2015-12-31

2015年に読んだ本ランキング


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 ・2015年に読んだ本ランキング

 数日前からピックアップしたところ、たちまち60~70冊ほどになってしまった。今年は読了本が多かったため、1/3ほどのヒット率と見てよい。思い切って10冊に絞ろうとしたのだが、やはり無理であった。20冊にするのも難しかった。順位はつけているがそれほど大差があるわけではない。心に受けた衝撃度を基準にした。何か書こうかと思ったのだが、腱鞘炎がぶり返してきているので読書日記へのリンクのみとした。一年間ご愛読いただき誠にありがとうございました。伏して御礼申し上げる次第です。それでは皆さん、よいお年を。

 20位『生ける屍の結末 「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相』渡邊博史
 19位『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一
 18位『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織
 17位『平成経済20年史』紺谷典子
 16位『パール判事の日本無罪論』田中正明
 15位『言挙げせよ日本 欧米追従は敗者への道』松原久子
 14位『記憶喪失になったぼくが見た世界』坪倉優介
 13位『休戦』プリーモ・レーヴィ
 12位『決定版 国民の歴史(上)』『決定版 国民の歴史(下)』西尾幹二
 11位『父、坂井三郎 「大空のサムライ」が娘に遺した生き方』坂井スマート道子
 10位『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』輪島祐介
 9位『インテリジェンス戦争の時代 情報革命への挑戦』藤原肇
 8位『日本人のための憲法原論』小室直樹
 7位『F機関 アジア解放を夢みた特務機関長の手記』藤原岩市
 6位『逝きし世の面影』渡辺京二
 5位『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八
 4位『消えたい 虐待された人の生き方から知る心の幸せ』高橋和巳
 3位『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎、古賀史健
 2位『人間科学』養老孟司
 1位『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人

2015-12-30

勝海舟


 1冊読了。

 178冊目『氷川清話』勝海舟:江藤淳〈えとう・じゅん〉、松浦玲〈まつうら・れい〉編(講談社学術文庫、2000年)/再読。あと50ページほど残しているが明日には読み終えるだろう。会津戦争を知った今となっては驚くほど勝の言葉が響いてこない。原田伊織著『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』の影響が予想以上に大きいと見える。原田は「ただの法螺吹き」と勝を断じているが、確かに言葉の軽さは否めない。その剽軽(ひょうきん)さを除けば、どこか佐藤優と似ている。肝心なことは隠し通して、言葉で煙に巻いてしまうタイプだ。教養に名を借りた情報戦略といったところか。松浦のせせこましい脚注も自らの正しさを声高に主張しているようでみっともない。明日は今年のランキングを書く予定なので、読書日記はこれにて打ち止め。皆さん、よいお年を。

ネルソン・マンデラは「世界の警察」を拒否/『アメリカの国家犯罪全書』ウィリアム・ブルム


・『だれがサダムを育てたか アメリカ兵器密売の10年』アラン・フリードマン
『9.11 アメリカに報復する資格はない!』ノーム・チョムスキー
『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス
『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン

 ・ネルソン・マンデラは「世界の警察」を拒否

ネルソン・マンデラ 1997年

 なぜ傲慢にも、どちらへ行くべきか、どの国と友好関係を結ぶべきか、われわれに指図できるのだろう。カダフィは私の友人だった。われわれが孤立していたときに、支援の手をさしのべてくれた。一方、今日、私がここに来ることを阻止しようとした人々は私の敵だ。そうした人々は何の道徳ももっていない。一つの国が世界の警察としてふるまうことを、われわれは受け入れることはできない。
(Wahington Post, November 4, 1997, p.13,)

【『アメリカの国家犯罪全書』ウィリアム・ブルム:益岡賢〈ますおか・けん〉訳(作品社、2003年)】

【ワシントン西田進一郎】オバマ米大統領はシリア問題に関する10日のテレビ演説で、「米国は世界の警察官ではないとの考えに同意する」と述べ、米国の歴代政権が担ってきた世界の安全保障に責任を負う役割は担わない考えを明確にした。

 ただ、「ガスによる死から子供たちを守り、私たち自身の子供たちの安全を長期間確かにできるのなら、行動すべきだと信じる」とも語り、 自らがシリア・アサド政権による使用を断言した化学兵器の禁止に関する国際規範を維持する必要性も強調。 「それが米国が米国たるゆえんだ」と国民に語りかけた。

 大統領は、「(シリア)内戦の解決に軍事力を行使することに抵抗があった」と述べつつ、8月21日にシリアの首都ダマスカス近郊で化学兵器が使用され大量の死者が出たことが攻撃を表明する動機だと説明した。「世界の警察官」としての米国の役割についても「約70年にわたって世界の安全保障を支えてきた」と歴史的貢献の大きさは強調した。

【毎日新聞 2013年9月11日】

 ソース(オバマ大統領の演説のトランスクリプト)だと「アメリカは世界の警察ではない」となっている。わざわざ「同意する」を付け足した西田進一郎の狙いは何だったのか? しかも「the world's policeman」だから「世界の警察官」とすべきだろう。


「世界の警官」は「世界の暴力団」でもあった。警察は公権力だがアメリカの場合は単なる武力(暴力)に過ぎない。大統領となったネルソン・マンデラがどれほどアメリカに苦しめられたかは、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』に詳細がある。

 約半年後の2014年4月、オバマ大統領が来日した。それ以降、安倍政権がやったことといえば、特定秘密保護法と集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法の成立である。きっと「自分の国は自分で守れや」とでも言われたのだろう。で、当然のように中国が前へ出てくる。かつて核保有国同士が戦争をしたことはないから、アメリカとしては日本を中国にぶつけるつもりだろう。南シナ海か尖閣諸島あたりで。

 アメリカが警官をやめたのはカネがないからだ。アメリカの国防予算は2012-2021年まで削減が義務づけられている。とすれば世界は多極化か極のない世界に向かわざるを得ない。アメリカが一歩下がることでヨーロッパの地政学的リスクが高まれば、たぶん中国・ロシアが台頭する。

 そして米国の利上げ政策によって新興国マネーはアメリカに集まる。どこをどう考えてみても「世界は沈む」と結論せざるを得ない。「沈める」ところにアメリカの戦略があるのだろう。2016年は「暴落の年」と考えてよい。

アメリカの国家犯罪全書
ウィリアム ブルム
作品社
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ヒロシマとナガサキの報復を恐れるアメリカ/『日本最後のスパイからの遺言』菅沼光弘、須田慎一郎

坂井スマート道子、フランツ・カフカ、他


 5冊挫折、2冊読了。

市民政府論』ロック:鵜飼信成〈うかい・のぶしげ〉訳(岩波文庫、1968年)/加藤節〈かとう・たかし〉訳の方がよい。

2000円から始める!! ふるさと納税裏ワザ大全』金森重樹〈かなもり・しげき〉監修(綜合ムック、2014年)/単なるカタログ。手抜き編集。参考にならず。

偽のデュー警部』ピーター・ラヴゼイ:中村保男訳(ハヤカワ文庫、1983年)/冒頭でチャップリンが登場する。文体が合わず。

化城の昭和史 二・二六事件への道と日蓮主義者(上)』寺内大吉(毎日新聞社、1988年/中公文庫、1996年)/血盟団事件~五・一五事件~二・二六事件を日蓮主義というテーマで描く。しかも主人公の「改作」という渾名(あだな)の記者が左翼の尾崎秀実〈おざき・ほつみ〉という趣向を凝らす。3/4ほどで挫ける。事件そのものがあまり面白くない。寺内大吉は浄土宗の僧侶。

憲法と平和を問いなおす』長谷部恭男〈はせべ・やすお〉(ちくま新書、2004年)/先般、国会に参考人として招かれた人物。文章がよくない。で、たぶん左翼。政教分離(66ページ)、愛国心(69ページ)、天皇制(93ページ)に関する記述からそう判断した。例えばドイツでは税金が教会に渡っている。また愛国教育をしていないのは世界でも日本くらいだ。肝心なことを世界と比較せずに道徳的な次元で批判するのが左翼の常習性である。

 176冊目『絶望名人カフカの人生論』フランツ・カフカ:頭木弘樹〈かしらぎ・ひろき〉編訳(飛鳥新社、2011年/新潮文庫、2014年)/『生ける屍の結末 「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相』といい勝負だ。昔、「可不可」というペンネームを思いついたことがあったが、どうやら実際のご本人は「過負荷」であった模様。渡邊博史はカフカになれる可能性を秘めていると思う。

 177冊目『父、坂井三郎 「大空のサムライ」が娘に遺した生き方』坂井スマート道子(産経新聞出版、2012年)/親父の本より面白かった。娘をもつ親は必読のこと。零戦エースパイロットの凄まじいばかりの注意力が遺憾なく子育てに発揮されている。坂井三郎は「生きる不思議」を悟っていたのだろう。型破りな教えの数々が「生命の危険回避」を旨としている。リスク管理の見事な教科書。坂井を半死半生の目に遭わせた米軍パイロットとの邂逅も感動的だ。「必読書」入り。

2015-12-28

脳卒中が起こった瞬間/『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー


『壊れた脳 生存する知』山田規畝子
『46年目の光 視力を取り戻した男の奇跡の人生』ロバート・カーソン
『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』テンプル・グランディン
『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ
『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース
『悟りの階梯 テーラワーダ仏教が明かす悟りの構造』藤本晃

 ・脳卒中が起こった瞬間

ジル・ボルト・テイラー「脳卒中体験を語る」
『ザ・ワーク 人生を変える4つの質問』バイロン・ケイティ、スティーヴン・ミッチェル
『わかっちゃった人たち 悟りについて普通の7人が語ったこと』サリー・ボンジャース
『悟り系で行こう 「私」が終わる時、「世界」が現れる』那智タケシ
『二十一世紀の諸法無我 断片と統合 新しき超人たちへの福音』那智タケシ


悟りとは

 集中しようとすればするほど、どんどん考えが逃げて行くかのようです。答えと情報を見つける代わりに、わたしは込み上げる平和の感覚に満たされていました。わたしを人生の細部に結びつけていた、いつものおしゃべりの代わりに、あたり一面の平穏な幸福感に包まれているような感じ。恐怖をつかさどる脳の部位である扁桃体が、こうした異常な環境への懸念にも反応することなく、パニック状態を引き起こさなかったなんて、なんて運がよかったのでしょう。左脳の言語中枢が徐々に静かになるにつれて、わたしは人生の思い出から切り離され、神の恵みのような感覚に浸り、心がなごんでいきました。高度な認知能力と過去の人生から切り離されたことによって、意識は悟りの感覚、あるいは宇宙と融合して「ひとつになる」ところまで高まっていきました。むりやりとはいえ、家路をたどるような感じで、心地よいのです。
 この時点で、わたしは自分を囲んでいる三次元の現実感覚を失っていました。からだは浴室の壁で支えられていましたが、、どこで自分が始まって終わっているのか、というからだの境界すらはっきりわからない。なんとも奇妙な感覚。からだが、固体ではなくて液体であるかのような感じ。まわりの空間や空気の流れに溶け込んでしまい、もう、からだと他のものの区別がつかない。認識しようとする頭と、指を思うように動かす力との関係がずれていくのを感じつつ、からだの塊はずっしりと重くなり、まるでエネルギーが切れたかのようでした。

【『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』ジル・ボルト・テイラー:竹内薫訳(新潮社、2009年/新潮文庫、2012年)】

2012年に読んだ本ランキング」の第3位である。出版不況のせいで校正をしていないのかもしれない。「なんて、なんて運が」が見過ごされている。

 急激な脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)の総称を脳卒中という。ジル・ボルト・テイラーは浴室で倒れた。フラフラになりながらも何とか電話まで辿り着き、同僚に連絡するも既に呂律(ろれつ)が回らなくなっていた。

 論理や思考から解き放たれた豊かな右脳世界が現れる。それは自他が融(と)け合う世界だった。左脳は分析し序列をつける。

「科学者は、体験談を証拠とはみなさない」(『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』スーザン・A・クランシー)。しかし脳科学者の体験であれば一般人よりも客観性があり有用だろう。

 神は右脳に棲む(『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ)。ただし注意が必要だ。教祖の言葉も、統合失調症患者のネオ・ロゴス(『死と狂気 死者の発見』渡辺哲夫)も右脳から生まれる。右脳にも裏と表があるのだろう。ジル・ボルト・テイラーの体験を普遍の位置に置くのは危険だ。

 それでも傍証はある。

「閉じ込め症候群」患者の72%、「幸せ」と回答 自殺ほう助積極論に「待った」

 文学的表現ではなく、本当にただ「いる」だけ、「ある」だけでも幸せなのだ。「比較と順応がないとき、葛藤は姿を消します」(『キッチン日記 J.クリシュナムルティとの1001回のランチ』マイケル・クローネン:高橋重敏訳)。左脳の特徴である論理・分析・体系化が「悟り」を阻んでいるのだろう。我々が願う幸福の姿は左脳的で、社会における位置や他人からの評価に彩られている。

 悟りとは「世界を、生を味わうこと」だ。ジル・ボルト・テイラーの体験は本覚論の正当性(『反密教学』津田真一)を示す。なぜなら悟るべきタイミングは「今、ここ」であり、彼岸は此岸(しがん)の足下(そっか)に存在するからだ。悟りとは山頂に位置するのではない。現在の一歩にこそ求められるべきものである。

 次に戒律というテーマが見えてくるわけだが私の手には余る。


奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき (新潮文庫)

