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2021-10-25

フィードバックとは/『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二


『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ
『唯脳論』養老孟司
『海馬 脳は疲れない』池谷裕二、糸井重里

 ・世界よりも眼が先
 ・人間が認識しているのは0.5秒前の世界
 ・フィードバックとは

『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』池谷裕二
『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万脳薬』池谷裕二

必読書リスト その三

 フィードバックというのは、一方通行だった情報の流れが、枝分かれして、前のほうに戻されたり、逆流したりする回路だ。こうなると、単純な一方通行とは違うやり方で情報が処理されるようになるよね。
 一対一じゃない情報の伝達を支える仕組み、そう、脳のような複雑な装置に絶対に必要な条件が「フィードバック」ってわけ。日本語だと「反回性回路」と言うんだけど、こうした情報が「行ったり来たり」する回転が最低限必要なの。それによって情報を分解したり、変調したり、統合したりできるってわけ。情報のループを描かないとブラックボックスはワンパターンの出力しかできない。(脳内の1個の神経は1万個の神経に情報を送っている)

【『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二〈いけがや・ゆうじ〉(ブルーバックス、2007年)】

 非公開にしたブログ記事から引っ張り出してきた。やれやれ。

 脳はフィードバックによって軌道修正を可能にしている。ヒトが学習できるのもフィードバックの成せる業(わざ)である。フィードバックの集大成が文明なのだ。人類以外の動物は文明を持たない。

 更にフィードバックを欠けば人は感情やバイアスの奴隷となる。反省、振り返り、やり直し、見つめ直しに脳の本領がある。日常的にフィードバックを行えば後悔することが少なくなる。間違いは気づいた瞬間に修正できる。

 人も組織もフィードバックが途絶えると腐敗する。強力な独裁体制は誰かの話に耳を傾けることがない。ワンマンが通用するのは戦国時代だ。



有害で悪質な数学破壊兵器のフィードバックループ/『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール

2019-02-17

腸内細菌で自閉症の症状を緩和することができる/『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万脳薬』池谷裕二


『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二
『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』池谷裕二
・『脳はなにげに不公平 パテカトルの万脳薬』池谷裕二

 ・腸内細菌で自閉症の症状を緩和することができる

『脳はバカ、腸はかしこい』藤田紘一郎

 腸内細菌で自閉症の症状を緩和することができる――。そんなネズミの実験データが発表されました。カリフォルニア工科大学のマツマニアン博士らが先々月の「セル」誌に発表した論文です。
 腸と脳は密接に関係しています。腸内細菌も精神状態に影響を与えることはすでに知られています。しかし、自閉スペクトラム症(ASD)はいわゆる発達障害の一種です。つまり生まれつきの症状です。これが腸内細菌で治療できるとはどういうことでしょうか。今回の発見を私なりに消化するまでに時間を要しました。
 発見の端緒は「合併症」の丹念な調査にあります。2年前にハーバード大学のコハネ博士らは1万4000人のASDの方を集め、彼らが他にどんな病気を患っているかを調べたのです。すると炎症性腸疾患という慢性の腸炎を併発している率が高いことがわかりました。腸炎の原因は十分にはわかっていませんが、一因は腸内細菌であろうと考えられています。
 この発見に、近年のミクロビオーム研究が加担します。最新の検査技術を用いると、大量の腸内細菌を一斉に調べ上げることができます。腸内にどんな細菌が住んでいるか(ミクロビオーム)が一網打尽にわかります。その結果、ASDの方のミクロビオームは健常者のものとは異なっていました。
 もちろん、これだけでは、ミクロビオームが原因でASDになったのか、あるいは逆に、ASDの方に偏食があるからミクロビオームが変化しているのかはわかりません。ヒトでこれを確かめるわけにはゆきません。そこでマツマニアン博士らは、ネズミの実験に切り替えることにしました。その結果、ミクロビオームこそがASDの症状の一因だという結論を得たのです。もう少し詳しく説明しましょう。
 ASDの原因の一つは感染です。生まれる前、まだ母親の胎内にいるときに感染すると、ASDの危険率がぐんと上昇します。その証拠に、妊娠中の母ネズミに感染炎症を生じさせると、生まれてきた仔はヒトのASDにそっくりな症状を示します。社交的な行動が減っているだけでなく、なんとミクロビオームまで変化しているのです。
 そこで博士らは、大腸炎を改善することが知られている「バクテロイデスフラジリス」という細菌を、生まれてきたばかりの仔マウスに与えました。するとマクロビオームが改善され、驚くべきことに、成長してもASDの症状を示さなかったのです。
 炎症性腸疾患は、ASDだけでなく、うつ病やある種の知的障害などにも見られる症状です。今回のデータは、これまで対処が難しかった精神疾患や発達障害への治療の糸口になるかもしれません。

