して軽んずるべきではないだろう。敗戦後の日本が精神的な堕落を止めることができなかった理由もここらあたりにあるのだろう。富裕層は増えたがそこに国士はいなかったのだ。

 開業医がどのくらい金持ちなのかは、厚生労働省のデータでもわかる。厚生労働省の「医療経済実態調査」では、開業医や勤務医の年収は、近年、おおむね次のようになっている。

開業医(民間病院の院長を含む)  約3000万円
国立病院の院長  約2000万円
勤務医  約1500万円

 このように、開業医というのは、勤務医の約2倍の年収がある。(中略)
 なぜ、日本の開業医はこんな金持ちになれるのか、不思議に思われる方も多いはずだ。地域の診療所のようなところでは、いかにも閑散として患者などそうたくさんいそうもないところが多々ある。なのに、なぜ開業医はそんなに儲かっているのか?
 実は、この開業医という職業には巨大な利権が存在するのだ。
 開業医には、収入面や税制面でさまざまな優遇制度が設けられており、それこそが彼らが金持ちになっている最大の要因なのである。

 開業医が持っている利権のひとつが、診療報酬優遇制度である。
 信じられないことに、同じ診療報酬でも、公立病院などの報酬と私立病院(開業医)の報酬とでは額が違うのである。たとえば、再診料は普通は570円なのだが、開業医は720円となっている。他にも、開業医は「高血圧や糖尿病の管理をすれば報酬を得られる」などの特権が与えられている。
「メタボリック」という言葉が大々的に流布されて久しい。これも、開業医の収入を増やすための仕掛けだと言われている。
 現在、メタボリック予防に対応して「特定疾患療養管理料」という診療報酬点数の項目がある。これは、高血圧、糖尿病、がん、脳卒中など幅広い病気に関して、「療養管理」という名目で治療費を請求できるというものだ。
 大病院には、この「特定疾患療養管理料」を請求することは認められておらず、開業医だけに認められているのだ。
 簡単に言えば、大病院と開業医でまったく同じ治療をしても、開業医だけが「特定疾患療養管理料」という名目で、治療費を上乗せ請求できるというこである。つまり、【同じ治療を行っても開業医のほうが、たくさん医療費を請求できるのだ。】

 日本医師会や東京医師会は開業医の団体である。コロナ騒動で偉そうなことをぶち上げているが、彼らはコロナ患者を診(み)ていない。新型コロナの死亡者数も陽性者数(※PCR検査の陽性=感染者ではないことに注意)も断トツで少ない日本の医療崩壊が叫ばれるのは、開業医がコロナ患者を診療しないためだ。

 それにしても勤務医と開業医の年収が2倍もあるとは驚愕の事実である。

 また、開業医は、税金に関しても非常に優遇されている。
 社会保険診療報酬の72%を経費として認められているのだ(社会保険診療報酬が2500万円以下の場合)。
 簡単に言えば、「開業医には収入のうち28%にだけ課税をしましょう、収入の72%には税金をかけませんよ」ということである。
 本来、事業者というのは(開業医も事業者に含まれる)、事業で得た収入から経費を差し引き、その残額に課税される。
 しかし開業医は、収入から無条件で72%の経費を差し引くことができるのだ。実際の経費がいくらであろうと、である。
 開業医の税制優遇制度の内容は、右の表の通りである。

 例えば、社会保険収入が5000万円だった場合、経費は次のような計算になる。

5000万円×57%+490万円=3340万円

 この3340万円が自動的に経費として計上できるのだ。これは、実に収入の約67%にもなる。つまり、【実際には経費がいくらかかろうと、この医者は収入の67%を経費に計上できるのだ。】
 医者というのは、技術職であり、物品販売業ではない。
 材料を仕入れたりすることはほとんどないので、仕入れ経費などはかからない。だから、基本的にあまり経費がかからないのである。
 普通に計算すれば、経費はせいぜい30~40%くらいだろう。にもかからず、67%もの経費を計上できるのだ。税額にして、500万円~900万円くらいの割引になっていると言える。
 開業医が儲かるはずである。
 この制度は世間の批判を受け、縮小はされたが、廃止されることなく現在も残っている。前記の税制は、縮小された後のものである。つまり、以前はもっと税制的に優遇されていたのだ。

「つまり、開業医の実質年収は6000万円程度だと推測されるのだ」。しかもこの「3340万円」に税はかからない。異様な仕組みといってよい。政治家と官僚が医者に与えた権益なのだろう。日本医師会の会員数が16万6883人(平成21年12月)である。開業医の数を15万人とすると、その年収合計額は9兆円にもなる。あまりの額の大きさに目まいがする。

 税務知識のある者が大村の批判をしていることは承知している。ただ私にはそれを検証するほどの知識がない。一方、批判者たちは大村以上に有益な情報を社会に提供しているのだろうか? 別に著作である必要はない。ブログやホームページでも十分発信は可能だ。ケチをつけるのは簡単なことだ。大村の意欲的な著作活動を見れば、多少の過ちがあったとしても彼は修正しながら更なる飛躍を目指すことだろう。

 もう一つは大村以外で、こうした税制上の不平等を指摘する元官僚や元税務調査感を私は知らない。この一点だけでもアンタッチャブルな分野に斬り込んでいることが窺える。あまりにも大きな不正は大きすぎて人の目に映らない。

 日本医師会は自民党の有力な支持団体である。一方で共産党を支持する医師も多い。つまり自民党も共産党も手をつけることができないわけだ。まるでロスチャイルド家を思わせる狡猾さである。


https://twitter.com/oishiku_naare/status/1385632343096840195

2021-02-03

信用創造の正体は借金/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎


『緑雨警語』斎藤緑雨
『小室直樹の資本主義原論』小室直樹
『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人

 ・マネーと国家が現代の宗教
 ・信用創造の正体は借金

『ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学』アーロン・ブラウン
『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳、グループ現代
『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎

 あなたは、お金というものが、どうやって発行され、どうやって社会に流れてくるのかご存知だろうか?
「お金は中央銀行が発行し、市中に流している」
 多くの人は、そう答えるだろう。
 では、中央銀行が発行したお金は、どういうルートで社会に流れ出てくるのだろうか?
 これは経済学を学んだ人でもなかなか答えられないケースが多い。
 実は、答えは「借金」である。誰か(主に企業)が、銀行からお金を借りることによって、お金は社会に出回るのだ。
 中央銀行からお金が社会に出てくるには、次のようなルートをたどる。

【中央銀行(日本の場合は日銀)】
  貸出
  ▼
【金融市場(一般の銀行など)】
  貸出
  ▼
【企業など】
  取引、給料などで支払い
  ▼
【個人】

 このように、お金というのは、必ず社会の誰か(主に企業)が銀行からお金を借りることで、社会に流れ出てくるのである。
 そして驚くべきことに、お金が社会に出るためのルートは、これ一本しかないのだ。
 日本銀行は紙幣を印刷しているが、それを日本銀行が自由に使うことはできない。政府もまた、日銀が発行した紙幣を勝手に使うことはできない。
 日銀が発行した紙幣は、貸出という形で一般の銀行に放出される。そして、一般の銀行も、貸出という形で企業などに流すのである。
 そのお金が、回り回って我々のところに来ているのだ。

 社会で使われているどんなお金も、元をたどれば誰かの借金なのである。あなたが会社からもらっている給料、事業で稼いだお金なども、もともとは必ず誰かの借金として社会に出てきたのだ。
 貿易などで得た外貨を円に交換するときも、新しいお金が出てくることになるが、その外貨は外国において誰かの借金により社会に流れ出たものなので、煎じ詰めれば、これも「誰かの借金」ということになる。
 あなたは誰かに借金をした覚えはないかもしれない。が、あなたが手にしたお金は、必ず、元をたどれば誰かの借金だったのだ。
 つまり、世の中に出回っているお金というのは、実は、すべてが借金なのである。
 また借金とは、いずれ返さなくてはならないものである。
 つまり、今、社会に出回っているお金すべてが「借金」である限り、いずれ銀行に回収されるべきものなのである。社会が保有し続けることはできないお金なのだ。
 しかし、社会には、お金を保有し続けたいという欲求も当然働くし、もう借金はしたくない(しない)という欲求も働く。その欲求が強くなると、社会のお金の仕組みは、たちまち機能不全に陥ってしまうのだ。
 このように今のお金の仕組みは、重大な矛盾、欠陥を抱えているのだ。そして、このお金の欠陥が、環境破壊、貧富の格差など世界中のあらゆる問題の1つの要因になっているのだ。