序文「インド思想の潮流」に日本仏教を解く鍵あり/『世界の名著1 バラモン教典 原始仏典』長尾雅人責任編集、『空の思想史 原始仏教から日本近代へ』立川武蔵

2015-12-25

菅沼光弘、ヨハン・テオリン、他


 6冊挫折、2冊読了。

会津落城 戊辰戦争最大の悲劇』星亮一〈ほし・りょういち〉(中公新書、2003年)/テレビマンの性(さが)はそう簡単に変わらぬようだ。星亮一は会津宣伝マンか。今後読む予定なし。

神々の明治維新 神仏分離と廃仏毀釈』安丸良夫〈やすまる・よしお〉(岩波新書、1979年)/細部にこだわりすぎて全体が見えない。キリスト教と日蓮宗不受不施派の禁止~寺請制度といった前提が描かれていないため廃仏毀釈事件簿の印象が強い。

地獄の虹 新垣三郎 死刑囚から牧師に』毛利恒之(毎日新聞社、1998年/講談社文庫、2005年)/『月光の夏』に感動した勢いで毛利恒之の著作に手をつけたのだが、パッとしない。テレビなんぞで真実を伝えられるわけがない(14ページ)。

占領下の言論弾圧』(現代ジャーナリズム出版会、1969年/増補版、1974年)/参照資料。松浦総三は共産党員らしい。「天皇の軍隊」などと書いている。左翼の言論が信用ならないのは人々を誘導するプロパガンダ性にある。彼らは天皇制打倒や社会主義化という目的を伏せながら、もっともらしい善意を振りかざして破壊活動を行う。人間を自由にしない思想・宗教はすべてイデオロギーと化す。そしてイデオロギーが人間を手段化する。

江戸時代』大石慎三郎〈おおいし・しんざぶろう〉(中公新書、1974年)/主要な大型治水工事の大半は戦国時代に行われたという。社会のグランドデザインを重視した内容。50ページほどしか興味が続かず。

冬の灯台が語るとき』ヨハン・テオリン:三角和代〈みすみ・かずよ〉訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2012年)/労多き作業にケチをつけるのは心苦しいが翻訳が悪すぎる。

 174冊目『黄昏に眠る秋』ヨハン・テオリン:三角和代〈みすみ・かずよ〉訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2011年/ハヤカワ文庫、2013年)/一度挫けている。とにかく翻訳がわかりにくい。軽く100ヶ所以上はあるだろう。リライトするだけでベストセラーになることだろう。老人たちが捜査をするという設定に無理があり、しかも登場人物の殆どが愚か者ときている。それでもラストのどんでん返しには度肝を抜かれた。次作の『冬の灯台が語るとき』にも直ぐ手を伸ばしたが、とても読めた文章ではない。

 175冊目『日本人が知らない地政学が教えるこの国の針路』菅沼光弘(KKベストセラーズ、2015年)/ウクライナ政変とイスラム国に関する情報を中心に米中の動きを解説する。例の如く語り下ろし。後藤健二さん殺害の裏側にMI5の暗躍ありとしている。中国が対日感情を和らげたのは、既に日本を格下国家と見なしているため。

映画『ZEITGEIST : ADDENDUM 』(ツァイトガイスト・アデンダム)2008年


映画『ZEITGEIST(ツァイトガイスト) 時代精神』2007年

 ・映画『ZEITGEIST : ADDENDUM 』(ツァイトガイスト・アデンダム)2008年

映画『ZEITGEIST : MOVING FORWARD』2011年

2015-12-22

宗教学者の不勉強/『21世紀の宗教研究 脳科学・進化生物学と宗教学の接点』井上順孝編、マイケル・ヴィツェル、長谷川眞理子、芦名定道


【衣服を着た神の姿】最近の研究は思わぬところから人間の身体や生活洋式の変化の過程を推測するようになっている。たとえば人類が体毛を失ったのは300万年ほど前で、服を着るようになったのが7万年ほど前という推測がある。これはシラミの研究から導かれたもので、陰部に棲むケジラミと頭部に棲むアタマジラミのDNA分子解析と、アタマジラミから分かれたコロモジラミの分子解析による。
 つまり人類の体毛がなくなったので、ケジラミとアタマジラミは分離され、別々の進化をした。また服を着るようになったので、アタマジラミからコロモジラミが分化し、もっぱら衣服に棲むようになったということである。衣服着用は、出アフリカした人類の寒冷地への進出を可能にしたと考えられる。そうすると、神とか霊的存在の表象において擬人化がいつ始まるかは不明にしても、それらが衣服をまとった姿で表象されるのは、7万年より新しくなければならないという推測が成り立つ。

【『21世紀の宗教研究 脳科学・進化生物学と宗教学の接点』井上順孝〈いのうえ・のぶたか〉編、マイケル・ヴィツェル、長谷川眞理子、芦名定道〈あしな・さだみち〉(平凡社、2014年)】


枕には4万匹のダニがいる/『人類が知っていることすべての短い歴史』ビル・ブライソン

 狙いはよいのだが勉強不足だ。井上は「あとがき」で肩をそびやかしているが、とてもそんなレベルではない。ESS理論ミラーニューロンなどが目を惹いた程度。リチャード・ドーキンス、アンドリュー・ニューバーグ、ジル・ボルト・テイラーを横断的に紹介している。

神経質なキリスト教批判/『神は妄想である 宗教との決別』リチャード・ドーキンス
脳は神秘を好む/『脳はいかにして〈神〉を見るか 宗教体験のブレイン・サイエンス』アンドリュー・ニューバーグ、ユージーン・ダギリ、ヴィンス・ロース
ジル・ボルト・テイラー「脳卒中体験を語る」

 なんとジル・ボルト・テイラーの書評もまだ書いていなかったとは(涙)。

 各人による各章がバラバラで統一感を欠く。季刊誌にするような代物といってよい。科学から宗教に対するアプローチと比べるとその浅さに驚愕の念すら覚える。

 中野毅〈なかの・つよし〉の論文「宗教の起源・再考 近年の進化生物学と脳科学の成果から」の方が有益である。この分野の書籍については以下に一覧を示す。

宗教とは何か?

ユーザーイリュージョン 意識という幻想』や『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』、『動物感覚 アニマル・マインドを読み解く』を押さえていない宗教学者は不勉強の誹(そし)りを免れない。また、ジル・ボルト・テイラーの『奇跡の脳 脳科学者の脳が壊れたとき』は、必ずジュリアン・ジェインズ著『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』から考証する必要があるのだ。

 そしてこのテーマは「情報とアルゴリズム」に向かう。科学と宗教は時間を巡る地平において肩を並べ得る。教義といえども情報である。すなわち宗教とは人類が発明した最も古い形のアルゴリズムなのだ。

21世紀の宗教研究: 脳科学・進化生物学と宗教学の接点

2015-12-20

菅沼光弘、北芝健、池田整治


 1冊挫折、1冊読了。

映像のポエジア 刻印された時間』アンドレイ・タルコフスキー:鴻英良〈おおとり・ひでなが〉訳(キネマ旬報社、1988年)/ツイッターで知った一冊。1/3ほど飛ばし読み。本の作りが立派で重厚。菊判でありながら、何とページの余白が1/3を占める。そういう勿体の付け方が文章にも見られる。時間と記憶に関する記述は大変参考になった。尚、タルコフスキー作品は1本も観たことがない。

 173冊目『NIPPON消滅の前にこれだけは知っておけ! サバイバル・インテリジェンス』菅沼光弘、北芝健〈きたしば・けん〉、池田整治(ヒカルランド、2015年)/菅沼も賞味期限切れか。松本サリン事件の被害者となった河野義行さんについて、「宗教団体Sの信者で、奥さんも婦人部長かなにかやっていたんです。ところが、あのころ、組織がD寺と分かれて」(185ページ)との菅沼発言は大丈夫なのだろうか? Sは創価学会としか読めないし、D寺は大石寺〈たいせきじ〉を「だいせきじ」と誤読したのだろう。婦人部長との役職名もそれを補強する。菅沼と北芝の話は面白いのだが、池田が極端な陰謀論者のため鼎談の出来はよくない。定価1750円は高すぎる。巻末には「刊行記念講演会」のお知らせがあり料金は7000円となっている。

ウッドハウス暎子


 1冊読了。

 172冊目『北京燃ゆ 義和団事変とモリソン』ウッドハウス暎子(東洋経済新報社、1989年)/柴五郎ものに必ず引用される文献で、論文にエピソードを盛り込んだ労作。満州人名や清国の地名が読みにくいのだが、柴五郎が登場すると俄然読む速度がはやまる。主役はタイムズ紙特派員ジョージ・アーネスト・モリソンだが、中身はモリソンの目を通した日本人讃歌といってよい。何にも増して当時の国際関係における虚々実々の駆け引きがよくわかった。現在に至る日本外交の主体性喪失は三国干渉にあったのだろう。義和団事変(北清事変)で既に日露の衝突は避けられない命運にあったことも理解できた。前著『日露戦争を演出した男 モリソン』も読まねばなるまい。

2015-12-19

これは安い

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輪島祐介、アーナルデュル・インドリダソン、他


 11冊挫折、2冊読了。

やせる!血糖値が下がる!「タマネギ」レシピ』(マキノ出版、2013年)/「タマネギ氷」が目新しい。要ミキサー。薬効強調路線。マキノ出版はオカルト健康系で知られる。悪い本ではないが少し離れた位置から読むべきだろう。

山川 詳説日本史図録』詳説日本史図録編集委員会編(山川出版社、2013年)/良書。

山川 詳説世界史図録』詳説世界史図録編集委員会編(山川出版社、2014年)/良書。世界地図の移り変わりが面白い。地球環境の変化も視点がよい。

オルタード・カーボン(上)』リチャード・モーガン:田口俊樹訳(アスペクト、2010年)/文庫本。造語センスについてゆけず。田口の訳文はもたもたした感じがあってあまり好きではない。

詳説世界史研究』木下康彦、木村靖二、吉田寅編(山川出版社、2008年)/微妙。冴えがない。面白味のない参考書といった体裁。

変見自在 スーチー女史は善人か』高山正之(新潮文庫、2011年)/著者名の正字は「はしご高」。声の悪さ、話しぶりの不透明さがとにかく好きになれない人物である。エッセイの主題は歴史の真実よりも朝日新聞を叩くところにある。それでも世界各国に身を置いてきただけあって時折、優れた知見を光らせる。

業務スーパーに行こう!』株式会社エディキューブ編(双葉社、2013年)/ほぼカタログ。知らない商品がいくつもあった。ま、店の規模にもよるのだろう。自社生産の多さには驚いた。

流れ図 世界史図録ヒストリカ』谷澤伸、甚目孝三、柴田博、高橋和久編(山川出版社、2013年)/図録は人によって好き嫌いが分かれる。安い(929円)とはいえ、使わぬ物を買うのは愚かである。図書館で参照してから選ぶとよい。

最新世界史図説タペストリー』桃木至朗監修、帝国書院編集部編、川北稔(帝国書院、2015年)/『ヒストリカ』よりはこちらが好み。

ホームには誰もいない 信念から明晰さへ』ヤン・ケルスショット:村上りえこ訳(ナチュラルスピリット、2015年)/ノンデュアリティ(非二元)という言葉を調べるために読む。具体的なワークの件(くだり)で挫折。スピリチュアリズムというスタイルから離れる必要があるように思う。

日本の軍閥 人物・事件でみる藩閥・派閥抗争史』(別冊歴史読本、2009年)/写真と図のみ評価。記事はバラバラでまとまりを欠く。柴五郎は不遇な時期が長かった、とある。薩長閥についてもよくわからず。

 170冊目『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン:柳沢由実子訳(東京創元社、2013年)/単行本で出すだけの価値あり。CWAゴールドダガー賞とガラスの鍵賞受賞。半世紀前の事件を巡って現在と過去が交錯する。それにしても暗く重々しい。アイスランドの気候もさることながら、破綻の中で辛うじて踏みとどまる家族の姿がのしかかってくる。主人公のエーレンデュルにもさほど魅力はない。っていうか魅力的な人物は見当たらない。で、そこにリアリズムを感じるかといえばそれほどでもないんだな、これが(笑)。それでも読ませる。ぐいぐい読ませる。一日半で読み終えた。

 171冊目『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』輪島祐介(光文社新書、2010年)/いやはや面白かった。戦後の風俗を巡る書籍で本書に並ぶものはない。井上章一著『つくられた桂離宮神話』を軽々と凌駕する。渡辺京二著『逝きし世の面影』、水野和夫著『資本主義の終焉と歴史の危機』に伍するレベルである。批判の鋭さにおいても一級品だ。しかも嫌味がない。「之を知る者は之を好む者に如(し)かず。之を好む者は之を楽しむ者に如かず」(『論語』)の手本といってよい。該博な知識がオタク性をまといながらも、恐るべき下半身の力で学術性を堅持している。輪島は1974年生まれでありながら、左翼勢力が文化を通してプロパガンダを行ってきた事実をも穿(うが)つ。恐れ入りました。「必読書」入り。

2015-12-11

紺谷典子、山崎正友、他


 2冊挫折、2冊読了。

骨風』篠原勝之(文藝春秋、2015年)/第43回泉鏡花文学賞受賞作品。あまりピンと来なかった。父親に虐待された過去と見舞いに行った現在とが混沌としていてわかりにくい。「オレ」とか「ゲージツ」という言葉も耐え難い。

