2018-04-21

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マガジンハウス (2013-07-11)

2018-04-19

化儀/『儀礼 タブー・呪術・聖なるもの』ジャン・カズヌーヴ


 ・化儀

『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』ダニエル・L・エヴェレット
『宗教を生みだす本能 進化論からみたヒトと信仰』ニコラス・ウェイド

 しかし、このような結論へと急ぐことはやめなくてはならない。なぜなら、個別的な儀礼は、一定の場所にしか見出されないが、儀礼という一般的事実は、普遍的に存在するからである。むしろ、民族(ママ)学者の調査領域の中では、儀礼的なものを全く欠いた社会は、変則となろう。われわれにとって不合理に見えるものを、経験は、正常な、いつも存在する現象として示すのです。したがって、信仰を持つ者は、摂理の計画の中で、問題とされている儀礼は、もっと真実な原初的崇拝の堕落としての位置を持ってはいなかったか、あるいは、それらの儀礼は、むしろ、知的に啓蒙される以前に、救済に必要な宗教を求めた、人間のぎごちない努力を示すものではないかと自問することができよう。

【『儀礼 タブー・呪術・聖なるもの』ジャン・カズヌーヴ:宇波彰〈うなみ・あきら〉訳(三一書房、1973年)】

 天台系の仏教用語に「化儀」(けぎ)というものがある。仏が説いた方を化法(けほう)といい、説く方式を化儀と名づける。つまり形式・儀式を指すわけだが実際は「社会の中に展開する様相」を意味する。ずっと心に引っ掛かっていた言葉で集中的に調べた時期がある。

 人が集えば社会となる。社会には一定の形式が必要だ。例えば挨拶。礼儀、儀礼といってもよい。スタイルも様々で日本だとお辞儀、西洋だと握手。相手に対して「敵ではない」ことを意思表示しなくてはならない。ジャン・カズヌーヴは偉そうに御託を並べているが、私はもっと単純な本質があると考えている。形式とはスポーツや楽器演奏などのルールみたいなものだろう。

 スポーツや芸術から得られる喜びは決して合理性で割り切れるものではない。「なぜ歌うのか?」と問われれば「だって楽しいから」としか答えようがない。この場合、喜ぶことが悟りで歌が化儀となる。

 喜びが失せると化儀は形骸化し単なる儀式に堕落して葬式仏教ができあがる。スポーツや芸術も仕事となれば苦しみの方が多くなる。楽しむことではなく結果を出すことが目的と化すためだ。漁師と釣り人は同じ行為であっても心理状況が異なる。

 化儀をゲーム化と置き換えるところまでは思索が進んだのだが、そこで興味が潰(つい)えてしまった(笑)。

儀礼―タブー・呪術・聖なるもの (1973年)
J.カズヌーヴ
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天才数学者の墓碑銘/『放浪の天才数学者エルデシュ』ポール・ホフマン


 ・天才数学者の墓碑銘

『My Brain is Open 20世紀数学界の異才ポール・エルデシュ放浪記』ブルース・シェクター

 やっと、これ以上愚かにならずにすむ。
          ――ポール・エルデシュが自分のために残した墓碑銘

 ポール・エルデシュは、本当にまれにしか現れない、たいそう特別な天才のひとりだった。にもかかわらず、わたしのようなただの人間といっしょに数学を研究することを、意識的に選んでくれたとわたしは思う。そして、そうしてくれたかれに感謝してやまない。かれが朝の4時にわが家の玄関先をうるとき、わたしのベッドへやって来て、「きみの頭は営業中かね」と尋ねることがなくなって残念だ。問題や予想だけでなく、およそあらゆる話題に関しても刺激的な会話が失われてしまったことが残念だ。しかしなによりも、人間としてのポールがいなくなってしまった、そのことが寂しい。わたしは心からかれを愛していた。
          ――トム・トロッター

【『放浪の天才数学者エルデシュ』ポール・ホフマン:平石律子訳(草思社、2000年/草思社文庫、2011年)】

 天才は風変わりだ。常識に縛られた我々の瞳にはそう映る。日本人の多くはエルデシュの生き方に惹かれることだろう。放浪よりも漂泊が相応しい。多くの数学者と共同論文を発表した姿が、どこか松尾芭蕉や小林一茶と重なる。