【『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎〈おおむら・おおじろう(ビジネス社、2018年)〉】

 信用創造の正体は借金であった(信用創造のカラクリ/『ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学』アーロン・ブラウン)。目から鱗が落ちる。

 プールの水にお金という黒い液体を注ぐと仮定しよう。黒い液体は経済活動によって移動をしてくっきりとした濃淡を描くが、その総量は変わらない。時折、資金繰りに行き詰まって倒産する企業も出てくる。しかし黒い液体は別の場所に移動しただけで、返済できない借金がどこかに消えたわけではない。必ず誰の財布に存在するのである。徴税の網に掛からないブラックマネーもプールの中(円経済圏)から出ることはない。減るとすれば焼却した紙幣だけだが現実には考えにくい。火災被害で消失する紙幣の量は微々たるものだろう。

 企業は借金をして人や物に投資をし、付加価値を創造することで利益を得る。GDP(国内総生産)とは付加価値の総額を意味する。これを国民所得の合計と考えてもよかろう。その所得が実は借金であったとすれば、政府や企業が借金を増やすことが経済的な意味合いでの正しさとなる。

 通貨は交換手段に過ぎない。人類の歴史では通貨なき時代の方がはるかに長かった。富(余剰)が生まれたのは農業革命以降のことである。動物が必要とするのは今日の食べ物に限られる。時折貯める行為も見られるが、せいぜい一冬に備える程度である。しかも地球の自然は動物の食料を十分に供給している。

 世界人口が10億人を突破したのは1800年代のことで、第二次世界大戦以降は上昇の一途を辿る(表1-8 世界人口の推移と推計:紀元前~2050年)。この点からも19世紀を近代と考えてよかろう。陰謀論で一番多いのは人口削減計画である。最大の環境問題は増え続ける人口だ。もしも世界権力をほしいままにする者がいれば真っ先に人口を減らすことを考えるだろう。

マネーと国家が現代の宗教/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎


『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎 2012年
『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎 2012年
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎 2015年
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎 2015年
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎 2016年
『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎
『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎 2018年

 ・マネーと国家が現代の宗教
 ・信用創造の正体は借金

『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎
『脱税の世界史』大村大次郎 2019年

 信じられないかもしれないが、今のお金の仕組みの原型は、17世紀のヨーロッパの商人が気まぐれで始めた悪徳商売にあるのだ。その悪徳商売の発展により、なし崩し的に現在の紙幣ができあがり、世界各国が「これを通貨としましょうか」ということに、「なんとなく決めてしまった」のである。
 つまり、お金の仕組みは非常に無計画で、いい加減につくられたものなのだ。
 現在は、金融工学や経済理論が非常に発達していると言われている。
 しかし、高度に発達したはずの金融工学や経済理論も、実は、17世紀の商人の悪知恵によってつくられたお金の仕組みを前提としているのである。
 はっきり言えば、中身はとてもチャチで不完全なものだ。

 また、現在のお金は、以前(半世紀前)のような、「貴金属との兌換」もされていない。
 貴金属との交換が約束されているわけでもなく、綿密に計算されてつくららたわけでもないお金を、我々は日々血みどろになって追いかけているのだ。

【『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(ビジネス社、2018年)】

「17世紀のヨーロッパの商人」とは両替商を行っていたユダヤ人を指す。ヨーロッパでは伝統的にユダヤ人が排斥・弾圧されてきた。就ける職業も限られた。彼らの才能が芸術や金融で花開いたのは、そうせざるを得なかった歴史的な経緯による。

 動画を二つ紹介しよう。




 最初の動画は「Money As Debt」(負債としてのお金)の一部である。

 世界最初の紙幣は北宋の「交子」だが、たぶん信用創造には至らなかったのだろう。ユダヤ人の悪知恵は「信用」に目をつけた。その着眼の鋭さが近代の扉を開いたとも言い得る。

 紙幣こそは現代のマンダラであり、硬貨は十字架である。通貨の信用は約束事に過ぎないが、現代社会でお金の価値を疑う者はいない。すなわちマネーとそれを保証する国家こそが現代の宗教なのだ。自殺の大半が経済的困窮によるものだ。我々はお金がないと生きてゆくことができない――そう信じ込んでしまっているところに、この宗教の絶対性がある。

2021-02-02

リフレ女子 (@antitaxhike)×安藤裕

 私もフォローしているリフレ女子 (@antitaxhike)さんと安藤裕(自民党衆議院議員)の対談。いやはや勉強になった。日本維新の会あたりから出馬してはどうか?





2021-01-28

世界最初の紙幣は北宋の「交子」/『経済は世界史から学べ!』茂木誠


 ・世界最初の紙幣は北宋の「交子」

『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠
『「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム』茂木誠
『「米中激突」の地政学』茂木誠
『世界史講師が語る 教科書が教えてくれない 「保守」って何?』茂木誠

【世界最初の紙幣は北宋の「交子」(こうし)】です。内陸の四川(しせん)で発行されました。
 当時、中国で広く流通していたのは銅銭ですが、銅の産出が少ない四川では鉄銭を使用していました。しかし鉄銭は重く、高額の取引には向きません。
 そこで金融業者は商人から鉄銭を預かり、引換券として紙幣を発行したのです。北宋政府は商人からこの権利をとり上げ、交子を発行します。政府が保有する銅銭を準備金(担保)として、発行額には上限が定められました。
 ところが、政府というのは無駄遣いに走りがちです。戦争や公共事業、宮廷の浪費を賄うため、上限を超えて紙幣を乱発し、信用が一気に失われます。【紙幣乱発による通貨価値の下落――すなわちインフレが起こる】わけです。
 北宋の交子、南宋会子(かいし)、交鈔(こうしょう)、すべて同じ経緯で紙くずになり、「インフレ→農民暴動→王朝崩壊」という経過をたどりました。」

【『経済は世界史から学べ!』茂木誠〈もぎ・まこと〉(ダイヤモンド社、2013年)】

 紙幣を発明したのはユダヤ人の金貸しだと思い込んでいる人が多い。私もその一人だった。羅針盤・火薬・紙・印刷は中国の四大発明とされるが、紙幣も加えて五大発明にすべきだろう。

 このテキストを読んで直ちに思ったことは「なぜドル基軸通貨体制が維持されているのか?」である。ま、有り体に言ってしまえば石油や武器をドル決済させることでアメリカ本国へドルが還流することを防いでいるためだろう。

 ニクソンショックから既に半世紀以上を経ている。ドルは360円から104.292円(現在値)まで価値を下げている。最終的には50円くらいまで下げると私は睨んでいるが、50円だと紙屑とは言わない。それほど遠い未来ではなく数年以内にドルは沈むことだろう。米国債を大量保有している中国と日本はどうするのだろうか?