声に出して読みたい日本語 1』齋藤孝(草思社、2001年/草思社文庫、2011年)/良書。センスがよい。飛ばし読みで終わったが半分以上は読んでいる。齋藤はプレゼンテーション能力が高い。

 168冊目『闇の帝王、池田大作をあばく』山崎正友(三一新書、1981年)/著者は元創価学会顧問弁護士。矢野絢也著『乱脈経理』を軽々と超える内容だ。こなれた文章で自分が携わってきた汚れ仕事を赤裸々に暴露している。創価学会の政治力は集票力もさることながら、池田の札束攻勢にあることがよくわかる。宗教団体というよりは手口が広域暴力団に近い。毎日新聞の内藤国夫が池田にインタビューしている事実を初めて知った。

 169冊目『平成経済20年史』紺谷典子〈こんや・ふみこ〉(幻冬舎新書、2008年)/やっと読み終えた。新書ながら400ページのボリューム。専門家の矜持が静かな怒りの焔(ほのお)となってメラメラと燃え上がる。小泉政権時代にテレビから抹殺された一人である。小泉・竹中コンビによる日本経済破壊の失政に鉄槌を落とす。日本の政治とマスコミの現状を知るための教科書といってよい。住専問題については私も当時、総合雑誌の特集号などを読んでフォローしているつもりであったが、まるでわかっていなかった。明治維新から小泉政権に至る近現代史の解明が待たれる。「必読書」入り。

兵頭二十八


 1冊読了。

 167冊目『「日本国憲法」廃棄論 まがいものでない立憲君主制のために』兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉(草思社、2013年/草思社文庫、2014年)/いやはや勉強になった。『日本人のための憲法原論』小室直樹と『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』を先に読んでおくのが望ましい。憲法改正はマッカーサー偽憲法の肯定につながるため、直ちに廃棄するのが正しいと主張。本書に注目したのは「マッカーサー証言の『セキュリティ』を安全保障とするのは誤訳」という兵頭の指摘を確認するためだった。第二次世界大戦において日本が国際法を無視した姿も『日本の戦争Q&A』以上に詳しく解説。具体的にヒトラーやスターリンの論理を駆使した演説を紹介する。日本は「自衛」という概念を理解できなかった。兵頭の高い視点はリアリズムに貫かれている。ただし時折文章の揺れが目立ち、「軍学者」を自称しているが、やや「軍事オタク」の印象が強い。「必読書」入り。

【追記】なかなか難しいのだが読む順番は、『國破れてマッカーサー』『日本の敗因』『日本の戦争Q&A』『封印の昭和史 戦後50年自虐の終焉』『日本国民に告ぐ 誇りなき国家は、滅亡する』『日本人のための憲法原論』『「日本国憲法」廃棄論』としておく。

2015-12-10

藤原岩市、権徹


 2冊読了。

 165冊目『F機関 アジア解放を夢みた特務機関長の手記』藤原岩市〈ふじわら・いわいち〉(バジリコ、2012年/原書房、1966年『F機関』/原書房、1970年『藤原機関 インド独立の母』/番町書房、1972年『大本営の密使 秘録 F機関の秘密工作』/振学出版、1985年『F機関 インド独立に賭けた大本営参謀の記録』)/大東亜戦争の真実がここにある。藤原は33歳(当時少佐)でマレー(イギリス領マレーシア)、北スマトラ(オランダ領インドネシアの州)の民族工作を命じられる。わずか数名の部下を率いて、現地住民に国家独立を促し、白人のもとで戦う現地兵士を寝返らせることが任務であった。「F」とはフリーダム、フレンドシップ、藤原の頭文字からとったもの。藤原の熱情が胸を打ってやまない。ハリマオこと谷豊も藤原のもとに参じた。シーク族(シーク教徒か?)の秘密結社IILと連携し、次々と人心をつかみシンガポールを中心にマレイ、タイ、ビルマ、スマトラの広大な地域に拡大。遂にはインド独立の機運をつくり、チャンドラ・ボースにバトンを渡す。藤原は大東亜共栄圏の理想に生きた。だが大本営はそうではなかった。シンガポールでは日本軍が華僑を虐殺している。藤原は歯噛みをしながら上官に意見を具申する。高名な山下奉文〈やました・ともゆき〉陸軍大将の振る舞いもスケッチされている。英軍探偵局長(階級は大佐)の取り調べに対して藤原は堂々とアジア民族の共存共栄を語る。局長はイギリスが人種差別感情を払拭できなかった本音を吐露する。昭和36年(1961年)、F機関の慰霊祭が初めて挙行された。巻末の「慰霊の辞」を涙なくして読むことのできる者はあるまい。

 166冊目『てっちゃん ハンセン病に感謝した詩人』権徹〈ゴン・チョル〉(彩流社、2013年)/良書。異形(いぎょう)をありのままに撮(と)っている。読み手に突きつけられるのは「目を背けたくなる現実」だ。てっちゃんの顔はアシッド・アタックの被害女性と変わらない。目も不自由だ。そうでありながらも彼は自由だ。権徹〈ゴン・チョル〉の写真はどれも素晴らしい。モノクロが光と影を見事にとらえている。日本の社会はハンセン病の実態がわかった上でも尚、彼らを隔離し続けた。親と会うことも許されなかった。ハンセン病患者を罪人扱いしてきた我々には、彼らの姿を記憶する義務がある。

2015-12-09

真珠湾攻撃の宣戦布告が遅れた真相/『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八


『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織
『國破れて マッカーサー』西鋭夫

 ・黒船の強味
 ・真珠湾攻撃の宣戦布告が遅れた真相

日本の近代史を学ぶ

Q●宣戦布告を定めた国際法はどのようなものでしたか。

A●「開戦に関する条約」といい、日本の代表は1907年10月18日に、オランダのハーグ会議の場で署名をした。欧州の主だった国々の間で効力を発生したのは、1910年1月26日からである(これ以前は、まだどの国も義務を負わされない)。日本は、1911年12月13日に批准書を寄託し、日本に関しては、条約の効力は、1912年2月11日から発生した。それに先立つ1912年1月13日に、政府が日本国民に向けて公布している。
 条約が国際法として有効になるためには、出席した代表者のサイン(調印)だけではだめで、本国の国会の批准が必要である。アメリカ合衆国であれば、連邦議会上院の外交委員会で審議の上、上院が批准する。日本でも、貴族院や枢密院が反対すれば、批准はできないようになっていた。
「開戦に関する条約」は、「戦争は予告なくして之を開始せざるべし。また、戦争状態は遅滞なく之を中立国に通告すべし」と謳(うた)い、これが主な趣意である。

【『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉以下同】

 1907年は明治40年。1912年は明治45年で7月30日以降は大正元年となる。19世紀末、多くの国々が普仏戦争(1870-71年)に勝ったドイツ軍の動員奇襲に学ぶべくドイツ軍人を招聘(しょうへい)した。日本陸軍はメッケルを教官として受け入れた。本書はQ&Aの体裁となっているが、陸軍参謀の兒玉源太郎が動員奇襲によってロシアを防ぎ、満州国を最初に発想し、それが後に不良資産となってゆく様を詳述する。

 兵藤は真珠湾奇襲を「卑劣」と断じている。日米開戦の情況について再確認しておこう。

 アメリカ東部時間午後2時20分(ハワイ時間午前8時50分)野村吉三郎駐アメリカ大使と来栖三郎特命全権大使が、コーデル・ハル国務長官に日米交渉打ち切りの最後通牒である「対米覚書」を手交する。日本は「米国及英国ニ対スル宣戦ノ詔書」を発して、米国と英国に宣戦を布告した。この文書は、本来なら攻撃開始の30分前にアメリカ政府へ手交する予定であったのだが、駐ワシントンD.C.日本大使館の井口貞夫元事官や奥村勝蔵一等書記官らが翻訳およびタイピングの準備に手間取り、結果的にアメリカ政府に手渡したのが攻撃開始の約1時間後となってしまった。そのため「真珠湾攻撃は日本軍の騙し打ちである」と、アメリカから批判を受ける事となった。

Wikipedia

 事務上の責任が問われる井口・奥村の罪は切腹ものだ、と指摘する声も少なくない。ところが実際はこの二人、戦後になって重用(ちょうよう)されているのである。対米覚書の手交が遅れた模様については、以下の説明が一般的だ。

【外務省の本性】“日米開戦”という国難において『自国破壊行為』を行った2名の在米キャリア外交官はどう処分されたか

 ところが2012年に新事実が判明する。

真珠湾攻撃の通告遅れ 大使館の怠慢説に反証/通信記録を九大教授発見 外務省の故意か

 1941年12月8日の日米開戦をめぐる新事実が明らかになった。最後通告の手直しが遅れ、米国に「だまし討ち」と非難された問題で、修正を指示する日本から大使館への電報が半日以上を経て発信されていたことを示す傍受記録が米国で見つかった。これまで不明だった発信時刻が判明。「在ワシントン大使館の職務怠慢による遅れ」とする通説に一石を投じそうだ。

 米メリーランド州にある米国立公文書記録管理局で9月末、記録を発見したのは九州大学の三輪宗弘教授。外務省が東京中央電信局からワシントンの大使館に向けた電報の発信時刻や、米海軍がそれを傍受した時刻などを記録した資料だ。
 開戦直前に外務省が大使館に送った公電は901号に始まり、911号まである。中核となる電報は902号で、米政府が戦争回避のための条件を日本に突きつけた文書、いわゆるハル・ノートに対し、これ以上の交渉を打ち切るとした覚書がその中身である。それ以外の電報は、誤字訂正や暗号解読機の破壊を命じた訓電などだ。

■誤字など175カ所

 902号電報は長文のため14部に分かれ、第1部から第13部までほぼ予定通りの時刻に発信された。しかし、12月7日午前1時(日本時間)までに発信するはずの14部は15時間以上遅延した。

 しかも902号電報には多くの誤字脱字があり、外務省は175カ所に及ぶ誤字などの訂正を903号、906号の2通に分けて大使館に送信した。
 外務省は戦後に、この2通の原本を紛失したとして、発信時刻に関して謎が残ったままだったが、三輪教授が今回の調査で2通の発信時刻を突き止めた。前に送った電報に誤りなどがあれば直ちに訂正電報を打つのが通例だが、調査結果によって、2通の発信時刻は前の電報(902号第13部)から十数時間後と大幅に時間がたっていることがわかった。

 当時は文書の清書にタイプライターを使っていた。ワープロと違って、字句の修正や挿入、削除があると最初から打ち直さなければならない。つまり訂正電報が届かない限り、大使館は通告文書を清書できないが、この2通の遅れが、最終的に米政府に通告文書を手交する時刻が遅れる大きな要因となった。

 なぜ2通は遅れたのか。訂正電報2通の発見は、通告遅延の真相解明に大きな意味を持つが、三輪教授は「発信の大幅遅れは、陸軍参謀本部のみならず外務省も関与していたことを示す証拠」と語り、外務省が故意に電報を遅延させた可能性が高いという。

 元外務官僚で退官後に東海大学などで近現代史を教えた井口武夫氏は、こうした問題を長年にわたり追究、戦後の極東軍事裁判での証言、関係者の手記などを基に902号第14部の遅延は陸軍参謀本部が関与、これに外務省が協力した結果と推定している。今回、見つかった新資料はそれを補完するものとなる。

 米国の通信会社が、日本からの暗号化したこれら電報を大使館に届けたのは7日午前9時前後(米国東部時間)とみられ、大使館が暗号を解読してタイプで清書、コーデル・ハル国務長官の手に渡ったのは真珠湾攻撃が始まった後の7日午後2時20分(同)だった。

 遅くとも真珠湾攻撃の30分前と設定していた最後通告が攻撃の後になったのは、大使館の怠慢によるとされてきた。米国で客死した大佐の葬儀に大使が参列しミサが長引いたほか、届かない公電を待ちくたびれて帰宅、翌朝になって出勤したため、米政府に手交する通告文書作成が遅延したというものだ。
 が、井口氏はそれを否定。「真実を歪曲(わいきょく)した開戦物語が一人歩きして国民に誤った印象を与えている」と指摘する。

■奇襲成功“支援”

 近年の研究によって様々な事実も明らかになっている。開戦直前の緊迫した状況だったにもかかわらず、大使館宛てのこれらの訓電の「至急」の指定が取り消され、「大至急」を「至急」に引き下げたものがあった。
 また、大佐の葬儀も、遅延には無関係だったことが長崎純心大学の塩崎弘明教授の研究によって明らかになった。
 さらに今回とは別に、三輪教授は国立公文書館で「A級裁判参考資料 真珠湾攻撃と日米交渉打切り通告との関係」を発見している。通告文の遅れを在米大使館に責任転嫁するとした弁護方針を記した資料だ。目的は東郷茂徳外相が重い罰を科されないようにするためとされる。
 今回の資料発見について、塩崎教授は「真珠湾の奇襲を成功させるため意図的に電報を遅らせたことがこれで明らかになった。打電時間についての新資料自体は細かなことだが、正確な歴史認識を得るためには、こうした史実を丁寧に掘り起こしていく必要がある」と語る。
 また、東京大学の渡辺昭夫名誉教授は「通告の前に攻撃が始まったという問題の本質は(新資料によっても)変わらないと思うが、隠されていた事実を明らかにし、政策決定における問題を追究するのは学問的に意味がある」と評している。