 それにしてもエルデシュの墓碑銘は皮肉が効いていて含蓄深い。凡人は努力することで能力が少しずつ増してゆくと考えがちだが、天才たちの能力に対する自覚はスーパーカーのメンテンナンスを思わせる。彼らは自分の最大出力を見極めた上で、余計な情報や加齢によって衰えてゆくことに歯止めをかけるよう心掛けているのだろう。とすると人の能力が変わることはない。残念ながら。振れ幅があるのは23歳くらいまでか。

「なんだってSFはわしに風邪をひかせるとこにしたんだ。理解できん」(SFは至上〈スプリーム〉のファシスト、天上にいるナンバーワンのやつ……エルデシュのメガネを隠したり、ハンガリーのパスポートを盗んだり、もっと悪いことに、ありとあらゆる興味深い数学の問題の明解な証明をひとり占めしていて、エルデシュをいつも苦しめる神のことだ)。
「SFは、わしらが苦しむのを見て楽しむために、わしらを創りたもうた。早世すれば、それだけ早くかれの計画を阻むことになる」とエルデシュは言ったものだった。

 神をも恐れぬ火星人は口癖のように悪態をつく。あからさまにキリスト教を批判するよりも洒落っ気があって楽しい。たとえクリスチャンであってもニヤリとしてしまうことだろう。

文庫 放浪の天才数学者エルデシュ (草思社文庫)
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2018-04-18

オラショ/『黄金旅風』飯嶋和一


『青い空』海老沢泰久

 ・オラショ

・『出星前夜』飯嶋和一
・『狗賓童子(ぐひんどうじ)の島』飯嶋和一

「ところがそれは、般若心経(はんにゃしんぎょう)ほどのもので、ほんの一部にすぎないもののようでございます。天主教の経典は大層長い、何十巻にも及ぶもののはずでございまして、それぞれの一部ずつを大勢の者たちが、諳んじて後の世に伝えようとしたもののようでございます。私が覚えさせられましたのは、『タダの十二』と聞いております。そして、私が諳んじておりますその部の前後を覚えております者の名を教えられました」
「それが、富松なのか?」
「はい、そのとおりでございます。富松が『タダの十一』。私が『十二』。そして、その後、『タダの十三』は市助、『十四』が吉兵衛でございます。『十五』は、吉兵衛の話ですと新町に住む女だそうで、『十』も確か女だと、富松が行っておりました。もちろん、その前後の者たちとは、一切の関わりを持ってはならないと、親からもきつく言い含められておりました。が、5年ばかり前に私は、どうしてもその前後を諳んじている者に会ってみたいと思うようになりました」(中略)
 文字として書き残されたものが許されないのならば、記憶しておくしかない。経典を細かく章に分けて、それぞれを覚えの早い子どもに記憶させ語り伝えさせる。何十章にも及ぶ天主教の経典を、長崎の内町、外町を問わず何百人もの人々が、頭の中に刻み込み、それを後世に伝えようと大切にかかえている。

【『黄金旅風』飯嶋和一〈いいじま・かずいち〉(小学館、2004年/小学館文庫、2008年)】

 本書以前の飯島作品については、『汝ふたたび故郷へ帰れず』のリンクを参照のこと。

 本当にこのようなことがあったのかと、かなり時間を掛けて調べた。どうやら「オラショ」というらしい。動画も見つけた。



 長い歳月を経て形骸(けいがい)だけが辛うじて残ったのか。意味不明な呪文にしか聞こえない。それでも尚、「伝わった」事実が重い。伝えようとした意志の痕跡であることは確かだろう。

 本書以降、飯嶋和一はキリスト教を物語の主要な要素として扱っているが、初期作品のような輝きが鈍くなったように感じる。虐げられた人々が存在するのは「悪い社会」である。つまりキリスト教を光として描けば日本社会は闇とならざるを得ない。私がすっきりしないのは東京裁判史観の臭いを嗅ぎ取ってしまうためだ。善の設定が弱者に傾きすぎていて、権力=悪という単純な左翼的構図が透けて見える。

 それでも今のところ「飯嶋和一にハズレなし」である。

黄金旅風 (小学館文庫)
飯嶋 和一
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2018-04-16

