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2008-12-07

女子中学生の渾身の叫び/『いのちの作文 難病の少女からのメッセージ』綾野まさる、猿渡瞳


『がんばれば、幸せになれるよ 小児ガンと闘った9歳の息子が遺した言葉』山崎敏子

 ・女子中学生の渾身の叫び

『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子
『彩花へ、ふたたび あなたがいてくれるから』山下京子

命を見つめて

本当の幸せは「今、生きている」ということ

 みなさん、みなさんは本当の幸せって何だと思いますか。実は、幸せが私たちの一番身近にあることを病気になったおかげで知ることができました。それは、地位でも、名誉でも、お金でもなく「今、生きている」ということなんです。

 私は小学6年生の時に骨肉腫という骨のガンが発見され、約1年半に及ぶ闘病生活を送りました。この時医者に、病気に負ければ命がないと言われ、右足も太ももから切断しなければならないと厳しい宣告を受けました。初めは、とてもショックでしたが、必ず勝ってみせると決意し希望だけを胸に真っ向から病気と闘ってきました。その結果、病気に打ち勝ち右足も手術はしましたが残すことができたのです。

 しかし、この闘病生活の間に一緒に病気と闘ってきた15人の大切な仲間が次から次に亡くなっていきました。小さな赤ちゃんから、おじちゃんおばちゃんまで年齢も病気もさまざまです。厳しい治療とあらゆる検査の連続で心も体もボロボロになりながら、私たちは生き続けるために必死に闘ってきました。

 しかし、あまりにも現実は厳しく、みんな一瞬にして亡くなっていかれ、生き続けることがこれほど困難で、これほど偉大なものかということを思い知らされました。みんないつの日か、元気になっている自分を思い描きながら、どんなに苦しくても目標に向かって明るく元気にがんばっていました。

 それなのに生き続けることができなくて、どれほど悔しかったことでしょう。私がはっきり感じたのは、病気と闘っている人たちが誰よりも一番輝いていたということです。そして健康な体で学校に通ったり、家族や友達とあたり前のように毎日を過ごせるということが、どれほど幸せなことかということです。

 たとえ、どんなに困難な壁にぶつかって悩んだり、苦しんだりしたとしても命さえあれば必ず前に進んで行けるんです。生きたくても生きられなかったたくさんの仲間が命をかけて教えてくれた大切なメッセージを、世界中の人々に伝えていくことが私の使命だと思っています。

 今の世の中、人と人が殺し合う戦争や、平気で人の命を奪う事件、そしていじめを苦にした自殺など、悲しいニュースを見る度に怒りの気持ちでいっぱいになります。一体どれだけの人がそれらのニュースに対して真剣に向き合っているのでしょうか。

 私の大好きな詩人の言葉の中に「今の社会のほとんどの問題で悪に対して『自分には関係ない』と言う人が多くなっている。自分の身にふりかからない限り見て見ぬふりをする。それが実は、悪を応援することになる。私には関係ないというのは楽かもしれないが、一番人間をダメにさせていく。自分の人間らしさが削られどんどん消えていってしまう。それを自覚しないと悪を平気で許す無気力な人間になってしまう」と書いてありました。

 本当にその通りだと思います。どんなに小さな悪に対しても、決して許してはいけないのです。そこから悪がエスカレートしていくのです。今の現実がそれです。命を軽く考えている人たちに、病気と闘っている人たちの姿を見てもらいたいです。そしてどれだけ命が尊いかということを知ってもらいたいです。

 みなさん、私たち人間はいつどうなるかなんて誰にも分からないんです。だからこそ、一日一日がとても大切なんです。病気になったおかげで生きていく上で一番大切なことを知ることができました。今では心から病気に感謝しています。私は自分の使命を果たすため、亡くなったみんなの分まで精いっぱい生きていきます。みなさんも、今生きていることに感謝して悔いのない人生を送ってください。

【『いのちの作文 難病の少女からのメッセージ』綾野まさる、猿渡瞳(ハート出版、2005年)】

 猿渡瞳ちゃんは、この作文を発表してから2ヶ月後に逝去した。合掌。謹んでご冥福を祈る。骨肉腫と格闘した彼女は、中学生でありながら、まるで人類の教師のように「生きる姿勢」を我々に教えてくれる。