【日本経済新聞 2012年12月8日付】

 わかりにくい。実にわかりにくい。ストンと腑に落ちるものが一つもない。

 一方では、「宣戦布告の有無など大した問題ではない」「アメリカはベトナムやイラクに宣戦布告していない」との意見も多い。ただし、ベトナムやイラクは軍事制裁であって戦争ではないとの声もある。そもそも「開戦に関する条約」は日露戦争に由来する。日本が宣戦布告なしで戦闘に突入したことを問題視したわけだ(宣戦布告の歴史については「宣戦布告とは何か」を参照せよ)。

 更に二つある。「日本の暗号をアメリカはとっくに解読していたのだから、真珠湾攻撃は事前に知っていたはずだ」との指摘が一つ(真珠湾攻撃陰謀説)。そして「支那事変においてアメリカはフライング・タイガース(アメリカ合衆国義勇軍との位置づけ)を派遣して国民党を支援した時点において日米は戦闘状態に入った」とする説である。

 どの指摘ももっともらしく聞こえる。が、すっきりしない。兵藤は「日本が意図的に遅らせた」と言い切る。

Q●1941年12月の対米開戦前に、野村吉三郎大使がすでに2月からワシントンに赴任していたのに、11月になって、あとからもう一人、来栖大使を二重にアメリカへ送り込んだのは、なぜなのですか? 来栖大使を送って野村大使を呼び戻すというのならばともかく、野村大使はそのまま残り続けて、駐米の特命全権大使が二人も居ることになってしまった。しかも、日米交渉の打ち切りの通告は、元から居た野村大使が、アメリカの外務大臣であるハル国務長官に手交していますよね。だったら来栖大使は、何をしに来ていたのか? これを説明してくれる参考書がみつかりません。

A●二人の大使の帯びていた任務が180度サカサマであったと考えれば、得心がしやすいだろう。簡単に言えば、野村大使の使命は、赴任の最初から、来た(ママ)るべき対米開戦通告をできるだけ遅らせることにしかなかった。つまり米国海軍を奇襲することしか頭にない帝国海軍の利害の、暗黙の代理人だった。それに対して、外務省のプロ外交官である来栖大使は、〈昭和天皇の避戦の意向を、東条内閣としては大いに尊重し、このように動いておりますから〉という、いわば昭和天皇を騙すための芝居をさせられたのだ。
 対米開戦のプログラムはすでに9月から走り始めていて、11月ではもう誰にも止めようがない。来栖大使の派遣は、東条の天皇に対するポーズに過ぎなかっただろう。
 もちろん外務省は、子飼いの来栖の方を重く用いたかったろう。しかし、帝国海軍(海軍省、軍令部、連合艦隊)は、野村を無理に使わせ続けた。
 野村大使は元海軍大将だ。(中略)
 野村にしかできぬと大いに期待された仕事とは、日本海軍の秘密の願望――つまり開戦通告を遅らせて、いざというときに以心伝心で大使館業務のサボタージュ(もし開戦通告が実際の攻撃開始時刻よりも前すぎるなと思われた場合は、それを独断で攻撃開始直後まで遅らせてしまう)をやってのけることだったろう。
 日本外務省としても、外交官出身ではない野村などを駐米大使に発令されるのは、初めから面白くはなかった。大いに不満だったのだが、明治いらい(ママ)、日本外務省は、帝国陸海軍の奇襲開戦に奉仕するのが秘密の使命になっていたので、さいしょから米国に奇襲開戦する意欲に燃えていた海軍省からの露骨な人事要求を呑んでいたまでだ。

 ヘッケルから教わったプロシア式動員奇襲の伝統から日本軍は抜け出すことができなかった。真相はやはり「真珠湾奇襲」であったのだろう。

 確かに真珠湾奇襲は卑劣な行為であった。だが戦争行為そのものが罪とされるわけではない。ナチス・ドイツが第二次世界大戦において殆どの戦争において宣戦布告をしていないにもかかわらず、なぜ真珠湾だけが特筆されるのか? それはアメリカの開戦理由による。フランクリン・ルーズベルトは「アメリカの青少年をいかなる外国の戦争にも送り込むことはない」と公約して大統領になった。だが彼はイギリスがナチス・ドイツに苦戦するのを見て、参戦せずにはいられなかった。アメリカは世論の国である。大統領といえどもこれを無視することはできない。そこでエネルギーや資源の乏しい日本を禁輸で締め上げ、暴発する瞬間を待った。ルーズベルトは真珠湾奇襲を神に感謝したことだろう。モンロー主義を堅持してきたアメリカの世論は完全に引っくり返った。

 近代日本の迷走は明治維新に始まり大東亜戦争で頂点に至り、敗戦以降、東京裁判史観に覆われた挙げ句に国家観を見失った。奇襲は卑劣な行為であったとしても、戦争行為そのものが卑劣とされるわけではない。「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」(クラウゼヴィッツ)。国家には戦争をする権利があるのだ。戦後教育は戦争=悪という図式を児童に刷り込んだ。そんな国民が安全保障や憲法改正を正しく考えることなど不可能だろう。

日本の戦争Q&A―兵頭二十八軍学塾

2015-12-07

なぜ『ポスト・ヒューマン誕生』を否定的に描いたのか?/『トランセンデンス』ウォーリー・フィスター監督


 たった今、見終えた。究極の駄作であるが、アメリカのキリスト教原理主義傾向や反知性主義が透けて見える。なぜ『ポスト・ヒューマン誕生』を否定的に描いたのか? それは神を守るためだ。

指数関数的な加速度とシンギュラリティ(特異点)/『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』レイ・カーツワイル

「トランセンデンス」は超越の意であり、映画では「シンギュラリティ」よりも上に位置づけている。きっと「神の超越」に掛けたのだろう。

 主人公ウィルの意識を宿すコンピュータがなぜ悪役となったのかがわかりにくい。鍵はいくつかの場面にある。ひとつは不治の病をコンピュータが治すシーンで「イエスの奇蹟」を思わせるゆえ、神への冒涜に当たるのだろう。二つ目は妻エヴリンの詳細なデータ解析を行っている事実がバレるところ。神は全知であっても構わないが、人の全知はご勘弁といったところか。三つ目はウィルの再生で、これはイエスと肩を並べる行為だ。

 レイ・カーツワイルは明るい未来を描いたにもかかわらず、やはり結論が気に食わない連中がアメリカには多いのだろう。カーツワイルは人工知能が全宇宙に広がってゆく様相(エポック6)まで示し、宇宙を満たした意識の連帯が「神」となる可能性にまで言及している。

 永遠は神様の専売特許だ。つまりシンギュラリティ~トランセンデンスは神様の特許権を侵害しているのだ。この映画作品の主張はそこにある。

トランセンデンス [DVD]ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき

2015-12-04

中国人民元をSDR構成通貨に採用、IMF理事会が承認


人民元はSDR構成通貨に、時期不明=IMF専務理事

 ・中国人民元をSDR構成通貨に採用、IMF理事会が承認

 国際通貨基金(IMF)は11月30日に理事会を開き、国際通貨の一種「特別引き出し権(SDR)」を算定する通貨に、中国の人民元を来年10月から加えることを正式に決めた。
 米ドル、ユーロ、円、英ポンドに続く5番目の「国際通貨」としてSDRに加わり、構成割合では円を上回り3位になる。ドルを基軸とする国際金融で、人民元と中国の存在感が高まりそうだ。
 人民元はSDRの構成割合で10・92%と、ドル(41・73%)、ユーロ(30・93%)に次ぐ3位になる。円は4位で8・33%。構成割合は、輸出規模や通貨の国際的な利用状況を踏まえて決める。

YOMIURI ONLINE 2015-12-01



 IMFを背後から突き動かしたのは国際金融界である。2008年9月のリーマンショックでバブル崩壊、収益モデルが破綻した国際金融資本が目をつけたのはグローバル金融市場の巨大フロンティア中国である。その現預金総額をドル換算すると9月末で21兆ドル超、日米合計約20兆ドルを上回る。

産経ニュース 2015-12-02



 中国の朱光耀財政次官は1日、米首都ワシントンで講演し「人民元相場が市場での自由な取引で決まるようにしなければならないが、変動相場制への移行は簡単ではない」と述べ、実現に時間がかかるとの認識を示した。

産経ニュース 2015-12-02



 今般の国際通貨入りは、いよいよAIIBにより日米などを除いた圧倒的多数の国を人民元取引に惹きつけ、これまでのドルを基軸とした国際金融体制を、人民元を基軸とした国際金融体制へと移行させていこうという戦略だ。

遠藤誉 2015-12-02



 世界の外貨準備の約97%は現在、ドル、ユーロ、日本円、英ポンドのわずか4通貨で運用されている。これらの通貨を発行する4つの中央銀行はいずれも、量的緩和(QE)を通じた紙幣増刷で準備通貨の地位を乱用している。これは多くの場合、供給主導型の成長に必要な改革を政府が成立させられないために行われている。QEはいずれインフレや通貨安につながり、結果として信頼できる世界の準備通貨の深刻な不足を招くだろう。そうなれば、各国中銀は人民元の早急な採用が促されるだろう。
 人民元は最終的にドルに代わる主要準備通貨となる可能性が高い一方、中国の国債市場は世界の債券市場の主な指標になるだろう。中国の規模を踏まえると、この予想は当然と言える。中国の人口は米国の4倍を上回る。両国の1人当たりGDPが、米国でQEが始まった2011年から15年までの平均ペースで伸び続けた場合、2043年までには中国が米国を追い越す計算になる。

アシュモア・グループの調査責任者、ヤン・デーン氏 2015-11-17

アーナルデュル・インドリダソン


 1冊読了。

 164冊目『湿地』アーナルデュル・インドリダソン:柳沢由実子〈やなぎさわ・ゆみこ〉訳(東京創元社、2012年/創元推理文庫、2015年)/文庫化される。北欧ミステリ。アイスランド人作家としては初の「ガラスの鍵賞」を受賞した作品。一気読みである。年老いた男が殺される。現場には不可解なメッセージが残されていた。男の過去から別の犯罪が浮かび上がってくる。物語全体をアイスランドのどんよりした鉛色の空が覆う。横軸に主役警官のエーレンデュルの破綻した家庭を描く。長らく音沙汰のない元妻から娘を通して全く別の事件の捜査を頼まれる。縦軸は2本の線が螺旋状に連なる。そして娘はドラッグ中毒であった。エーレンデュルを取り巻く人間模様がリアリズムに徹している。単純な出来事から複雑な物語を紡ぐ手法が映画『灼熱の魂』と似ている。難点は馴染みのないアイスランド人の名前である。男女の判別もつかない。それから柳沢訳ということで安心して手を伸ばしたのだが時折妙な文章が見受けられる。今まで気づかなかったのだが柳沢御大は1943年生まれではないか! 出版社は本気で翻訳家の育成に取り組むべきだ。アーナルデュル(アイスランドでファミリーネームは使われないとのこと)の作品は『緑衣の女』『』と続くがいずれも評価が高い。

2015-12-03

黒船の強味/『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八


『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織
『國破れて マッカーサー』西鋭夫

 ・黒船の強味
 ・真珠湾攻撃の宣戦布告が遅れた真相

日本の近代史を学ぶ

Q●なぜ徳川幕府は、黒船と戦争しなかったのでしょうか。兵員数では圧倒していたと思うのですが……。

A●(中略)つまり波打ち際から5kmぐらい離れれば、最新鋭の艦砲の直撃も免れることができるのだが、江戸城の周りには武家屋敷が、さらにその周りにはおびただしい町屋が連なっていた。ペリー艦隊にとっては、風上の市街地をまず砲撃で炎上させ、それを江戸城まで延焼させることぐらいは、わけもないのであった。そのような前例としては、ナポレオン戦争中のネルソン艦隊による、コペンハーゲン市の焼き討ちがあった。
 さらにペリー艦隊は、江戸湾の入り口付近で海賊を働き、日本の商船の出入りを完全に阻止することもできた。江戸時代の街道は、荷車すら通れない未舗装の狭い道幅で、陸上の長距離輸送は、馬の背中や牛の背中に物資を載せて運ぶ以外にない。それではとうてい、大坂方面からの廻船による輸送力を、代行できるものではなかった。食料や薪炭の入港が途絶すれば、ひたすら消費するのみの100万都市には、たちどころに飢餓状態が現出するはずであった。そこには旗本の家族や家来だって巻き込まれてしまうのである。
 もしも江戸城が焼かれ、将軍のお膝元が生活物資の欠乏で大混乱に陥るという事態になれば、諸藩が徳川家に対する忠誠をひるがえす好機が、そこに生ずるだろう。大名が勝手に国元に戻ったり、各地から諸藩の軍勢が江戸にのぼってくるかもしれない。外様大名の誰かと、外国軍が結託しないという保証もなかった。(中略)
 幕末の日本には、全国で47万人くらいの武士がいたらしい。しかし戦争では、特定の戦場に、相手より強力な戦力を集中できた者が勝つ。ペリー艦隊は、日本の海岸の好きな場所に、300人の海兵隊を投入することができる。しかも、艦砲射撃の支援火力付きである。日本側が1500人の火縄銃隊をあつめてきたら、こんどは別な場所を襲撃すればよいのだ。有力な親藩の城下町も多くが海岸の近くにあり、焼き討ち攻撃には弱かった。
 この機動力と火力とを、徳川政権が実力で排除するためには、台場ではなく、鉄道か軍艦かの、どちらかが必要なのであった。

【『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉】

 長年にわたる疑問が解けた。黒船の強味は火力と機動力にあった。世界中の主要都市が海に接しているのも船を受け入れるためである。それは現在も変わらない。鉄道ではやはり量が劣る。

