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2020-03-08

量子もつれ/『宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか』ルイーザ・ギルダー


『「量子論」を楽しむ本 ミクロの世界から宇宙まで最先端物理学が図解でわかる!』佐藤勝彦監修
『黒体と量子猫』ジェニファー・ウーレット
『量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』マンジット・クマール

 ・量子もつれ

『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー
『すごい物理学講義』カルロ・ロヴェッリ

必読書リスト その三

 二つの実体が互いに作用すると、必ず「もつれ」が生じる。光子(光の小さな破片)や原子(物質の小さな破片)であっても、原子からなるもっと大きな塵埃(じんあい)や顕微鏡、あるいはネコやヒトのような命あるものであっても同様だ。のちに別の何かと相互作用しないかぎり――ネコやヒトにはそれができないためにその影響に気づかないが――どれほど互いに遠く離れていても、もつれは持続する。
 このもつれこそが、原子を構成する粒子の動きを支配している。まず、互いに作用しあうと、粒子は単独としての存在を失う。どれほど遠く離れていても、片方に力が加えられ、測定され、観測されると、もう片方は即座に反応するらしい。両者の間に地球がすっぽり入るほどの距離があったとしても、だ。だが、そのしくみは未解明だ。

【『宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか』ルイーザ・ギルダー:山田克哉監訳、窪田恭子〈くぼた・きょうこ〉訳(ブルーバックス、2016年)】

 量子には粒子と波動という二つの顔がある。この不思議を思えば幽霊や宇宙人など物の数ではない。初めて二重スリット実験を知った時、頭がこんがらがって理解する気も失せた。


 そしてもっと不思議なのが量子もつれである。例えば強い相互関係にある二つの電子があったとしよう。一つの電子は上向きスピンと下向きスピンの状態を重ね持つことができる。そして観測によって電子Aが上向きスピンであれば電子Bは下向きスピンとなる。この関係は電子AとBが宇宙の両端に存在しても変わることがない。

 もう一度説明しよう。電子は上向きスピンと下向きスピンの状態を併せ持つが観測することで方向性が確定する。片方の電子の向きがわかった瞬間にもう片方の向きが決まるのだ。何光年も離れた二つの電子がもつれているとすれば、光速を超えたスピードで情報がやり取りされていることになる。もしそうだとするなら特殊相対性理論に反する。というわけでアインシュタイン=ポドルスキー=ローゼンのパラドックスが発表された。アインシュタインは量子力学の父であったが星一徹のような厳父であった。しかも死ぬまで子供を認めようとしなかった。

「この宇宙における現象が、離れた場所にあっても相互に絡み合い、影響し合っているという性質のこと」(Wikipedia)を非局所性という。量子もつれが痴情のもつれよりも強力なのは確かだがはっきりしたことは判明していない。個人的には「つながっている」のだろうと睨(にら)んでいる。もう一つは観測が及ぼす影響である。量子もつれは実験によって証明されているが、何光年も離れた状態の量子を同時に観測することは不可能だ。厳密に言えば観測は可能だとしても連絡を取るのに時間がかかる。同時性を証明することができない。

 相対性理論は速度と時間の概念を引っくり返したが、量子もつれは局所性を軽々と超える。実際の電子は原子核の周囲を惑星のように回っているわけではなく、雲のような状態で存在し確率として捉えられる。

2019-04-25

ジョン・ホイーラーが示したビッグクエスチョン/『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー


『インフォメーション 情報技術の人類史』ジェイムズ・グリック
『量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』マンジット・クマール
『宇宙は「もつれ」でできている 「量子論最大の難問」はどう解き明かされたか』ルイーザ・ギルダー

 ・ジョン・ホイーラーが示したビッグクエスチョン

『すごい物理学講義』カルロ・ロヴェッリ
『宇宙を復号(デコード)する 量子情報理論が解読する、宇宙という驚くべき暗号』チャールズ・サイフェ
『宇宙をプログラムする宇宙 いかにして「計算する宇宙」は複雑な世界を創ったか?』セス・ロイド
『宇宙が始まる前には何があったのか?』ローレンス・クラウス

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 指導者としてのウィーラーは、言葉の持つ魔力を知り抜いていた。一例を挙げると、物理学会が星の崩壊という現象に真剣に目を向けるよう、彼は「ブラックホール」という言葉をこしらえ、この企ては予想を超えた成功を収めた。しかし、晩年になって名声が高まり、評論や講演がより幅広い人々を対象としたものになるにつれて、ウィーラーは、量子力学の解釈や宇宙の起源といった、物理学と哲学が衝突する深遠な問題に的を絞りはじめた。自分の考えを人々の記憶に残る取っつきやすい言葉で表現するために、彼は「ビッグ・クエスチョン」と呼ぶ神託めいた独特な言い回しを作り出した。その中で最も重要な「真のビッグ・クエスチョン」が、この生誕90周年記念シンポジウムにおける議題選定のきっかけとなった。講演者は一人ひとり、これらの謎めいた金言からどんな閃(ひらめ)きをエたのかを、直々(じきじき)に証言したのである。
 ウィーラーの「真のビッグ・クエスチョン」は、まさに抽象的な性質のものであり、また車のバンパーに貼るステッカーに記せるほど簡潔なものだが、運転中にそれに思いを巡らせるのはお勧めできない。その中の五つは、特に際だっている。

いかにして存在したか?
なぜ量子か?
参加型の宇宙か?
何が意味を与えたか?
ITはBITからなるか?

【『量子が変える情報の宇宙』ハンス・クリスチャン・フォン=バイヤー:水谷淳〈みずたに・じゅん〉訳(日経BP社、2006年)】

「ウィーラー」がジョン・ホイーラー(1911-2008年)のことだと気づくのに少し時間がかかった。名前くらいは統一表記にしてもらいたいものだ。昨今の潮流としては原音に近い表記をするようになっているが、もともと日本語表記のセンスはそれほど悪くない。「YEAH」も現在は「イェー」だが、1960年代は「ヤァ」と書いた。ホイーラーはブラックホールの名付け親として広く知られる。

 ぎりぎりまで圧縮されたビッグクエスチョンは哲学的な表現となって激しく脳を揺さぶる。さしずめブッダであれば無記で応じたことだろうが、凡夫の知はとどまるところを知らない。わかったからどうだということではなく、わからずにはいられないのだ。

 存在と認識を突き詰めたところに意識と情報が浮かび上がってくる。参加型の宇宙とは人間原理のこと。人間の意識が宇宙の存在に関与しているという考え方だ。

 人類の進化はまだ途中だろう。ポスト・ヒューマンがレイ・カーツワイルが指摘するような形になるか、あるいは新たな群れ構造が誕生するに違いない。技術の発達を人類の情報共有という点から見れば、我々は知の共有は既に成し遂げたと考えてよい。月から撮影された地球の写真が人々の脳を一変させた事実はそれほど遠い昔のことではない。

 情のレベルは国家や民族という枠組みがあるもののまだまだ一つになっているとは言い難い。祭りと宗教にその鍵があると思われるが、現代社会では音楽や映画の方が大きな影響を及ぼしている。近未来の可能性としてはバイブルを超えるバイブルの誕生もあり得るだろう。人類が戦争を好んでやまないのは群れとしての一体感を感じるためだ。

 種としてのヒトが完全な群れと進化した時、新たな「群れの意識」が創生されることだろう。知情意は共有され、合理的な行動が近未来に向って走り出す。宇宙に向けて偉大な一歩が踏み出されるのはその時だ。