【経済討論】財務省主導の経済でいいのか?日本


日本の財政再建は「統合政府」で見ればもう達成されている:高橋洋一

当局の片棒を担いで赤化教員の転向を推進した創価学会/『創価学会秘史』高橋篤史


 まったく感心できないことだが、創価学会は過去の歴史を正しく伝えていない。それは対外的な宣伝だけでなく組織内の学会員各層に向けたものでも同じである。とりわけ1950年代までの歴史に関しては、むしろ隠したがっているようにすら見える。
 創価学会の歴史を知る最も有力な手掛かりは、その当時の機関紙誌を調べることである。創価学会の主な機関紙誌類としては古いものから順に『新教』(のちに『教育改造』と改題)、『価値創造』の戦前版、『大善生活実証録』、『価値創造』の戦後版、『大百蓮華』、そして現在誰もが知るところの『聖教新聞』の六つが挙げられる。(中略)
 では、東京・八王子にある創価大学や創価女子短期大学はどうか。信じがたいことに、1951年4月創刊の『聖教新聞』のうち、付(ママ)属図書館が所蔵・公開しているものは1980年1月以降の分だけである。丸々30年分が所蔵すらされていないのだ。
 さらに首をひねりたくなるのは1949年7月創刊の『大百蓮華』である。創刊号からほとんどを所蔵しているものの、公開しているのは1971年1月以降の分だけなのだ。つまり創価大学の学生・教職員でもそれ以前のもの、丸々20年分は、原則、見ることができないのである。

【『創価学会秘史』高橋篤史(講談社、2018年)】

 秀逸なノンフィクションである。しかも創価学会が発行する昭和期前半の機関紙・誌という第一次資料にこだわっており、学術論文に引用できるレベルの高さとなっている。更に感情の暗い翳(かげ)が微塵もなく公正さに心を砕いた跡が窺える。『小説 人間革命』と『若き日の日記』を資料として採用していないのはさすがである(『小説 聖教新聞 内部告発実録ノベル』グループS)。

 本書の目的は創価学会の歴史修正主義を指摘するところにあり、単なる教団批判に陥っていない。誰しも好き嫌いという感情から自由になることは難しいが、公正な視点に立とうと努めるところに理性の本領がある。これをもう一歩進めるとメタ認知となる。

「この歴史修正主義が否定的な意味で使われているのは、それこそ歴史的な経緯があるのです。その大きな理由は、ナチス・ドイツによるホロコースト(大虐殺)の否定論者が自分たちのことを『歴史修正主義者』としたからです」(真屋キヨシ)。徹底したプロパガンダでホロコーストを神話にまで高めたユダヤ人(『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』ノーマン・G・フィンケルスタイン)がこれを許すはずもない。

 昨今、日本の近代史を見直すムーブメントを歴史修正主義と非難する左巻きが多いが、新たに判明した事実を基(もと)に行うのは「歴史の修正」であり、「主義」や「主義者」とは無縁である。尚、歴史修正主義の意味についてはWikipediaよりもニコニコ大百科の方が優れている。

 創価学会の歴史修正主義は正当を問う西洋的な性質ではなく、第3代会長の正統を巡るアジア文化を踏襲している。ところが高橋はもっと初期の段階から、現在創価学会が唱える平和主義と異なる歩みがあったことを資料によって明かす。

 牧口の論文のなかで特に興味をそそられるのは、長野行きにあたりあらかじめ内務省から長野の警察部に電話をかけてもらっていたという記述だ。牧口の論文タイトルがまさにそうであるように、このことは当時、国がとっていた転向政策と創価教育学会が乗り出した折伏による会員拡大とが軌を一にしており、そのため連絡を密にしていたことを意味する。当局からすれば左翼思想にかぶれた本来優秀な元教員たちを転向させてくれる団体は好ましい存在であり、牧口らからすれば弾圧で心に傷を負ったそうした元教員たちは折伏するのに格好の相手だった。

 当局の片棒を担いで赤化教員の転向を推進した創価学会の歴史は、教団の汚点というよりは黒歴史そのものといってよい。公明党が政権与党入りしたのもむべなるかな。

 ここから底の浅い批判を加えることは避けたい。当時の牧口常三郎(1871-1944年)の立場を思えば、戦争になることも敗戦することも知らないのだから。

 それにしても近現代史におけるマルクス主義の影響は計り知れない。人は【概念の中で生きる】動物である。概念というソフトを上書きしたり、インストールし直したりすることをやめることはできない。

