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2022-02-24

6挺が放つ銃弾をかわす植芝盛平/『生命力を高める身体操作術 古武術の達人が初めて教える神技のすべて』河野智聖


 ・6挺が放つ銃弾をかわす植芝盛平

『身体構造力 日本人のからだと思考の関係論』伊東義晃

身体革命

 この話は陸軍の砲兵官が、合気道という素晴らしい武道があるからと軍の関係者を9人ばかり連れて植芝道場に見学にやってきたことからはじまります。そのときにいっしょにきた人たちというのは鉄砲の検査官でした。そういう人たちを前にして演武を行った植芝翁が、そのとき「ワシには鉄砲は当たらんのや」と言ってしまったのです。しかし彼らは鉄砲検査官。プライドを傷つけられ、怒ってしまいました。
「本当に当たりませんか?」
 彼らが先生に詰め寄ると、「ああ当たらん」「じゃあ、試してみていいですか」「けっこうや」と売り言葉に買い言葉となりました。
 植芝翁は撃たれて死んでも、文句が言えないように、その場で何月何日に大久保の射撃場で鉄砲の的になる、と拇印まで押し誓約書を書かされます。彼らはその写しを軍の裁判所のようなところへ持っていって、確認までしてもらったそうです。奥さまやお弟子さんに大変心配されても、「いや、大丈夫。あんなもん当たらんよ」とのんきに答えたそうです。そして射撃場での拳銃の一斉射撃となるのです。
 たっている植芝翁に向かって六つのピストルの引き金が引かれます。ところが、次の瞬間には、25メートルの距離を移動して、人一人投げ飛ばしているのです。
 25メートルの距離を瞬時に移動して投げ飛ばすなんて、信じられますか? その時にお供したお弟子さんの一人は合気道養神館館長、故・塩田剛三〈しおだ・ごうぞう〉先生です。
 塩田先生は現代武術において達人と尊敬される武術家です。その塩田先生が、何が起こるか見極めてやろうと目をこらしていても植芝翁の動きはなにひとつ見えなかったと告白しています。【あまりにも凄まじい話なので、誰もが嘘だと思ってしまうかもしれません。それを嘘だと疑ってかかるか、または人間の潜在的な力の実例ととらえるかでは自己の能力開発において大きな違いが生まれるでしょう】。

【『生命力を高める身体操作術 古武術の達人が初めて教える神技のすべて』河野智聖〈こうの・ちせい〉(経済界、2005年)】

 小野田寛郎もまた射撃をかわすことができると語っている。

小野田寛郎の悟り

 予備動作を見抜く以上の何かがあるのだろう。気配に先んじる何かがあるとすれば、それはもう量子力学的な世界だ。人間の認知能力には限りがないということか。

 河野智聖はユニークな武術家である。ただし文章があまりよくない。本書が一番おすすめできる。

2022-02-16

鼻うがいには生理食塩水や洗浄液を使う/『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『病気が治る鼻うがい健康法 体の不調は慢性上咽頭炎がつくる』堀田修

 ・鼻うがい
 ・鼻うがいには生理食塩水や洗浄液を使う

鼻うがいのやり方

身体革命

 効果はEATには及びませんが、慢性上咽頭炎の改善に有効で、かつ自分でできる方法をいくつかご紹介しましょう。
 なんらかの理由で、上咽頭擦過療法を受けられないという方は、ぜひこれらの方法を試してみてください。いずれも、毎日自宅でできるので、耳鼻科でEATを実施している人の補助療法としてもお勧めです。

 最初にお勧めするのは、【少量の生理食塩水を用いた上咽頭洗浄】です。

 まず座った状態で頭を60度以上後ろに倒すか、上向きに寝た状態で生理食塩水をそれぞれの鼻にスポイトなどの容器を用いて2cc程度入れます。
 鼻から入れた食塩水は口から出してもいいですが、少量なのでそのまま飲み込んでもかまいません。
 起床時と風呂上がりなど、1日に2回は行ってください。

 生理食塩水とは水1000ccに食塩が9g入ったものをいいます。使用する水は残留塩素が含まれている水道水ではなく、蒸留水か精製水が望ましいですが、自販機やコンビニ等で入手できるミネラルウォーターでも可能です。
 水500ccに小さじ3分の2程度の食塩を(正確に0.9%に調整する必要はありません)加えて溶液を作ったら、1回に使用する量が少ないため冷蔵庫に保存しておくとよいでしょう。

【『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修〈ほった・おさむ〉(あさ出版、2018年)】

 洗浄液のお勧めは以下の通りである。

・ミサトールリノローション(アダバイオ社)
・プレフィア(グローバルアイ社)
・MSMプレフィア(グローバルアイ社)

「梅肉エキスが代用になる」とのアマゾンレビューもある。

 カネのかからない生理食塩水から試すのが王道だ。

食事と自律神経の関係/『病気が治る鼻うがい健康法 体の不調は慢性上咽頭炎がつくる』堀田修


 ・食事と自律神経の関係

『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修
鼻うがいのやり方

 一方、食事と自律神経の関係ですが、1食を5分以内で食べ終わるほどの早食いは交感神経優位の状態で、奥歯でよく噛んで十分に時間をかけて食事をする場合は副交感神経優位の状態です。そして、消化吸収時には副交感神経が働いて消化を促進します。ところがリラックスさせる副交感神経も、活発になりすぎるとアレルギー症状をひきおこしますので、バランスが大切といえます。
 食事の内容も影響します。肉食に偏っていると交感神経優位の状態をもたらし、野菜を中心とした食事をしていると副交感神経優位の状態をつくります。なぜなら、肉類はアミノ酸からつくられる酸性食品なので消化時間が短く交感神経を活発にさせ、野菜はアルカリ食品から活性酸素を奪って副交感神経を活発にさせます。
 事実、「アデノイドが腫れている子どもは偏食である」ということは、山崎氏が活躍した1960年代以前からよく知られていたことです。偏食が自律神経に影響して免疫システムを乱れさせるため、慢性上咽頭炎の発症に関係しているだろうことは、十分に考えられます。

【『病気が治る鼻うがい健康法 体の不調は慢性上咽頭炎がつくる』堀田修〈ほった・ほさむ〉(角川マーケティング、2011年)】

 交感神経優位とは昂奮状態である。肉食人種が戦闘的なのもむべなるかな。『つらい不調』よりも少しばかり臨床的な記述が目立つ。ただし堀田は著作が多いので、やはり新刊優先で考えた方がよかろう。


 一見してわかるように上咽頭は体外と体内の接点である(※喉や腸は体外という説もあるが)。言わば体内の入り口で異物を排除しているのが鼻や口であり、もう一歩進んだところに上咽頭が鎮座する。侵入を許してしまうと白血球の出番となるわけだが、時にウイルスや最近は獅子身中の虫となる。

 自律神経失調症は症状が多岐にわたっていてドクターの所見は意外と当てにならない。通院してもよくならない場合は上咽頭炎を疑うべきだろう。

2022-01-24

親子のふれあい/『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ


『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴

 ・幼少期の歪んだ価値観が肉体を破壊するほどのストレスと化す
 ・ストレスにさらされて“闘争”も“逃走”もできなくなった人々
 ・ストレス依存
 ・急性ストレスと慢性ストレス
 ・親子のふれあい

『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』べッセル・ヴァン・デア・コーク
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『心と体を強くする! メガビタミン健康法』藤川徳美
『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』溝口徹
『食事で治す心の病 心・脳・栄養――新しい医学の潮流』大沢博
『オーソモレキュラー医学入門』エイブラハム・ホッファー、アンドリュー・W・ソウル
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『あなたはプラシーボ 思考を物質に変える』ジョー・ディスペンザ
『瞬間ヒーリングの秘密 QE:純粋な気づきがもたらす驚異の癒し』フランク・キンズロー

虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
必読書リスト その二

 2歳から13歳の喘息の子供たちと、健康な子供たちから成る対象群の呼吸パターンを調べた実験がある。子供たちはそれぞれ、自分の母親の声と他人の声を録音したものを聞かされた。「声の調子には関係なく、喘息の子供たちは他人の声よりも母親の声を聞いたときのほうが異常な呼吸パターンを多く示した。この興味深い結果から、子供が母親を安心できる存在と見ていれば当然予想されるはずの効果とは正反対の、ある種の感情的な効果が呼吸に作用したものと考えられる」
 ドイツの研究によると、喘息の子供は健康な対象群の子供より、長期的でしだいにエスカレートするネガティブな相互関係を父親とも母親とも築いているらしい。そのような子供たちの両親は他の子供たちの両親と比べ、子供に対してより批判的な行動を示すという。客観的に測定してみると、喘息の子供は、欲求不満を感じたり批判されたと感じたりすると肺からの空気の流れが悪くなった。これは気道が狭まったということである。このような現象は、喘息の子供に激しい怒りや恐怖を感じた出来事を思いださせたときにも見られた。

