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2022-02-17

不適切な文章や語彙/『玩具修理者』小林泰三


 わたしは、わたしたちの声が聞こえない距離までウエートレスが離れるのをまってから、話を再開した。

【『玩具修理者』小林泰三〈こばやし・やすみ〉(角川書店、1996年/角川ホラー文庫、1999年)】

 広く知られた作品だが、最初のページでつまづいた。デビュー作とはいえ、これはないだろう。「わたしたちの声が聞こえない距離までウエートレスが離れるのをまってから、わたしは話を再開した」とするべきだ。あるいは「わたしたちの声が聞こえない距離まで」は不要だ。

 不適切な文章や語彙は思考の線を乱す。このテキストを私は三度読み返した。実際の会話で三度聞き直すとしたらどうだろうか? 私なら「お前の話は通訳しないと理解できない」と直言する。受け手の理解を想像するところにコミュニケーションは生まれる。

 三度も読み返すテキストに付き合うほどの時間的な余裕が私にはない。

2020-04-06

武漢ウイルス予言の書か?/『闇の眼』ディーン・R・クーンツ


・『ミッドナイト』ディーン・R・クーンツ

 ・武漢ウイルス予言の書か?

ビル・ゲイツと新型コロナウイルス

「僕はね、個人のほうが組織よりも責任を持って道徳的に行動するって信じているんだ」

【『闇の眼』ディーン・R・クーンツ:松本みどり訳(光文社文庫、1990年/原書、1981年)以下同】

「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」(ジョン・アクトン卿)。その権力を与えるのが組織だとすれば「組織は腐敗する、絶対的組織は絶対に腐敗する」と言い換えることができそうだ。組織は不祥事を隠蔽する(『ザ・レポート』スコット・Z・バーンズ監督・脚本・製作)。組織力が強大になればなるほどその傾向は顕著になる。大企業・省庁・マンモス教団・軍隊など。たぶん上層部の報酬と関連性があるのだろう。

「この病気には免疫ってものがありません。敗血症喉頭炎とかありふれた風邪とか――がんのように。運がよければ――それとも、不幸にしてか――一回撃退すると、何度でもかかります」

「ちょうどそのころ、イリヤ・ポパロボフというソ連の科学者が合衆国に亡命してきたんです。この10年間ソ連で一番重要で危険な細菌兵器のマイクロフィルムのファイルを持って。ロシア人はこれを“ゴーリキー400”と呼んでいます。開発されたところがゴーリキー市の近郊のRDNAの実験室だったものですから。これはその研究所で作られた400番めの人口微生物の生存種なのです。ゴーリキー400は完璧な兵器です。感染するのは人間だけ、他の生物はキャリアーにはなれません。梅毒と同じでゴーリキー400も人体の外では1分以上生存できません。ということは、炭疽熱や他の有毒なバクテリアのように物や場所を永久に汚染することはできないのです。保菌者が死ぬと、体内にいるゴーリキー400も体温が30度以下になるやすぐに消滅してしまいます。こういう兵器の利点はおわかりでしょう?」

 元々は「ゴーリキー400」と記されていたのだが後に「武漢-400」と書き換えられたらしい。

40年前のアメリカの小説『闇の眼』に出てきた史上最強の創造上の生物兵器は中国武漢の研究室で作られた。その兵器の名前は「武漢 - 400」 - In Deep
武漢ウイルスを予測した小説の変更は考えていたのと《逆》だという衝撃の事実を知る。そして現在流行しているウイルスの漏洩源が武漢疾病予防センターである可能性を中国の科学者が発表(その後行方不明に) - In Deep


 秘密の研究所で指揮を執っていたのが「タマグチ博士」だった。登場しないのだが、いかにも日本人を想わせる名前である。

 果たして本書は武漢ウイルス予言の書なのだろうか? 違うね。本書をシナリオに採用したということなのだろう。中国政府は突然、「アメリカがウイルスを持ち込んだ」と言い出した。いかにも中国らしい横紙破りだ。私自身、そう思っていた。だが偽りの中に真実が隠されている。昨年の10月18日に武漢で第7回世界軍人運動会(ミリタリーワールドゲームズ)が行われているのだ。このタイミングでウイルスを仕込んだとすればタイミングはぴったり合う。

 我々は何が真実かわからない世界で生きている。多くの情報が真実を覆い隠し、目を逸(そ)らさせ、テレビ画面以外を見えなくする。

 最後に校正を。「機を見てせざるは勇気なり」(314ページ)は「義を見てせざるは勇無きなり」(『論語』)の誤植だろう。クーンツ作品を読んだのは『ミッドナイト』以来のことだが、そこそこ面白かった。