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2014-07-05

近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しない/『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃


・『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃

 ・近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しない

 この社会は「文明の衝突」に直面しているのかもしれない。国家の様態は清朝末期の中国に等しく、外国人投資家によって過半数株式を制圧された経済市場とは租界のようなものだろう。つまり外国人の口利きである「買弁」が最も金になるのであり、政策は市場取引されているのであり、すでに政治と背徳は同義に他ならない。
 TPPの正当性が喧伝されているが、近代において自由貿易で繁栄した国家など存在しないのであり、70年代からフリードマン(市場原理主義者)理論の実験場となった南米やアジア各国はいずれも経済破綻に陥り、壮絶な格差と貧困が蔓延し、いまだに後遺症として財政危機を繰り返している。
 今回の執筆にあたっては、グローバル資本による世界支配をテーマに現象の考察を試みたのだが、彼らのスキームは極めてシンプルだ。
 傀儡政権を樹立し、民営化、労働者の非正規化、関税撤廃、資本の自由化の推進によって多国籍企業の支配を絶対化させる。あるいは財政破綻に陥ったところでIMFや世界銀行が乗り込み、融資条件として公共資源の供出を迫るという手法だ。それは他国の出来事ではなく、この社会もまた同じ抑圧の体系に与(くみ)している。
 我々の錯誤とは内在本質への無理解なのだけれども、おおよそ西洋文明において略奪とは国営ビジネスであり、エリート層の特権であるわけだ。除法平価の軍隊がカリブ海でスペインの金塊輸送船を襲撃し、中国の民衆にアヘンを売りつけ、インドの綿製品市場を絶対化するため機織職人の手首を切り落とし、リヴァプールが奴隷貿易で栄えたことは公然だろう。
 グローバリズムという言葉は極めて抽象的なのだが、つまるところ16世紀から連綿と続く対外膨張エリートの有色人種支配に他ならない。この論理において我々非白人は人間とはみなされていないのであり、アステカやインカのインディオと同じく侵略地の労働資源に過ぎないわけだ。
 外国人投資家の利益を最大化するため労働法が改正され、労働者の約40%近くが使い捨ての非正規労働者となり、年間30兆円規模の賃金が不当に搾取されているのだから、この国の労働市場もコロンブス統治下のエスパニョーラ島と大差ないだろう。

【『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉(三五館、2013年)】

 前著と比べるとパワー不足だが、言葉の切れ味とアジテーションは衰えていない。テレビや新聞の報道では窺い知るのことのできない支配構造を読み解く。ナオミ・クライン著『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』の後塵を拝する格好となったが説明能力は決して劣っていない。

 興味深い210の言葉を紹介しているが、人名やタイトルだけで出典が曖昧なのは三五館の怠慢だ。ともすると悲観論に傾きすぎているように感じるが、警世の書と受け止めて自分の頭で考え抜くことが求められる。元々ブログから生まれた書籍ゆえ、この価格で著者に責任を押しつけるのはそれこそ読者の無責任というべきだ。

 一気に読むのではなくして、トイレにおいて少しずつ辞書を開くように楽しむのがよい。前著は既に絶版となっている。3.11後の日本を考えるヒントが豊富で、単なる陰謀モノではない。

略奪者のロジック
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響堂 雪乃
三五館
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アメリカに「対外貿易」は存在しない/『ボーダレス・ワールド』大前研一

2014-04-05

官僚機構による社会資本の寡占/『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃


 ・官僚機構による社会資本の寡占

『円の支配者 誰が日本経済を崩壊させたのか』リチャード・A・ヴェルナー
・『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃
国会で高橋洋一が「国の借金」の嘘を暴く 2018/02/21 衆議院予算委員会公聴会

 この国は【官僚機構と米国から重層的に搾取を受けている】わけです。【各種租税、新規国債、借換債、財投債により編成される370兆円規模の特別会計から推計70兆円が人件費、福利厚生、償還費、天下り、関連団体の補助金として公的部門へ吸収され、さらに外国為替特別会計を通じ既述のごとく莫大な金が米国に収奪されるという図式です】。