【『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ:伊藤はるみ訳(日本教文社、2005年)以下同】

 本書のアクセス数が増えているので、どんどん紹介しよう。

 少し古い本なので参考情報程度に受け止めておくべきだろう。喘息の原因が親子関係にあると早合点しないように。上記の実験の詳細も不明だ。どの地域で何人を調査したか書かれていない。擬似相関の可能性も否定できない。

 子供の世界観は、親子のふれあいの中で確立される。この世界が愛と信頼に満ちたものに映るか、要求を満たしてもらうためには必死で訴えねばならないような冷淡で無関心なものに映るか、あるいは最悪の場合、常に不安を感じて過剰に警戒していなければならないような敵意に満ちたものに映るかは、親子のふれあいによって決まるのである。最初の養育者との関係でできあがった神経回路は、将来の人間関係のあり方を決める鋳型になるのだ。私たちは、自分がこう理解されたと感じたように自分を理解し、最も深い無意識のレベルで感じた愛と同じ愛をもって自分を愛し、幼いころに心の奥底で受け取った思いやりと同じだけの思いやりをもって、自分に接するようになるのである。

 結局、人間をつくるのは人間ということなのだろう。特に母親の影響が強い。母親さえしっかりしていれば子供は育つ。

 まして少子化が進み、兄弟が少ないことを思えば、親の役割は増すことはあっても減ることはないだろう。

 私の場合、親の愛情は薄かったのだが、近所のオジサン、オバサンに見守れながら育ったことが大きい。更に小学3年の頃から人気者になりつつあった。体が大きくなり始め、球技が得意になった。声は生まれつきでかい。この頃から「小野っちょは面白い」と評価されるようになった。人は周囲から認められると張り合いが出てくる。

 今でもよく覚えている。私は小学校2年生の時に苫小牧から帯広、そして札幌へと転校を繰り返した。幼い私以上にうんざりした父親はケツをまくってサラリーマンの立場に見切りをつけて独立した。そんなこんなで私は常によそ者だった。特にいじめられたことはなかったが、なんとなく疎外感を抱いていた。ところが小学校3年で学級代表を選ぶ選挙があった際、私に2票が入ったのだ。心底驚いた。夜も眠られぬほどでもなかったが終日昂奮した。誰かはわからぬが私がリーダーに相応しいと考える同級生が二人もいたのだ。次にこれも3年生の時だがドッジボールでファインプレーをした。エンドラインいっぱいでジャンプをして相手チームのパスを奪ったのだ。一瞬後に歓声が上がった。私の球技における運動神経はあの瞬間につながったと確信している。それからというもの球技は何でもこなせるようになった。4年以降は卒業するまで学級代表を務めた。悪いことも随分やったが、とにかく皆、仲がよかった。札幌に転校して一番最初に家まで送ってくれたイガラシとはいまだに付き合いがある。

 人間は信頼されなければ生きてゆくことが難しい動物なのだろう。ところが資本主義になると信用は与信を意味する。我々は長ずるにつれて人間関係よりも資産や賃金を重んじるようになる。人生においては20代の人間関係が重要だと私は考える。ここで不可欠な友情を結んでおかないと人生は無味乾燥なものになる。異性を見る目も曇ってしまうことだろう。多様な関係性の中からしか相手の本当の姿は浮かんでこない。

 嫌なこと、間違ったことに対して「ノー」と言える心を養っておくことだ。それほど難しいことではない。周囲にそれができる人が必ず一人や二人はいるはずだ。そういう人に近づいて話を聞いてみるといい。弱い人間はモデルとなる人物を見つけるのが手っ取り早い。

2022-01-23

急性ストレスと慢性ストレス/『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ


『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴

 ・幼少期の歪んだ価値観が肉体を破壊するほどのストレスと化す
 ・ストレスにさらされて“闘争”も“逃走”もできなくなった人々
 ・ストレス依存
 ・急性ストレスと慢性ストレス
 ・心のふれあい

『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』べッセル・ヴァン・デア・コーク
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『心と体を強くする! メガビタミン健康法』藤川徳美
『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』溝口徹
『食事で治す心の病 心・脳・栄養――新しい医学の潮流』大沢博
『オーソモレキュラー医学入門』エイブラハム・ホッファー、アンドリュー・W・ソウル
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『あなたはプラシーボ 思考を物質に変える』ジョー・ディスペンザ
『瞬間ヒーリングの秘密 QE:純粋な気づきがもたらす驚異の癒し』フランク・キンズロー

虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
必読書リスト その二

 生きていくために不可欠な生理的メカニズムであるストレスが病気の原因になる、というのは矛盾していると思われるかもしれない。この点を理解するためには、“急性ストレス”と“慢性ストレス”とを区別する必要がある。急性ストレスとは、脅威に対して即座に、短時間だけ起こる身体反応だ。慢性ストレスのほうは、ある人がストレッサーの存在に気づかない、または気づいても逃れようがないために継続的にストレスにさらされ、ストレス・メカニズムが長期的に活動を続けている状態である。

【『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ:伊藤はるみ訳(日本教文社、2005年)】

 所与としての自然に対して生物は進化で対応してきた。重力や寒暖差、空気の薄さ(高地や山岳)には適応できた。ストレスの語源は“「物体に圧力を加えることで生じる歪み」を意味する物理学の言葉であった”(語源由来辞典)。

 人間が好むスポーツやギャンブル、あるいはゲームや遊びといった行動は意図した急性ストレスなのだろう。単調な暮らしは低ストレス過ぎて耐えられないのだ。

 災害は急性ストレスの要因となるが、果たして戦争はどうだろうか? 今ふと気づいたのだが人生経験の長い大人にとっては急性ストレスかもしれないが、生まれてから数年しか経っていない児童にとっては慢性ストレスとなる可能性がある。少国民世代の反戦憎悪をそのように読み解くことができるような気がする。私が物心ついた頃、毎日のようにベトナム戦争のニュースが流れた。小学校2年の時と記憶するが、突如「永遠に終わらないんだろうな」と思った。「ベトナム戦争が日常化」した瞬間であった。ところが小学6年の時にベトナム戦争は終わった。その長さに圧倒された。12歳の児童にとっては人生の半分以上も続いたわけだから。100歳の年寄りの50年に匹敵する。

 慢性ストレスは重い荷物を長期間持たされているような状態であり、手足の自由を奪われ、走ることもままならない。外すことのできない大リーグボール養成ギブスを装着していれば、さすがの星飛雄馬も潰れてしまったことだろう。

「気づいても逃れようがない」とあるが、児童の場合気づくことすらできない。特に親や教師の影響は深刻だ。近所の目が失われてしまった社会状況では傷ついた子供の行き場がどこにもない。人類のコミュニティ性を思えば、子供にとって最も必要なのは愛情を注ぐ「普通の親」で、その次に来るのは「幼馴染のお兄さんお姉さん」であろう。何でも相談できる年長者が一人でもいれば救われる可能性のある子供たちは多い。

 もう一つ視点を変えて考えてみよう。現代人の慢性的な体調不良の最大の原因は「長時間椅子に坐る」生活をしているためだ(『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード)。ヒトの行動を支えるのは脚である。そして地面と接する足裏は野山を駆け巡るようにできている(土踏まずのアーチ)。つまり人体にとって長時間椅子に坐ることは慢性ストレスなのだ。

 食についても同様のことが言える。遺伝子はあまりにも多くの飢餓状況を経てきたために、食べられる時に脂肪を溜め込むメカニズムが埋め込まれている。糖分や糖質を好むはそのためだ。ところが飽食の時代になると内蔵や血管の機能が阻害される。体内は粗食基準で進化してきたのだろう。16時間断食が有効なのも理解できよう。

 依存症は嗜好や嗜癖に耽溺しているように見えるが、慢性ストレスの反動と考えることもできる。

 慢性とは「業」(ごう)である。性質と行動に働く慣性といってよい。やはり中庸・中道がバランスの正道だ。

2022-01-22

ストレス依存/『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ


『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴

 ・幼少期の歪んだ価値観が肉体を破壊するほどのストレスと化す
 ・ストレスにさらされて“闘争”も“逃走”もできなくなった人々
 ・ストレス依存
 ・急性ストレスと慢性ストレス
 ・心のふれあい