マネーと国家が現代の宗教/『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎

2021-01-08

徳川幕府の経済力/『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎


『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎 2012年
『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎 2012年
『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎 2015年
『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎 2015年
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎 2016年
『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎

 ・徳川幕府の経済力

『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎 2018年
『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎
『脱税の世界史』大村大次郎 2019年

日本の近代史を学ぶ

 薩摩藩と長州藩は、関ヶ原で敵についた外様大名として、江戸時代を通じて幕府からいじめ抜かれた。江戸から遠く離れているため参勤交代で莫大な費用が掛かる上、たびたび幕府から「天下普請」(てんかぶしん)と言われる幕府関係の城の整備や治水事業などを押し付けられた。両藩とも一時期は、財政破綻(はたん)寸前にまで追い詰められた。
 が、この過酷な環境は、逆に早期の財政再建のきっかけになり、両藩は諸藩に先駆けて、産業振興にいそしみ米穀経済から脱することになった。

【『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(ビジネス社、2018年)】

 関ヶ原の戦い(1600年)から戊辰戦争(1868年:明治元年~1869年)までは250年以上を経ている。恨みというものはつくづく恐ろしい。戦争や虐殺の傷は歴史に長く留(とど)まる。民族の相違を簡単に乗り越えることが難しいのも歴史的理由によるものなのだろう。

 米穀経済とは米本位性である。商品の流通が活発になれば自ずと貨幣経済にシフトする。

 江戸時代というのは、徳川幕府が経済的には優位になるシステムになっていた。
 あまり顧みられることはないが、実は江戸徳川幕府というのは、日本の歴代の武家政権の中では、【断トツで大きい経済力】を持っていた。
 江戸幕府は、約400万石の直轄領を有していた。親藩(徳川家一門)の領地を含めると800万石近くもあり、当時の日本の領土の25%に達していた。
 これは封建制度としては、かなり広い領地だといえる。
 鎌倉幕府は関東の数か国から十数か国を有していたにすぎず、せいぜい200~300万石である。室町幕府はそれよりさらに少なかったと見られている。そして豊臣政権にいたっては、家臣だった徳川家康よりも直轄領は小さかったのだ。豊臣政権は、全国の主な鉱山や港湾を支配下に置いていたため、総合的な経済力では徳川家康を上回っていたが、それでも、家康に対して圧倒的な差があったわけではない。
 このように武家政権の中では、江戸幕府がとびぬけて直轄領が広いのである。直轄領が広いということは、兵動員力の大きさにもつながる。つまりは軍事力が大きいということである。

 封建制度と聞くと前時代的なニュアンスで受け止める人が多いだろうが実は違う。近代化の前段階として欠くべからざる制度なのだ。世界でも封建社会が成立したのは西欧と日本だけだ(『自然観と科学思想』倉前盛通)。

 部族社会→封建制度→近代国家の流れは、経済および軍事のシステム化が進行した歴史である。戦後の日本が歪(いびつ)な形をしているのは軍事をなげうって経済一辺倒で発展してきたためだ。吉田茂の深慮遠謀(『重要事件で振り返る戦後日本史 日本を揺るがしたあの事件の真相』佐々淳行)は理解できるが、高度経済成長の豊かさを享受する中で独立の機運は一向に訪れなかった。政治家と国民の目を覚まさせるべく立ち上がったのが三島由紀夫であったが、命懸けのメッセージも嘲笑されただけで終わった。

 近代戦争は兵器を必要とする。その兵器を買う経済力が国家の威信を決めるといっても過言ではない。たった一度の戦争に敗れただけでこの国は国民の生命と財産を守ることもあきらめた。北朝鮮による拉致被害、東日本大震災における政治の迷走、二転三転する新型コロナ対策などを見れば一目瞭然だ。日本は国家の体(てい)をなしていない。

2020-12-15

エートスの語源/『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』ルディー和子


『売り方は類人猿が知っている』ルディー和子

 ・累進課税の起源は古代ギリシアに
 ・エートスの語源

SNSと心理戦争 今さら聞けない“世論操作”
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー

必読書 その三

 プラトンの時代には読み書き能力が急激に発達した結果、抽象化する能力が格段に高くなりました。具体的な意味を持った言葉が、抽象的概念を表現する言葉に変化していきました。たとえば、「エートス(ethos)」というギリシア語は、もともとは動物の「ねぐら」とか「生息地」を意味していたのですが、その後、「人の住処での暮らし方」から個人の習慣行動といった意味で用いられるようになり、アリストテレスのころには「性格(人柄)」という意味で使われるようになっています。アリストテレスは著書『弁論術』で、他人を説得するためには、倫理的にも尊敬できる信頼できるエートスが必要だと書いています。

【『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』ルディー和子(日経プレミアシリーズ、2013年)】

 エートスを私はずっと「気風」と読んできた。折角の機会なので定義を再確認しておこう。

《「エトス」とも》
1 アリストテレス倫理学で、人間が行為の反復によって獲得する持続的な性格・習性。⇔パトス。
2 一般に、ある社会集団・民族を支配する倫理的な心的態度。

エートスの意味 - goo国語辞書

 エートスは、「いつもの場所」を意味し、転じて習慣・特性などを意味する古代ギリシア語である。他に、「出発点・出現」または「特徴」を意味する。

エートス - Wikipedia

 大塚久雄(1989)はこの2つのうち「エートス(ethos)」について、次のように定義している。
「『エートス』は単なる規範としての倫理ではない。宗教倫理であれ、あるいは単なる世俗的な伝統主義の倫理であれ、そうした倫理綱領とか倫理徳目とかいう倫理規範ではなくて、そういうものが歴史の流れのなかでいつしか人間の血となり肉となってしまった。いわば社会の倫理的雰囲気とでもいうべきものなのです」。

PDF:職業エートスの形成に関する一考察 キリスト教精神との関係から 阿部正昭

 近代においては,1つの社会,民族の特色をなす性質,道徳をさす社会学的,人類学的用語としても用いられる。このような意味を明確化したのは M.ウェーバーである。(中略)その意味するところはまず,なんらかのあるべき姿をさし示す「倫理」 ethicsとは区別された,本人の自覚しない日常的生活態度であり,また「激情」 pathosとも対立的なものである。日常的生活行動や生活態度を最奥部で規定し,常に一定の方向に向わせる内面的原理を意味する。

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

 エートスのラテン語訳 こそがモーレス——モスの複数形——でありモラルの語源なのである。これは、我々がもつ道徳的感情は、その共同体のモラルの遵守とそこからの逸脱から発生しているのだという説明の論理である(アリストテレス『ニコマコス倫理学』)。

エートス: ethos

 私が啓発されたのは小室直樹の解説で、彼は「行動様式」とした(『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』)。武士と武士道を思えば腑に落ちる。行動様式は努めているうちに自然な振る舞いとなり、やがては道と己が一体化して不可分となる。「簡単にいってしまえば、エシックス(倫理)は思考に訴え、エトスは情動を支配するのだ」と上記書評で書いた。思考は前頭葉で行われ、情動は大脳辺縁系が司る。我々がともすると理性よりも感情に振り回されるのは当然で、大脳辺縁系がより下層にあるためだ。その直線的な志向が既に否定されているポール・マクリーン「三位一体脳モデル」だが、生きるための爬虫類脳(脳幹、小脳)・感じるための哺乳類脳(大脳辺縁系、新皮質)・考えるための人間脳(前頭葉)との位置づけはあながち的外れではないだろう。

 エートスが行動様式であれば、倫理からエートスへの飛翔は前頭葉から大脳辺縁系への深化を示すものだ。前頭葉で考えれば切腹はできまい。意志よりも情動が重い。

 そう考えるとやはり若いうちに尊敬できる人物を知ることが重要だ。「このような人になりたい」「あのような生き方をしたい」との切望が人格の基底を成すからだ。

2020-12-07

累進課税の起源は古代ギリシアに/『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』ルディー和子


『売り方は類人猿が知っている』ルディー和子

 ・累進課税の起源は古代ギリシアに
 ・エートスの語源

SNSと心理戦争 今さら聞けない“世論操作”
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー

必読書 その三

 古代ギリシアでは、富裕層の市民がレイトゥルギアと呼ばれる民衆のためのイベントにおいて金を出す習慣がありました。アテナイでは、緊急の場合をのぞいて市民から税金を徴収することはありません。その代わりに金持ちがお祭りのための費用、お祭りのメインイベントである演劇や合唱舞曲を上演するための費用、体育行事のための費用などを負担するのです。
 これは、私有財産の一部を公共に(一般市民に)贈与することですが、途中からは、寄附とみなされたり、あるいは税金とみなされたりするようになります。
 小さな都市国家ですから、誰がいくらお金を出してくれたかは、ウワサですぐに広まります。人気のある悲劇や喜劇の上演にお金を出せば、お金持ちは名誉や評判を高めることができます。レイトゥルギアのなかには、アテナイの海軍の船の維持に必要な経費を出すことも含まれます。多額の経費を負担すれば、1年間海軍のキャプテンに就任するという名誉がついてきます。
 こういった人気のあるものなら贈与するが、あまり人気のないものだと誰もお金を出したがりません。仕方がないので、執政官が自発的に申し出なかった金持ちに割り当てます。こうなると、もはや寄附ではなく、税金の意味合いが強くなります。
 金持ちがより多くの公共コストを負担するという累進課税は、14世紀のイギリスで始まったと言われます。が、その考え方自体は、古代ギリシアにさかのぼることができるのです。

