2016-04-23

鈴木猛夫、アルボムッレ・スマナサーラ、伊藤悦男、他


 8冊挫折、4冊読了。

五重塔』幸田露伴〈こうだ・ろはん〉(青木嵩山堂『小説 尾花集』収録、1892年/岩波文庫、1927年/岩波文庫改版、1994年)/まだまだ手に負えず。数年後に再挑戦する。

帝国以後 〔アメリカ・システムの崩壊〕』エマニュエル・トッド:石崎晴己〈いしざき・はるみ〉訳(藤原書店、2003年)/読みにくい。フランス人特有の思い上がった文体が目につく。

意識の探求 神経科学からのアプローチ(上)』クリストフ・コッホ:土谷尚嗣〈つちや・なおつぐ〉、金井良太〈かない・りょうた〉訳(岩波書店、2006年)/クリストフ・コッホはどうも文体が合わない。

意識をめぐる冒険』クリストフ・コッホ:土谷尚嗣〈つちや・なおつぐ〉、小畑史哉〈おばた・ふみや〉訳(岩波書店、2014年)/こちらは二度目の挫折。

津波からの生還 東日本大震災・石巻地方100人の証言』三陸河北新報社「石巻かほく」編集局編(旬報社、2012年)/念のためと思い検索したところ、何と「津波てんでんこ」は古い言い伝えではなく、津波災害史研究家・山下文男らによるパネルディスカッションから生まれた標語で1990年以降に生まれたとのこと(Wikipedia)。「三陸沖やチリの地震で津波の被害に何度もあっている三陸地方には、津波てんでんこという言い伝えがある」という朝日新聞の社説(2003年9月27日)が誤解の原因らしい。本書は被災者による手記である。興味のある人は『3.11 慟哭の記録 71人が体感した大津波・原発・巨大地震』よりも安いのでこちらから読むといいだろう。あまりの油断と愚行のオンパレードに私は読むことができなかった。命からがら助かった人々は、ほぼ例外なく「戻っている」人々である。亡くなってしまった人々はもっと多かったことだろう。もう一つ見逃せないことはチリ地震の際の津波の記憶が基準となっていることだ。被災した瞬間にまず日常の延長線上の思考回路から抜け出すことができるかどうかが生死(しょうじ)を分ける。日本に必要なのは「防災のオペレーションズ・リサーチ」である。

エレファントム 象はなぜ遠い記憶を語るのか』ライアル・ワトソン:福岡伸一、高橋紀子訳(木楽舎、2009年)/紙質がよい。福岡の『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』で紹介されていた一冊。クライマックスの原文がそっくり引用されていたため興醒めを避けられない。本書を先に読むことをお勧めしよう。ライアル・ワトソンといえば『生命潮流 来たるべきものの予感』(工作舎、1981年)で「百匹目の猿現象」という創作を行った人物として知られる。オカルト、カルト志向を抜け出たのかどうかが疑問。

思考する豚』ライアル・ワトソン:福岡伸一訳(木楽舎、2009年)/パラパラめくっただけで終わり。

深代惇郎の天声人語』深代惇郎〈ふかしろ・じゅんろう〉(朝日新聞社、1976年/朝日文庫、2015年)/正が朝日文庫で復刊。私が読んだのは30年ほど前のことだ。コラム好きなら必ず読んでいると思われる一冊である。ひらりひらりと蝶の如く舞う文章に陶酔した覚えがある。ところがどうだ。ミスター天声人語というべき深代ですら、左翼というイデオロギーから脱却できていない。当時を思えば穏当ではあるが、各所にあざとい意図が散見される。イデオロギーという人類の業病の根深さを思い知った。それでも半分以上を読ませるのだから、その文章力は称賛に値する。

 46冊目『がん患者は玄米を食べなさい 科学が証明した「アポトーシス&免疫活性」のすごい力』伊藤悦男(現代書林、2009年)/一部飛ばし読み。著者は琉球大学名誉教授。読み物としては出来が悪い。あまり編集の手が入っていないような気がする。私は玄米食は既に実践しているが、マクロビオティックには全く興味がない。これも一種のフードイデオロギーであろう。

 47冊目『集合知の力、衆愚の罠 人と組織にとって最もすばらしいことは何か』アラン・ブリスキン、シェリル・エリクソン、ジョン・オット、トム・キャラナン:上原裕美子訳(英治出版、2010年)/再読。既に書評は書いている(集合知は群衆の叡智に非ず)。いやはや二度目の方がはるかに面白かった。私は民主制(デモクラシー)にはそれほど価値を見出さないが、集合知には注目する。かつて私が集合知を実感した場面は4回しかない。50年以上生きてきてたったの4回である。傾聴とコミュニケーションはそれほど難しい。集合知は阿頼耶識(あらやしき)の善なる部分を示す。平和とは人類が集合知をフルに発揮する状態を意味する。

 48冊目『慈経 ブッダの「慈しみ」は愛を越える』アルボムッレ・スマナサーラ(日本テーラワーダ仏教協会、2003年)/“「パーリ仏典を読む」シリーズ Vol.1”。残念ながらこのシリーズは本書と『怒りの無条件降伏 中部教典『ノコギリのたとえ』を読む』の2冊しかない。序盤に中だるみがあり挫けそうになったが、そこを越えれば一気読みである。慈経の訳は「幸せでありますように」よりも「幸せであれ」の方がいいのではないか。CD付き。

 49冊目『「アメリカ小麦戦略」と日本人の食生活』鈴木猛夫(藤原書店、2003年)/傑作である。長きに渡る日本人の玄米食は分づき米であったと考察している。「アメリカ小麦戦略」は一方的なものではなく、予算を獲得しようとした日本側からの歩み寄りもあったことを事実に基いて指摘。日米関係を探る意味でも良書なのだが、もっと凄いのは日本社会に巣食う病理を解明している点だ。東亜百年戦争と戦後のメカニズムを解くには、本書と小室直樹のデビュー作『危機の構造 日本社会崩壊のモデル』、山本七平や岸田秀の著作に鍵があると思われる。読書の至福は「眼が開く」ことと痛感。必読書の量が増えてページが重くなっているので、そのうち分散する予定である。

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