『生きぬく力 逆境と試練を乗り越えた勝利者たち』ジュリアス・シーガル
『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』べッセル・ヴァン・デア・コーク
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『心と体を強くする! メガビタミン健康法』藤川徳美
『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』溝口徹
『食事で治す心の病 心・脳・栄養――新しい医学の潮流』大沢博
『オーソモレキュラー医学入門』エイブラハム・ホッファー、アンドリュー・W・ソウル
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『あなたはプラシーボ 思考を物質に変える』ジョー・ディスペンザ
『瞬間ヒーリングの秘密 QE:純粋な気づきがもたらす驚異の癒し』フランク・キンズロー

虐待と知的障害&発達障害に関する書籍
必読書リスト その二

 医学ではふつう、ストレスとは非常に厄介なではあるが単独の出来事、たとえば突然の失業、結婚生活の破綻、大切な人の死などの出来事だと考えられている。確かにこうした大事件は多くの人にとってストレスの原因になり得るが、もっと目立たない、しかしからだにもって長期的な害をあたえるような日常的なストレスがあるのだ。心の中から生じたストレスは、外からはまったく正常であるように見せかけるが、からだにしっかり悪影響を与えるのである。
 心の中に生じたストレスに幼いころから慣れてしまった人々は、ストレスがないと不安になり、退屈で生きる意味がないような気がしてくる。これをセリエは、アドレナリンやコルチゾールといったストレスホルモンの嗜癖(しへき)が身についてしまうせいだと考えた。そのような人にとってストレスは望ましいものであり、なくなっては困るものなのである。

【『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ:伊藤はるみ訳(日本教文社、2005年)以下同】

 人間にとって最大のストレスは死である。もしもあなたが「余命3ヶ月です」と医師から告知されたらどうなるだろう? 生き方が一変するだろうか。それとも相変わらずのんべんだらりと余生を過ごすだろうか。「死の受容」についてはエリザベス・キューブラー=ロスが『死ぬ瞬間 死とその過程について』でモデル化を試みている。

 ストレッサー(ストレスの要因)は生命の危機感に由来すると思われるが、これが嗜癖になる事実は暴走族を見ればわかるだろう。あるいは遊園地など。スリルは生の実感を高める。安全と冒険の間を揺れ動くのが人生といってよい。

 子供は環境に逆らえない。生まれた家庭は所与のものである。よその家庭との比較も不可能だ。どんな家庭で育ったとしてもそれが「普通」の基準となる。暴言・暴力・ネグレクト(育児放棄)が与えるダメージは深刻で脳の発育に影響を及ぼす。感情や言葉を上手くコントロールできなければ社会生活が行き詰まる。子供たちは「変な奴」を避ける。時にのけものにし、あるいはいじめる。

 親から叩かれて育った子供は外で喧嘩をするようになる。私がそうだ。幼稚園から20代まで直ることがなかった。ストレスホルモンの嗜癖はスポーツ選手において顕著だ。強い負荷や抵抗が強靭な体をつくる。水泳巧者は水の抵抗を嫌うことがない。

 ただし判断を誤ると常にDV男を選んでしまう女性のような羽目に陥る。一種のマゾヒズムであろう。

 それなら、ストレスとは何なのか?(中略)セリエは、ストレスとはひとつの生物学的プロセス、体内の後半な作用の総体であり、原因や自覚のあるなしは無関係だと考えた。ストレスとは、ある有機体がその存在や健康への脅威を知覚したときに起こる、体内の変化――目に見えるかもしれないし見えないかもしれない――なのである。神経の緊張はストレスのひとつの構成要素かもしれないが、緊張を感じることなくストレスを受けることもある。反対に、緊張を感じてもストレスの生理的メカニズムが始動しないこともあり得る。

 小さなストレスが大きな被害につながることがある。特に慢性的な体の不調がある人は要注意だ。食欲不振や睡眠障害があれば既に病気の隣にいると言ってよい。人間にとって本質的な欲望が阻害されているわけだから。心は見えない。それゆえ体を見つめるのが手っ取り早い。

2022-01-13

窒息を知らせるチョークサインを広めよう/『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎

 ・窒息を知らせるチョークサインを広めよう

『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

「声のかすれ」や「人とあまりしゃべらない」ことと同じなのですが、「声が小さくなること」も、のどの老化のサインです。
 声帯は声を大きく出すほど大きく動きます。もともと声が小さい人は、それだけのどが老化しやすい、ということになりますし、年をとって大きい声が出せなくなった場合は、のどの筋肉が衰えているサインです。
 声帯を動かす筋肉は、いくつになっても鍛えることができますし、使うほど強くなっていきます。ふだんから声が小さいと指摘される人も、大きな声を出せるように、のど筋トレを行うことをおすすめします。

【『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎〈にしやま・こういちろう〉(幻冬舎新書、2020年)以下同】

 長らく人と話をしないと声がでにくくなる。帰国した小野田寛郎がそうだった。ガラガラ声のおばあさんも多い。「声帯は内側に筋肉(声帯筋)があり、外側を粘膜(声帯粘膜)で覆っています」(声について - 東京ボイスクリニック品川耳鼻いんこう科【公式】)。だったらトレーニングにしようもあるというものだ。

 みなさんはどんなときに幸せや喜び、楽しさを感じますか?
 答えは人それぞれだと思いますが、「おいしいもの、好きなものを食べているときが幸せ」という方は、かなりいらっしゃるのではないでしょうか。
 食欲は、性欲、睡眠欲と並び、ヒトの根源的な欲求のひとつです。「食べたい」という欲求が満たされたとき、幸福感や充足感を覚えることでしょう。おいしいものを食べたときに覚える満足感を「口福」(こうふく)と言うくらいですから、「食べる喜び」はヒトにとって最上の幸せのひとつだと私は思います。
 のどが衰えて飲み込む力が低下するということは、この食べる喜びが失われてしまうことを意味します。少しずつ食べるものが限られていって、やがて自力で飲み込むことができなくなり、「口から食事を摂ることができなくなる」ということです。
 生物にとって、「食べられないこと」は「死」に直結します。
 人間は、自分でものを食べられなくなっても、飲み込むことができれば、介助や介護によって、口から食べる器官をかなりのばすことができます。

 喉の衰えは食べる喜びを苦しみに変える。食べることが苦しみになれば、生きることもまた苦しみとなるだろう。そのストレスは生きる気力を奪い、あたかも植物のような人生を強いるに違いない。

 肥田春充〈ひだ・はるみち〉は食を断って死んだ。一つの見識だと思う。

 合わせて覚えておいていただきたいのが、のどがつまったときに知らせるための「【チョークサイン】」です。窒息すると息ができないだけでなく、しゃべれないので、ジェスチャーで知らせる必要があります。
 チョークサインはのどを親指と人差し指で挟むだけ。万国共通なので、いざというときに合図するために覚えておきましょう。
 このサインが広まれば、周囲で窒息事故が起こったとき、すぐに対処してもらえます。1分1秒を争うときだからこそ、至急の対応が必要です。
 誤嚥してのどにものがつまったときには5分が勝負です。


 不覚にも知らなかった。是非とも周囲のお年寄りに知らせて欲しい。

鼻うがい/『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『病気が治る鼻うがい健康法 体の不調は慢性上咽頭炎がつくる』堀田修

 ・鼻うがい
 ・鼻うがいには生理食塩水や洗浄液を使う

鼻うがいのやり方

身体革命

 関連痛とは【障害の置きた箇所から発せられる痛みの信号を障害のない別の部位からの信号であると脳が勘違いすることによる痛み】です。
 例えば、心臓発作は、本来なら胸の左側が痛くなると考えがちですが、初期段階では左小指の痛み、左腕または首やあごが痛いと感じることがあります。また、胆石発作を右肩のこりや痛みとして感じることも知られています。

 上咽頭は刺激を伝達する神経線維が豊富な部位で、内蔵に広く分布する迷走神経(めいそうしんけい)と、主にのどに分布する舌咽神経(ぜついんしんけい)の両方がはりめぐらされているため、脳が勘違いして鼻の奥を、のどと感じるのだろうと考えられます。
 実際、のどの痛みを訴えて受診した患者さんの上咽頭を綿棒でこすると、のどには全く触れていないのに「そこです! のどの痛い場所に当たっています!」という声が返ってきます。

 では、鼻の奥の上咽頭の炎症がどうして「頭痛」「めまい」「倦怠感(けんたいかん)」「胃腸障害」「血尿」「湿疹」「関節炎」等、様々な症状と関連するのでしょうか?