【『独りファシズム つまり生命は資本に翻弄され続けるのか?』響堂雪乃〈きょうどう・ゆきの〉(ヒカルランド、2012年)以下同】

 ブログに大幅な加筆をした書籍である。全国紙系列の広告代理店で編集長を務めた人物で著者名はハンドルと思われる。ジャン・ボードリヤールを思わせる華麗な文体は意図的なもので正体を隠すためか。明らかにアジテーター的要素が強いが、傑出した説明能力の持ち主である。

【この国のエスタブリッシュメントが国民を殺戮している】わけです。経済産業省を頂点とする官僚機構が主導的に原発行政を推進し、電力企業関連会社に天下り、業界団体に公益法人を設立させ、さらに天下り、莫大な不労所得と引き換えに無軌道な運用管理を是認するという、監督者と被監督者による癒着(ゆちゃく)と共依存が利権の淵源(えんげん)となります。【文科省、国家公安委員、国土交通省などおおよそ主要官庁全てがこの腐敗構造に与(くみ)され、つまりは官僚機構】によるジェノサイド(大量虐殺)です。

 福島原発事故による被曝を声高に糾弾しているのは災害直後に書かれたためか。ただしここは吟味が必要なところで被曝の根拠が荒っぽい。国民が知るべきは原発利権であってエネルギー問題へと目を逸(そ)らしてはなるまい。

 国家システムのアルゴリズム(計算手順)とは、官僚機構の肥大化に他ならないわけです。繰り返しますが、【国税または地方税は全て官僚の給与、福利厚生および外郭団体の補助金として消えます。政府公表の公務員人件費総額には独立行政法人、特殊法人または特殊会社に属す「みなし公務員」の給与や補助金は含まれず、実際に租税から拠出される人件費または天下り団体の償還費等は年間70兆円に達すると推計されます】。

 官僚機構は癌細胞なのだろう。無限に増殖を繰り返し、肉体そのもの(国家)を滅ぼすまで蝕み続ける。著者は国家予算の中身を読めない者をB層と位置づけている。

【財政投融資とは、国民資産の不正流用】であり、【郵貯、年金、簡保の積立金が複雑な会計処理を経て特別会計予算に編入され国の外郭団体へ貸付けされ債権化】します。これまで400兆円規模の金が77の特殊法人や自治体などへ還流されながら、それらは統一されたバランスシート(貸借対照表)を持たず、財務内容も事業内容すらも不明瞭にいまだ跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)しています。
 2002年に日医総研が年金積立金の調査を行ったところ、【147兆円あるべき運用資金が財政投融資による87兆円を毀損(きそん)している】実態が明らかとなりました。(中略)
【日本国の本質とは、官僚機構による社会資本の寡占(かせん)】であるわけです。【過剰な公債発行と国民資産の流用により370兆円規模の特別会計という裏予算を編成し独立行政法人、特殊法人、特殊会社さらに系列3000社のグループ企業へ還流させ、洗浄した社会資本を天下りにより合法的に収奪する】、これが利権構造の概観です。【国家予算とはすなわちブラックボックスであり、我々のイデオロギーとは旧ソビエトを凌ぐ官僚統制主義に他なりません】。

 複式簿記を導入しているのはたぶん東京都だけだ(石原慎太郎「こんなでたらめな会計制度、単式簿記でやっているのは、先進国で日本だけ」の真意。複式簿記とは何か。)。この国は国家予算のバランスシートさえ明らかにしていないのだ。驚愕の事実である。

 本当の「戦後レジーム」とは、米国の意向を受けた官報複合体の利権構造を意味する。つまり政治家から権力が剥奪されているのだ。立法府の役割は法整備と予算編成にあるわけだが完全に官僚が牛耳っている。この国では国会議員が起草する法案をわざわざ「議員立法」と呼称するほどで、可決される法案のうち20%にも満たない。