【『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万脳薬』池谷裕二〈いけがや・ゆうじ〉(朝日新聞出版、2017年)】

『週刊朝日』に連載された科学コラム「パテカトルの万脳薬」の2013年9月6日号~2014年12月26日号掲載分で、『脳はなにげに不公平 パテカトルの万脳薬』の続篇。

瓢箪から駒が出る」とはこのことか。「ランプから魔神」でもよい。

 我々の思考はどうしても特定の部位に目を向けてしまう。脳、血管、神経、臓器など。腸内細菌は口から入ったもので作られる。お腹の中の赤ちゃんは無菌状態である。帝王切開の出産が問題なのは産道を通る時に口から入る母体の菌を取り入れることができないためだ。

 私が子供の時分は菌といえばバイ菌を意味したが、ヨーグルトでお馴染みのビフィズス菌が善玉菌として菌のイメージを書き換えた。人体の細胞は60兆個といわれる(最新の説では37兆個→気になる数字をチェック! 第9回 『37,000,000,000,000(37兆)個』|北キャンレポート|R&BPマガジン|北大リサーチ&ビジネスパーク推進協議会/同数説もあり→「体内細菌は細胞数の10倍」はウソだった | ナショナルジオグラフィック日本版サイト)。しかし実はそれを上回る数の細菌が人体を構成している。

「私」という存在を固定化し確定したものと考えるところに思考の過ちがあるのだろう。もっと淡くて曖昧な状態・現象が統合されて「私」という仮想が現実の姿に見えているだけなのだ。これを諸法無我という。

 精神疾患や知的障碍は人体のみならず家族や社会との関係にも大きな影響を及ぼす。悩みや苦しみが関係性から生じ、喜びや楽しみもまた関係性から生じる。今ここにあるのは関係性だけなのかもしれない。

できない脳ほど自信過剰
池谷 裕二
朝日新聞出版 (2017-05-19)
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脳はなにげに不公平 パテカトルの万脳薬
池谷裕二
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2009-11-08

人間に自由意思はない/『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』池谷裕二


『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二

 ・人間に自由意思はない

『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。 心理学的決定論』妹尾武治
『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万脳薬』池谷裕二


 脳科学の最新トピックを紹介する軽めの科学エッセイ。といっても、軽いのは文体であって内容はヘビー級だ。恐るべきスピードで進展する科学の世界は刺激に満ちていて昂奮させられる。

 では早速本題に入ろう――

 科学的な見地としては、自由意思はおそらく“ない”だろうといわれています。

【『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』池谷裕二〈いけがや・ゆうじ〉(祥伝社、2006年/新潮文庫、2010年)以下同】

 マジっすか? ってこたあ、人間はただ反応しているだけなんスか? 池谷さんよ、証拠を出して下さいよ、証拠を!

 ヒトと違って、ヒルの脳は単純です。神経細胞も全部で数万個しかありません。これらの神経はどうネットワークを作っているのかもだいたいわかっています。つまり、実験のツールとして、ヒルというのは優れた標本なのです。この神経回路をしらみ潰(つぶ)しに調べていくと、泳いで逃げるか、這って逃げるかを、どの神経細胞が決定しているかがわかります。
 実際に、突き止められたのです。208番という番号のついた神経細胞がそれでした。

 神経細胞には、電気活動としての「ゆらぎ」があります。
 神経の細胞膜の電気が、ノイズとして、とくに理由なく「ゆらぐ」のです。空中の風と同じで、明確な原因があるというわけではなくて、システムというのは、そこに存在するだけでゆらいでいます。つまり、神経細胞の膜の電気が、たくさん溜まっているときと、少ないときとがあるわけです。
 そして、わかったことはこうだったのです。細胞膜の電気がたくさん溜まっているときに、刺激が来ると泳いで逃げる。逆に、溜まっていないときに刺激が来ると、今度は別の行動、つまり這って逃げたのです。実にそれだけのことだったのです。〈自由意思〉、〈選択〉をとことん突き詰めていくと、要は、「ゆらぎが決めていた」にすぎなかったのです。刺激がきたときに、たまたま神経細胞がどんな状態だったかによって行動が決まってくるわけです。
 私たちの高度な〈選択〉もよく考えてみると、絶対的な根拠なんてものはありません。

 エ? ヒルと人間を一緒にするんですか? 確かに他人の生き血を啜(すす)っているような連中はいる。ヌラァーっとした性格の男も存在する。やっぱりヒルと遜色がないのか? ないね。違うとすれば記憶の量だけだろう。