【『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修〈ほった・おさむ〉(あさ出版、2018年)以下同】

「【心筋梗塞にかかっても4人に1人は胸の痛みがない」(『臓器の急所 生活習慣と戦う60の健康法則』吉田たかよし)。私は扁桃炎を患っているので他人事ではない。

 私は1983年に医学部を卒業して以来、腎臓内科医として当時は不治の腎臓病とされたIgA腎症(じんしょう)の根治治療の開発に取り組んできました。その過程で、今から十数年前に慢性上咽頭炎という概念を知り「IgA腎症患者が感冒(風邪)により血尿を引き起こす謎」が自分の中で解けました。
 当時は周りの耳鼻科医に慢性上咽頭炎の話をしても取り合ってもらえなかったため、1960年代、70年代に発表された山崎先生、堀口先生らの論文を取り寄せて勉強しました。そして、自らの臨床経験に照らしあわせてみて、慢性上咽頭炎が極めて重要な概念であることを革新し、内科医という門外漢でありながら慢性上咽頭炎の臨床と研究に臨みました。
 そして、臨床を日々重ねるにつれて、慢性上咽頭炎の概念の重要さを世の中に向けて再び発信しなければという思いが湧いてきました。

「慢性上咽頭炎」を知らなかったのも当然か。少々大袈裟にいえば著者の堀田修が発掘したのだ。先のテキストにもあったが、鼻の奥を喉と感じる人々が多いようだ。鼻毛というフィルターをくぐり抜けたウイルスがいかにも悪さを行いそうな場所だ。

 慢性上咽頭炎の治療である上咽頭処置は単純で診療報酬が極めて低く設定されているため、ほとんどの医師にとって魅力が乏しく、そのことが慢性上咽頭炎診療の普及を妨げる要因でもあります。

 医療や介護は保険報酬で動くから関連法や行政の差配が時に致命的な結果を生む。

 慢性上咽頭炎の対策としては生理食塩水で上咽頭洗浄を行う。上咽頭洗浄液を用いると更に効果的(「ミサトールリノローション」アダバイオ社、「プレフィア」「MSMプレフィア」グローバルアイ社)とのこと。慢性的な不調がある方は早速試してみるといいだろう。

 尚、特設サイトでは「慢性上咽頭炎治療医療機関一覧」も紹介されている。

2022-01-12

IgAの抗菌作用/『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎

 ・IgAの抗菌作用

『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

 健康診断には血液検査が必須とされているように、血液はまさに「健康のバロメーター」。そして、血液と密接な関わりがある唾液にも、血液と同様に病気の兆候を知ることが出来る成分が数多く含まれていることがわかっています。実際、新たな試みとして唾液による医療検査はすでに始まっています。例えば、ストレスの度合いが判定できるストレスチェックが実用化済みのほか、がんや虫歯、歯周病、エイズなども唾液検査でわかるようになっており、とくにがん健診では、早期発見が困難なすい臓がんに対する有効な手段として注目を集めています。
 近い将来、健康診断のメインが唾液検査になる…。そんな可能性は決して低くありません。また今後、唾液検査で人の性格までわかるようになれば、「血液型」ではなく「唾液型」が一般的になるかもしれません。未知の成分に溢れた唾液なら、これからの研究次第では十分ありうる話といえそうです。

【『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一〈つきのき・けいいち〉(扶桑社、2019年)以下同】

 意外と知られていないが、愛し合う二人が口づけを交わすのは「唾液を交換する」のが目的だ。免疫力を高めると考えられている。相性もよくわかる。頭で恋愛をすると大体不幸な結果になりがちだ。男女が惹かれ合うのは理解しやすいが、失恋や離婚のメカニズムには計算が働いているように思う。

 IgAは、風邪やインフルエンザなどの感染症のほか、さまざまな病原菌やウイルスの脅威から私たちの身体を守ってくれています。
 IgAの抗菌作用による免疫発動のメカニズムを詳しく説明しましょう。
 まず、口内で病原体などの異物を発見すると、複数のIgAがそれらにくっつき、口内の粘膜に付着させないように取り囲みます。さrない、IgAに囲まれた異物は、唾液の自浄作用によってほとんどが洗い流されてしまいます。このようにIgAは異物が体内の器官などに侵入して猛威を振るう前に、口に入ってすぐの時点でブロックするのです。

 抗菌物質IgA(免疫グロブリンA)は蟹みたいな形をしている。


 ところが、である。

 無敵を誇るIgAでも口内で活躍できない場所があります。それは、歯周ポケットといわれる歯周病菌がつくった歯と歯茎の間にできる溝の中です。歯周病菌は空気に弱いため、歯周ポケットの中にすみついて炎症を起こしますが、唾液中のIgAは、歯周ポケットの中まで行き届かないため、歯周病菌の活動を止めることができません。
 歯周病菌は口の中の常在菌で、IgAなどによってバランスが保たれていれば、増加して悪さを起こしません。しかし、IgAの分泌量が減るなどが(ママ)原因で歯周病菌が増加してしまうと、助けてくれるはずのIgAがうまく機能できなくなります。それにより、歯周病が進行してしまうのです。万一、歯周病が進行してしまうと、糖尿病や心筋梗塞、狭心症などの命に関わる病気に発展する可能性が高くなります。歯周病が糖尿病を悪化させるということはよく知られています。歯周病が進行すると炎症部分からサイトカインという物質が血中に放出されますが、これは血糖値を下げる働きをもつインスリンを効きにくくし、糖尿病の治療を妨げてしまうのです。糖尿病内科ではこれを改善させるために治療の前に口腔ケアを実行しており、かなりの効果がでています。

 歯周病の怖さがよく理解できる。歯肉を鍛える「犬用ガム」みたいなものを発明すればいいと思う。思い切り噛むと美味しいジュースが滴り落ちるといった機構が望ましい。あるいは歯茎筋トレ用肉とかさ。

 古代の人類は骨を食べていたと考えられている(『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起原に迫る』島泰三)。食用骨の販売を望む。

2022-01-11

嚥下機能が衰えると喉仏が下がってくる/『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『舌(べろ)トレ 免疫力を上げ自律神経を整える』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武

 ・嚥下機能が衰えると喉仏が下がってくる

『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎

身体革命

 突然ですが、みなさんに質問です。
 みなさんは、健康長寿を実現するために、もっとも衰えさせてはいけない体の機能は何だと思いますか?

 足腰の筋肉? たしかにそれも重要ですね。筋肉が衰えて歩行がままならなくなれば、寝たきりになる可能性が大きく高まります。
 血管の健康? もちろんこれも重要です。高血圧や高血糖で血管の機能が衰えれば、脳や心臓が重大な病気に見舞われるリスクが高まります。
 しかしみなさん、じつは、筋肉よりも血管よりも、「決して衰えさせてはいけない機能」があるのです。
 それは、【食べ物を飲み込む力】。すなわち【嚥下(えんげ)機能】です。

【『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎〈にしやま・こういちろう〉(飛鳥新社、2017年/文庫版、2019年)以下同】

 嚥下の読みは本来「えんか」である。「えんげ」は同音異語を回避するために医療・介護でまかり通った慣用読みだろう。嚥下とは飲み込む行為のこと。

 死はあらかじめプログラムされている。無性生殖の時代は自分のクローンを次々と作ったわけだから、死はなかったと考えることも可能だ。有性生殖は世代交代を通して進化する。その事実を踏まえれば、嚥下機能が衰えるのは「死の準備段階」なのだろう。ただし日本の場合、死ぬのに時間がかかり過ぎるのだ。ヨーロッパには寝たきり老人がいない。寝たきりになるくらいなら死を選ぶのだ。日本だと本人と社会がそれを認めていない現状がある。もちろん背景にあるのは病院の利益である。

 しかも、これは決して高齢者だけの問題ではありません。
 じつは、飲み込む力は、40代、50代あたりから徐々に低下しています。実際に、30代から誤嚥がはじまっているという報告もあります。嚥下機能は、高齢になってから急に衰えるわけではないのです。

 御意。50代半ば頃から実感できる。誤嚥とは飲み下したものが誤って肺に入ることだ。これが肺炎の原因となる。

 みなさんは、“そういえば、最近、食事中にムセることが多くなったな”と感じてはいませんか? もし心当たりがあるならば、それは、のどの力が衰えて「飲み込み力」が低下してきたという証拠。【「ムセ」は、のどの老化のもっともわかりやすいサインなのです】。

 人は喉から死んでゆくのだろう。

 なお、肺炎で死亡する人のほとんどが75歳以上の高齢者。そして、じつはこうした高齢者の肺炎の【70%以上に誤嚥が関係している】とされているのです。

 ヒトは言葉を発するために誤嚥という犠牲を払った。嚥下と呼吸が紙一重で行われているので明らかに機能としては劣っている。

 ところで、飲み込み力が落ちてくると「見た目」にも明らかなサインが現われることをみなさんはご存じでしたか?
 じつは、【「のど仏」の位置が下がってくるのです】。(中略)
 どうして、のど仏が下がってくるのか。それは、【のど仏を吊り下げている筋肉や腱が衰えてくる】からなのです。