創価学会秘史
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高橋 篤史
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2018-04-14

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石田英一郎対談集―文化とヒューマニズム (1970年) (筑摩叢書)
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アリガト謝謝
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汝、ふたつの故国に殉ず ―台湾で「英雄」となったある日本人の物語―
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2018-04-11

恐るべき未来予測/『月曜閑談』サント=ブーヴ


 ・ラ・ロシュフコーの素描
 ・恐るべき未来予測

 現代においては、例えば偉大な発見であるとか、偉大な事業というような大きな事がおこなわれることがある。しかしこれは、われわれの時代に偉大さを加えることにはならない。偉大というものは、特にその出発点や、その動機や、その意図のうちに存在するのだ。89年[1789年、フランス革命の始まった年]には、人は祖国のため、人類のためにすべてのことをやった。帝政時代[ナポレオンの第一帝政]には、光栄のためにすべてのことをやった。つまりその点にこそ、偉大の源があったのだ。現代では、結果が偉大に見える時でさえも、それは利害の観点から作られただけのものである。そしてそれは投機に結びついている。そこに現代の特質がある。

【『月曜閑談』サント=ブーヴ:土居寛之訳(冨山房百科文庫、1978年)】

 サント=ブーヴの主著である『月曜閑談』(全15巻)が書かれたのは1851~62年のことで、続篇(全13巻)は1863~70年に及んだ。フランス革命(1789-1799年)から半世紀後だから、現代の日本人で言えば2001年に大東亜戦争を振り返るような歴史感覚だろう。貴族に対する反抗が全市民を巻き込んで国民国家の成立にこぎつけたわけだが、ひとたび国家ができるや否や、ゲームが戦争から経済に変わる様相を鮮やかに描いている。ピーター・F・ドラッカーですらこれほど長期的な未来予測はできまい。

 結局のところ大航海時代(15世紀半ば-17世紀半ば)に獲得した植民地から生まれる富が革命を後押ししたのだろう。ま、大雑把に言ってしまえば十字軍(1096-1272年)-大航海時代-国民国家の誕生-帝国主義-世界大戦-有色人種国家成立となろうか。

 ヨーロッパ世界の千年紀を「キリスト教の世俗化」と要約することもできる。それゆえちょうど真ん中の1517年にルターの宗教改革が起こっている。腐敗した伝統と清らかな過激主義がぶつかり合う中で魔女狩りが行われた。不思議なことにルターを筆頭とする新教の方が魔女狩りに情熱を燃やした。清らかさは諸刃の剣(つるぎ)だ。真剣さを伴って残虐なまでに正義を実現しようとする。新しい時代は常に大勢の犠牲者を必要とするのか。

「資本主義経済の最初の担い手は投機家だった。資本主義制度における最初にして最大の投機対象は株式会社そのものである」(『投機学入門 市場経済の「偶然」と「必然」を計算する』山崎和邦)。世界の果てを目指す船に個人として投資をするのはリスクが高すぎる。そこで投機家たちは共同出資をした。これが株式会社の原型である。

「フランス革命のスローガンである『自由・平等・博愛』は革命前からある言葉で、もとはフリーメーソンのスローガンにほかなりません」(『エンデの遺言 「根源からお金を問うこと」』河邑厚徳〈かわむら・あつのり〉、グループ現代)。「博愛(友愛)」の本当の意味は「同志愛」だ(『この国はいつから米中の奴隷国家になったのか』菅沼光弘)。ユダヤ資本がバックアップしたフランス革命によってそれまでヨーロッパ中で虐げられてきたユダヤ人が初めて「国民」と認められた。

 ロスチャイルド家はワーテルローの戦い(1815年)で盤石な資産を築いた(『ロスチャイルド、通貨強奪の歴史とそのシナリオ 影の支配者たちがアジアを狙う』宋鴻兵〈ソン・ホンビン〉)。更には若きビスマルクを支援し(『通貨戦争 影の支配者たちは世界統一通貨をめざす』宋鴻兵〈ソン・ホンビン〉)、極東日本の明治維新にまで投資をしている(『洗脳支配 日本人に富を貢がせるマインドコントロールのすべて』苫米地英人)。