 大まかな歴史を辿ってみよう。

 1415-1648年 大航海時代
 1434年 エンリケ航海王子の派遣隊がボジャドール(ブジャドゥール、ボハドルとも)岬を踏破
 1492年 クリストファー・コロンブスバハマ諸島に到達。
 1497年 ヴァスコ・ダ・ガマがインドに到達
 1543年 種子島にポルトガル船が漂着。鉄砲伝来。
 1519-22年 マゼランが世界一周。
 1602年 オランダ東インド会社(世界初の株式会社)が設立。
 1620年 ピルグリム・ファーザーズメイフラワー号で北米へ移住。
 1840-42年 第一次阿片戦争
 1853-56年 クリミア戦争
 1853年 黒船来航
 1856-60年 第二次阿片戦争
 1856年 ハリス来日。
 1858年 日米修好通商条約
 1861-65年 北米で南北戦争
 1868年 明治維新
 1894-95年 日清戦争
 1904-05年 日露戦争
 1914-18年 第一次世界大戦
 1939-45年 第二次世界大戦

 大航海時代は植民地化と奴隷貿易の時代でもあった。

 ヨーロッパ人によるアフリカ人奴隷貿易(英語版)は、1441年にポルトガル人アントン・ゴンサウヴェスが、西サハラ海岸で拉致したアフリカ人男女をポルトガルのエンリケ航海王子に献上したことに始まる。1441-48年までに927人の奴隷がポルトガル本国に拉致されたと記録されているが、これらの人々は全てベルベル人で黒人ではない。
 1452年、ローマ教皇ニコラウス5世はポルトガル人に異教徒を永遠の奴隷にする許可を与えて、非キリスト教圏の侵略を正当化した。
 大航海時代のアフリカの黒人諸王国は相互に部族闘争を繰り返しており、奴隷狩りで得た他部族の黒人を売却する形でポルトガルとの通商に対応した。ポルトガル人はこの購入奴隷を西インド諸島に運び、カリブ海全域で展開しつつあった砂糖生産のためのプランテーションに必要な労働力として売却した。奴隷を集めてヨーロッパの業者に売ったのは、現地の権力者(つまりは黒人)やアラブ人商人である。

Wikipedia

大英帝国の発展を支えたのは奴隷だった/『砂糖の世界史』川北稔
奴隷は「人間」であった/『奴隷とは』ジュリアス・レスター

「奴隷を集めてヨーロッパの業者に売ったのは、現地の権力者(つまりは黒人)やアラブ人商人である」には疑問あり。要はビジネスとして成立させたのは誰か、ということが重要だ。ユダヤ人であるという指摘もある(デイヴィッド・デューク)。大航海時代を支えたのはユダヤ資本であり、リスクを債権化するという株式会社の原型を考案したのもユダヤ人だ(『投機学入門 市場経済の「偶然」と「必然」を計算する』山崎和邦)。

 火薬・羅針盤・活版印刷術の三大発明はもともと中国伝来のものだった。これらを戦争および侵略の道具としたところに西欧の強味があった。活版印刷は紙幣(銀行券)を生み、他方では宗教改革の追い風となる。

 年表を見直すと、やはり戦争によって技術革新(イノベーション)が進んできた事実がよくわかる。第二次世界大戦は空中戦となり、スプートニク・ショック(1957年)以降、人類は宇宙を目指す。

 本書で初めて知ったのだがクリミア戦争の戦域はカムチャツカ半島まで及んだという(Wikipedia)。つまりペリー艦隊はヨーロッパ諸国が戦争で手を出しにくい絶好の時期に訪れたわけだ。

 日本の開国は事実上はハリスによる日米修好通商条約だが、そのインパクトによって殆どの日本人が黒船によるものと誤解している。開国した日本は自ら黒船を造ろうと決意。欧米列強に学びながら帝国主義の道を歩まざるを得なくなる。

日本の戦争Q&A―兵頭二十八軍学塾

日米関係の初まりは“強姦”/『黒船幻想 精神分析学から見た日米関係』岸田秀、ケネス・D・バトラー
泰平のねむりをさますじようきせん たつた四はいで夜るも寝られず/『予告されていたペリー来航と幕末情報戦争』岩下哲典

2015-12-02

小山矩子


 1冊挫折。

日本人の底力 陸軍大将・柴五郎の生涯から』小山矩子〈こやま・のりこ〉(文芸社、2007年)/文芸社といえば自費出版系で知られるが、2008年に草思社を子会社化したのは知らなかった。著者は1930年生まれで小学校教諭、校長を務めた人物。フォントの大きい183ページの小著だが、半分過ぎたあたりでやめた。各所に思い込みの強さが見受けられ、自分の思い通りにならないと気が済まないような性質が露呈している。はっきり言って馬鹿丸出しだ。幼児期に会津戦争を経験した柴は何が何でも平和主義者であらねばならない、との強迫観念にとらわれている。日教組臭さを感じるが教育勅語は評価している。歴史とは現在と過去との対話であるが、この人は現在の価値観でしか過去を見ることができないようだ。少なからず資料的価値はあるものの病的な思考に耐えられず。

坂井三郎、副島隆彦、他


 4冊挫折、2冊読了。

山川 世界史総合図録』成瀬治、佐藤次高、木村靖二、岸本美緒監修(山川出版社、1994年)/843円なのだから、もちろん印刷に期待はしていない。たくさんの図が掲載されているがドキドキワクワクするものが少ない。個人的に図録は体質に合わないようだ。今のところ『ニューステージ世界史詳覧』が最強である。

詳説日本史研究』佐藤信、 五味文彦、高埜利彦、鳥海靖編集(山川出版社、2008年)/図表写真がオールカラーという大盤振る舞い。高校生の参考書といった内容で通史を学ぶにはうってつけだろう。執筆者の一人に加藤陽子の名前がある。彼女は左翼だ。西尾幹二らが『自ら歴史を貶める日本人』批判をしている(※動画)。

スッタニパータ[釈尊のことば]全現代語訳』荒牧典俊、本庄良文、榎本文雄訳(講談社学術文庫、2015年)/読了することあたわず。原典に忠実な翻訳が日本語を滅茶苦茶にしている。それでも尚、本書は必須テキストで参照用の副読本として中村本の隣に置くことが望ましい。

寝たきり老人になりたくないならダイエットはおやめなさい 一生健康でいられる3つの習慣』久野譜也〈くの・しんや〉(飛鳥新社、2015年)/『寝たきり老人になりたくないなら大腰筋を鍛えなさい』の二番煎じ。女性読者層の拡大を狙ったものか。文章もわかりやすく説明も巧みなのだが発展性に欠ける。前著を読んだ人には不要な本だ。

 161冊目『日本の秘密』副島隆彦〈そえじま・たかひこ〉(弓立社、1995年/新版、PHP研究所、2010年)/好著。副島本はおすすめできるものが殆どないのだがこれは例外。吉田茂、安保闘争など。片岡鉄哉と田中清玄〈たなか・きよはる〉の名前を知ったことが最大の収穫であった。

 162、163冊目『大空のサムライ 死闘の果てに悔いなし(上)』『大空のサムライ 還らざる零戦隊(下)』坂井三郎(講談社+α文庫、2001年/光人社、1967年『大空のサムライ かえらざる零戦隊』改題)/一気読み。フィクションありということを知り躊躇していたが読んで正解だった。戦記ものとしては驚くほど悲惨な場面が少ないのも空の男ゆえか。躍動する青春記といってよい。戦闘シーンが単純に堕していない表現力の妙がある。白眉は「あとがき」だ。恐ろしいまでの修練を課してきたことを赤裸々に綴る。零戦が強かったのはその性能もさることながら、パイロットたちの技量によるものであることがよくわかった。

2015-11-28

憲法9条に埋葬された日本人の誇り/『國破れて マッカーサー』西鋭夫


『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛

 ・憲法9条に埋葬された日本人の誇り
 ・アメリカ兵の眼に映った神風特攻隊

『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八
・『日本永久占領 日米関係、隠された真実』片岡鉄哉
日本の近代史を学ぶ

 スタンフォード大学フーバー研究所出版から出た本のタイトルは Unconditional Democracy 日本の「無条件降伏(unconditional surender)」と「民主主義」をかけたもので、「有無を言わさず民主主義化された」という強い皮肉を含んだタイトル。アメリカでは、このタイトルだけでも有名になった本だ。
 この本は、アメリカで公開された生(なま)の機密文書を使って書かれた最初の本である。出版されたのは1982(昭和57)年。1991(平成3)年、廣池学園出版部からもペーパーバック版が刊行された。
 私が翻訳したのではないが、大手町ブックスから『マッカーサーの犯罪』として、1983年に出版されたのはこの本だ。その直後から、日本からもアメリカ国内からも、学者たちから電話や手紙が沢山あった。占領関係の資料についての「教えを請(こ)う」ものだった。
『國破れて マッカーサー』は Unconditional Democracy と『マッカーサーの犯罪』を基(もと)に、戦後日本の原点、「占領」という悲劇をさらに明らかにしようと、私自身が全面的に書き改めたものである。(「はじめに」)

【『國破れて マッカーサー』西鋭夫〈にし・としお〉(中央公論社、1998年/中公文庫、2005年)以下同】

 わかりにくい出自である。ひねくれた自慢が話を更にややこしくしている。しかも『マッカーサーの犯罪』は西の名前で刊行されているのだ。本書は確かに良書である。良書なんだが時折行間から嫌な匂いが放たれる。もともと保守とは穏健さに裏打ちされた政治姿勢であり、革新は暴力性を秘めた急進性を伴う性質のものだった。その意味から申せば西は保守ではない。右翼というべき人物だろう。真の保守とは武田邦彦のような人物である。

 ダイレクト出版株式会社で講演録を販売しているが、「無料」と謳っていたので注文したところ、届いたのは音声CDであった。しかも申し込みをした時点でサイトから動画をダウンロードできるため、多分「送料550円」で利益を出しているのだろう。動画を見れば一目瞭然だが時折大声を張り上げる虚仮威(こけおど)しともいうべき講演スタイルで、怒りっぽい年寄りにしか見えない。話しっぷりからも右翼であることが伝わってくる。

 我々の「誇り」は第9条の中に埋葬(まいそう)されている。

 確かにそうだ。民族としての誇りは既にない。GHQの占領政策で埋め込まれた戦争の罪悪感は、戦後教育を通して子供たちの血となり骨と化した。現在の国際情勢にあって日本は歴史的事実を開陳することも許されない立場となっている。従軍慰安婦捏造や南京大虐殺捏造に対して事実究明の反論をすることもできなければ、怒ることすら躊躇(ためら)われる雰囲気に覆われている。

 日本の文化から、日本の歴史から、日本人の意識から「魂」を抜き去り、アメリカが「安全である」と吟味したものだけを、学校教育で徹底させるべし。マッカーサー元帥の命令一声で、日本教育が大改革をさせられたのは、アメリカの国防と繁栄という最も重要な国益があったからだ。
 アメリカが恐れ戦(おのの)いた「日本人の愛国心」を殺すために陰謀作成された「洗脳」を、日本は戦後五十余年の今でさえ「平和教育」と呼び、盲目的に崇拝し、亡国教育に現(うつつ)を抜かしている。(中略)
 あの口五月蠅(うるさ)いアメリカ、自動車部品を1個、2個と数えるアメリカが、コダック、富士フイルムを1本、2本と数えるアメリカが、日本の「教育」に文句を言わない。一言も注文を付けない。
 日本の教育は今のままで良いと思っているからだ。アメリカは日本教育改革がここまで成功するとは思ってもいなかった。

 本書は前半が占領政策、後半が教育行政を描く。単なる機密文書の紹介にとどまらず、しっかりと構成されている。日本の近代史を知るためには不可欠の一書といってよい。ただし、マッカーシズムについて書きながらもヴェノナ文書(『ヴェノナ』ジョン・アール・ヘインズ、ハーヴェイ・クレア)に関する記述がないのは腑に落ちない。またマッカーサーについては兵頭二十八〈ひょうどう・にそはち〉著『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』を併せて読むと理解が深まる。

國破れてマッカーサー (中公文庫)

石油ファンヒーターはダイニチがおすすめ


 各社石油ファンヒーターのレビューをつぶさに読んできたが、ダイニチが一歩抜きん出ている。思い切った値下げをしており、大半の製品が9リットルの大容量である。

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2015-11-27

会津戦争の悲劇/『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人


『逝きし世の面影』渡辺京二
『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織
『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一
『武家の女性』山川菊栄
・『覚書 幕末の水戸藩』山川菊栄
・『武士の娘』杉本鉞子

 ・会津戦争の悲劇

『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
・『日本人の底力 陸軍大将・柴五郎の生涯から』小山矩子
『國破れてマッカーサー』西鋭夫
日本の近代史を学ぶ

 いくたびか筆とれども、胸塞がり涙さきだちて綴るにたえず、むなしく年を過して齢(よわい)すでに八十路(やそじ)を越えたり。
 多摩河畔の草舎に隠棲すること久しく、巷間に出づることまれなり。粗衣老軀を包むににたり、草木余生を養うにあまる。ありがたきことなれど、故郷の山河を偲び、過ぎし日を想えば心安からず、老残の身の迷いならんと自ら叱咤(しった)すれど、懊悩(おうのう)流涕(りゅうてい)やむことなし。
 父母兄弟姉妹ことごとく地下にありて、余ひとりこの世に残され、語れども答えず、嘆きても慰むるものなし。四季の風月雪花常のごとく訪れ、多摩の流水樹間に輝きて絶えることなきも、非業の最期を遂げられたる祖母、母、姉妹の面影まぶたに浮びて余を招くがごとく、懐かしむがごとく、また老衰孤独の余を憐れむがごとし。
 時移りて薩長の狼藉者も、いまは苔むす墓石のもとに眠りてすでに久し。恨みても甲斐なき繰言(くりごと)なれど、ああ、いまは恨むにあらず、怒るにあらず、ただ口惜しきことかぎりなく、心を悟道に託すること能わざるなり。