 そいつあ知らなかった。確かに年寄りの喉仏は下がっている。だったらこれを上げればいいわけだな。というわけで簡単な運動が紹介されている。

 嚥下機能を鍛える器具を作れば一儲けできるんじゃないか? あるいは「虎の穴」的な介護施設とか。

2022-01-10

交通事故の死亡者よりも多い窒息事故/『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高

 ・交通事故の死亡者よりも多い窒息事故

『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

 歯周病は世界で一番多い病気としてギネスブックにも認定されていて、歯周病にかかっている成人は、約80%ともいわれています。(中略)
 歯周病は、不治の病ともいわれています。進行を止めることはできますが、残念ながら完治はできません。しかも初期段階では自覚症状がほとんどないため、自分が歯周病だと気づいていない人も少なくありません。
 歯周病は、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)や認知症などの原因になります。さらに、重度の歯周病は、心疾患や糖尿病などのリスクも高めてしまうこともある恐ろしい病気です。

【『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武〈きくたに・たけし〉(NHK出版、2018年)以下同】

 ゲゲッ、私が通っていたところの歯科医はそんなことを言ってなかったけどな(泣)。歯周病の治療を終えてから私は本気で歯を磨くようになった。斜め45度で歯ブラシを歯茎に当て、少し食い込み気味に細かく振動させるようにブラッシングを行う。これが基本だ。

 あとは唾液勝負である。意外と知られていないが唾液が豊富であれば虫歯にはならない。それが証拠に虫歯になるのは大体歯の外側である。下の前歯の裏側が虫歯にならないのは唾液が溜まっているからだ。

 また、歯の欠損によって噛み合わせが失われると、全身のバランスをとることが難しくなります。結果、転びやすくなり、骨折から車椅子、寝たきりにつながりやすくなるのです。65歳以上の健康な人で歯が20本以上ある人と、19本以下で義歯未使用の人をくらべると、後者は転倒のリスクが2.5倍になるという調査結果もあります。
 歯を喪って年に何度も転んでいたお年寄りが入れ歯を入れたら、翌年は一度も転ばなかったという例もあるほどです。
 転ばないためには、入れ歯を使うことも重要です。

 これまた驚きの事実だ。体のバランスはわずかな狂いで失われることがわかる。噛み合わせと転倒は中々結びつかない。ナースやヘルパーはよく覚えておくべきだ。

 入れ歯はブラシで磨いてから洗浄液に浸け、最後は水けを拭き取り、しっかり乾燥させる。これが入れ歯の正しい手入れ法です。乾燥させることは、見落とされがちですが、菌の繁殖を防ぐには重要です。
 私たちは、通常、歯ブラシは立てて置き、乾燥させていますよね。入れ歯も同じように扱うと、覚えておきましょう。

 ウッヒョー! 一度も乾燥させたことがないよ(涙)。本書を読んでから早速実践している。実は上の左奥歯2本の入れ歯を持っている。長らく使っていなかったのだが歯科医から「食べる時と寝る時だけでも装着せよ」と言われた。他の差し歯にダメージが及ぶらしい。

「事故で亡くなる」と聞いて、みなさんはどんな事故を思い浮かべますか?
 多くの人が想像するのが、やはり交通事故ではないでしょうか。しかし、実は交通事故よりも死亡者の多い事故があるのです。それが、窒息事故です。
 不慮の事故による年間の死亡者数を見てみると、交通事故が5278件、窒息事故が9485件です(2016年「人口動態統計」厚生労働省)。
 不慮の事故による死亡者数が一番多いのは、窒息事故。しかも、その数は交通事故死の約1.8倍です。

 2006年に窒息事故の死亡者数が交通事故死を上回ったそうだ。悲惨な事故に目が向きがちなのは認知バイアスによるもの。しっかり咀嚼をする、汁物を先に飲まないことを心掛けるだけで防げる事故も多い。またお年寄りの同居家族はハイムリック法などを学んでおくべきだろう。


 余談であるが風呂場で亡くなる人はもっと多い。「厚生労働省の研究班の発表によると、風呂場での推定死亡者数は年間約1万9000人。全国の交通事故の死亡者数が2839人(2020年警察庁発表による)なので、およそ6倍になる。大半が65歳以上で、毎年12~4月に多く発生している」(ダイヤモンド・オンライン)。備えあれば憂いなしである。

中医学の舌診/『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰

 ・中医学の舌診

『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

 中医学とは中国の医学のことです。中医学の医師は、ほぼこれと似たスタイルで診察をします。舌の観察に加えて脈診(脈をとって診察する)を重視する医師もいます。
 では、どうしてこれだけの診察で、的確な処方が出せるのでしょう。
 その理由のひとつは、舌の観察にあります。
 舌には、さまざまな情報が隠されています。色や形、苔の状態などを観察すると、体内の状態がみえてくるのです。
 中医学では、からだをひとつのつながった有機体としてとらえています。体内の状況は、何らかのかたちで体表にあらわれてきます。とくに舌は、表面の粘膜の新陳代謝が盛んで、3日ほどで新しいものと入れ替わります。ですから、舌には病気のサインが迅速に出ます。また、粘膜が薄いので、粘膜の舌の血管を流れる豊富な血液の状態がよくみえます。血液の色が、舌の色に反映されるのです。レントゲンも血液検査もない時代に、からだの中の様子を客観的に正確にとらえるために驚異的に発達した技術が、“舌診”(ぜっしん)です。

【『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高〈こうい・としたか〉(河出書房新社、2011年/ハンディ版、2016年)】

 様々な舌の状態と体の症状が紹介されている。口臭の原因とされる舌苔(ぜったい)についてはさほど問題視していない。「目は心の窓」と言われるが、「舌は体の鏡」なのだろう。

 一筋縄ではいかない。なぜなら多くの人々の舌を見る機会がないためだ。ま、親しい人から始めるしかあるまい。まずは自分の舌から始めよう。

ハミングがウイルスを防御/『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之
『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一

 ・ハミングがウイルスを防御

『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命

【鼻は、いわば「加湿器つき空気清浄機」。】鼻のなかは、新聞紙1面分の広さのフィルターになっていて、表面にびっしり生えた綿毛と粘液で、空気中の細菌やホコリ、有害物質をろ過してくれています。
 また、細菌やウイルスの繁殖の温床となる「冷え」と「乾燥」が体には大敵ですが、鼻呼吸の場合、鼻から吸い込んだ空気は鼻腔で十分に温められ、加湿されて肺に送り込まれるなど、対策はバッチリです。
 さらに、鼻呼吸すると分泌される「NO(一酸化窒素)」という物質。殺菌成分でもあり、体内では血管や気管支を拡張し、血流をアップしてくれるのです。また、免疫軍団のメンバーでもある綿毛の動きも活発にしてくれます。
 自然界では口呼吸をする生きものは、人間くらいなもの。鼻のすばらしい機能をきちんと使いたいですね。

【『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰〈いまい・かずあき〉(かんき出版、2019年)以下同】

「NO力」を高める/『「血管を鍛える」と超健康になる! 血液の流れがよくなり細胞まで元気』池谷敏郎

 昔は田舎者が上京すると鼻毛が伸びるという話があった。札幌から出てきた私も何となくそう感じた。だって故郷にいた頃は鼻毛を抜いた覚えはないもんね。

 鼻呼吸でNOが分泌されるのは匂いと関係があるのかもしれない。

 口のなかで舌が下がると、筋肉のかたまりが下あごの上にどーんと乗った状態となって、二重あごになり、首が短くなります。ほおと口角も下がり、ほうれい線が目立つように。どんどん老け顔になってしまうのです。【舌が衰えると、顔の筋肉もどんどん衰えますから、顔全体がだらんと垂れ下がってきます。】
 二重あご(ブルドックのようなブルあご)は年齢のせい、太っているせいと思いがちですが、あごがたるむのは、「落ちベロ」が原因です。
 ベロトレはほおのたるみを引き上げるだけでなく、顔の温度を上げるため、むくみがなく血色のよいツヤ肌にしてくれる効果も。
 舌の位置と動きで、顔の形や表情まで変わってくるのですね。

 舌(べろ)トレとは大したトレーニングではない。だからといって効果を軽んじるわけにはいかない。小事を軽んじて体は衰え、やがて嚥下障害を迎えるのだから。粘膜の痛みは独特のもので我慢できるようなタイプの痛みではない。外界と直接接していることもあってダメージを受けやすい部位だ。