 21世紀に入ると企業が国家を超える規模となり、法律をもあっさりと飛び越え、租税すら回避し始めた(『タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』ニコラス・シャクソン)。フランス革命はアンシャン・レジームを引っ繰り返したが、投機による富の集中はかえって強固なものとなった。

 レジームといえば、かつて安倍首相は戦後レジームからの脱却が必要であり、そのために憲法を改正すべきだと主張した(『美しい国へ』文春新書、2006年/改訂版『新しい国へ 美しい国へ 完全版』文春新書、2013年)。果たして今我々に「光栄」を目指す意欲があるだろうか? 並々ならぬ憂国の心情があるだろうか? それとも黒船の次は中国からの赤船を待つのだろうか?

月曜閑談 (冨山房百科文庫 15)
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2018-04-07

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容疑者〈上〉 (集英社文庫)
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グレイヴディッガー (講談社文庫)
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図解NPO法人の設立と運営のしかた
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2018-04-06

誰も信じられない世界で人を信じることは可能なのか?/『狂気のモザイク』ロバート・ラドラム


『暗殺者』ロバート・ラドラム

 ・誰も信じられない世界で人を信じることは可能なのか?

『メービウスの環』ロバート・ラドラム

必読書リスト その一

 強烈な光線が闇を切り裂いた。その中に、必死に逃げまどう女の姿が浮かび上がる。次の瞬間、銃声が鳴り響いた――テロリストがテロリストに向けて放った銃弾。1発目が背骨の低部に命中したのだろう。女は大きくのけぞり、金髪が滝のようにはじけて流れ落ちた。つづいて3発、狙撃手(そげきしゅ)の自信のほどを示すように間を置いて発射され、襟首(えりくび)と頭部に命中した。女は泥と砂の小山のほうへ吹っ飛び、その指が地面をかきむしる。血に染まった顔はしかし、地面に突っ伏しているためによく見えない。やがて断末魔の痙攣(けいれん)が女の全身を走り抜け、と同時に、すべての動きが停止した。
 彼の恋人は死んだ。彼は自分がやらねばならないことをやったのだ。ちょうど、彼女が自分のしなければならないことをしたように。彼らはお互いに正しく、お互いに間違っていた。

【『狂気のモザイク』ロバート・ラドラム:山本光伸訳(新潮文庫、1985年)】

「必読書リスト」は折に触れて変更している。コレクションは常に取捨が問われる。精査し厳選することで磨きが掛かるのだ(『子供より古書が大事と思いたい』鹿島茂)。中にはどうしても好きになれない人物もいるが――左翼の三木清や高橋源一郎、親左翼だった松下竜一、誤解した仏教観を西洋世界に広めたショウペンハウエルなど――そこは読み手の判断に委(ゆだ)ねよう。

 ロバート・ラドラムの作品はほぼ全部読んできた。映画「ボーン・シリーズ」の原作『暗殺者』はもちろん傑作なのだが、シリーズ全体となるとやや評価は落ちる。読み物としては本書の方が優れていると判断し「必読書」に入れた。

 エスピオナージュや国際謀略ものは基本的に「不信が渦巻く世界」である。上司が工作員を騙すのも朝飯前だ。そして極秘のスタンプが捺(お)された任務を遂行する中で極秘をいいことに腐敗や行き過ぎが生まれる。世界最大のテロ組織はCIAである。かつて大英帝国がそうだったように覇権国家は必ず他国を侵略する。覇権とは侵略を正当化するキーワードなのだ。

 マイケル・ハブロックは愛するジェンナ・カラスを殺害した。それが任務だった。ジェンナは敵国のソ連と通じていたのだ。裏切り者は敵よりも憎しみの対象となり下される罰は厳しさを増す。ところが全てが嘘だった。

 誰も信じられない世界で人を信じることは可能なのか? そして彼女はまだ死んでいなかった。既に四読しているが多分また読み直すことが何度かあるだろう。

 尚、具体的な経済侵略については『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンスが実体験を綴っている。『アメリカの国家犯罪全書』ウィリアム・ブルムも参考書として挙げておく。

狂気のモザイク (上) (新潮文庫)
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狂気のモザイク (下) (新潮文庫)
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2018-04-05

懲役10年の満期前日に男はなぜ脱獄したのか?/『生か、死か』マイケル・ロボサム


『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー
『初秋』ロバート・B・パーカー
『狂気のモザイク』ロバート・ラドラム
『鷲は舞い降りた』ジャック・ヒギンズ
『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン

 ・懲役10年の満期前日に男はなぜ脱獄したのか?

