2018-10-01

コミンテルンの物語/『幽霊人命救助隊』高野和明


『13階段』高野和明
『グレイヴディッガー』高野和明

 ・コミンテルンの物語

『ジェノサイド』高野和明

「私がここに来たのは他でもない。諸君に、天国へ行くチャンスを与えてやろうというのだ」神は、天を指して繰り返した。「天国だ。いい所だぞ」
「私たち、天国に行けるの?」と、美晴が胸の前で両手を組み合わせて訊いた。彼女の瞳は、信心深い尼僧(にそう)のようにきらめいていた。
「だがその前に」と神は一同を見廻した。「諸君に償いをしてもらいたい。粗末にした命の償いをな」
 4人は、不安げに顔を見合わせた。

【『幽霊人命救助隊』高野和明(文藝春秋、2004年/文春文庫、2007年)以下同】

『ジェノサイド』の書評を既にアップしていたことを失念していた。どうもBloggerの検索は甘いような気がする。

 私が読んだのは降順である。つまり『ジェノサイド』から遡(さかのぼ)って『13階段』に至った。本書だけ読了していない。3分の1ほどで放り投げた。

 私はこれまでにおそらく万という桁の本を読んだはずである。そのなかで、この本はつまらない本とはいえない。でも読後につまらなかったと思うなら、だれかにプレゼントすればいい。それなら買っても損にならない。プレゼントした相手によっては、喜ばれると思う。なぜかというと――それは内容を読んでもらえばわかる。(文庫版解説:養老孟司〈ようろう・たけし〉)

 養老孟司といえばミステリの愛読者として知られる。著作は面白いのだが「解説」は実に下手くそで斜(しゃ)に構えた態度も様になっていない。それはともかくとして読み巧者の養老が評価するほどの「構成」と考えていいだろう。

 私が読んできた本の数は数千冊である。多分2000~3000冊の間だろう。今から毎年200冊読んだとしても1万冊に届くのは難しい。そんな私からしても本書は駄作であると思う。

 4人の幽霊は自殺をした人々だった。そんな彼らの前に神が姿を現し、「天国へゆきたいなら、自殺志願者100人を救え」と命じる。彼らには自殺志願者を見つけ出すための不思議な道具も用意される。ま、再生の物語なのだろう。幽霊たちは「救う」行為によって自分たちが「救われる」のだ。舞台設定や道具立てが安易なため再生の中身が問われることになる。読者は「癒(いや)し」という褒美(ほうび)にありつけるわけだ。

 ところが、である。『ジェノサイド』で高野和明の左翼史観に気がつけば、本書はコミンテルンの指示で共産主義国家を作ろうとする人々と同じ構図であることが見えてしまうのだ。全体主義を批判した『一九八四年』(ジョージ・オーウェル著)とは逆のベクトルで「信頼」をテーマにした娯楽作品としたのは読みやすさで読者を獲得するためだろう。

 餌(えさ)に釣られて働くという点ではサラリーマンと変わりがないわけだが、「充実した仕事」そのものが一種の報酬として機能している。神と幽霊を戯画化して描いたのも実に左翼的である。

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