 日本をアメリカの属国にしているのは官僚とメディアだ。響堂雪乃の言葉は彼らを銃弾のように撃つ。



虐殺者コロンブス/『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』ハワード ジン、レベッカ・ステフォフ編
マネーと民主主義の密接な関係/『サヨナラ!操作された「お金と民主主義」 なるほど!「マネーの構造」がよーく分かった』天野統康
マネーサプライ(マネーストック)とは/『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人
日本の原発はアメリカの核戦略の一環/『原発洗脳 アメリカに支配される日本の原子力』苫米地英人
資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
「物質-情報当量」
汚職追求の闘士/『それでも私は腐敗と闘う』イングリッド・ベタンクール
借金人間(ホモ・デビトル)の誕生/『〈借金人間〉製造工場 “負債"の政治経済学』マウリツィオ・ラッツァラート
力の強いもの、ずる賢いものが得をする税金/『税金を払わない奴ら なぜトヨタは税金を払っていなかったのか?』大村大次郎

2014-03-14

官僚は増殖する/『パーキンソンの法則 部下には読ませられぬ本』C・N・パーキンソン


『反社会学講座』パオロ・マッツァリーノ
『ピーターの法則 創造的無能のすすめ』ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル

 ・官僚は増殖する

『新版 人生を変える80対20の法則』リチャード・コッチ

 そこで技術的な点を省略し(実は非常に数多いが)、まず次の二つの動因を特に考えてみることにしよう。それらはさしあたり、次の二つの公理的ステートメントでいいあらわされる。すなわち、(1)役人は部下を増やすことを望む。しかしながら、ライヴァルは望まない。(2)役人は互いのために仕事をつくり合う。
 第一の素因を理解するために、自分の仕事が過重であると感じている一人の公務員について考えてみよう。この人物をAとする。仕事の過重の真疑(ママ)は問題ではないのだが、一応このAの感じは自分の精力の減退、つまりいわゆる更年期障害からくるものとしよう。この場合の処方は大ざっぱにいって三つある。すなわち、辞めるか、同僚Bと仕事を分ち合うか、あるいは二人の部下CおよびDの助力を求めるかである。しかし、実はAがこの第三以外の方法を選ぶ例は、歴史的にみても、ほとんどない。辞めれば恩給がもらえなくなるし、Bを自分と同列に入れれば、いずれW氏が引退するときにそのあとをつぐライヴァルをつくることになる。したがって、AがCおよびDなる後輩を自分の部下にしたいと考えるのはむしろ当然である。二人の部下は自分の重要さを増し、仕事を二つに分けてCとDとに分担させれば、自分だけ両方のパートに精通しているただ一人の男になりうるのである。CとDと、どうしても二人必要だということは重要な点である。Cだけを入れることはできない。何となれば、C一人を入れ、仕事の一部をさせれば、Cは、さきにBの場合にみたように、自分をAと同列の地位にあるように考えだす。もしCがAのたった一人の後継者だとしたら、問題はさらに深刻である。したがって部下の数は常に二人以上で、互いに他の昇格をおそれさせるようにそておかねばならない。そのうちやがてCがその仕事の過重を訴えてくるようになったら(必ずそうなるであろう)、Cとの協力で、さらに彼を助ける二人の助手、EおよびFを入れるべく意見具申をし、かつまた内部摩擦をさけるため、Dにも二人の助手、GおよびHをつけるよう意見具申をする。こうして、E、F、G、Hの採用に成功すれば、Aの昇進はもはや疑いの余地はない。

【『パーキンソンの法則 部下には読ませられぬ本』C・N・パーキンソン:森永晴彦訳(至誠堂、1965年)以下同】

 シリル・ノースコート・パーキンソンはイギリスの政治学者・経済学者である。パーキンソンの法則を端的に表現すると次のようになる。

第一法則:仕事は、その遂行のために利用できる時間をすべて埋めるように拡大する。
第二法則:支出の額は収入の額に達するまで膨張する。
第三法則:拡大は複雑化を意味し、組織を腐敗させる。