『ぼくと1ルピーの神様』ヴィカス・スワラップ

必読書リスト その一

「なぜあなたちは親しかったの?」
 興味深い問いであり、モスがいままで本気で考えたことがない問題だ。人はなぜだれかと親しくなるのか。共通の趣味。似た経歴。相性。自分でオーディの場合、どれもあてはまらない。服役中ということ以外に共通点はなかった。特別捜査官は返事を待っている。
「あいつは落ちなかった」
「どういうこと?」
「こういう場所で腐っていくやつもいる。歳を食って根性が曲がり、悪いのは世の中で、こうなったのは子供のころさんざんな目に遭ったからとか、環境に恵まれなかったからとか、そんなふうに自分を納得させる。神を罵(ののし)ったり追い求めたりして時間を過ごすやつもいる。絵を描いたり詩を作ったり古典文学を研究したりってやつもいる。ほかには、バーベルを持ちあげたり、ハンドボールをしたり、自分が人生を投げ出す前に愛してくれた女に手紙を書いたり。オーディはそんなことをひとつもしなかった」
「じゃあ何をしたの?」
「耐えつづけた」

【『生か、死か』マイケル・ロボサム:越前敏弥〈えちぜん・としや〉訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2016年/ハヤカワ文庫、2018年)以下同】

 よもや、これほどのミステリと遭遇するとは予想だにしなかった。やはり長生きはするものだ。10年間服役した男が出所予定日の前日に脱獄をする。その理由は最後まで判らない。

 主人公のオーディ・パーマーは現金輸送車強奪事件の共犯者とされた。700万ドルの行方は杳(よう)として知れなかった。服役囚はパーマーに群がり、脅し、痛めつけた。その上、刺客まで送り込まれた。

 モス・ジェレマイア・ウェブスターは黒人の中年でたった一人の友人だった。モスの話は続く。

「聖書を盾に2000年も屁理屈をこねてると、爆弾を落として人を殺しまくって、それを正しいと言い張るようになる。隣人を愛し、打たれたら別の頬を向けろと書いてあるのに」

 願わくは「2発の原爆」としてもらいたかったところだ。

「ここにいるたいがいの連中は自分が強いと思いこんでるが、そうじゃないことも毎日思い知らされてる。オーディは10年間耐え抜いた。週に一度は看守が房へ来て、赤毛の継子(ままこ)いじめみたいに殴ってあんたと同じようなことをあれこれ尋ねた。そのうえ、昼間はメキシコのマフィアだの、テキサスのシンジケートだの、アーリアン・ブラザーフッドだの、その他もろもろのちんけな与太者(よたもの)までが喧嘩を売ってきた。
 欲や権力と関係のない、特殊な思いをかかえたやつらもここにはいる。たぶん、オーディにはそういう連中がぶち壊したくなるものが具わっているんだろう――悠然(ゆうぜん)たる態度とか、心の平安とか。そういう屑(くず)どもは人を傷つけるだけでなく、むさぼりつくさないと気がすまない。相手の胸を切り開いて心臓を食らい、顔から血がしたたって歯が赤く染まるまでな。
 事情はどうあれ、オーディは入所初日から殺しの請け負いの対象で、1か月前にはそれがいっそう過激になった。刺され、首を絞められ、殴られ、ガラスで切りつけられ、火傷(やけど)を負わされた。それなのに、あいつは憎しみも後悔も弱気も見せなかった」

 オーディは刑務所にあって超然としていた。映画『ショーシャンクの空に』が監獄モノに与えた影響は大きい。周囲の環境に染まらず、流されることのない生き方がどこか出家の覚悟を思わせる。