【『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』ルディー和子(日経プレミアシリーズ、2013年)】

 ジェームズ・C・スコット著『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』を読んで税金について眼が開いた。大村大次郎の著作もそれまでとはガラリと色彩が鮮やかになった。明き盲(めくら)とはよく言ったものである。

 渡部昇一〈わたなべ・しょういち〉がかつて「所得税は1割の負担で国民全員が支払えば財政は賄(まかな)える」という大蔵官僚の発言を紹介していたのを思い出した。ところがどの本に書いてあったのかが思い出せない。渡部の著作はさほど読んでいないのだが画像データが多すぎるためだ。仕方がないので『歴史の鉄則 税金が国家の盛衰を決める』(1993年/改訂改題『税高くして民滅び、国亡ぶ』)と『対論「所得税一律革命」 領収書も、税務署も、脱税もなくなる』(1999年)を読んだ。まだ残っていた鱗(うろこ)が目から落ちた。

 選挙権の歴史を振り返ると身分、宗教、性別、人種、納税などが挙げられよう。アメリカの独立はボストン茶会事件(1773年)に始まるが、この時の合言葉が「代表なくして課税なし」であった。渡部の著書に何度も出てくる言葉だが、説得力はあるものの日本国内においては外国人参政権との整合性がとれない。

「カネを出しているのだから口も出させろ」との主張には筋が通っている。しかしながら国家として考えた場合、いざ戦争となれば母国と日本のどちらにつくのかという問題が生じる。極端な例を想定すれば問題は単純化できる。中国が日本へ2億人の人々を送り込めばどうなるか? 実際に似たようなことが北海道で進行中だ。

 渡部は累進課税と相続税は自由主義に反すると主張する。財産権の侵害の他ならず、悪平等の考え方が社会主義的であるとまで説く。株式会社や二世議員は相続税を回避するシステムとして使われている。納税や節税にかかる労力が社会にブレーキをかけているのも確かである。

 企業の規模を問わず、所得の高低を問わず、誰もが租税を回避するのは政治家と官僚が愚かであると判断しているためだ。そもそも税制そのものが不平等だし、税金を支払うに値する国家かどうかが疑問である。大村大次郎は「この国(日本)に税金を支払う価値はない」と言い切っている。

 マンモス教団では信者が嬉々として布施を行っている。仏教では喜捨と呼ぶ。理想的な徴税のあり方だと思う。決して皮肉ではなく。

2020-12-02

日本経済を崩壊に導いた日本銀行/『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』リチャード・A・ヴェルナー


『ギャンブルトレーダー ポーカーで分かる相場と金融の心理学』アーロン・ブラウン
『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人
『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎
『国債は買ってはいけない! 誰でも儲かるお金の話』武田邦彦
『平成経済20年史』紺谷典子
『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃

 ・日本経済を崩壊に導いた日本銀行

必読書リスト その二

 日本は1990年代を通じて高度成長できたはずだ。日銀がそう望みさえすれば、である。しかし、日銀幹部の見方によれば、「大事なことは、一時的な経済成長率の引き上げをめざすのではなく、腰をすえて構造的課題の解決に取り組むことではないかと思います」

【『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』リチャード・A・ヴェルナー:吉田利子訳(草思社、2001年)以下同】

 日本銀行(にっぽんぎんこう)は財務省所管の認可法人である。政府の子会社といってよい。にも関わらず勝手な真似をすることが「日銀の独立性」として長く容認されてきた。まともな経済論議が見受けられるようになったのは「失われた10年」を経た後のことと記憶している。その先鞭をつけたのが元財務官僚の高橋洋一であった。続いて三橋貴明渡邉哲也上念司ら1969年生まれが綺羅星の如く登場した。彼らの功績は決して小さなものではない。それまでの経済学者が日銀に対してどのような見解を述べたかは知らないが、国民に届くような声を発してこなかったのは確かだろう。

 経済的な知識が弱いため、この手の書評を記すとなると膨大な量の検索を迫られる。場末ブロガーである私ですら公開する文章だとそれほどの慎重さが求められるのだ。フェイクニュースという代物は明らかに何らかの意図に基づいて書かれたものだろう。

 リチャード・ヴェルナーはドイツ人学者で日本にも留学した経験がある。世界経済が低迷する中で量的緩和を主導した大物である。

 だが、(※日銀法改正)法案は通った。そのために、政府は現在、最も重要な政策である金融政策をコントロールできなくなっている。2001年はじめに株価が下がったあと、多くの政治家は日銀総裁の退陣を求めた。だが速水総裁は以前にこう述べていた。「雇用調整、人員の再配備など、いずれも、これまでの経済や社会の仕組みの見直しを迫るものであります。その過程ではさまざまな痛みが伴うことは避けられません」。つまり、日本人は終身雇用をあきらめ、雇用の不安定化という現実に直面すべきだというのだ。ただし彼の雇用の安定は保証されていた。本人が自発的に辞任しないかぎり、政府には彼をクビにする術がない。また新しい日銀法に照らせば、彼は何ら悪いことをしえちない。中央銀行は健やかな経済成長を達成すべきだとは記されていないからである。
 政治家が意志を実現するメカニズムはない。政府代表は日銀に立ち入って帳簿を監査したり、適切に運営されているかどうかをチェックすることさえできない。日銀は法律を超越し、民主的機関を超越している。景気がよくなるか悪くなるかを決定するのは政府ではなく、日銀だ。

 日銀は大蔵省ですらコントロール不能に陥っていた。大蔵省出身者が日銀総裁になると実権は副総裁が握ったという。独立性というよりも通貨発行権に基づく権力強化を目的にしたと考えてよさそうだ。

 敗戦でも変わらなかったものがあるとすれば、それは官僚支配である。官僚は昆虫を操る寄生虫(『したたかな寄生 脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち』成田聡子)のように国家を操る。

 この国に真のジャーナリズムは存在しない。それゆえ彼らはテロの犠牲となることがないのだろう。

2020-10-06

トランプは共和党最後の大統領となるか?/『2025年の世界予測 歴史から読み解く日本人の未来』中原圭介


『騙されないための世界経済入門』中原圭介

 ・トランプは共和党最後の大統領となるか?

