・『春宵十話』岡潔
・大数学者、野良犬と跳ぶ
・『紫の火花』岡潔
・『春風夏雨』岡潔
・『人間の建設』小林秀雄、岡潔
・『天上の歌 岡潔の生涯』帯金充利
・必読書リスト その四
ちかごろアメリカにジャンポロジーという学問――跳躍学とでもいうのでしょうか――ができて、こういう本が出ている、といって見せてもらいました。これは、ある週刊誌の記者が東京からふたり来て、それを見せてくれたのです。それで、写真にとりたいからとんでくれ、とわたしにいうのです。
なさけないことを頼まれるものだ、犬に頼んでくれないかなあ、と思ったのですが、東京からわざわざ見えたのだから、それじゃとぼうかな、と思って外に出ました。
すると、近所のなじみののら犬がやってきて、いっしょにとんでくれたのです。
【『風蘭』岡潔(講談社現代新書、1964年/角川ソフィア文庫、2016年)以下同】
『天上の歌 岡潔の生涯』(帯金充利著)の表紙にもなっている有名な写真がそれだ。
わたしはこの犬が飼われているという実感のわく家をほしがり、わたしのうちをこんなふうにたよっているのだから飼ってやらないか、といったのですが、犬を飼うといろいろとわたしにはよくわからない弊害がともなうらしく、家内と末娘が反対するのです。だから飼ってやるわけにもいきません。
しかし、なんとかしてやりたいな、と思っていました。おおげさにいうとそれが負担になっていました。
さてわたしがカメラに向かっていやいやとんだところ、その犬も来てとんだのです。それが、すこしおくれてとんだものですから、写真にはまさにとぼうとしているところがうつっています。それがひどくいいのです。
やがてその週刊誌を見た人たちのあいだで評判になりました。つまりいちばんよくとぼうとしているのは犬である、ということになったのです。
こうしてだいぶん有名になったおかげで、近所のうちの一軒で飼ってやろうということになりました。それで、わたしもおおげさいにいえばすっかり重荷をおろすことができ、やはりとんでよかったと思いました。
岡潔はネクタイを嫌い、長靴を愛用した。いずれも身体(しんたい)に関わる影響を顧慮してのことである。文化勲章親授式(1960年、写真)の際もモーニング姿に長靴を履こうとして慌てた家族が説得したというエピソードがある。夏は長靴を冷蔵庫で冷やした。天才は常識に縛られることがない。常軌を逸するところに天才らしい振る舞いがある。
それにしても、と思わざるを得ないのは週刊誌記者やカメラマンの不躾(ぶしつけ)なリクエストである。結果的にはチャーミングな写真となったわけだが、偉大な数学者に対する非礼に嫌悪感が湧いてくる。
それでも岡は「とんでよかった」と言う。私は何にも増して岡の情緒がよく現れている出来事だと感じ入るのである。
風蘭 (角川ソフィア文庫)
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岡 潔
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≪…犬がやってきて、いっしょにとんでくれた…≫から、「数学が見つける近道」マーカス・デュ・ソートイ著 富永星訳 に≪…犬…≫が出てくる。
返信削除【 犬は微分積分学をするのか? ・・・ 動物の脳が、正式な数学言語の力を借りずにこれらの近道を見つけられるように進化してきたというのは、じつに驚くべきことだ。自然は、最適解を出せる者をひいきにする。・・・ 】 から、
数学の基になる自然数を大和言葉の[ ひ・ふ・み・よ・い・む・な・や・こ・と ]からの送りモノとして眺めると「数のヴィジョン」になるとか・・・
[言葉の量化]と[数の言葉の量化]の最適解を求めて・・・