・『自殺死体の叫び』上野正彦
・殺される子供たち
「いじめをなくそう」と言いながら、一向にいじめ自殺がなくならないのは、そもそも学校も教育委員会も警察も、誰ひとりとしていじめと自殺の因果関係についての、しっかりとした事実確認を行わず、曖昧にしたまま放置してきたからではないのか?
このような現状をこれ以上、見過ごすことはできない。いじめがあり、それを苦に子どもが自殺したとしたら、その子を死に追い詰めた原因は、紛れもなく、「いじめた側」にある。
いじめ自殺は自己責任で死んだのではない。いじめの加害者たちによって追い詰められ、殺されたのだ。自殺だから俺たちは関係ないと、他人事で済まされてはたまらない。厳しい言い方かもしれないが、そのような表現をして、周囲の人々にも理解を求めないと自殺の予防にはつながらないと考える。
もちろん、これは学校のいじめ自殺だけに限った話ではない。長時間の過酷な労働や職場でのストレス、家庭内暴力や身内からの疎外、恋愛のもつれなど、人が自殺を選ぶ背景には、必ずその人を精神的に追い詰めた外的な要因が存在している。
【『自殺の9割は他殺である 2万体の死体を検死した監察医の最後の提言』上野正彦(カンゼン、2012年)以下同】
83歳(※刊行時)の上野の本気を見た思いがする。静かな怒りとともに、やむにやまれぬ思いが沸々と伝わってくる。子供の死に対する大人の無責任が暴力の連鎖を助長する。尚、私は「子供」という表記に差別的な印象を抱いていないため敢えて「子供」と書く(※「子供」を「子ども」と表記するようになったいわれや時期について調べている。文部省の文書などではいつ頃からか)。
私は「自殺は他殺である」ということを、もっと広く世間に訴えていく必要があると考える。特にいじめの場合は、いじめっ子が遊び感覚で弱い者を攻撃し、挙句の果てに死に追いやっているわけで、法的にはともかく、道義上は許されない行為として処理されることを啓蒙していくべきであろう。
いじめて遊んでいるお前らこそ、卑屈で卑怯で、恥ずべき最低の人間である。弱者を助ける者が格好よい立派な人間である。こうした強いメッセージを社会に打ち出すことが、子どもを守るために必要なのではないだろうか。
上野は元監察医である。司法解剖・行政解剖の専門家だ。上野は物言わぬ遺体に残された様々な痕跡から死者のメッセージを読み取る。やや乱暴な表現となっているが、我々はこれを「祖父の教え」として受け継いでゆくべきだ。いじめは動物の世界にもある。人間が知性よりも本能に支配されている間は、いじめを根絶することはできないだろう。ただし「弱者を助ける者」が増えるに連れて、いじめの数は少なくなるはずだ。
先日、両親から虐待されている中学生が死亡した。正確に書くと2014年11月に首吊り自殺を図り意識不明となる。そして先月亡くなった。神奈川・相模原市児童相談所に保護を求めた時点ではまだ小学6年生だったという。以下に情報をピックアップする。
「私はその時点、その時点での(児相の)対応は間違ってなかったというふうに思っております」鳥谷明所長(相模原市児童相談所)。
児相によると、2013年11月、生徒の顔がはれているなどと、市の担当課から通報があった。児相は当初、学校などを通じて対応していたが、14年6月の深夜に生徒がコンビニに駆け込み、警察官に保護される事案が発生。生徒が「親から暴行を受けた」などと説明したことから、以降は定期的に両親と生徒への直接指導を続けていた。
だが、14年10月に母親の体調不良で両親への指導ができなくなった。児相は学校で生徒への指導は続けてきたが、生徒は11月中旬に親族宅で自殺を図った。その後、意識不明の状態が続いていたが、今年2月に死亡した。
【朝日新聞DIGITAL 2016年3月22日】
「あさチャン!」の取材に母親はこう答えている。「手を上げるようなことはなかったは言いません。でも、家で決めることを守らなかった。それが悪いことなんだと分かってもらえなかった時ってどうしたらいいんですか」「(子どもが)施設に行きたいみたいな話はしていたけど、それがどこまで本音だったんですかね。親に心を開かなくなったのは児相に通い始めてからです」。虐待は「しつけの範囲内」で、子どもが頑なになったのは児相のせいだと母親はいう。
【J-CASTニュース > テレビウォッチ > ワイドショー通信簿 > あさチャン! 2016-03-22】
・相模原市男子中学生虐待自殺 母親「殴ったが虐待ではない」