 いまのアメリカの人口推移を見ると、おそらく今後は共和党の大統領が誕生するのは難しくなると思われます。アメリカではヒスパニックの人口が右肩上がりに増えており、この人たちの大多数が民主党を支持しているからです。おそらく次の大統領選挙が、共和党が勝つ最後のチャンスで、それを逃したら、おそらくもう二度と共和党が大統領選で勝てる機会はないでしょう。
 日本の安全保障の観点からいえば、共和党の大統領のほうが望ましいのですが、民主党を支持する人々が増えていく流れは止められません。(中略)
 それはアメリカの政治の大きな潮流です。人口の構成比、政党支持層の構成比の違いがそういう大きな潮流をもたらすのです。
 政治にしても、経済にしても、そういった大きな流れを考えていかなければなりません。

【『2025年の世界予測 歴史から読み解く日本人の未来』中原圭介(ダイヤモンド社、2014年)】

 言動力botで抜き書きを発信しているのは私の衰えつつある記憶力を補うためだ。元々物覚えがいい方ではない。そのため普段からややメモ魔の傾向がある。大切なことや、思索している時などは同じことを繰り返し書く癖がある。悪い頭を身体性で補う作業だ。

 現在、ツイッターでは自動投稿が禁止されたため手動で行っているのだが、中原圭介の指摘は極左暴力集団と化したブラック・ライヴズ・マターが台頭する昨今であればこそ、来るアメリカ大統領選挙の意義がありありと見えてくる。

 トランプ大統領が選出された背景にはアメリカ国内におけるイスラエル左右の激突がある。トランプ大統領が――あるいはトランプ大統領を担ぐキッシンジャーを始めとする黒幕たちが――行おうとしているのは軍産複合体からの脱却である。

 経済的な意味合いでのエリートは現体制の恩恵に与(あずか)っているわけだから変革を嫌う。メディアや学者がダーティーなトランプ批判を繰り返すのは自分たちの利権を死守しようとする試みに他ならない。

 もしも次の民主党政権が長期政権となれば、中露との関係は友好の度合いを深め、先進国における社会主義的傾向が強まることだろう。グローバル経済を背景に富の集中化は1990年前後から激しさを増した。その勢いはリーマン・ショックで一旦収まったかに見えたが、後の金融緩和によって更に激化した。マーケットの価格上昇を支えているのは行き場のない緩和マネーである。

「GAFA+Microsoftの時価総額、東証1部超え 560兆円に」(日本経済新聞電子版 2020年5月8日)などというニュースは明らかに狂った世界経済の偏りを示すものだ。富の偏在が暴力の温床と化し、人々を革命の方向へと誘引する。その後に訪れるのはもっと強大な独裁制だろう。個々人の行動や消費はスマホで完全管理され、健康や病気、更には戦争までもが管理下に置かれるに違いない。



アメリカ民主党の人種差別的土壌~アイデンティティ・リベラリズム/『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹

2020-07-13

金融工学という偽り/『新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性』原丈人


『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
鉄オタ父子鷹と思いきや……原丈人が描く壮大な日本の未来図
原丈人〈はら・じょうじ〉の父と祖父

 ・金融工学という偽り

・『「公益」資本主義 英米型資本主義の終焉』原丈人

必読書リスト その二

 だが、そのようにして金融ばかりを大きくすればするほど、実業の部分はどんどん疎(おろそ)かにされ、力を失っていく。金融に都合のいい仕組みを振りまわせば振りまわすほど、価値の源泉を踏みにじり、壊してしまう。そこで、「金融工学」なるものを駆使して、お金がお金を生む方法ばかりを加速させるしかなくなってしまったのである。
 この金融工学が、また曲者(くせもの)である。なぜなら、まず経済学そのものが、「完全競争」「参入障壁はない」などといった、いくつものありえない話を構築しているものだからである。前提が狂ってしまったら、すべてが文字どおり台無しだ。「サブプライムローンがあれほどの破綻(はたん)に見舞われたのも、その前提が間違っていたから」というのは、まさに象徴的だろう。
 そのような架空の前提に立って、さらに数式で表現できない部分を捨て去ることで組み立てられているものこそ「金融工学」なのである。
 端的にいおう。「幸せ」を数式で表すことができるだろうか。人間の感情を数式で表すことができるだろうか。新しい技術の芽はどこにあるかを数式が教えてくれるだろうか。たとえば、社員の家族の健康まできちんと見てくれるような経営であれば、みんな喜ぶだろうが、社員の家族の健康と株価をどう評価できるだろう。

【『新しい資本主義 希望の大国・日本の可能性』原丈人〈はら・じょうじ〉(PHP新書、2009年)】

21世紀の国富論』(平凡社、2007年)は挫折していたので、やや腰が引けたのだが驚くほど読みやすく、動画の語り口そのものだった。原丈人〈はら・じょうじ〉は威勢がいい。気持ちのよい躍動感がある。更に実務的で観念を弄(もてあそ)ぶところがない。そして見逃すことができないのは相槌の深さである。「この人は武士だな」と私は直観した。

 新自由主義に異を唱えた人物としては宇沢弘文〈うざわ・ひろぶみ〉が有名だが、原はより具体的かつ実際的にアメリカ型の株主資本主義の誤りを説く。

 経済学の基本的な考え方だと「会社は株主のもの」である。会社の目的は利潤追求だから株主利益を最大化するのが社長の仕事となる。しかもアメリカ型経営ではヘッドハンティングで経営者の首をすげ替えることが日常的に行われている。経営と労働が棲み分けされているのだ。経営者はより短期間で収益を上げることを求められるので一番簡単なコストカットに手を染める。こうして工場は低賃金の海外へ誘致され、技術が流出する。日本のメーカーも同じ道を歩み、そして日本経済の地盤沈下が今も尚続いている。

 原が提唱するのは「公益資本主義」だ。会社は社会の公器であり、社中(しゃちゅう/社員・顧客・仕入先・地域社会・地球)に貢献することで企業価値を上げる。日本の伝統的な価値観ではあるが、多くの企業がバブル崩壊以降これを否定してきた。その結果としてもたらされたのが経済格差である。

 文明の発達は移動・通信を飛躍的に進化させ、国家という枠組みが融(と)け始めた。しかしながら国際ビジネスで行われているのは国力を背景にした熾烈な競争であり、その実態は経済戦争である。一方でGDP世界第2位までに経済発展した中国は一国二制度の約束を踏みにじり香港を弾圧している。中国では国家の枠組みを強化し、アメリカの衰退を待ち構えている。社会主義国は国家の負の側面を見事に象徴している。

 経済の語源は経世済民(けいせいさいみん)である。「世を経(おさ)め民を済(すく)う」と読む。経済とは利益分配に尽きると私は考える(チンパンジーの利益分配)。なぜ分配する必要があるのか? それは集団を維持するためだ。数十人単位で移動しながら生活していた古代を想像すればいい。集団は分業を可能にし子孫の生存率を高める。集団であれば他集団からの暴力にも対抗できる。一匹狼という言葉はあるが実際に一匹で生きる狼は存在しない。そもそも子ができないだろう。人類の集団は中世において国家へと成長を遂げた。これを超えることはないだろう。世界政府は言語や宗教を思えば現実的ではない。分裂と統合を繰り返すのが人間にはお似合いだ。

 リーマン・ショック以降、各国の中央銀行が驚くべき量の金融緩和をしているにもかかわらず景気が上向かない。マネーがどこかで堰(せ)き止められているのだ。ダムとなっているのは会社と金融市場である。緩和マネーは社内留保となって動きを失い、余剰マネーはマーケットに流れ込んで高い株価を支えている。

 戦争の原因は寒冷化にあるというのが私の持論だが、経済的な冷え込みは寒冷時の食物不足と同じ意味を持つと考えてよい。

 アメリカでは2011年に「ウォール街を占拠せよ」の運動が興(おこ)り、今年になって「ブラック・ライヴズ・マター」(BLM)が猛威を振るっている。前者はリベラルな抵抗であったが、後者は単なる破壊活動で左翼の存在がちらついている。ただ、いずれにしても格差が背景にあることは間違いないだろう。金融工学の成れの果てを見ている心地がする。



農業の産業化ができない日本/『脱ニッポン型思考のすすめ』小室直樹、藤原肇

2020-04-07

マネーと言葉に限られたコミュニケーション/『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎


『お坊さんはなぜ領収書を出さないのか』大村大次郎 2012年
『税務署員だけのヒミツの節税術 あらゆる領収書は経費で落とせる【確定申告編】』大村大次郎

 ・マネーと言葉に限られたコミュニケーション

『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎 2015年
『お金の流れで読む日本の歴史 元国税調査官が古代~現代にガサ入れ』大村大次郎
『お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる』大村大次郎
『お金で読み解く明治維新 薩摩、長州の倒幕資金のひみつ』大村大次郎
『ほんとうは恐ろしいお金(マネー)のしくみ 日本人はなぜお金持ちになれないのか』大村大次郎
『知ってはいけない 金持ち悪の法則』大村大次郎
『脱税の世界史』大村大次郎