 オーディにはある目的があった。彼は生き延びなければならなかった。たった一つの約束を守るために。

「溺れかけていたのを、ミゲルが助けてくれた」

 この一言を目にした時、涙が溢れ出た。山本周五郎宮城谷昌光にも通じる世界だ。

「ひとりの人間がこれほどの不運とこれほどの幸運を経験できるものなのね」

 FBI女性捜査官デジレー・ファーネスの言葉が本書の内容を見事に言い当てている。

生か、死か (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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生か、死か 下 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マイケル ロボサム
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2018-04-04

自由の限界/『見て,感じて,考える』竹山道雄


『昭和の精神史』竹山道雄
『竹山道雄と昭和の時代』平川祐弘

 ・自由の限界

・『西洋一神教の世界』竹山道雄:平川祐弘編
・『ビルマの竪琴』竹山道雄

 自由と平和を実現するために、現実の中において、はたして自由と平和が絶対的なもの無制約のものでありうるのだろうか? もしそれに限界があるとすればそれは、どういうところにあるのだろうか?(「門を入らない人々 ――現在の一つの精神的状況について――」)

【『見て,感じて,考える』竹山道雄(創文社、1953年)以下同】

 タイトルについては『見て感じて考える』、『見て・感じて・考える』などがあるが、扉ページのものを採用した(表紙はフランス語)。佐渡出張で二度読んだ。私が生まれる10年前(昭和28年)に刊行された古い本で旧漢字表記だが読み進むと不思議に慣れるものだ。尚、引用箇所は漢字変換が面倒なので新字体に変えた(促音の「っ」は「つ」のママ)。

 私にとって竹山道雄は「近代の穴」を埋める指南役である。時代の激変といっても日々の生活の連続を生きる人々には小さな変化の積み重ねとしか感じ取れない。歴史を鳥瞰すれば数世紀に及ぶ中世が数十年で近代に変貌するわけだが、人の一生において数十年は緩慢な時間となる。まして近代後に生まれた人々が中世を想像することは難しいだろう。新しい時代は古い常識を否定する。つまり人間の集団的意識が一変するわけだ。そこに見落とされるものが生まれる。

「歴史は進歩する」という思い込みが「進歩した歴史は正しい」との単純な答えを導き出す。結局、文明の発達と混同しているだけなのだが、進歩史観の根っこはキリスト教からヘーゲル-マルクスに渡る伝統があって、その深さは我々の想像を超える。進んだ歴史は古い過去をあっさりと否定して、吟味を欠いた精神は軽々と未来に向かって走り出す。

 竹山はそこに「待った」を掛けた。時代は変わっても、人間はそう簡単に変わるものではないと。私は『見て,感じて,考える』と。

 敗戦後の生活は困窮を極めた。竹山とて例外ではなかったことだろう。その中にあって彼は「自由」を模索した。自由の意味を問い、自由のあり方を追求し、自由な精神に生きようと格闘した。

 われわれはいかなる場合においても無抵抗でいることはできない。不寛容に対しては、不寛容でなくてはならない。近代の自由ははげしい闘いによつてようやく獲得された。言論の拘束に対して抗議することは、この不寛容のあらわれである。

 平和が漣(さざなみ)であるのに対して戦争は高波となって人々を押し流す。平和な時に人々は勝手気ままでバラバラだが、一旦戦争に向かい始めると人々は団結し声高な主張を述べ、激しい行動に及ぶ。人間は社会的動物であるゆえ周囲の行動に釣られて動くことが珍しくない。一人が動き出せば赤信号でも横断歩道を渡ってしまうことがある。災害時に避難するしないといった行動も周囲の影響が大きい。

「不寛容」という言葉の背景には旧日本軍の暴走やナチスによるホロコーストがある。

 自由それ自体を守るためにはきびしくなくてはならない。この不寛容は寛容の一属性であり、それを成立させるために不可欠のものである。そして、このためにとられる不寛容の手段は、自由にためには正しいはたらきをする。けだし、自由とは努力してつくりだしてゆくべきものであつて、何の限界もない消極的な受容ではないからである。

 無制限の自由は必ず堕落へと向かい、強権政治を生む温床となる。日本もドイツもその道を歩んだ。竹山の眼は自由の限界をひたと見つめた。深き問いは60年を経た現在にあっても古びることなく、むしろ現代をも照らす光明となっている。

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2018-04-01

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