・相模原市の中2自死事件で、虐待したとされる母親のインタビューが酷い! 2ch「なんか逆ギレしてね?」
親の承諾なしに強制的に子どもを引き離す権限を持っているのが児相だ。子ども本人からのSOSを生かせないのでは、結果的に見殺しにしたのと同じだ。
【社説/毎日新聞 2016年3月25日東京朝刊】
昨年、児童虐待があるとして県警が児童相談所に通告した子どもが前年比百一人増の四千二百九十人に上り、二〇〇〇年の児童虐待防止法施行以降で最多となったことが二十四日、県警のまとめで分かった。全国では大阪に次いで二番目に多かった。
通告には書面によるものと、虐待がひどく親と引き離して保護するものがあり、三百六十二人が保護された。児童虐待に関係する検挙件数は三十件で、殺人、殺人未遂が計四件、傷害が八件、性的虐待などの児童福祉法違反が六件だった。
【東京新聞 2016年3月25日】
東京新聞:相模原中2自殺 児相の担当者、暴行報告怠る 小6からSOS:社会(TOKYO Web) https://t.co/V7LbHfEzTU pic.twitter.com/dZXp2qnEEO
— 小野不一 (@fuitsuono) 2016年3月26日
【NPO法人「シンクキッズ-子ども虐待・性犯罪をなくす会」代表の後藤啓二弁護士の話】男子生徒からSOSがあったのに保護しなかった対応はあり得ない。生徒の両親が「(児童相談所に)もう来られない」と指導に応じなくなったのは虐待がより深刻化するサインだった。親と対立しないよう配慮するあまり、子どもの命を守れないのは本末転倒だ。
【東京新聞 2016年3月23日朝刊】
小学生がコンビニに駆け込んだ事実を思えば、生命の危険にさらされていたと考えてよい。よほどのことである。
ここでもう一度、上野の冒頭の言葉を読み直してみよう。本来責任のある人々が「いじめを放置」してきた。世間の関心を思えばマスコミは両親、少年が訴えた保護を黙殺した児相担当者、ならびに児相所長を徹底的に取材し、責任と罪の所在を明らかにすべきである。刑事罰に問われない情況を考えれば人権蹂躙を犯しても構わない。可能であれば彼らが死ぬまで追い詰めて欲しい、というのが私の願いである。右翼だって本当はこういう時こそ街宣活動をするべきなのだ。
少し冷静になって考えてみよう。児相に限らず役所は機能本位で人間の顔を持つ者はいない。役所は書類で動く。つまり児相の動きや判断は厚生労働省の方針に基づくものと考えてよい。そして相模原市児相の鳥谷明所長は「その時点、その時点での(児相の)対応は間違ってなかった」と語る。これは我々が考える「人道的な判断」ではなく「役所としての判断」であろう。つまり児相に保護を求める子供は否応なく殺される羽目となるのだ。
いわゆるワーキングプアといわれる人たちが巷にあふれるようになった現在、ささいなきっかけで転げ落ちるように路上生活にまで転落する人たちの声を聞くうちに、“つながり”について考えるようになった。
男性は、インタビューの機会があるたびに同じような言葉を発していた。
「これ以上、自分のことで誰かに迷惑をかけたくない」
男性は、生活保護も受けずに路上生活をしながら仕事を探し続けていた。あきらめず、誰にも頼らず、生きようとしていた。
そもそも“つながり”や“縁”というものは、互いに迷惑をかけ合い、それを許し合うものではなかったのだろうか――。その疑問は、取材チームの内に突き刺さり、解消されることはなかった。
「迷惑をかけたくない」という言葉に象徴される希薄な“つながり”。
そして、“ひとりぼっち”で生きる人が増え続ける日本社会。
私たちは「独りでも安心して生きられる社会、独りでも安心して死を迎えられる社会」であってほしいと願い、そのために何が必要なのか、その答えを探すために取材を続けていった。
【『無縁社会』NHKスペシャル取材班(文春文庫、2012年/文藝春秋、2010年、NHK「無縁社会プロジェクト」取材班『無縁社会 “無縁死”三万二千人の衝撃』改題)】
平成26年度のNHK職員平均年収は1160万2859円となっている。「取材班」の給与は当然もっと上だろう。「そもそも“つながり”や“縁”というものは、互いに迷惑をかけ合い、それを許し合うものではなかったのだろうか――」。恵まれた待遇の彼らが放つ正論が虚しく響く。NHKスペシャル取材班は相模原市児童相談所を取材してはどうか?
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