2018-07-05

アメリカに「対外貿易」は存在しない/『ボーダレス・ワールド』大前研一


『プーチン最後の聖戦  ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?』北野幸伯

 ・アメリカに「対外貿易」は存在しない

『超帝国主義国家アメリカの内幕』マイケル・ハドソン
『金価格は6倍になる いますぐ金を買いなさい』ジェームズ・リカーズ
『略奪者のロジック 支配を構造化する210の言葉たち』響堂雪乃

 まず、アメリカに「対外貿易」はない。アメリカは外国から物を買うための「外貨」を稼いだためしがない。ただ国内経済を拡大し、貿易相手国をのみ込んでしまえばすむからである。アメリカが海外から品物を購入すると、それは「輸入品」として記録される。貿易統計は結局のところ「国と国との境を通過する商品」を測定するものだからである。しかし、外国商品の購入に使われる資金は依然としてドル建てなので、そうした取引は、たとえばカリフォルニア産のオレンジやテキサス産のパソコンを買うのと、いささかも変わりがない。

【『ボーダレス・ワールド』大前研一:田口統吾訳(プレジデント社、1990年)以下同】

 北野本で紹介されていた一冊。後半だけ読んだ。驚くべき指摘であるが米ドルを基軸通貨とするブレトンウッズ体制(1944-71年)を思えばストンと腑に落ちる。むしろ気づかなかった自分の不明に恥ずかしさを覚える。

 アメリカは案外、大雑把でデタラメなところがある。例えば第二次世界大戦が終わる直前にソ連を引きずり込んだことが挙げられよう。その後の冷戦の種を自ら蒔(ま)いたようなものだ。ベトナム戦争もずるずると長引かせたし、湾岸戦争・アフガニスタン戦争・イラク戦争も賢明な判断とは思えない。特に湾岸戦争以降は国際資本が政治を振り回しているように見える。

 アメリカが受け取る外国からの投資についても、これはアメリカの国としての統計上は対外債務として計上されるが、その大半は利子など払う必要もなく、たとえ払ったとしても、国内の債権者に払うのと同じドル建てであり、「対外」債務とはいいがたい。
 とすれば、貿易の不均衡を「是正」する目的でドルの価値を調整するのは、無意味といわなければならない。同じ量の商品を買うのに、わざわざドル紙幣の増刷を行なうようなものだ。アメリカ国内に外国商品を買おうとするニーズが存在するかぎり、ドルの価値の調整で得られる効果はただ、輸入品の統計上の金額(ドル建て)を膨らませるだけだ。アメリカ国内に自由にこれらの商品が出回っている以上、輸入の勢いが減速することはない。
 くどいようだが、外国との貿易にドルが「決済通貨」として用いられているかぎり、アメリカには原理的に「対外貿易」が存在しないのである。それなのに政策担当者は「ドルを安くすれば貿易競争力が高まる」と信じて、ドルの価値を下げている。これでは遅かれ早かれ、ドルがアメリカの貿易相手国に決済通貨として受け入れられなくなる日が、必ずやってくる。これは大問題だ。そうるなるとアメリカは、輸入超過分の代金支払いに外国通貨を借りなければならなくなる。したがってドルを強くしておくことが、最もアメリカの利益になるのだ。「弱い通貨で輸出が伸びなくなるものなら、アルゼンチンはいまごろ世界最強の貿易国になっているはずだ」と、ベア・スターンのある研究員も首をかしげている。

 発展途上国がなぜ外貨を必要とするのか。私が理解したのはちょうど40歳になった頃だった。増田俊男の著作を片っ端から読んで初めて理解できた。詐欺師からでも学べることは多い。特に頭のいい詐欺師からは。

 アメリカの鷹揚なデタラメさを思えば当初は国力の強さから世界経済の立て直しを引き受ける気持ちでブレトンウッズ体制は始まったのかもしれない。ところがアングロサクソン特有の悪知恵(戦略)が働いた。「どれほど貿易赤字になろうともドルを印刷すりゃチャラになるわな」と。ただし経済はそれほど単純なものではないため、折に触れて広がりすぎたドルをアメリカに還流させる必要がある。で、ダウ銘柄を中心とする米株相場を意図的に釣り上げ、世界各国の資金をアメリカ市場に流れさせ、定期的にでかい会社を潰すのだ。すると流れ込んだ資金はアメリカ国内から出ることはなくなる。エンロン、ワールドコム、リーマン・ブラザースなど。

 そもそも「貿易赤字の何が問題なんだ?」という指摘もある。我々の消費を考えてみればわかるだろう。消費はすべて赤字行為である。たとえ貿易赤字でもGDPが成長することは十分可能だ。

 大前の最後の指摘は意味深である。ニクソン・ショック(1971年)以降ドルの価値が低下しているのは紛れもない事実である。そこに経済合理性だけでは推し量ることのできないアメリカの深慮遠謀があるのだろう。2020年以降になると、米ドル・ユーロ・人民元の三国志時代がくるかもね。通貨戦争は静かに始まっている。

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大前 研一
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