 アメリカ胸部学会の学術誌では、ハミングで鼻腔のNO濃度が上昇したという研究が発表されています。
 普通に鼻呼吸しているときと比べて、ハミングを行った被験者たちは、鼻腔内のNO濃度が15倍に上昇しました。
 NOには鼻腔と副鼻腔をつなぐ粘膜表面の綿毛運動を促進する作用があるため、【ハミングをするだけで細菌やウイルスの侵入を防ぎ、炎症を予防できる可能性がある】ということです。
 楽しくハミングしていれば、風邪も引きにくくなりますよ。

 英語の「Hummm」(日本語だと「うん」「ふむ」)を長く伸ばすとマントラっぽくなる。インドだと「Aum/Om」(オーム)、日本語だと「阿吽」(あうん)。有無の音も近い。あるいは南無(サンスクリット語のナマステ由来)。声帯の震えが鼻で増幅され、体全体に振動が伝わる。

同調ハミング/『心身を浄化する瞑想「倍音声明」CDブック 声を出すと深い瞑想が簡単にできる』成瀬雅春

 よい香りがする様を「鼻孔をくすぐる」と表現する。匂い分子から嗅細胞が受ける刺戟を「くすぐる」と言うのだから振動として受け止めているわけだ。

 新型コロナウイルスも鼻歌には勝てない。

2021-12-19

基準値を下げて病人を製造する日本高血圧学会/『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎


『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之

 ・基準値を下げて病人を製造する日本高血圧学会

『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命
必読書リスト その二

 とくに標準血圧のガイドラインは、目に余るものがありました。
 2000年まで、最高血圧160以上の患者さんが高血圧症として降圧剤が処方されており、その数は1800万人といわれていました。
 2000年に、日本高血圧学会が高血圧治療ガイドラインを発表し、高齢者については最高血圧140以上が高血圧症となり、患者さんは3700万人に増えたといわれます。
 さらに2008年のメタボ健診に便乗して、高血圧症は最高血圧130以上という基準が示され、今日、私の推測では、6500万人が高血圧症を患う病人となっています。
 今や、65歳以上の高齢者を集めたら、降圧剤を服用していない人を探すのは難しいと思います。
 いったい、これは誰が臨んだ結果でしょうか。少なくとも、けっして患者さん自身が望んだ結果ではないと思います。
 また、このように基準値を少し下げるだけで、一気に何千万人と患者が増えるわけです。
 現状として、最高血圧130以上の人のほうが多いのであれば、統計学的にはむしろ、最高血圧130以上の高血圧の人が正常で、それ未満の人のほうが正規分布から外れた異常である、と考えるべきではないでしょうか。
 わかりやすくいえば、ふたりにひとりは薬を飲んでいる場合、それはもはや異常な現象としての「病気」とは呼べないのではないか、ということです。
 糖尿病の基準である血糖値、高脂血症のコレステロール基準値も、しかりです。

【『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎〈うえだ・こういちろう〉(講談社+α新書、2014年)】

 降圧剤は1兆円市場である。武田邦彦は「降圧剤の投与によって認知症患者が増大した」と指摘している。こうなるとまるで麻薬や覚醒剤の売買と変わらないように見えてくる。私は酒をやめてから血圧がずっと180台だったが自分で少し低くした。今は多分140台である。

 植田は現場の感覚を重んじる歯科医である。リハビリ現場で目撃した高齢患者に衝撃を受ける。そこから唾液に着目したオーラルケアを編み出す。口ストレッチはいずれも簡単な動きで、「エ、たったこれだけ?」と思う程度の運動である。ところがどっこい実に重要なストレッチで、死命を分かつといっても過言ではない。

 私は最近、嚥下(えんげ)機能が衰えてきているのでよくわかる。もともと扁桃炎持ちで、睡眠時無高級症候群もあり、口を開けて寝る悪い癖がある。近頃はセロテープを貼って寝ている。更に年をとってから寝返りの数が極端に減っていて、仰向けで寝ていると腰に疲労感が残る。長時間にわたってクルマを運転した後のようなずっしりとした疲労感だ。というわけで横を向いて寝るようにしている。

 ここ数年間で、筋トレを始めとする運動~ウォーキング~ストレッチ~ヨガなどの本を読んできた。そして血管マッサージ~自律神経から口に至った。自然な流れではあったが、きちんと外側から内側に向かっている。で、最後は呼吸である。まだまだ本の選球眼は衰えていない。

2021-12-15

歯周病菌が心筋梗塞を招く/『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之


『実践「免疫革命」爪もみ療法 がん・アトピー・リウマチ・糖尿病も治る』福田稔
『新健康法 クエン酸で医者いらず』長田正松、小島徹
『あなたの人生を変えるスウェーデン式歯みがき 1日3分・ワンタフトブラシでお口から全身が健康になる!』梅田龍弘

 ・歯周病菌が心筋梗塞を招く

『長生きは「唾液」で決まる! 「口」ストレッチで全身が健康になる』植田耕一郎
『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい!』槻木恵一
『免疫力を上げ自律神経を整える 舌(べろ)トレ』今井一彰
『舌をみれば病気がわかる 中医学に基づく『舌診』で毎日できる健康セルフチェック』幸井俊高
『あなたの老いは舌から始まる 今日からできる口の中のケアのすべて』菊谷武
『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』西山耕一郎
『誤嚥性肺炎で死にたくなければのど筋トレしなさい』西山耕一郎
『つらい不調が続いたら 慢性上咽頭炎を治しなさい』堀田修

身体革命
必読書リスト その二

 1gの「歯垢」(デンタルプラーク)の中にいるバイ菌は、1000億個あまり。
 大便1g中のバイ菌の数倍だと言われています。
 つまり、歯を磨かないということは、口の中でバイ菌を育てるようなもの。
 だから、1日1回はしっかりブラッシングして歯垢を落とすことが大切なのです。

【『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之〈あんどう・まさゆき〉(自由国民社、2018年)以下同】


 内容は薄いのだが必読書に入れた。意外と知られていない大事なことが書かれているためだ。ブラッシングのコツはペンと同じ握り方で力を込めず、細かく振動するように磨く。歯茎の際(きわ)は少し差し込むようにして斜めにブラシを向ける。

 安藤は微生物・生理学・解剖学・生化学などの基礎研究も行ってきたと書かれているが、「バイ菌」という言葉遣いが感心しない。もっと言ってしまえば不真面目だと思う。細菌のことをバイ菌と呼んだのは私が子供の時代だ。

 虫歯や歯周病が悪化して「虫歯菌」や「歯周病菌」が大増殖すると、
 粘膜による生体防御バリアを突き破って毛細血管の中に入り、
 全身を巡ってさまざまな不調や病気の原因になることがわかっています。

 たとえば、虫歯菌の多くは、抜歯など出血をともなう治療の際に血液と一緒に
 体内に侵入し、全身にたまって「絨毯爆撃」をしかけてきます。

 一方、歯周病菌は、死んだ後に悪さをする「内毒素」を持っている「自爆テロ」タイプ。
 比較的毒性は弱いのですが、長期に亘って体のあちこちで悪影響を及ぼし、
 心筋梗塞などを招くこともあります。


 吃驚仰天(びっくりぎょうてん)だわな。果糖は唾液や食物で流されてしまうので単体だと虫歯になりくいという(果物と虫歯 | 我孫子の歯医者さん|なかむら歯科)。するってえと、やっぱり砂糖(ショ糖)が問題なわけだよ。もっと凄い話がある。

 実際、歯周病菌や虫歯菌が心臓や腎臓にたまりやすいことはよく知られています。

 また、切迫早産妊婦の30%の羊水から、
 歯周病菌が見つかったという研究報告もあります。

 妊娠34週より前に破水した場合は自発呼吸ができない赤ちゃんもいるそうだ(早産・切迫早産|公益社団法人 日本産科婦人科学会)。妊婦の皆さんは速やかに歯周病の確認を願いたい。

 また、アマルガム(銀歯の詰め物)の悪影響についても詳しく紹介されている。アトピーの原因となることもあるという。安藤はセラミックを推奨しているが高価であることに留意(セラミック歯の種類・値段・相場価格)。保険は適用できない。増え続ける社会保障費を思えば、厚生労働省は保険適用にするべきだろう。

2021-12-13

パニック・ボディ/『悲鳴をあげる身体』鷲田清一


 ・蝶のように舞う思考の軌跡
 ・身体から悲鳴が聞こえてくる
 ・所有のパラドクス
 ・身体が憶えた智恵や想像力
 ・パニック・ボディ
 ・セックスとは交感の出来事
 ・インナーボディは「大いなる存在」への入口

