2018-10-18

「精神障害の診断と統計マニュアル」は児童虐待の役に立っていない/『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』べッセル・ヴァン・デア・コーク


『精神疾患は脳の病気か? 向精神薬の化学と虚構』エリオット・S・ヴァレンスタイン
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ
『身体が「ノー」と言うとき 抑圧された感情の代価』ガボール・マテ

 ・「精神障害の診断と統計マニュアル」は児童虐待の役に立っていない

『うつ消しごはん タンパク質と鉄をたっぷり摂れば心と体はみるみる軽くなる!』藤川徳美
『心と体を強くする! メガビタミン健康法』藤川徳美
『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』溝口徹
『食事で治す心の病 心・脳・栄養――新しい医学の潮流』大沢博
『オーソモレキュラー医学入門』エイブラハム・ホッファー、アンドリュー・W・ソウル
『パワー・オブ・エイト 最新科学でわかった「意識」が起こす奇跡』リン・マクタガート
『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』ローン・フランク

虐待と知的障害&発達障害に関する書籍

『精神疾患の診断・統計マニュアル』の主要な診断のそれぞれには作業グループがあって、新しい版のための改訂を提案する責務を負っていた。私はこのフィールドトライアルの結果を、自分の所属する『精神疾患の診断・統計マニュアル』第4版のPTSD作業グループに示し、私たちは、対人的なトラウマ犠牲者のための、新たなトラウマ診断を作ることを決議(賛成19票、反対2票)した。「他に特定不能の極度のストレス障害」、略して「複雑性PTSD」だ。それから私たちは、1994年5月の第4版の刊行を待ち焦がれた。ところが、じつに意外にも、私たちの作業グループが圧倒的多数で承認した診断は、最終的にでき上がった本には載らなかった。しかも、私たちの一人として、事前に意見を求められることはなかった。
 この診断が除外されたのは、なんとも不幸だった。多数の患者が正確な診断を受けられず、臨床家や研究者が彼らのための適切な治療法を科学的に開発できないということだからだ。存在しない疾患のための治療法など、開発しようがない。現在、診断がないために、セラピストは深刻なジレンマに直面している。虐待や裏切り、ネグレクトの影響に対処している人々を、うつ病、あるいは、パニック障害、双極性障害、境界性パーソナリティ障害などと診断せざるをえないとき、いったいどう治療すればいいのか。そうした診断は、彼らが取り組んでいる問題を対象としたものではないのだから。
 養育者による虐待やネグレクトの結果は、ハリケーンや交通事故の影響よりもはるかに頻繁に見られ、複雑だ。それにもかかわらず、私たちの診断システムの在り方を決める意思決定者たちは、そのような事実を認めないという判断を下した。それ以来、『精神疾患のための診断・統計マニュアル』は20年の歳月と四度の改訂を経たというのに、今日に至るまでこの手引きとそれに基づくシステム全体は、児童虐待と児童ネグレクトの犠牲者の役に立っていない。1980年にPTSDの診断が導入される前は、帰還兵たちの苦境が無視されていたのと、まさに同じ状況だ。

【『身体はトラウマを記録する 脳・心・体のつながりと回復のための手法』べッセル・ヴァン・デア・コーク:柴田裕之〈しばた・やすし〉訳、杉山登志郎〈すぎやま・としろう〉解説(紀伊國屋書店、2016年)】

 これは買いだ。4000円を超える値段だが600ページのボリュームを考えれば良心的な価格といえるだろう。表紙はアンリ・マティスの『ジャズ』より「イカルス」。センスがいい。

 一冊の本には起伏があり、読む速度の変化がリズムを作る。ところが本書は最初から上り坂で中盤に至っても下りが現れない。読み手の噛む力が相当試される。まだ読み終えていないのだが、どうしても記録しておかねばならない情報が出てきたので紹介しておこう。

 一般的には「精神障害の診断と統計マニュアル」と表記され、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)と省略されることが多い。既に第5版(DSM-5)となっているが、第4版(DSM-IV、1994年)の編集委員長を務めたアラン・フランセスがDSM-5を徹底的に批判している。

精神医学のバイブルが新たな患者を生み出す/『〈正常〉を救え 精神医学を混乱させるDSM-5への警告』アレン・フランセス

 既に何度も書いた通り、現代医学は裁判と酷似しており、過去の判例に基づいて判決の相場観が決められる。また臨床という個人的経験の限界を自覚する医師は少ない。製薬会社のロビー活動により厳密なデータ収集も難しい。二重盲検を経れば確実かといえば決してそんなことはない。治療を巡る因果関係が科学的に導かれると思ったら大間違いだ。

 精神疾患に関する六法全書や経典ともいうべき存在が「精神障害の診断と統計マニュアル」である。そのマニュアルがデタラメだとすれば、医師が処方する様々な薬は必ず深刻な副作用を伴い、広範な被害を及ぼすに違いない。それが社会の表面に浮かび上がってこないのは相手が精神疾患患者であるからだ。極論を述べればDSMが患者を薬の捨場(すてば)にしている可能性すらある。

 簡単な事実を申し上げよう。薬の種類とDSMの版を重ねるに連れて精神疾患は増えている。もちろん社会の複雑性が人々の心理に何らかの影響を落としていることは確かだろう。しかしながら、ちょっとした落ち込みや落ち着きのなさに名前をつけて病気に格上げしたのも彼らなのだ。

 個人的には精神医学を科学だとは考えていない。人の心がそんなに簡単にわかってたまるかってえんだ。その辺にいる医者だって科学とは無縁である。人の体を少しばかりいじって薬を処方するだけの仕事だ。

 先日、武田邦彦が言っていた。「故障した自動車を修理に出して、もし直せなかったら修理会社は料金を請求するでしょうか? もちろんしません。では、どうして病院は体の修理ができなくても料金を請求するのか。ここに現代医学の根本的な問題がある」(趣意)と。

 医師は現代の宗教家である。誰もが医師の言葉を鵜呑みにし、ありがたがり、言いなりになる。処方される薬は聖水だ。そして巨額のカネが医学界と医療産業を潤すのだ。

【追記】10月19日

 尚、著者を中心とするグループがDSM-5に「発達性トラウマ障害」を盛り込むよう勧告したが敢えなく却下された。この件(くだり)については264~266、274~277ページに詳細がある。100万人もの患者を無視してDSMは製薬会社の営業マンとなりつつあるのだろう。


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