世界史の教科書
必読書リスト その二

 歴史というのは、政治、戦争などを中心に語られがちだ。「誰が政権を握り、誰が戦争で勝利したのか」という具合に。
【だが、本当に歴史を動かしているのは、政治や戦争ではない。
 お金、経済なのである。】
 お金をうまく集め、適正に分配できるものが政治力を持つ。そして、戦争に勝つ者は、必ず経済の裏付けがある。
 だからこそ、【お金の流れで歴史を見ていくと、これまでとはまったく違う、歴史の本質が見えてくる】ものなのだ。

【『お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」』大村大次郎〈おおむら・おおじろう〉(KADOKAWA、2015年)以下同】

 大村大次郎は脂(あぶら)が乗っている。読みやすいビジネス書だと思ったら大間違いだ。著作が多いため重複する内容も目立つが必ず新しい視点を提供してくれる。元国税庁の調査官ということもあって節税本が殆どだが、具体的なアドバイスもさることながら、税に対する認識や意識が変わる。それは「国民の自覚」と言い換えてもよかろう。

 小室直樹が「税金は国家と国民の最大のコミュニケーション」(『消費税は民意を問うべし 自主課税なき処にデモクラシーなし』)と喝破している。それをわかりやすく敷衍(ふえん)したのが上記テキストだ。

 なぜ古代エジプトだけが3000年もの間、平和で豊かな時代を送ることができたのか?
 筆者は、その大きな要因に、徴税システムがあると考える。
 古代から現代まで、その国の王や、政府にとって、一番、面倒で大変な作業というのは、徴税なのである。税金が多すぎると民は不満を持つし、少ないと国家が維持できない。
 また税金のかけ方が不公平になっても、民の不満材料になるし、徴収のやり方がまずければ、中間搾取が多くなり国の収入が枯渇(こかつ)する。
【古今東西、国家を維持していくためには、「徴税システムの整備」と「国民生活の安定」が、絶対条件】なのである。

 チンパンジーの世界でも「所有と分配の両方が行なわれている」(『共感の時代へ 動物行動学が教えてくれること』フランス・ドゥ・ヴァール)。ラットですら目の前で苦しむ仲間がいれば自分の利益を放棄する(『あなたのなかのサル 霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源』フランス・ドゥ・ヴァール)。

 ドゥ・ヴァールは「思いやりも本能である」と主張する動物行動学者だが、昨今の消費税増税は明らかに公平性を欠いており、段階的に下げられてきた富裕層の所得税を踏まえると、格差社会は政策によって生まれたと言いたくなる。

 バブル崩壊(1991年)後の日本を見てみよう。終身雇用が失われ非正規雇用が増え始める。学校ではいじめが日常茶飯事となり、若者の間ではニートや引きこもりが増加。人口構成は高齢化社会(65歳以上人口が7%、1970年)~高齢社会(高齢化率14%、1994年)~超高齢社会(高齢化率21%、2007年)と変遷してきた(Wikipedia)。有吉佐和子が少子高齢化を指摘したのが1972年のことである(『恍惚の人』)。200万部を超えるベストセラーとなったが政治家も国民も本気で考えようとはしなかった。

 私は少子化を問題とは思っていない。ピークを迎えた人口構成が緩やかに下がることはあるだろう。問題は「結婚したくてもできない」「恋愛をするほどの余裕もない」若者を増やし、挙げ句の果てには「子供をつくりたいと思えない」国家の有り様である。より本質的には災害や戦争が訪れることを告げているように思われてならない。

 近代以降のコミュニケーションはマネーと言葉に限定されてしまった感がある。古(いにしえ)の人々には祈り、踊り、狩り、祭りを通したコミュニケーションが存在した。現代人がスポーツや音楽に魅了されるのは「言葉を超えたコミュニケーション」を感じるためだ。コミュニケーションは交換が交感を生み交歓に至る、というのが私の持論だが、大前提として交換するものが少なすぎる。

 平等という価値観は既に左翼が汚してしまった。せめて公正さを取り戻すべきだろう。社会が崩壊する前に。

2019-10-26

消費税は「消費行動についての罰金」/『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』藤井聡


『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』中野剛志
・『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』中野剛志

 ・消費税は「消費行動についての罰金」

 そもそも消費税というものは、消費者にとっては、【「消費行動についての罰金」】のようなものだ。だから、消費税を上げれば、必然的に消費にブレーキがかかることとなるわけだ。
 いずれにせよ、私たちの世帯は平均で、消費増税によって実に年34万円(369万円→335万円)もの消費を削ることとなったのである。
 これは別の角度から言うなら、【消費増税のせいで、私達(ママ)は1世帯あたり年間34万円分も「貧しい暮らし」を余儀なくされるようになった】ことを示している。
 当たり前の話だが、年間34万円といえば、決して少なくない金額ではない。これは、消費増税の直前の消費水準からすれば実に9.2%もの水準に達する。つまり、【消費増税によって、私たちは、買えるモノが1割近くも少なくなってしまった、】というわけだ。

【『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』藤井聡〈ふじい・さとし〉(晶文社、2018年)】

 わかりやすい話である。ただ如何せん文章が悪い。タイトルも冗長だ。藤井聡はチャンネル桜でもMMTの話になると甲高い声で感情的になる悪い癖がある。「我こそは正義」との思い込みがあればたちまち説得力を失う。本当に正しい態度は常に静かなものだ。

 髙橋洋一によれば安倍首相自体は消費税増税に賛成しているわけではないが、麻生財務大臣に配慮した結果であるという。で、麻生財務大臣がなぜ増税を推進するかといえば、「財務官僚と頭のレベルが違いすぎる」から。ただそれだけのことらしい。


 麻生の父・太賀吉〈たかきち〉は経済同友会の幹事を務めたので、麻生セメントとしての判断なのかもしれない。

 消費税増税、対中政策の甘さ、香港デモに対する無関心など安倍政権に対する風当たりが強くなっている。特に最近は保守層からの批判が目立ち、チャンネル桜に至っては「反安倍」に舵を切ったようにさえ見える。長期政権に対する飽きもあるのだろう。宿願だった憲法改正が遠のいてやる気がなくなったような印象も受ける。

 トランプ大統領の登場によってグローバリズムが終焉し、新たな帝国主義時代が幕を開けようとしている。アメリカが保護主義に走るのだから日本の覇権からも退くのは当然であろう。沖縄から米軍が撤退するのも時間の問題だと思われる。その時アジアの覇権を巡って中国が前に出てくる。これに対して日本が自国の防衛だけにとどまるのか、それとも台湾・ASEAN諸国と同盟を結ぶかどうかが問われる。

 マッカーサーが占領期のどさくさに紛れて制定した憲法を破棄することはおろか、改正すらできない国民が西太平洋の平和に責任を持てるはずがない。つまり新たな日中戦争の直前になし崩し的な格好で憲法は変えられる可能性が大きい。とすると、またぞろ大東亜戦争のように行きあたりばったりの戦闘が行われることだろう。

 愚民の常として私も偉大なリーダーを待望する者であるが、教育改革やメディア改革に大鉈を振るう人物でなければ、この国の国民はいつまで経っても無責任な平和主義者として戦争に反対を唱え続けることだろう。

2019-10-25

世界史は陸と海とのたたかい/『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫


『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
『タックス・ヘイブン 逃げていく税金』志賀櫻
『超マクロ展望 世界経済の真実』水野和夫、萱野稔人
『資本主義の終焉と歴史の危機』水野和夫

 ・世界史は陸と海とのたたかい

『自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』柿埜真吾
『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』倉前盛通
『通貨戦争 崩壊への最悪シナリオが動き出した!』ジェームズ・リカーズ