『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ
『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』べッセル・ヴァン・デア・コーク
『日本人の身体』安田登
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
・『ニュー・アース』エックハルト・トール
『瞬間ヒーリングの秘密 QE:純粋な気づきがもたらす驚異の癒し』フランク・キンズロー

必読書リスト その二

 身体が過剰に観念に憑かれてしまい、観念でがちがちに硬直している、つまり身体に本質的なある〈ゆるみ〉を失っている、だからとても脆くなってすぐにポキッと折れそうなのだ……と。
 こういう状態にある現在の身体を、わたしは《パニック・ボディ》と名づけてみたい。そう、身体はいまいろんなところで悲鳴をあげているのだ。

【『悲鳴をあげる身体』鷲田清一〈わしだ・きよかず〉(PHP新書、1998年)】

 このテキストはダイエットや摂食障害に触れた件(くだり)であったと記憶する。摂食障害やパニック障害が登場したのは1980年代だろう。就中(なかんずく)、カレン・カーペンターの死(1983年)が世界に衝撃を与えた。1990年代に入ると軽度自閉傾向(発達障害)が顕著となる。

製薬会社による病気喧伝(疾患喧伝)/『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ

 ボディビル志向の筋トレも同様である。英語の「bodybuilding」を直訳すれば「肉体建築物」である。不自然な筋肉は動きを妨げる。つまり実用性も合理性もないわけだ。日本の武術は骨の動きを重視している。腹部は柔らかくなくてはいけない。鎧のような筋肉はかえって体幹の柔軟性を損なうのではあるまいか。

 メンタルは身体(しんたい)に表れる。ゆえにメンタルヘルスも体にアプローチするのがよいと私は考える。心は目に見えない。だから見える体に注目するのだ。基本は柔軟性とバランスである。部分的な凝りや不調は必ず運動で治すことが可能だ。むしろ体をきちんと使えないことによって心が病むケースもあると思う。

2021-12-12

身体が憶えた智恵や想像力/『悲鳴をあげる身体』鷲田清一


 ・蝶のように舞う思考の軌跡
 ・身体から悲鳴が聞こえてくる
 ・所有のパラドクス
 ・身体が憶えた智恵や想像力
 ・パニック・ボディ
 ・セックスとは交感の出来事
 ・インナーボディは「大いなる存在」への入口

『ことばが劈(ひら)かれるとき』竹内敏晴
『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ
『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』べッセル・ヴァン・デア・コーク
『日本人の身体』安田登
『サピエンス異変 新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード
『ストレス、パニックを消す!最強の呼吸法 システマ・ブリージング』北川貴英
『「疲れない身体」をいっきに手に入れる本 目・耳・口・鼻の使い方を変えるだけで身体の芯から楽になる!』藤本靖
『フェルデンクライス身体訓練法 からだからこころをひらく』モーシェ・フェルデンクライス
・『ニュー・アース』エックハルト・トール
『瞬間ヒーリングの秘密 QE:純粋な気づきがもたらす驚異の癒し』フランク・キンズロー

必読書リスト その二

 なにか少年や少女の事件が起こるたびに、こころのケアやこころの教育がどうのこうのといった声があがるが、わたしはすぐにはそういう発想がとれない。ちょっと乱暴かもしれないが、お箸をちゃんともてる、肘をついて食べない、顔をまっすぐに見て話す、脱いだ靴を揃えるなどということができていれば、あまり心配ないのではないかと思ってしまう。とりあえず、ごはんはかならずいっしょに食べるようにしたら、と言ってみたくなる。なにか身体が憶えた智恵や想像力、身体で学んだ判断を信じたいと思うのだ。

【『悲鳴をあげる身体』鷲田清一〈わしだ・きよかず〉(PHP新書、1998年)】

 思索の人にありがちな「気取り」に鼻白むが、日常において精神性よりも生活所作に重きを置くのは賛成だ。

 私には信じ難いのだが、「我が子がいじめられていることに気づかなかった親」がそこかしこにいる。愚かな親元に生まれると死ぬ確率が高くなる。学校帰りの小学生を見れば一目瞭然だ。歩く姿が雄弁に物語っている。俯(うつむ)き加減で独りでトボトボと歩く小学生を見掛けるたびに胸が痛む。数年前、中学1年生くらいの少女が車止めの柵を蹴飛ばしている姿をベランダ越しに見たことがある。何か嫌なことがあったのだろう。家の前で蹴ったということはお母さんにも言えないようなことなのだろう。私でよければ話はいくらでも聞くし、何なら仕返しを手伝ってもいい。だが、それは私の役割ではない。人生には自分で乗り越えなければならない小さな坂がいくつもある。

 上記テキストの最後の部分は観念論だ。山野で生きてゆける程度の身体能力がなければ、智恵など出てくるはずもない。

2021-12-08

自律神経免疫療法/『実践「免疫革命」爪もみ療法 がん・アトピー・リウマチ・糖尿病も治る』福田稔


『足裏を鍛えれば死ぬまで歩ける!』松尾タカシ、前田慶明監修
『血管マッサージ 病気にならない老化を防ぐ』妹尾左知丸
『いつでもどこでも血管ほぐし健康法 自分でできる簡単マッサージ』井上正康
『「血管を鍛える」と超健康になる! 血液の流れがよくなり細胞まで元気』池谷敏郎

 ・自律神経免疫療法

・『効く!爪もみ』鳴海理恵、一般社団法人気血免疫療法会監修
『自律神経が整う 上を向くだけ健康法』松井孝嘉
『人は口から死んでいく 人生100年時代を健康に生きるコツ!』安藤正之

身体革命
必読書リスト その二

 じっさい、福田先生ほど欲のない人物を、私は知りません。
 一般に大病院で医師の職についていると、当たり前に仕事を続けていれば、それなりの地位が保証されているものです。ましてや福田先生は、新潟では腕利(うできき)きとして知られた外科医です。おとなしく普通に仕事をしていれば、輝かしい地位が約束されていたことでしょう。しかし、福田先生は、そんなものには、まったく拘泥(こうでい)することなく、自らが正しいと思う道を歩き続けているのです。その心の強さにはただただ頭が下がります。(安保徹〈あぼ・とおる〉)

【『実践「免疫革命」爪もみ療法 がん・アトピー・リウマチ・糖尿病も治る』福田稔〈ふくだ・みのる〉(講談社+α新書、2004年)以下同】

 安保徹は武田邦彦が「本物の医師」と太鼓判を押した人物である。専門は免疫学。著作が多いのでご存じの方もいるだろう。

 そうして(※浅見鉄男が主催する井穴刺絡〈せいけつしらく〉療法の勉強会に参加して)新潟に帰った私は、自律神経の動きを調べ、まずはアトピーやリウマチに悩まされている知人、友人数名を対象におそるおそる治療を始めたのである。治療というと何やら、大仰(おおぎょう)に聞こえるかもしれないが何のことはない、注射針を用いて頭や背中、それに手足の指の爪の生え際など、自律神経のツボをチクチクと刺激するだけのことである。
 するとどうだろう。それまで何年病院に通っても、効果らしい効果が現れなかった彼らの症状が、この簡単な治療をほんの数回、施すだけで、ほとんどの症例で、目に見えて好転しはじめたのである。「ほんとに効くんだ」――予想を上回る効果に患者も驚き、私自身も驚いた。
 そして、その結果に気をよくして私は、すべての病気にこの治療法で立ち向かおうと、固く心に決めたのである。こうして、注射針で自律神経を刺激する「チクチク療法」、いや「自律神経免疫療法」が誕生した。

 つけ加えておくと、私は長年、持ちなれたメスを捨てることにも、それまで最低でも週に2~3回はこもっていた手術室に足を向けないことにも、いささかのためらいも感じなかった。方法論なんぞ関係ない。患者がよくなればそれでいいのだ。

 そしてセルフ療法として編み出されたのが「爪もみ」である。やり方は簡単だ。


 爪の生え際の両際(2mm離れたあたり)を、反対側の親指と人差し指の爪で挟む。あるいは爪楊枝などで押す。10秒間を2~3回繰り返す。薬指は行わない。たったこれだけだ。足の指も同様に行う。