【『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人〈いしみつ・まひと〉編著(中公新書、1971年)以下同】

 柴五郎は会津藩の上級武士の家に生まれた。会津戦争に敗れ、斗南(となみ/下北半島)の地で少年時代を極貧のうちに過ごした。その後12歳で単身上京。陸軍幼年学校、陸軍士官学校で学ぶ。士官学校の同期に秋山好古〈あきやま・よしふる〉がいる。柴はフランス語・シナ語・英語に堪能。北清事変(義和団の乱)で8ヶ国の公使館連合で抜きん出たリーダーシップを発揮し世界各国から絶賛される。これがきっかけとなって日英同盟(1902-23年)が結ばれる。そして1919年(大正8年)に陸軍大将となる。

 冒頭「血涙の辞」はこう締め括られる。

 悲運なりし地下の祖母、父母、姉妹の霊前に伏して思慕の情やるかたなく、この一文を献ずるは血を吐く思いなり。

 それは単なる形容詞ではなかった。柴五郎は大東亜戦争の敗北を見届け、85歳で割腹自殺を図る。だが衰えた力は止(とど)めを刺すに至らなかった。その怪我によって死亡したことを思えば自決は成功したと見るべきか。

 村上兵衛〈むらかみ・ひょうえ〉の批判について一言書いておこう。

 少年時代の五郎の自筆回顧録は、ほとんど同じ内容の和綴じの3冊が遺されていることが判った。その1冊が底本となって、『ある明治人の記録』(石光真人著)もすでに出版されているが、潤色がある。私はそれには拠らなかった。(「あとがき」)

【『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛〈むらかみ・ひょうえ〉(光人社、1992年/光人社NF文庫、2013年)】

「潤色」との一言が嫌な匂いを放つ。せめて石光本人に確認すべきではなかったか。そもそも石光は「この書は柴五郎翁が、死の3年前に、私に貸与されて校訂を依頼された、少年期の記録である。その折、特に筆者保存を許され、さらに内容については数回お話をうかがった」(「本書の由来」)と記し、重ねて「内容があまりにもショッキングなものであったために、たびたびお会いして多くの補足的説明をしていただかねばならなかった。したがって本書は、草稿に、さらに聞きとったものを補足して整理したものである」と断っている。村上は「拠らなかった」としているが、実際読んでみると大きな相違は感じられない。私が気づいたのは犬の肉で父親に叱咤される場面くらいである。「潤色」は批判というよりも自著を高みに引き上げる宣伝文句と考えてよかろう。

 女子は祖母つね(81歳)、母ふじ(50歳)、太一郎妻とく(20歳)、姉そい(19歳)、妹さつ(7歳)の5名なり。これら女子の始末は、それぞれの家にまかせあり、去るもよし、籠城するもよしとのことなり。

 五郎少年は大叔母に誘われてキノコ狩りへ出掛けた。それが女家族との永訣となる。会津戦争(1868年)が勃発したのだ。

 戦闘に役立たぬ婦女子はいたずらに兵糧を浪費すべからずと籠城を拒み、敵侵入とともに自害して辱めを受けざることを約しありしなり。

 会津では男児に武士道を教えるのは女性の役割だった。「江戸時代は200年以上にわたって 戦乱のない世界史上では ミラクル・ピースと言われる 平和な時代だった」(『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』小林よしのり)。それゆえ武士道は「生きる規範」として伝えられた。死を覚悟する生きざまは日常的に教えられた。

 清助翁まず奥の部屋より難民を去らしめてのち、余を招き身じまいを正して語る。
「今朝のことなり、敵城下に侵入したるも、御身の母をはじめ家人一同退去を肯(き)かず、祖母、母、兄嫁、姉、妹の5人、いさぎよく自刃されたり。余は乞われて介錯いたし、家に火を放ちて参った。母君臨終にさいして御身の保護養育を委嘱されたり。御身の悲痛もさることながら、これ武家のつねなり。驚き悲しむにたらず。あきらめよ。いさぎよくあきらむべし。幼き妹までいさぎよく自刃して果てたるぞ。今日ただいまより忍びて余の指示にしたがうべし」
 これを聞き茫然自失、答うるに声いでず、泣くに涙流れず、眩暈(めまい)して打ち伏したり。幾刻経たるや知らず、肩叩かれて引きおこさるれば、すでに夜半なり。

 これが8歳の子供に起こった現実であった。『セデック・バレ』そのものである。会津藩はルワンダと化した。

 あれは何時のことだったろう……? 二人だけのとき、【さつ】が懐ろからそっと懐剣を出して見せ、
「いざ大変のときは、わたしもこれで黄泉路(よみじ)に行くのよ」と、誇らしげに五郎に言ったことがあった。
「ふん、生意気な……」
 五郎は、そんなことが起ころうなど、だいいち現実のこととは思えなかった。いや、はるかに遠い、遠い夢のできごと……といった感じで、妹の「たわごと」を聞いたような気もする。しかし、いま大叔父からの報知に接して、あのときの妹の顔が、【うっとり】とあどけない表情で、まざまざと脳裏に立ち戻ってくるのであった。

【『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛〈むらかみ・ひょうえ〉(光人社、1992年/光人社NF文庫、2013年)】

 さつは7歳だった。村上本によれば母親が胸を突いたという。功成り名を遂げた柴五郎は晩年に至って書くことで再び会津戦争を生きたのだろう。「この一文を献ずるは血を吐く思いなり」――。その思いを肚(はら)で受け止めようと渾身の力で踏みとどまる。「勝てば官軍」の陰にはこれほどの悲劇があった。とてもじゃないが西郷隆盛を尊敬する気は起こらない。

ある明治人の記録―会津人柴五郎の遺書 (中公新書 (252))

日英同盟を軽んじて日本は孤立/『日本自立のためのプーチン最強講義 もし、あの絶対リーダーが日本の首相になったら』北野幸伯

2015-11-26

幕末会津の生活誌/『武家の女性』山川菊栄


『逝きし世の面影』渡辺京二
『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織
『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一

 ・幕末会津の生活誌

・『覚書 幕末の水戸藩』山川菊栄
・『武士の娘』杉本鉞子
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
『國破れてマッカーサー』西鋭夫

 おじいさんは十二、三から十四、五くらいのあどけない娘たちが、一日ろくに口もきかずにせっせと針を動かしているのを見て、いじらしくて堪(たま)らなくでもあったのでしょう。そして何とかしてくつろがせ、慰めてやりたくて堪らなかったのでしょう。ときどき余興を始めます。
 「ねえお師匠さん、いいでしょう、あれを出して下さいよ、ね、お師匠さん」
と、大きなおじいさんが小さなお師匠さんのそばに来て、何かしきりにせがみます。
 「まあ今日はおやめになった方がようございましょう」
とお師匠さんは相手にならず、針を放そうともしません。おじいさんは赤ん坊のようにお師匠さんの傍ににじりよって、おねだりして離れません。
 「まあそんなことをいわないで、あれを出して下さいよ、ねえお師匠さん、ねえ」
いつまでもやめないので、お師匠さんも仕方なしに立っていって、奥の長持をあけて何やら出す様子です。やがておじいさんは、郡内(ぐんない)の表にお納戸甲斐絹(なんどかいき)の裏をつけた客夜具(やぐ)を着て――それがうちかけのつもりなのです――右の手には用心棒という六尺の樫(かし)の棒を杖につき、猟にでもいく時のものでしょう、大きな竹の皮の笠(かさ)を左手にもち、一生懸命細い、かわいらしい声を出して、
 「もうしもうし、関を通して下さんせ」
と関寺の小町姫になって現われます。裃(かみしも)に大小でもささせたら御奉行様くらいには見えそうな、目の大きな、鼻の高い、立派な顔だちの人ではありましたが、何しろ酒やけの赤ら顔で、頭は禿げ上がり、紫色の大きな厚い唇をした大入道のこと、それが半幅の袖口のついた郡内縞の大夜着(やぎ)を着て、精一杯かわいらしい声を振りしぼって小町姫を踊るのですから、若い娘たちは、お腹を抱えて笑わずにはいられません。座敷中、仕立物もそっちのけにして、笑いどよめくのを見ておじいさんは大得意、嬉しくて堪らないのでした。

【『武家の女性』山川菊栄〈やまかわ・きくえ〉(三国書房、1943年/岩波文庫、1983年)以下同】

「おじいさん」は石川富右衛門という老藩士、「お師匠さん」は細君である。水戸藩士青山延寿〈あおやま・のぶとし〉の娘・千世(ちせ)が山川菊栄の母。幕末会津の生活誌を生き生きとした筆致で綴る。当時、「自分の着物を自分で縫えるようになること」が女性の嗜(たしな)みであったという。

 それにしても、まるで実際に見てきたような描き方である。母が語る過去の鮮やかな精彩が読者にまで伝わってくる。菊栄は婦人問題研究家、夫の山川均はマルクス主義者であった。初版は戦時中に刊行されており思想色は見られない。藤原正彦がお茶の水女子大の読書ゼミで採用し、広く知られるようになった(『名著講義』2009年)。

 石川富右衛門があずかった少女たちを可愛がる様子は、それこそ目に入れても痛くないといった風で微笑ましい。娘たちが縫った着物に少しでもケチがつくと大変な剣幕で抗議をしたという。何も知らない千世のもとに客が詫びを入れにわざわざ訪れたことが書かれている。

 この石川さん夫婦は烈公以前の哀公時代、すなわち文化文政の、のんびりした華やかな時代に青年期を送り、芝居も遊芸も自由に楽しめた時代に育った人でした。したがって芸ごとにも明るく、人柄ものびのびしていました。とはいってもこのおじいさんはただの好々爺(こうこうや)ではなく、きかん気で有名な人だったのです。この人がまだ若い自分たいそう尿やで意地悪の役人があり、新参の下役をコキ使ったり、苦しめたりして嫌われていました。その人の下役にこのおじいさんがなった時には、さてあのきかん気の石川が無事にすむだろうか、とみな心配しました。間もなく、その意地悪の上役と石川さんとが一所に御殿に宿直することになりましたが、翌朝、上役は例の通り、いばりくさって、石川さんに洗面のお湯をもってこいと命じました。持ってきたお湯は、いつもやかましくいうことですから、熱からず、ぬるからず、ちょうどいい加減のものと思ったのでしょう、上役はいきなり両手を突込みました。ところがグラグラ煮立っていたのですから堪りません。
 「アツツ」
と叫んで取り出した両手はただれたように赤くなっています。すると傍で見ていた石川さんは、
 「ヤアやけどか、やけどなら灰がいい」
というかと思うと、いきなり火鉢の灰をパッとかぶせました。居合わせた者は気をのまれて声も立てず、やけどの上に灰まみれになった相手も、大男で力持ちの石川さんが仁王立ちになっているのを見て、刀をぬこうともしませんでした。その上役にはみな困りぬいていたこととて、一人の同情者もなく「石川はよくやった」、「石川でなければああはできない」などという者ばかり。石川さんは何のお咎(とが)めもなく他の役に転勤を命ぜられて、その意地悪の上役とは無関係の地位におかれただけ、儲(もう)けものをしたのでした。このことがあってから、身分はいたって低いのでしたが、石川富右衛門といえば誰知らぬ者もなくなったそうです。
 石川さんに会っては、さすがの藤田東湖もこっぱみじんです。
 「何あの古着屋が」
と、てんで問題にしません。

 烈公とは徳川斉昭〈とくがわ・なりあき〉(1800-60年)で最後の将軍・慶喜〈よしのぶ〉の実父。哀公は斉昭の養父・徳川斉脩〈とくがわ・なりのぶ〉(1797-1829年)である。藤田東湖は斉昭の腹心で明治維新を染め抜いた水戸学の大家。

 会津には名君・保科正之(1611-73年)が定めた「会津家訓(かきん)十五箇条」が伝わる。また10歳未満の子弟には「什(じゅう)の掟」が脈々と叩き込まれる。「ならぬことはなならぬものです」というあれだ。寄り合いでは必ず前日に「掟を守ったかどうか」を確認し合う。そして破った者には制裁が加えられる。「什」はきわめて民主的に運営されており、判断が難しい場合は年長者に知恵を借りた。陪審員裁判の先駆か。現在は「あいづっこ宣言」として児童が唱える。

 石川の大暴れには「卑怯な振舞をしてはなりませぬ」「弱い者をいぢめてはなりませぬ」の精神が垣間見える。悪を許さぬ激情と少女たちへの愛情は表裏一体だ。石川の真剣さは明確な殺意となって相手に伝わったことだろう。

 私が幼かった頃はまだ「弱きを助け強きを挫(くじ)く」気風が残っていた。陰湿ないじめを見たことがない。やがて戦後教育の成れの果てが校内暴力・家庭内暴力を引き起こす。長幼の序は崩壊した。1970年代後半のことである。

 社会におけるタテの関係がズタズタになったまま日本はバブル景気へ向かう。バブルが弾けた後、オウム真理教によるテロ事件や女子中高生による援助交際が露見した。かつての日本にはあり得ない変化であった。