世界史は陸と海とのたたかい

 EU帝国とアメリカ金融・資本帝国の違いを考える上で、大きな示唆を与えてくれるのが、シュミットの「世界史は陸の国に対する海の国のたたかい、海の国に対する陸の国のたたかいの歴史である」という歴史的視座です。
 21せいきは、シュミットが世界史を「陸と海とのたたかい」と定義した通りの展開となっています。海の「金融・資本帝国」(英米)vs.陸の「領土帝国」(独仏、露・中・中東)のたたかいです。アメリカ金融・資本帝国は無限空間である「海の国」の延長であるのに対して、EU帝国は有限空間の「陸の国」だということです。
 そして現代では、「長い16世紀」以来の近代システムにおいて勝者であった「海の国」が弱体化し、近代システムでは敗者であった「陸の国」の力が強まっているのです。金利がゼロになれば、これまで蒐集する側であった「海の国」が富を蒐集できなくなって、相対的にその地位が低下するからです。(中略)
「陸の時代」の支配者たちは、領土を手中におさめると、官僚組織の肥大化など、人的にも物的にも多大なコストをかけて広大な領土を統治しました。しかし、そのコストの重みに耐えられなくなると、社会秩序が崩れ、領土は拡大から収縮への局面に入っていくということの繰り返しでした。
 ところが、15世紀の末になると、造船技術が発達したおかげで、西欧の人々は陸の縛りから解放され、「より遠く」へ向かうことができるようになりました。ヨーロッパ各国のなかで、真っ先に大海原に出たのは、地中海世界という狭い「閉じた空間」では利潤を得られなくなったスペイン、ポルトガル、それを経済的に支援したイタリアです。「湖」にした地中海から飛び出し、大航海という賭けに出たのです。
 スペインは新大陸で銀山を発見し、ポルトガルは喜望峰を廻(まわ)って遠隔地貿易を拡大させました。しかし、スペインもポルトガルも実質的には「陸の国」の性質を捨て去ることができませんでした。海を渡った先の「陸」で、「陸の国」としての古い統治の方法を続けたのです。
 一方、新しく登場したオランダやイギリスは「海」を制することで空間を拡大させました。海という空間は、既存の国家が制定した「陸の法」が行き届く領域ではない。ならばその空間から「自由」に収奪するべく新たなルールをつくろう――。オランダやイギリスは、このような発想で、まったく新しいルールを自国に有利なようにつくり上げたのです。
 このように「陸の時代」から「海の時代」へと転換したことをシュミットは「空間革命」と呼んでいます。

【『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』水野和夫(集英社新書、2017年)】

 いやはや勉強になった。付箋だらけである。読了後もパラパラと読み返した。その丁寧な記述と論理の整合性で一気に読むことが可能だ。

 シーパワー(海洋権力)とランドパワー(大陸権力)は地政学の基本的な概念であるが、倉前盛通著『悪の論理 ゲオポリティク(地政学)とは何か』を読んで文明史的な意味合いを知った。上記テキストも倉前と異同はない。

 水野は「海の国」である英米が海洋から「金融・電子空間」にシフトしたものの、ゼロ金利時代を迎えた今、資本主義が滅びることは避けられないと説く。資本主義後を提示するのは困難極まりないが、「閉じた帝国」になると予測している。

 ま、倉前の著書が半世紀ほど前なので視点が異なるのは当然としても、水野の主張は心に響いてくるものが少ない。で、既に二度読んだ『悪の論理』も目繰り返す羽目となった。

 私が本書で引っ掛かったのは「正確に言えば、『永続敗戦論』で政治学者、白井聡が鋭く指摘したように」(233ページ)との一文である。

 白井聡は、しばき隊に交じって「安倍やめろ」と叫んでいた人物である(netgeek 2017年7月7日)。札付きの学者といってよい。もちろん赤札だが。

 加齢のため頭脳の衰えは著しいのだが、まだまだ鼻の方は利く。水野和夫の正体は「反資本主義者」なのだ。それに気づいた時、私は隠された「赤い爪」を見たような思いがした。

 水野が著作で行っているのは「資本主義の死亡診断書」を提示することだ。その目的が見えれば反資本主義→容共勢力であるのは確実と思われる。

 私の見立てが勘違いか洞察かは読者の判断に委ねるが、池上彰や佐藤優が水野を持ち上げていれば左翼と見て間違いなかろう。

 尚、amazonでは送料(500円)が発生するので要注意。



封建制は近代化へのステップ/『世界のしくみが見える 世界史講義』茂木誠

2019-09-04

日本経済の凋落/『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』中野剛志


・『大国・日本の復活 アメリカの崩壊にどう対処するか』小室直樹
・『大国・日本の逆襲 アメリカの悪あがきにトドメを刺せ』小室直樹

 ・日本経済の凋落

・『全国民が読んだら歴史が変わる 奇跡の経済教室【戦略編】』中野剛志
『「10%消費税」が日本経済を破壊する 今こそ真の「税と社会保障の一体改革」を』藤井聡

 デフレとは、まさにこの「合成の誤謬」の典型です。したがって、【デフレ脱却は、政府の責任】でなされるべきです。民間にまかせていては、デフレから脱却することは、できません。

 平成の日本では、民間企業が内部留保を貯め込み、賃上げもしなければ、積極的な設備投資や技術開発投資もしなくなってしまいました。日本企業は、画期的な新製品を送り出したり、イノベーションを生み出したりする力を失っています。
 こうしたことから、日本企業の経営のあり方が批判されてきました。経営システムが悪いとか、企業経営者に先見の明がないとか、失敗を恐れてリスクをとらないから駄目だとか、戦略やビジョンがないとか。新聞やビジネス雑誌には、日本経済の停滞を企業のせいにするような議論があふれています。
 しかし、こうした経営批判は、ほとんど的外れです。
 というのも、【企業が内部留保を貯め込むのも、賃上げをしないのも、積極的な投資を恐れているのも、ひとえに、デフレという経済環境のせい】だからです。
 これまで説明してきたように、需要不足のデフレ下においては、企業が投資を控え、賃上げもできず、内部留保を貯め込むのは、仕方のないこと。というよりはむしろ、経済合理的な行動なのです。
 デフレなのに、リスクを恐れずに積極的な投資に打って出るとしたら、その経営者は単なる向こう見ずか、でなければリスク評価のできない馬鹿だと思ったほうがよい。

【『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】』中野剛志〈なかの・たけし〉(ベストセラーズ、2019年)】

 まず日本経済の凋落ぶりを示す具体的なデータに驚いた。景気低迷の原因がデフレにあることは承知していたが私の世代だとどうしてもバブル崩壊の方が印象は大きい。バブル崩壊の衝撃がデフレという本質的な問題の影を薄くしてしまっている。




【世界の1人当たり名目GDP 国別ランキング TOP30・推移】

 MMT(現代貨幣理論)入門としてはうってつけで実にわかりやすい。経産省の官僚でありながら中野は精力的に著作を物している。

合成の誤謬」という経済用語は、個々人の正しい経済行動が全体として見た時に誤った方向へ進むことを意味する。アベノミクスは金融政策で失業率を改善したがデフレを脱却するまでには至っていない。むしろデフレに対しては無策といってよい。

 オバマ~トランプがアメリカの覇権を手放すことを明言しているのだからこれ以上の好機はないと思われるが、日本は敗戦国の立場に甘んじてアメリカの指図に従うことを繰り返すのだろうか。

目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】
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全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室【戦略編】
中野 剛志
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2019-08-07

【経済討論】MMT(現代貨幣理論)は日本を救うか?


 ・【経済討論】MMT(現代貨幣理論)は日本を救うか?