 私は耳鳴りが酷いので直ちに行った。まだ効果は現れないが気長に構えている。風呂上がりや寝る前に行うのがよい。

2021-11-30

からだの語源は死体/『日本人の身体』安田登


『悲鳴をあげる身体』鷲田清一
『増補 日本美術を見る眼 東と西の出会い』高階秀爾
『身体感覚で『論語』を読みなおす。 古代中国の文字から』安田登

 ・からだの語源は死体

必読書リスト その四

 古い日本語の「からだ」というのは死体という意味でした。生きている身体は「み(身)」と呼ばれ、それは心と魂と一体のものでした。生きている身体が「からだ」と呼ばれるようになったことで、からだは自分自身から離れて対象化されるようになります。そうすると、自分自身との一体感が薄れるので、専門家である他人の手に委ねても平気なようになるのです。
 それだけではありません。「からだ」の語源である「殻」のように、自分の周囲に強固な境界を設け、他人との壁を設けるようになります。
 このような壁が強いと、能をはじめとする古典芸能のほとんどは演じることができません。古典芸能は、楽譜も曖昧なものだし、指揮者もいない。お互いの呼吸で合わせていきます。しかも、その場その場で。

【『日本人の身体』安田登〈やすだ・のぼる〉(ちくま新書、2014年)以下同】

 日本人が心身二元論になったのは近代以降であるとの指摘だ。ただし仏教では色心(しきしん)二法が説かれていた。色法(しきほう)が物質で心法(しんぽう)が性質である。続いて西洋と日本の体に対する見方の違いが示される。

「裸であることを知る」というのは、ちょっと違和感のある言葉使いです。しかし、この「知る」という言葉が大事です。
「知る(ヘブライ語略)」という行為は、『聖書』の中では神のわざです。「知る」が動詞として使われるのは「神のように善悪を知る」というような使われ方が『聖書』での初出です。
「知る」というのは、ただ単に何かを知ることではなく、善と悪とを知ることであり、これは本来、神だけに許された「神のみのみわざ」でした。アダムとイブの罪の第一は、「知る」という神の行為を手に入れてしまったことだったのです。

 つまり、「上(天)から見ているから知る」ということなのだろう。抽象度が高いのだ。

 聖書で裸をあらわす「マアル:ヘブライ語略」は、アッカド語や、それ以前のシュメール語では「男性性器」を表す言葉です。善悪を「知る」が、やがて性的な行為をも意味するようになったと書きましたが、ヘブライ語の裸にはもともと性器の意味があり、自然に性行為を思い起こさせる言葉だったのでしょう。
 それに対して、日本語の「はだか」は「はだ」+「あか」です。「あか」は赤でもあり「明」でもあります。公明正大なこころを「あかき清きこころ」というように、「あか」には「明るさ」や「清浄さ」のイメージがあります。日本語の「はだか」は、そのように明るく、清浄な、おおらかなイメージをもった言葉なのです。

 温暖湿潤気候の影響が大きい。欧米が家の中でも靴を履いているのは寒さが厳しいためだ。明治以前は裸を見られても羞恥心が湧くこともなかったと書かれている。1970年代に突然始まったストリーキングもキリスト教世界の方がはるかに大きい衝撃があったに違いない。

 身(み)は「実」と同源の言葉で、中身のつまった身体をいいます。その中身とは命や魂ですが、「身」という言葉しかなかった時代には「魂」という言葉もありませんでした。
「身」とは身体と魂、体と心が未分化の時代の統一体としての身体をいいます。
 ちなみに後の時代になって生まれてくる「からだ」という言葉は、もぬけの殻や、空っぽの「から」が語源ではないかといわれていますが、魂の抜けた殻としての「死体」という意味が最初でした。そして「からだ」という語がない時代には「魂」という言葉もなく、『古事記』の中に「たま」という語は出てきますが、そのほとんどが勾玉をあらわす「たま」です。
 ところが「西洋」の古典を読むと、神話ができた頃には、すでに心身は分離していたようです。
 紀元前8世紀半ばごろの作品といわれるホメーロスの『イーリアス』には次のような文章があります。

 怒りを歌え、女神よ……あまたの勇姿らの猛き魂を冥府(アイデス)の王に投げ与え、その亡骸(なきがら)を群がる野犬野鳥の啖(くら)うにまかせたかの呪うべき怒りを。
(『イーリアス』岩波文庫 呉茂一訳)

 勇士の「魂」は冥府の王のもとに行くのですが、その「亡骸」は地上にあって野犬野鳥に食われると歌われます。こんな古い叙事詩で、すでに「魂」と身体である「亡骸」が分離しています。

 二元論がグノーシス主義よりも古かったとは恐れ入谷の鬼子母神である。

 しかし、明治以降に西洋文化が大量に入ってくるようになると、心身二元論が優勢になり、「身」は「からだ」と「こころ」に別(ママ)れてしまい、身体は「からだ」に属するようになります。
「身」が「からだ(殻=死体)」に取って代わられるようになると、身体をモノとして扱うようになります。身体の客体化です。
 そして「からだを鍛える」というような、突拍子もない考えが生まれます。
「鍛える」というのは、「きた(段)」を何度も作る、すなわち金属を鍛錬するために何度も打つというのが本来の意味で、身体をそのように扱うのは「からだ」を自分自身から離したとき、すなわち外在化・客体化してはじめて可能になります。自分自身と身体が一体だったときには、そのようなことは思いもよらなかったでしょう。
 体を鍛えるためのエクササイズなどは、少なくとも江戸時代にはなく、夏目漱石は『吾輩は猫である』の中で当時はやりつつあった「運動(エクササイズ)」を猫にさせて笑っています。(以下引用文略)

 確かに。武術の世界で行われていたのは稽古だ。筋トレやストレッチのような部分に注目するエクササイズは見られない。

 能楽師の見識恐るべし。書評を書きながら検索まみれとなり、挙げ句の果てには読むべき本を63冊追加した。心身二元論は病によって更に引き裂かれる。病は心にまで及び、精神疾患は深層心理学や脳科学によって多種多様な症状に名称を与えられ百花繚乱の感を呈している。近代化は人間をアトム化したが、コンピュータ時代は精神をも分断し解体する。

 体は不調や衰えによって意識される。私が危機感を抱いたのは生まれて始めて肩凝りになった時だ。48歳だった。すぐさま対処法を調べ、1週間で治した。それが体を見つめるきっかけとなった。ウォーキング、ランニング、バドミントン、ロードバイク、ストレッチ、筋トレ、懸垂、ケトルベル、胴体トレーニング、血管マッサージを行ってきた。最終段階に見据えているのは呼吸法~瞑想だ。

 尚、文章に「という」「ように」「なる」が頻発していて折角の内容がくすんでしまっている。ご本人の癖もあるのだろうが筑摩書房編集部の無能が露呈している。

2021-11-25

正しい歩き方=疲れない歩き方/『調子いい!がずっとつづく カラダの使い方』仲野孝明


『新正体法入門 一瞬でゆがみが取れる矯正の方程式』橋本馨

 ・正しい歩き方=疲れない歩き方

『寝たきり老人になりたくないなら大腰筋を鍛えなさい』久野譜也
『生体の歪みを正す 橋本敬三・論想集』橋本敬三
『誰にでもわかる操体法』稲田稔、加藤平八郎、舘秀典、細川雅美、渡邉勝久

身体革命
必読書リスト その一

 つまり、
 無意識に立っているから、【立っていると疲れる】
 無意識に座っているから、【座っていると疲れる】
 無意識に歩いているから、【歩くだけで疲れる】
 というわけです。

 いい換えると「本来の力を発揮できていない」「体を使いこなせていない」。こんな状態で、運動したり食事に気をつかったりしても……。ん~。残念ながら効果は薄くなってしまいます。最悪の場合、せっかく運動を始めたのになんだか体が痛いなんていうことも。よかれと思ってしたことが、逆効果になる可能性もあります。

【『調子いい!がずっとつづく カラダの使い方』仲野孝明〈なかのたかあき〉(サンクチュアリ出版、2019年)以下同】

 簡単なことほど難しい。常歩(なみあし)を実践して思い知らされた。運動神経に自信があるだけに頭を抱え込んだ。結局、納得のゆく動きができるまでに3ヶ月ほどを要した。一旦、意識を確立するとそれからは少しずつ無意識で正しい動きが可能となる。

 大事なのは重い頭をどう支えるかである。骨盤と肩甲骨が要となる。よく助言するのだが、「骨盤を立てる。肩を上げてからストンと落とす。で、そのまま胸を上げる」とよい姿勢になる。


 実に巧みな説明である。「耳の後ろを引き上げる」のは背骨を伸ばす=S字弯曲(わんきょく)の保持であり、「みぞおちから脚を動かす」のは骨盤を動かすことだ。取っ掛かりの意識革命としてはわかりやすい。

 体の使い方がわかってきてから読み直せば、更に理解が深まることだろう。意識するとは、少し離れて自分を見つめることである。これすなわち瞑想である。