2008-05-01

命の灯火(ともしび)で周囲を照らす姿/『がんばれば、幸せになれるよ 小児ガンと闘った9歳の息子が遺した言葉』山崎敏子


 ・命の灯火(ともしび)で周囲を照らす姿

『いのちの作文 難病の少女からのメッセージ』綾野まさる、猿渡瞳
『彩花へ 「生きる力」をありがとう』山下京子
『彩花へ、ふたたび あなたがいてくれるから』山下京子

 行間から祈る声が聞こえてくる――。

 昨年の「24時間テレビ」でドラマ化された作品。ドラマの方は見るに堪(た)えない代物だったが、著作は「2冊買って、1冊誰かにあげあたくなる」ほど素晴らしい内容だ。

 山崎直也君は9歳でこの世を去った。ユーイング肉腫という悪性の癌に侵(おか)されたのが5歳の時。短い人生の約半分を闘病に捧げた。

 平凡な両親の元に生まれた直也君は、“本物の天使”といってよい。どんな痛みにも弱音を吐かず、再発する度に勇んで手術に臨んだ。

 それにしても、直也君の言葉は凄い。まるで、「年老いた賢人」のようだ。

「おかあさん、もしナオが死んでも暗くなっちゃダメだよ。明るく元気に生きなきゃダメだよ。わかった?」

【『がんばれば、幸せになれるよ 小児がんと闘った9歳の息子が遺した言葉』山崎敏子(小学館、2002年/小学館文庫、2007年)以下同】

 直也自身、少しでも体調が悪化すると、
「山崎直也、がんばれ!」
 そう口に出して、自分で自分を励ましていました。16日の呼吸困難の発作のさなかにも、「落ち着くんだ」といっていたような気がします。
 あの日、息苦しさが少し治まってから、直也はこうもいいました。
「おかあさん、さっきナオがあのまま苦しんで死んだら、おかしくなっていたでしょ。だからナオ、がんばったんだよ。それでも苦しかったけど。おかあさんがナオのためにしてくれたこと、ナオはちゃんとわかっていたよ。『先生早く!』って叫んでいたよね。でも安心して。ナオはああいう死に方はしないから。ナオはおじいさんになるまで生きたいんだ。おじいさんになるまで生きるんだ。がんばれば、最後は必ず幸せになれるんだ。苦しいことがあったけど、最後は必ずだいじょうぶ」

 夜10時過ぎ、直也は突然落ち着かない様子で、体を前に泳がせるようなしぐさをしました。
「前へ行くんだ。前へ進むんだ。みんなで前に行こう!」
 びっくりするほど大きな力強い声です。そして、まるで、迫り来る死と闘っているかのように固く歯を食いしばっています。ギーギーという歯ぎしりの音が聞こえるほどです。やせ衰えて、体を動かす元気もなくなっていた直也のどこにこれだけの力があったのかと驚くほど、力強く体を前進させます。

 ある日、私が病院に行くと、主任看護婦さんが、「おかあさん、私、今日、ナオちゃんには感動したというか、本当にすごいなと思ったんだけど」と駆け寄ってきました。直也は、
「この痛みを主任さんにもわかってもらいたいな。わかったら、またナオに返してくれればいいから」
 といったそうです。「えっ、痛みをまたナオちゃんに返していいの?」とびっくりして聞くと、
「いいよ」
 と答えたそうです。
「代われるものなら代わってあげたい」。よく私もそういっていました。でも直也はそのたびに力を込めて「ダメだよ」とかぶりを振り、
「ナオでいいんだよ。ナオじゃなきゃ耐えられない。おかあさんじゃ無理だよ」
 きっぱりとそういうのです。

 何だか自分が、ダラダラと走るマラソンランナーみたいな気になってくる。直也君は、人生を全力疾走で駆け抜けた短距離ランナーだった。「生きて、生きて、生きまくるぞ!」と言った通りに生きた。

 山下彩花ちゃんといい、直也君といい、命の灯火(ともしび)で周囲を照らす姿に圧倒される。



8人の意識の力で病状を癒す/『パワー・オブ・エイト 最新科学でわかった「意識」が起こす奇跡』リン・マクタガート