 千世刀自(とじ)のように生き生きと語るほどの過去が私にあるだろうか? 豊かな時代になればなるほど些末な人生を生きる羽目に陥る。都会で育てば「兎追ひし彼の山」も「小鮒釣りし彼の川」もない。祖国を思う心を否定した挙げ句、郷土を愛する気持ちすら失いつつあるような気がしてならない。

武家の女性 (岩波文庫 青 162-1)

2015-11-25

【佐藤優】くにまるジャパン 2015年11月20日(金)

小林よしのり


 1冊読了。

 160冊目『国民の遺書 「泣かずにほめて下さい」靖國の言乃葉100選』小林よしのり責任編集(産経新聞出版、2010年)/靖国神社で販売されている『英霊の言乃葉』の第1~9輯(しゅう)の選集。産経新聞出版社が小林に選者を依頼した。一気に読むこと能(あた)わず。私は北海道で生まれ育った。北海道民の多くは移住者や引揚者で住んでから4世代ほどしか経っていない。先祖や家という概念が稀薄で、離婚率が高い理由もそこにあるのだろう。その私が生まれて始めて「父祖の思い」を知った。靖国神社に祀られている英霊は国事に殉じた人々で、ペリー来航から大東亜戦争までの期間に及ぶ。これすなわち日本の近代化に殉じた人々と言い換えてもよかろう。私は敢えて本書を薦めない。特攻隊や死刑となった人々の生きざまが台風のごとく読み手の感情を翻弄する。その激しい風に耐え、両足を知性という大地に下ろすことのできる者のみが読むべきであろう。まして本書の言葉を声高に吹聴する輩など断じて信用すべきではない。飽くまでも自分が向き合う言葉なのだ。併せて読むべきは『きけ わだつみのこえ 日本戦没学生の手記』日本戦没学生記念会編、『今日われ生きてあり』神坂次郎、『月光の夏』毛利恒之、『新編 知覧特別攻撃隊』高岡修編、『保守も知らない靖国神社』小林よしのり、『イタリア抵抗運動の遺書 1943.9.8-1945.4.25』P・マルヴェッツィ、G・ピレッリ編など。

上野正彦、周東寛、他


 2冊挫折、2冊読了。

金融世界大戦 第三次大戦はすでに始まっている』田中宇〈たなか・さかい〉(朝日新聞出版、2015年)/ウェブサイトの記事をまとめたもの。恐ろしく読みにくい。ページ下の余白も気になる。

ありふれた祈り』ウィリアム・ケント・クルーガー:宇佐川晶子〈うさがわ・あきこ〉訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2014年)/「もしもし」(13ページ)は致命的な翻訳ミス。翻訳というよりは日本語の問題である。「もしもし」は電話を掛けた人が使う言葉で、受けた人が言うのは誤り。「もしもし、道をお尋ねしますが」のもしもしと一緒だ。もともとは「申し申し」。早川書房の校正の甘さを嗤(わら)う。

 158冊目『糖尿病・高血圧・脂肪太り ぜんぶよくなるタマネギBOOK』周東寛〈しゅうとう・ひろし〉監修(GEIBUN MOOKS、2010年)/芸文社の月刊誌『はつらつ元気』から派生したムック本。画像とフォントのバランスがよい。記事も及第点。最近読んできたタマネギ本の中では一押し。周東寛は南越谷健身会クリニック院長。書籍タイトルや体験談が薬事法を踏み越えているが、ま、ご愛嬌ということで。

 159冊目『自殺の9割は他殺である 2万体の死体を検死した監察医の最後の提言』上野正彦(カンゼン、2012年)/良書。ラストメッセージの味わいあり。上野は1929年生まれ。もの言わぬ死体のメッセージを上野が翻訳する。いじめ自殺に寄り添う心が胸を打ってやまない。

2015-11-23

朝倉慶、落合莞爾、井上章一、他


 3冊挫折、2冊読了。

つくられた桂離宮神話』井上章一(弘文堂、1986年/講談社学術文庫、1997年)/批判のあり方としては王道を歩む本である。「桂離宮の発見者」と目されているブルーノ・タウトだが、その前後の美術界における言動を詳細に検証する。この手法は歴史や宗教にも応用されてしかるべきだ。中ほどまで読むも、同じような話の繰り返しが目立つ。併読する書籍が少なければ読み終えたことだろう。

フライパンでつくる 美腸 グラノーラ』小林暁子〈こばやし・あきこ〉(角川SSCムック、2014年)/本の構成が悪い。判型も妙に横幅が長い。テキストのバランスが悪く読むに堪えないクソ本である。やたらと店の紹介をするのもおかしい。立ち読みで十分だ。

堕ちた庶民の神 池田大作ドキュメント』溝口敦(三一書房、1981年)/『池田大作 「権力者」の構造』の増補版であった。池田の会長辞任を巡って再商品化したのだろう。

 156冊目『逆説の明治維新』落合莞爾監修(別冊宝島、2015年)/なかなか面白かった。明治維新の全体的な流れがよくわかった。落合は徳川慶喜を高く評価する。戊辰戦争(1868-69)については薩長土の低い身分の者どもを士族に引き上げる報奨を与える目的があったと指摘。いくばくかの疑問あり。

 157冊目『もうこれは世界大恐慌 超インフレの時代にこう備えよ!』朝倉慶〈あさくら・けい〉(徳間書店、2011年)/この人の情報は部分的に読むのが正しいと思われる。とにかく芸風が酷い。ひたすら投資家の不安を煽る手口で怪文書並みの文体となっている。「奥さん、大変ですよ!」ってな感じだ。その軽さが信用ならない。まして巻末で船井幸雄を持ち上げるに至っては何をか言わんやである。炎上商法の亜流か。

歴史という名の虚実/『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一


『逝きし世の面影』渡辺京二
『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織

 ・歴史という名の虚実

『武家の女性』山川菊栄
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
『國破れてマッカーサー』西鋭夫

 私はこの世に歴史はないと思っている。
 電車は通過しても線路の上に存在するが、事象は通過したとたんに消えてなくなる。残るのは、怪しげな書簡と危うい遺跡と心許(こころもと)ない口伝(くでん)だけだ。それもごくわずか、米粒のごときである。国の支配者はそれをいいことに好き放題料理する。虚を実にし、実を虚にして都合よく造っていくのだ。小説家もまたしかりだ。その陽炎(かげろう)にも似た米粒を拾い集めて、自分の歴史などというものを描くのである。

【『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一〈かじ・まさかず〉(祥伝社文庫、2009年/祥伝社、2006年『あやつられた龍馬 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』改題)以下同】

 E・H・カーが「すべての歴史は『現代史』である」とのクローチェの言葉を挙げ、「歴史とは解釈である」と言い切る(『歴史とは何か』1962年)。また「歴史は武器である」(『歴史とはなにか』2001年)という岡田英弘の指摘も見逃せない。つまり「歴史は勝者によって書かれる」(『中国五千年』陳舜臣、1989年)のだ。

 偽勅と偽旗(錦の御旗の偽造)によって成し遂げられた明治維新は薩長なかんずく長州の歴史といってよい。その後「陸の長州、海の薩摩」といわれ日本は戦争へ向かう。

 明治維新を決定づけたのが薩長同盟であり、その立役者が坂本龍馬であった。本書では龍馬暗殺についても驚くべき想像を巡らせている。龍馬を英雄に持ち上げたのは司馬遼太郎であるが、最近の明治維新ものでは極めて評価が低い。「グラバー商会の営業マン」「武器商人」といった見方をされている。余談になるが勝海舟もさほど評価されていない。

「薩摩藩など新政府側はイギリスとの好意的な関係を望み、トーマス・グラバー(グラバー商会)等の武器商人と取引をしていた。また旧幕府はフランスから、奥羽越列藩同盟・会庄同盟はプロイセンから軍事教練や武器供与などの援助を受けていた」(Wikipedia)。苫米地英人は「もっとはっきりいえば、当時の財政破綻状態のイギリスやフランスの事実上のオーナーともいえたイギリスのロスチャイルド家とフランスのロスチャイルド家が、日本に隠然たる影響力を行使するため、薩長勢力と徳川幕府の双方へ資金を供給したと見るべきなのです」(『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』2008年)と指摘する。

「ヨーロッパに銀行大帝国を築いたロスチャイルド家の兄弟の母は、戦争の勃発を恐れた知り合いの夫人に対して『心配にはおよびませんよ。息子たちがお金を出さないかぎり戦争は起こりませんからね』と答えたという」(『嬉遊曲、鳴りやまず 斎藤秀雄の生涯』中丸美繪〈なかまる・よしえ〉、1996年)。戦争の陰にロスチャイルド家あり。

 本書はロスチャイルド家については触れていないが、イギリス諜報部が青写真を描き、フリーメイソンが志士たちをバックアップした様子が描かれる。

 この時代、すなわちボストン茶会事件からフランス革命までの間に、ゲーテが『若きヴェルテルの悩み』でドイツ人のハートをつかみ、ハイドンが「交響曲ハ長調」を発表。イギリスの歴史家ギボンが、かの勇名な『ローマ帝国衰亡史』を著(あらわ)し、モーツァルトが「交響曲39、40、41番」で、ヨーロッパの貴族たちを酔わせている。
 一見、なんの関係もない歴史的事実の羅列のようだが、そこにはある共通した結社が一直線に駆け抜けている。
 フリーメーソンである。
 ボストン茶会事件は、大勢のフリーメーソンが「ロッジ」と呼ばれる彼らの集会場から飛び出して引き起こしたものだし、意外かもしれないが、ゲーテ、ハイドン、ギボン、モーツァルト、彼らはみなまぎれもない、フリーメーソンである。
 アメリカの独立戦争、およびフランス革命。
 世界の二代革命の指導者層には、圧倒的多数のメンバーが座っており、ジョージ・ワシントンはフリーメーソン・メンバーの栄(は)えあるアメリカ初代大統領である。こう述べれば眉に唾を付ける人がいるが、私がフリーメーソンだという裏付は公式文書である。それ以外の人物は断言しない。

 ブログ内検索の都合上「フリーメイソン」と表記する。フランス革命のスローガンである「自由・平等・博愛」は元々フリーメイソンのスローガンであった(『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代、2000年)。

 本書によれば本来の石工組合を実務的メイソン、その後加入してきた知識人たちを思索的メイソンと位置づける。西洋社会を理解するためにはキリスト教と結社の歴史を理解する必要がある。フリーメイソンはキリスト教宗派を超えた結社であったという。となれば当然のようにユダヤ人的国際派志向が窺えよう(『世界を操る支配者の正体』馬渕睦夫、2014年)。キーワードは金融か。

 読み物としては十分堪能できたが、如何せん誤謬がある。本書ではグラバーをフリーメイソンと断定してはいないが、グラバー邸にあるフリーメイソンのマークが刻まれた石柱を傍証として挙げる。ところがこれは後に移設されたものである(Wikipedia)。瑕疵(かし)とするには大きすぎると思う。

龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン (祥伝社文庫)

野生動物の自己鏡像認知


 鏡に映った自分を認識できる能力を自己鏡像認知という。これができる動物としてはヒト(2歳児未満を除く)、ボノボ、チンパンジー、オランウータン、バンドウイルカ、アジアゾウ、カササギなど。ブタやイカにもある。マークテストやルージュテストで判断する。眠っている間に顔などへマーキングをし、マークに対する反応を見るもの。「但し、鏡像認知が自己意識の指標であるのか、低次な自己身体の認識の指標であるのかについては議論がある」(森口佑介、板倉昭二、2013年)。私は社会性の上から捉えることが正しいと思う。「鏡に映った自分を認識できる」ことは他人の目を意識できることを示す。ここに学習の可能性があるのではないか? 我々が日常生活の中で鏡を前にして身だしなみを整えるのも社会性の現れである。西洋においては他人の目どころか神の目まで設定した。群れ+学習を社会性といってよいだろう。






人格障害(パーソナリティ障害)に関する私見
高砂族にはフィクションという概念がなかった/『台湾高砂族の音楽』黒沢隆朝

2015-11-22

明治維新は正しかったのか?/『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織


『逝きし世の面影』渡辺京二

 ・明治維新は正しかったのか?