 やはり池戸万作の説明が一番わかりやすい。チャンネル桜が番組を挙げて安倍政権批判をした事実に驚いた。


目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室【基礎知識編】
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『知識ゼロからわかるMMT入門[現代貨幣理論]』三橋貴明

2018-11-25

ドイツ経済を見事に立て直したヒトラー/『ヒトラーの経済政策 世界恐慌からの奇跡的な復興』武田知弘


『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』V・E・フランクル:霜山徳爾訳
『アウシュヴィッツは終わらない あるイタリア人生存者の考察』プリーモ・レーヴィ
『イタリア抵抗運動の遺書 1943.9.8-1945.4.25』P・マルヴェッツィ、G・ピレッリ編
『アメリカはなぜヒトラーを必要としたのか』菅原出

 ・ドイツ経済を見事に立て直したヒトラー

『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』ノーマン・G・フィンケルスタイン

必読書リスト その二

 ヒトラーが政権を取ったとき、ドイツは疲弊しつくしていた。
 第一次世界大戦で国力を使い果たした上に、多額の賠償金を課せられた。ようやく復興しようとした矢先に世界大恐慌に襲われた。ドイツという国はボロボロの状態になっていたのだ。
 しかし、ヒトラーが政権を取るや否や、経済は見る間に回復し、2年後には先進国のどこよりも早く失業問題を解消していたのである。
 ヒトラーの経済政策は失業解消だけにとどまらない。
 ナチス・ドイツでは、労働者の環境が整えられ、医療、厚生、娯楽などは、当時の先進国の水準をはるかに超えていた。
 国民には定期的にがん検診が行なわれ、一定規模の企業には、医者の常駐が義務づけられた。禁煙運動や、メタボリック対策、有害食品の制限などもすでに始められていた。
 労働者は、休日には観劇や乗馬などを楽しむことができた。また毎月わずかな積み立てをしていれば、バカンスには豪華客船で海外旅行をすることもできた。
 思想的な是非はともかく、経済政策面だけに焦点を当てた場合、ヒトラーは類(たぐい)まれなる手腕の持ち主ということにいなるだろう。
 ドイツ国民も、ヒトラーやナチス・ドイツに対して決して悪い印象を持ってはいなかった。

【『ヒトラーの経済政策 世界恐慌からの奇跡的な復興』武田知弘〈たけだ・ともひろ〉(祥伝社新書、2009年)】

 ユダヤ人はロシアを含むヨーロッパで長く虐げられてきた。反ユダヤ主義は新約聖書に始まる。虐殺は幾度となく繰り返されてきたがナチスによる虐殺はスケールが異なった。ユダヤ人がまともな人間として扱われるようになったのは国民国家が誕生したフランス革命以降のことである。彼らはヒトラーを絶対悪と規定することでユダヤ人差別の解消に成功した。更に金融・メディアを牛耳ることで世界経済に影響を行使し得る権力を獲得した。イスラエル建国に際してはロスチャイルド家が資金提供し、ユダヤ人の帰国事業をプロデュースした。

 民主政を善とする現代の常識からすれば独裁者は悪となるわけだが決してそう単純な話ではない。開発独裁という言葉が示す通り、経済発展が未熟な国では安定した政権運営のために独裁が正当化されることがある。所詮政治システムの違いでしかない。人類の歴史を振り返れば独裁や専制の方が長い。民主政が碌(ろく)でもない制度であることは大東亜戦争前の日本が既に証明している。日本は世論に押され、新聞に煽られて戦争への道を走った。これは日清・日露戦争から続く伝統である。

 また普通に考えても平時は民主政でよいが、戦時は独裁色を帯びることを避けられない。更に満州事変における関東軍の戦闘は暴走に思えても、『沈黙の艦隊』の海江田四郎艦長は英雄的行動に見える。結局のところ中身が問われているわけだ。

 第一次世界大戦に敗れたドイツは莫大な賠償金を背負わされた。税収の十数年分といわれる賠償金を支払えるわけがなく、ドイツは行き過ぎた金融緩和によってハイパーインフレに襲われる。物価は1兆倍にまでなった。この状況を果たして民主政で解決できるだろうか? 無理だね。断じて無理だ。むしろ無気力となった大衆が「私に任せよ!」という独裁者を待望したことは容易に想像できる。困った時に英雄を恃(たの)むのが大衆心理である。

 複雑系科学の視点からすれば「歴史を変えた英雄」は認められない。つまりヒトラーは要素の一つであってその背景にはドイツ国民の熱力学的なエネルギーが存在するのだ(『歴史は「べき乗則」で動く 種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学』マーク・ブキャナン)。

 具体的にドイツ経済を復興させたのはヒャルマル・シャハト経済大臣の功績だ。彼は反ユダヤ主義者ではなかったという。

ヒトラーの経済政策-世界恐慌からの奇跡的な復興 (祥伝社新書151)
武田 知弘
祥伝社
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2017-11-23

「改革」を疑え/『平成経済20年史』紺谷典子


『円高円安でわかる世界のお金の大原則』岩本沙弓
『国債は買ってはいけない! 誰でも儲かるお金の話』武田邦彦
『税金を払う奴はバカ! 搾取され続けている日本人に告ぐ』大村大次郎

 ・「改革」を疑え

必読書リスト その二

 小泉改革が、景気回復をもたらしたというのは、ほとんど嘘である。戦後最長のいざなぎ景気を抜いた「最長の景気回復」と政府は言ったが、そういう政府自身、デフレ経済からの脱却を宣言できなかった。

 米国とならんで、裏で改革を後押ししてきたのは財務省だ。「改革」と言われてきたものの多くが、財政支出の削減でしかなかったことを見ても、それは明らかだ。
 年金改革も医療保険改革も、保険料の値上げと、年金の削減、医療の自己負担の増加でしかなかった。国民に安心を与えるための社会保障改革は、逆に国民の不安を拡大した。財政危機が実態以上に、大げさに語られてきたからである。しかし、年金や医療の財政危機は、事実ではなかった。
 社会保障の削減はすでに限度を超している。その結果、世界一と評価されたこともある日本の医療は、もはや崩壊寸前である。
 小泉改革の「官から民へ」は行政責任の放棄であり、「中央から地方へ」移行されたのは財政負担だけだった。「郵政民営化」は、保険市場への参入をめざす米国政府の要望である。小泉首相の持論と一致したのは、米国にとっては幸運でも、国民にとっては不運だった。
 改革のたびに国民生活が悪化してきたのは、改革が国民のためのものではなかった証左である。私たちは、そろそろ「改革」とされてきたものを疑ってみるべきではないだろうか。

【『平成経済20年史』紺谷典子〈こんや・ふみこ〉(幻冬舎新書、2008年)】

 紺谷典子は小泉政権の天敵と言われ、いつしかテレビから抹殺された人物である。まずは動画をご覧いただこう。

博士も知らないニッポンのウラ:紺谷典子

 時間のない人は58分30秒から10分ほどだけでも必ず見てほしい。様々な圧力や美味しい話に振り回されることなく、専門家としての矜持(きょうじ)をさらりと語っている。紺谷が抜いた真剣の光に照らされて宮崎哲弥や水道橋博士の軽薄さがくっきりと見える。豊かでありながら抑制された声も今時珍しい。更に誰かが口を開くと自分の話をやめて耳を傾ける姿勢も謙虚さの表れだろう。

 番組の配信が2008年3月15日である。前年の7月末にサブプライム・ショックがあり、そして2008年の9月にリーマン・ショックがマーケットを襲う。日経平均は7000円を割り込んだ。そして2009年9月に民主党政権が産声をあげる。3年間の迷走と混乱が国民を保守に回帰せしめて今日に至る。わずか9年前の番組でありながら隔世の感がある。

 amazonレビューを見ると専門的な勉強をした人ほど低い評価のようだ。ただし具体性に欠け説得力が弱い。国民全体が貧しくなった原因と解決策を示さなければ所詮言葉遊びに過ぎない。

 大蔵省-財務省にメスを入れることのできる政治家が登場しない限り、この国の政治は旧態依然のまま利権の巣窟と化す。去る総選挙で安倍首相は消費税増税分の使途を変更する公約を掲げた。やはり長期安定政権であっても財務省には逆らえないのだろう。