2016-04-13
ワールポラ・ラーフラ、M・ミッチェル・ワールドロップ、アルボムッレ・スマナサーラ、村上譲顕、福島源次郎、マリン・カツサ、他
5冊挫折、6冊読了。
『漂流老人 ホームレス社会』森川すいめい(朝日新聞出版、2013年/朝日文庫、2015年)/精神科医らしいが妙な著者名の上、著者近影が正面を向いていないのを見てやめた。
『河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙』河北新報社(文藝春秋、2011年)/『神戸新聞の100日 阪神大震災、地域ジャーナリズムの戦い』(神戸新聞社著、プレジデント社、1995年)の二番煎じか。もはや災害時に求められる情報は新聞ではないと思う。しかも被災者にとって切実な情報とは家族の安否というミクロ情報だ。新聞社は即時性のなさを自覚した上で、もっと特化した情報を発信すべきだろう。
『無為について』上田三四二〈うえだ・みよじ〉(講談社学術文庫、1988年)/西尾幹二が、上田三四二の作品・人柄がもつ死生観に非常に大きな影響を受けたと最近知った。文学的なあざとさが前面に出ていて苦手なタイプの本だ。
『粗食のすすめ』幕内秀夫〈まくうち・ひでお〉(東洋経済新報社、1995年/新潮文庫、2003年)/単行本19ページに「この生徒の家庭は両親が離婚し、母親は水商売をしているような家庭環境の子どもだった」とある。職業蔑視もさることながら、因果関係の捉え方に明らかな問題がある。編集者も見過ごしたとすれば致命傷といってよい。「子供に問題があるのは親の責任だ」と私も思う。しかしそれが親の職業に由来するかどうかは全くの別問題だ。「書き間違えた」レベルの文章ではない。
『金色夜叉』尾崎紅葉〈おざき・こうよう〉(新潮文庫、1969年)/初出は読売新聞の連載で、1897年(明治30年)1月1日~1902年(明治35年)5月11日に渡る。前編、中編、後編、続、続続、新続の6編から成るが未完で終わっている。言文一致運動の代表的作品らしいが、ルビがなければ歯が立たない。頑張れば読めそうだが、頑張るだけの気力が湧かず。「未(ま)だ宵ながら松立てる門は一様に鎖籠(さしこ)めて、真直(ますぐ)に長く東より西に横(よこた)はれる大道(だいだう)は掃きたるやうに物の影を留(とど)めず、いと寂(さびし)くも往来(ゆきき)の絶えたるに、例ならず繁(しげ)き車輪(くるま)の輾(きしり)は、或(あるひ)は忙(せはし)かりし、あるは飲過ぎし年賀の帰来(かえり)なるべく、疎(まばら)に寄する獅子太鼓(ししだいこ)の遠響(とほひびき)は、はや今日に尽きぬる三箇日(さんがにち)を惜むが如く、その哀切(あわれさ)に小さき腸(はらわた)は断(たた)れぬべし」とこんな感じだ。
40冊目『コールダー・ウォー ドル覇権を崩壊させるプーチンの資源戦争』マリン・カツサ:渡辺惣樹〈わたなべ・そうき〉訳(草思社、2015年)/北野幸伯〈きたの・よしのり〉の本で紹介されていたと記憶する。著者はエネルギー産業に特化した投資ファンドマネージャーだ。非常に面白かったが、ポジショントークを割り引く必要があるだろう。ドル覇権を崩壊させるのは飽くまでもFRBの判断であり、プーチンが仕掛ける資源戦争は加速要因でしかないと思われる。FRBは多分ドル基軸体制を終わらせる判断を既に下している。
41冊目『蘇生への選択 敬愛した師をなぜ偽物と破折するのか』福島源次郎(鷹書房、1990年)/福島は創価学会の青年部長・副会長を務めた人物で後に離反した人物である。間近で池田大作を見てきただけあって、批判にも並々ならぬ迫力が溢れる。長らく師と信じた人物の虚飾が剥がれた時、黙って見過ごすことはできなかった。池田に直接提出した諫言書も併録。かなり重要な指摘が散見されるが、他の創価学会本で引用されていないのが不思議である。
42冊目『日本人には塩が足りない! ミネラルバランスと心身の健康』村上譲顕〈むらかみ・よしあき〉(東洋経済新報社、2009年)/村上は海の精株式会社の取締役である。「海の精 あらしお」が有名だ。マクロビオティック実践者でもある。判断の難しい本だ。参考になる所見はたくさんあるのだが科学的検証に耐えるかどうかは微妙な感じ。例えば長野県では30年以上も前から減塩運動に取り組み、男女共に平均寿命日本一となったがこれにはどう答えるのか? 健康本は宗教本と同じ匂いがする。
43冊目『原訳「法句経」(ダンマパダ)一日一悟』アルボムッレ・スマナサーラ(佼成出版社、2005年)/『一日一話』より1ページあたりの文字数は多いが切れ味は劣る。切り文ではなく、きちんとまとめて編んでほしいところ。
44冊目『複雑系 科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち』M・ミッチェル・ワールドロップ:田中三彦〈たなか・みつひこ〉、遠山峻征〈とおやま・たかゆき〉訳(新潮文庫、2000年/新潮社、1996年『複雑系』改題)/文庫化されたのを知らなかった。ハードカバーは3400円である。複雑性科学は本書から入るのがよかろう。サンタフェ研究所を舞台としためくるめく群像劇である。世界最高峰の知性に触れることができる。「必読書」入り。
45冊目『ブッダが説いたこと』ワールポラ・ラーフラ:今枝由郎〈いまえだ・よしろう〉訳(岩波文庫、2016年)/今枝が精力的に本を出している。本書も目のつけどころがよい。ワールポラ・ラーフラはテーラワーダ仏教の僧侶で、セイロン大学に進み哲学博士号を取得。マハーヤーナ(いわゆる大乗)仏教の研究にも着手する。1950年代後半、パリ大学に留学。そこで著されたのが本書である。原書は英語で1959年間。仏教研究の泰斗であるオックスフォード大学のR・F・ゴンブリッジ教授が「現時点で入手できる最良の仏教書」と評価する。訳者解説に神智学協会が出てきて驚いた。今枝はブータンに生きた仏教を見出しているようだ。西水美恵子著『国をつくるという仕事』でもブータンは絶賛されているが、伝統と近代化の狭間で揺れている現状も窺える。少し検索してみたところ、ワールポラ・ラーフラがクリシュナムルティと対談した僧侶であったことが判明。こりゃグッドタイミングだ。『ブッダとクリシュナムルティ 人間は変われるか?』に収録されている。
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