『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一
『武家の女性』山川菊栄
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人
『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛
『國破れてマッカーサー』西鋭夫
『日本の戦争Q&A 兵頭二十八軍学塾』兵頭二十八

 ところが、日本人自身に自国が外国軍に占領され、独立を失っていたという“自覚”がほとんどないのである。従って、敗戦に至る道を「総括」するということもやっていないのだ。ただ単純に、昨日までは軍国主義、今日からは民主主義などと囃し立て、大きく軸をぶらしただけに過ぎなかった。
 実は、俗にいう「明治維新」の時が全く同じであった。あの時も、それまでの時代を全否定し、ひたすら欧化主義に没頭した。没頭した挙句に、吉田松陰の主張した対外政策に忠実に従って大陸侵略に乗り出したのである。つまり、私たちは、日本に近代をもたらしたとされている「明治維新」という出来事を冷静に「総括」したことがないのである。極端に反対側(と信じている方向)へぶれるということを繰り返しただけなのだ。

【『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織(毎日ワンズ、2012年/歴史春秋出版、2015年1月/毎日ワンズ改訂増補版、2015年)】

 明治維新に一石を投じる内容。司馬史観に物申すといった体裁である。専門家ではないからこそ大胆な見方ができる。ただし「総括」とは左翼用語であることに留意する必要がある。

 岸田秀が吉田松陰の小児的な自己中心性を指摘している(『ものぐさ精神分析』1977年)。原田伊織は松下村塾は私塾ですらなく、吉田松陰と高杉晋作らは単なるテロリスト仲間とまで断じる。

 原田の基調は「会津史観」ともいうべきもので、会津戦争(1868年:慶応4年/明治元年)の悲劇に寄り添う感情に傾く。良し悪しは別にしてその情緒こそ本書の読みどころであろう。

 本書が会津の罪に触れていないことも注意を要する。また左巻きの連中は会津を持ち上げる傾向が強いようだ。

 明治維新という大風は不思議な現象であった。攘夷派は将棋倒しのように開国派へと鞍替えし、西洋から買い入れた武器で内戦を行っていたのである。

 尚、戊辰戦争(1868-69)については薩長土の低い身分の者どもを士族に引き上げる報奨を与える目的があったと落合莞爾が指摘している(『逆説の明治維新』2015年)。

明治維新という過ち―日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト

2015-11-21

村上兵衛、他


 4冊挫折、1冊読了。

虹の戦士』北山耕平翻案(太田出版、1999年)/吉本ばななの序文で読む気が失せる。ダイオキシンの件(くだり)でやめた。北山は心情左翼か。

赤い右手』ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ:夏来健次訳(国書刊行会、1997年/創元推理文庫、2014年)/1ページで挫ける。私は文章を読みたいのであって謎解きに興味はない。

ルポ虐待 大阪二児置き去り死事件』杉山春(ちくま新書、2013年)/母親に寄り添いすぎて確かな視点を見失っている。ルポではなく、被害者救済のボランティアといったレベルだ。そのため文章が弱い。この分野も心情左翼の巣窟である。

偽札百科』村岡伸久(国書刊行会、2010年)/硬派なオタク本。紙も厚い。読み物としての工夫に欠ける。

筑摩現代文学大系 75 中村真一郎・福永武彦集』(筑摩書房、1984年)/活字が小さすぎる。

 155冊目『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛〈むらかみ・ひょうえ〉(光人社、1992年/光人社NF文庫、2013年)/昨日、徹夜で読み終える。そして風邪をひいた。村上は軍人上がりの作家。柴五郎は義和団の乱における北京籠城で世界に盛名を馳せる。軍事力を伴った大掛かりな『ホテル・ルワンダ』と考えてよい。事後、世界各国から勲章を授与される。この時の日本人の奮闘と柴の振る舞いが後の日英同盟につながる。柴は英・仏・シナ語に堪能で人生の多くを海外で過ごしている。最期には涙禁じ得ず。明治人といよりは会津藩士として生き抜いたと私は見る。

武田邦彦「テロではなく戦闘行為」「米英仏露の国連常任理事国こそテロ国家」


 国際法に基づく武田の主張。歴史的にも正当性があると思われる。佐藤優が絶対口にしない内容だ。武田邦彦の温厚な性質に保守の本領がある。












2015-11-20

円の戦争:「国際金融資本」に逆らった男=石原莞儞中佐



石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた日本人 (双葉新書)戦争史大観 (中公文庫BIBLIO)最終戦争論 (中公文庫BIBLIO20世紀)

会津藩の運命が日本の行く末を決めた/『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛


『逝きし世の面影』渡辺京二
『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織
『龍馬の黒幕 明治維新と英国諜報部、そしてフリーメーソン』加治将一
『武家の女性』山川菊栄
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』石光真人

 ・会津藩の運命が日本の行く末を決めた

・『日本人の底力 陸軍大将・柴五郎の生涯から』小山矩子
『國破れてマッカーサー』西鋭夫
日本の近代史を学ぶ

 新政府軍は、警固をキビしくし、「脱走者は発見しだい斬り捨て」の命令を下した。藩主松平容保(かたもり)の謹慎している滝沢村妙国寺でも、警戒はいっそう厳重になった。万一に備えて、大砲の砲口を容保の居室に向けている、という噂もあった。
 そこに夜陰の暴風雨に乗じて、また5人の少年が脱走した。その中には山川健次郎、赤羽四郎、そして柴四朗ら、かつてのフランス語仲間もまじっていた。
 ――これは、じつは会津藩の重役たちの「命令」によるものだった。
 重役の関心事は、藩に下される罪の程度であった。彼らは、さすがに藩士全員が斬罪などということは考えなかったが、家老の何人かが切腹、あるいは斬罪は免れまい――と、覚悟していた。問題は、藩主容保に対する処分である。
 その寛厳をうらなうために、重役たちは少年たちを脱走させた。少年たちは若松城にある政府本営に出頭して、主君の助命嘆願をおこなう。そして、それに対する「敵」の出方をうかがってみよう、という目論見だった。
 まかり間違えば、斬り捨てである。あるいは脱走の罪に問われ、みせしめに切腹におよぶかも知れない。
 しかし、十五、六歳の少年たちには、よもやそこまでの厳科は下さないだろう。そして、その処罰の程度によって藩の将来をうらない、考えよう。……それが藩の重役たちの腹づもりであった。

【『守城の人 明治人柴五郎大将の生涯』村上兵衛〈むらかみ・ひょうえ〉(光人社、1992年/光人社NF文庫、2013年)以下同】

 まだ読み終えていないのだが書き残しておく。文庫で774ページの大冊。読書日記としては155冊目の読了本ということにしておく。光人社は2012年に同系列の潮書房と合併し、現在は潮書房光人社となっている。潮書房は軍事雑誌『丸』で知られる。光人社NF文庫も殆どが戦争・軍事・戦記ものである。NFはノンフィクションの略だろう。

 柴四朗は五郎の兄で、白虎隊の一員であったが病で戦線から離れ生き永らえた。西南戦争では谷干城〈たに・たてき〉に目をかけられた。その後、岩崎弥太郎の援助を得てアメリカへ留学。帰国後、東海散士〈とうかい・さんし〉のペンネームで帝国主義と小国の民族解放を描いた小説『佳人之奇遇』(かじんのきぐう/4篇全16巻)を著しベストセラーとなる。1892年(明治25年)以降は長く政治家を務めた。

 山川健次郎は東京帝国大学・京都帝国大学総長、九州帝国大学の初代総長。赤羽四郎は外交官となる。いずれも日新館出身の逸材といってよい。そして柴五郎は、乃木希典東郷平八郎に先んじて世界に勇名を馳せた日本軍将校である。

 参謀の乾退助(のち板垣)の部下、伴中吉が少年たちを引見した。「自分らは藩主の身を思うあまり、あえて規則を破って推参したものでございます。どうか主君の処置を寛大にして頂きたい」との申し立ては「聞きおく」にとどめられたが、彼らの命がけの行為には好感が寄せられた。長く待たされた後、贅(ぜい)を尽くした膳が供された。

「遠慮なく、食べるがよい」
 係の侍はそういって退いたが、頃を計って部屋に戻ってみると、誰一人箸をつけている者がない。
「いかが致した……?」
 山川健次郎が5人を代表してこたえた。
「謹慎中の藩士たちは、十分な食事も摂(と)らずにおります。せっかくのご好意ながら、私どものみが、このようなご馳走をいただくわけには参りませぬ」

 敗者であり、かつ力弱き少年たちの嘆願を知った瞬間、頭の中で閃光がほとばしった。「これは大東亜戦争に敗れた日本の姿そのものではないか!」と。日本の首脳陣は国体すなわち天皇陛下の処遇を最優先事項とし、提出した憲法草案は明治憲法と変わるところがなかった(『國破れてマッカーサー』西鋭夫、1998年)。京都守護職を務め、孝明天皇からも信頼されていた会津藩がなにゆえ朝敵となったのか? ここに明治維新の矛盾がある。新生日本を牛耳ったのは薩長閥で、やがて大東亜戦争を招き(『明治維新という過ち 日本を滅ぼした吉田松陰と長州テロリスト』原田伊織、2012年)、現在にまで影響を及ぼす(『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人、2008年)。

 もともと朝敵であった長州藩がなにゆえ官軍となり得たのか? その疑問はまだ晴れていない。調べれば調べるほど南北朝の歴史、岩倉具視や徳川慶喜の役割がはっきりしなくなる(落合莞爾『南北朝こそ日本の機密 現皇室は南朝の末裔だ』2013年、『明治維新の極秘計画 「堀川政略」と「ウラ天皇」』2012年)。

 更にたった今、驚くべき事実を知った。戊辰戦争を前にした会津・庄内両藩がなんとプロイセン(ドイツ)のビスマルクに北海道の一部売却を打診していたというのだ。

維新期の会津・庄内藩、外交に活路 ドイツの文書館で確認

 東大史料編纂(へんさん)所の箱石大准教授らが、会津、庄内両藩が戊辰戦争を前にプロイセン(ドイツ)との提携を模索したことを物語る文書をドイツの文書館で確認した。日本にはまったく記録がないが、薩摩、長州を中心とした新政府軍に追いつめられた両藩が、外交に活路を求めていたことが明らかになった。

 ドイツの国立軍事文書館に関連文書が3通あった。1868年7月31日、プロイセン駐日代理公使フォン・ブラントは「会津、庄内両藩から北海道などの領地売却の打診があった」として、本国に判断を仰ぐ手紙を出した。両藩は当時、北方警備のため、幕府から根室や留萌などに領地を得ていた。手紙には「交渉は長引かせることができる。どの当事者も困窮した状況で、優位な条件を引き出せる」と記されていた。

 船便なので届くのに2カ月ほどかかったようだ。「軍港の候補になるが、断るつもりだ」と宰相ビスマルクは10月8日に海相に通知。この日は、新政府軍が会津若松の城下に突入した日に当たる。ほぼ1カ月後に会津、庄内は降伏。戦争がこれほど早く展開するとは、プロイセン側は予想していなかったのだろう。

◆顧みなかったビスマルク

 ビスマルクは欧米列強間の協調と戦争への中立という視点から、両藩の提案を退けた。それに対して海相は「日本が引き続き混迷の一途をたどった場合は、他の強力な海軍国と同様に領地の確保を考慮すべきだ」と10月18日に返信していた。

 箱石さんらは当時の政治状況や人間関係も調査、研究した。新政府の背後には英国がいて、新式の武器や弾薬は英国商人が供給していた。幕府が頼りにしてきた仏国は中立に転じていた。

「会津、庄内両藩は新政府軍の最大の標的であり、懸命に活路を見いだそうとしてブラントの意向と合致したのだろう」と箱石さんは見る。

 ドイツの公文書と同時に東大には貴重な資料がもたらされた。スイス在住のユリコ・ビルト・カワラさん(86)が長年調査したシュネル兄弟の記録だ。会津藩の奉行で戊辰戦争で戦死したカワラさんの曽祖父と親交があった。

 国学院大栃木短大の田中正弘教授によると、新潟港を拠点に東北諸藩に武器をあっせんしたシュネル兄弟は会津藩の軍事顧問をつとめたが、国籍不明で謎の人物とされてきた。兄が政治面を、弟がビジネス面を、分担したという。

 カワラさんの調査で兄弟の出自が判明。プロイセンの生まれで、父の仕事の都合でオランダの植民地だったインドネシアで育ち、開港直後に横浜にやってきていた。

 オランダ語ができたことが兄弟の強みだったようだ。プロイセンの外交文書は、ドイツ語の原文をオランダ語に訳し、2通そろえて幕府に出した。そうした文書が東大史料編纂所に残っており、ボン大のペーター・パンツァー名誉教授が調べて、オランダ語への翻訳に兄のサインを見つけた。武器商人に転じるまで兄はプロイセン外交団の一員だったことが確認された。「会津、庄内両藩とプロイセンを結びつけたのはシュネル兄弟でしょう」と田中さん。

 一連の研究は明治維新に新たな視点をもたらした。「英―仏の対抗図式に目を奪われるあまり、維新や戊辰戦争をより広い世界の中に位置づけることや、東北諸藩が武器、弾薬をどのように調達したのか分析する視点が不足していた」と東大の保谷徹教授は話している。

朝日新聞DIGITAL 2011年2月7日

戊辰戦争の史料学』を読まねばなるまい。

 最後にもう一点だけ。村上兵衛は「あとがき」で「『ある明治人の記録』もすでに出版されているが、潤色がある。私はそれには拠(よ)らなかった」と記す。私が確認し得たのは、犬の肉に難儀する少年五郎を父が叱責する場面くらいだ。村上は「自著に潤色なし」と言いたいのであろう。表現者としてはいささか狭量の謗(そし)りを免れない。原文と違うから潤色では短絡が過ぎるだろう。老境の柴本人から聞いた可能性も考えられる。事実を重んるあまり想像力の翼を畳んでいる印象を全体から受ける。ただしそれで柴五郎という素材が曇るわけではない。

【付記】「お家存続」は日本の価値観のテーマたり得ると思う。山本七平が「日本において機能集団は共同体(擬制の血縁集団)と化す」と指摘している(『日本人と「日本病」について』岸田秀、山本七平、1980年)。小室直樹も同じことを主張する。これは日本全体が天皇陛下を中心とする「家」を形成しているためと考えてよさそうだ。血脈信仰といってよいかどうかは今のところ判断しかねる。女系天皇を巡る問題の本質もこのあたりにあるのだろう。尚、藤田紘一郎〈ふじた・こういちろう〉によれば、血液型と性格には相関性があるという(『脳はバカ、腸はかしこい』2012年)。

守城の人―明治人柴五郎大将の生涯 (光人社NF文庫)

マッカーサーが恐れた一書/『アメリカの鏡・日本 完全版』ヘレン・ミアーズ