 文化、価値観、善悪、損得、好き嫌い、欲望、願望、希望、理想、そして時間の概念――これらは全て記憶に依存しているのだ。決断とは、記憶の中から瞬間的に整合性を導き出す瞬発力を意味する。実は足し算引き算程度の関数しか働いていないように感じる。

 これがだ、脳内の電気信号による「ゆらぎ」に過ぎないとすれば、我々の人生――つまり選択の積み重ね――ってえのあ、風まかせということになる。「愛は風まかせ」なのは知っていたが、よもや脳まで風まかせだったとは……。

 でも、よく考えてみると自然界の一切がゆらめいている。光と風、雲や波、そして川……。何も気体と液体に限ったことではない。固体だって時間とともに風化するのだ。長大な時間軸から見ればやはり流動的なのだ。フーム、諸行無常か。そして万物は流転する。

 結構ショッキングな事実ではあるが、「なあんだ、ゆらぎだったのね」と安心するような気持ちにもなる。決断には責任が伴うが、ゆらぎだと思えば何度でもやり直しができそうな気になってくる(笑)。昨日のゆらぎで失敗したなら、今日反対方向に揺さぶればいいだけの話だ。

 ただ、こんな話を知ってしまうと選挙結果なんか、まるで信用できなくなる。日本人の脳がたまたま民主党にゆらいでしまったということなのだろう。

 どうやら、条件反射の能力を磨く必要がありそうだ。



自由意志は解釈にすぎない
瞑想の世界を見ることができる情報機器/『ひとりっ子』グレッグ・イーガン
意識は膨大な情報を切り捨て、知覚は0.5秒遅れる/『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』トール・ノーレットランダーシュ
『人間この信じやすきもの 迷信・誤信はどうして生まれるか』トーマス・ギロビッチ
自我と反応に関する覚え書き/『カミとヒトの解剖学』 養老孟司、『無責任の構造 モラル・ハザードへの知的戦略』 岡本浩一、他
人間の脳はバイアス装置/『隠れた脳 好み、道徳、市場、集団を操る無意識の科学』シャンカール・ヴェダンタム
デカルト劇場と認知科学/『神はなぜいるのか?』パスカル・ボイヤー

2009-02-14

人間が認識しているのは0.5秒前の世界/『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二


『脳は奇跡を起こす』ノーマン・ドイジ
『脳はいかに治癒をもたらすか 神経可塑性研究の最前線』ノーマン・ドイジ
『唯脳論』養老孟司

 ・世界よりも眼が先
 ・人間が認識しているのは0.5秒前の世界
 ・フィードバックとは

『脳はなにかと言い訳する 人は幸せになるようにできていた!?』池谷裕二
『できない脳ほど自信過剰 パテカトルの万脳薬』池谷裕二

必読書リスト その三

 知覚に誤差があるのは何となく理解できるだろう。光や音のスピード、はたまた神経回路を伝わる時間差など。だが、よもや0.5秒もずれているとは思わなかった。

 もっと言っちゃうとね、文字を読んだり、人の話した言葉を理解したり、そういうより高度な機能が関わってくると、もっともっと処理に時間がかかる。文字や言葉が目や耳に入ってきてから、ちゃんと情報処理ができるまでに、すくなくとも0.1秒、通常0.5秒くらいかかると言われている。
 だから、いまこうやって世の中がきみらの前に存在しているでしょ。僕がしゃべったことを聞いて理解しているでしょ。自分がまさに〈いま〉に生きているような気がするじゃない? だけど、それはウソで、〈いま〉と感じている時間は0.5秒前の世界なんだ。つまり、人間は過去に生きていることになるんだ。人生、後ろ向きなんだね(笑)。

【『進化しすぎた脳 中高生と語る〔大脳生理学〕の最前線』池谷裕二(朝日出版社、2004年)】

 知覚された情報は過去のものだが、意識は常に「現在」という座標軸に固定されている。例えば、我々が見ている北極星の光は430年前のものだが、光は年をとらない。そして意識は未来へと向かって開かれている。

 それにしても、0.5秒という誤差は驚くべきものだ。宇宙が生まれたのは137億年前だと考えられているが、刹那と久遠のはざ間に時間の本質が隠されている。

 しかも、トール・ノーレットランダーシュの『ユーザーイリュージョン 意識という幻想』(紀伊國屋書店、2002年)によれば、意識が生じる0.5秒前から脳内では準備電位が現れるという。とすると、本当のリアルを生きているのは無意識ということになるのか。

物語る行為の意味/『物語の哲学』野家啓一



視覚情報は“解釈”される/『人体大全 なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか』ビル・ブライソン