2018-08-04

川内康範の侠気(きょうき)/『篦棒(ベラボー)な人々 戦後サブカルチャー偉人伝』竹熊健太郎


『仮面を剥ぐ 文闘への招待』竹中労
『蓮と法華経 その精神と形成史を語る』松山俊太郎

 ・川内康範の侠気(きょうき)

「児玉誉士夫小論」林房雄/『獄中獄外 児玉誉士夫日記』児玉誉士夫

 海外同朋の遺骨引揚げ運動は10年間も続くんです。1955年までですよ。このとき俺に協力してくれたのが竹中労なんだ。

 ――竹中さんといえば、当時はバリバリの共産党員だったのでは?

 そうだよ。僕は竹中を通じて共産党の実態を知ったんだ。彼はのちに共産党を脱党してフリーライターになるけど、その間も僕と竹中のつきあいはずっと続いていた。右翼から見ると「川内は左翼とつきあっていておかしいんじゃないのか」っていわれるんだ。隠れ左翼じゃないのかという声も出てくる。でも「民族派の人間がどう思おうと勝手だ。俺は俺の信念でやっているんだ」と思っていたよ。

 ――実は今回、先生の記事を過去にさかのぼって調べさせていただきましたが、一番驚いたのは、先生は昭和天皇の戦争責任についてはっきり「ある」とおっしゃっていますね。

 僕は陛下の真意として、戦争を望まれたとはけっして思っていない。あれはまわりの軍人や政治家が天皇を利用してああなったんだよ。しかしね、開戦の勅語(ちょくご)に陛下は署名されただろう。その意味での責任は、やはりあると思う。僕は児玉誉士夫さんと会って、「私は天皇に戦争責任があると思う。だから(終戦に際して)自分はどうなってもいいと陛下はおっしゃったんじゃないのか」っていった。児玉さんも「私もそう思う。けれど、そうおっしゃられた陛下を、われわれ日本人がこれ以上責めるのはいかがなもんだろう」っていうんだ。その気持ちも理解できるよな。それ以来、児玉さんとも友だちになったよ。

 ――竹中労さんは、天皇の戦争責任問題に対し最後まで追及すべきだという姿勢でしたよね。

 そう、竹中はそういうことは僕にしかくわしくいわないよ。それはともかく、一緒に沖縄で遺骨を引揚げながら思ったね。この人たちはいったい誰のために死んだんだと。生き残った人間は死者の気持ちを踏みにじっていないか。遺骨は千鳥が淵に納めるしかない。マレーシアからベトナム、カンボジアと僕は遺骨引揚げのために何回もまわった。政府からは援助がないので、自費で出かける。原稿料で稼ぐしかないから、書きまくりましたわ。
 そのうち遺骨の引揚げ援護費が認められたんだ。園田直氏が厚生大臣をやっていた頃ですよ。「川内さんやっと許可が下りたよ」って、園田さんと二人で乾杯しましたよ。児玉さんもロッキード事件であんなことになったけれど、遺骨の引揚げ運動に関しては協力的でしたよ。船をひとつ借りて引揚げなければ、とてもじゃないけれどらちがあかない。それには少なくとも2~3億はかかる。60年代の話ですよ。現在の額に直したらもっとでしょ。児玉さんは「金は用意する」っていってくれたんだが……。用意しているかしていないうちにロッキード事件の心労で倒れたんだよ。病院から出てきた児玉さんから電話をもらって、「金は用意してあったけれど、この事件で銀行の金も動かせない。川内さん、わかってくれ」といわれた。児玉さんは民族派の中でもきちんと筋を通す人だったね。児玉さんと話をすれば、一方で竹中ともつきあう。竹中には俺が何をやったかは書くなといってある。だから彼の書いたものに僕の名前はほとんど出てこないんだ。竹中が「ゴラン高原に行きたい」っていえば、100万を渡してやる。ゴラン高原に行きたいというのは、つまりは赤軍派に会うってことだよ。なのに右翼の俺が金を出す(笑)。彼には彼なりの志があるから俺は協力するんだ。

【『篦棒(ベラボー)な人々 戦後サブカルチャー偉人伝』竹熊健太郎〈たけくま・けんたろう〉(河出文庫、2007年)】

 康芳夫〈こう・よしお〉、石原豪人〈いしはら・ごうじん〉、川内康範〈かわうち・こうはん〉、糸井貫二〈いとい・かんじ〉のインタビュー集である。竹熊の作戦勝ちともいうべき内容で、「謀(はかりごと)を帷幄(いあく)の中に運(めぐ)らし勝つことを千里の外(ほか)に決す」(漢書)意気込みすら窺える(笑)。「戦後サブカルチャー偉人伝」とあるが、とてもサブカルの領域に収まる面々ではない。戦前の大陸浪人や明治維新の志士を思わせる雰囲気が漂う。世間から見れば型破りなのだが、彼らなりの信念・哲学がさらりと語られていて引きずり込まれる。

 侮れないのは戦前・戦後の貴重な証言がちりばめられていることで、学術書からは窺い知れない当時の生々しい世情が伝わってくる。彼らはエリート官僚とは正反対に位置する浪人といってよい。自由を論じる人物は多いが、自由に生きる人は稀(まれ)だ。そんな稀有(けう)の生きざまがここにはある。

篦棒な人々ー戦後サブカルチャー偉人伝 (河出文庫 た 24-1)
竹熊 健太郎
河出書房新社
売り上げランキング: 391,531

0 件のコメント:

コメントを投稿