情報システム用語事典:パーキンソンの法則

 1955年(英国『エコノミスト』誌 11月19日号)に発表した風刺コラムが税金に寄生する官僚の実態を見事に暴く。そしてステレオタイプ化された様相が笑いを誘う。巨大組織は官僚を必要とするが、官僚はどこの官僚も同じ表情をしている。

「裸の王様上司」は「ヒラメ部下」によってつくられる

 事なかれ主義と不作為(『国家の自縛』佐藤優)が官僚の自律神経として働く。引き続き著者は官僚が増殖する様をコミカルに描く。

 こうして、前に一人でやっていた仕事を、7人の人間がやることになった。ここで、第二の要因が働きだす。すなわち、7人の人間は互いに仕事をつくり合い、Aは事実上、前にも増して忙しくなる。1通の受入書類は、彼等のあいだを次々にまわって行くこととなる。まずEがその書類はFの管轄に属することを定め、Fはその回答の下書きをCに提出し、CはDに相談する以前にそれを大幅に修正し、Dはこの問題についてはGに取扱いを命ずる。ところが、Gはこれから出張なので、Hにファイルをわたす。Hは覚え書きをつくり、Dがそれにサインをし、Cにわたす。Cはそれを見て、前の下書きを改訂し、その改訂版をAにもって行く。
 さて、Aは何をするか。いまこそ彼にはメクラ判を押す口実がヤマとある。つまり一人であまりにも多くのことを考えなければならないからだ。来年Wのあとをつぐことになっているので、CかDのいずれかを自分の後任にきめなければならない。またAはGの出向に、必ずしもというわけではないが、同意せねばならない。もしかしたら、健康上の理由からはHをやった方がよいのかもしれない。彼はこのごろ顔色がすぐれない。家庭的な事情もあるらしいが、必ずしも、それだけでも(ママ)ないらしい。それからFの給料を会議の期間中にましてやらねばならない。Eは恩給局に転勤希望を申しこんできている。Dが夫のあるタイピストと恋愛しているということをきいていたし、GとHが絶交中だという話もある。(しかも理由を知ったものは誰もいないというのだ)。こういうわけだから、AはいまCのよこした文書にただサインだけして片付けてしまいたいところである。だが、Aには良心がある。彼は、彼の仕事仲間が、みんなや自分のために作り出してくれたさまざまの問題、つまり、これらの役人がいるということだけのために生じてきた問題に悩まされながらも、その義務を怠るような男ではないのである。彼は注意ぶかくその文書を読み、CおよびHによってつけ加えられた気に入らぬ部分をけずり、結局、少々喧嘩早いが有能なFによって最初にきめられた形にもどしてしまう。彼は英語を直し――近ごろの若いものときたら、英語もろくすっぽ書けない――そして、公務員C、D、E、F、G、Hはまったく不必要な存在であったかのように、回答を作成する。だが、もっとずっと多くの人びとが、これよりもはるかに多くの時間をかけて同じものを作っていることもある。ここでは誰一人として怠けた者はいなかった。全員がベストをつくした。そしてAが退庁し、イーリングの自宅に向って帰途につくときには、もう日は暮れかかっている。オフィスの最後の灯は、また今日も長い労働の一日の最後をマークする薄明の中に消されて行く。最後に退庁する人群れにまじって、Aは肩を丸め、ゆがんだ微笑をうかべながら思う。頭が白くなるのと同じように、時間がおそくなるのも、成功の代償のひとつなんだな、と。

 失礼。面白いあまり引用が止まらなくなってしまった。だが笑ってばかりもいられない。ブラックユーモアを真面目に実行する彼らが複雑怪奇な法制度や経済システムを構築し、国民の資産を税金という形で天下り先に流しているのだから。

 日本の場合、事実の上で官僚が三権を支配している。ここに大鉈(おおなた)を振るわない限り、民主主義が実現することはあり得ない。各省庁に稲盛和夫のような人物を社外取締役に任命し、国民が直接監査する制度が必要だと思う。


国を賊(そこな)う官僚/『誰が国賊か 今、「エリートの罪」を裁くとき』谷沢永一、渡部昇一