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2015-04-25

アブラハムの宗教入門/『まんが パレスチナ問題』山井教雄


神様:
ユダヤ教のヤハベ(エホバ)、キリスト教の神、イスラム教のアラー、みな同一の神様で、何を隠そう、私のことなんじゃ。でも、その頃は小さな部族集団だったユダヤ人の部族神でしかなかったんじゃ。「部族」というのは「民族」より小さい単位で、血がつながっていることを信じている人の集団じゃよ。

その頃は、各部族はそれぞれの部族神を持っていて、その部族神は土地や子孫の繁栄など、現世利益(りやく)を部族に約束するんじゃ。当然、土地をめぐって部族間で争いが起こり、負けた部族やその部族神は亡びるか、勝った部族に統合された。

キリスト教やイスラム教のような世界宗教の神としては、人類全体のことを考えなければいけないんだが、当時のユダヤ教の神としては、自分が選んだ民、ユダヤ人のことだけを考えていればよかったのじゃ。

【『まんが パレスチナ問題』山井教雄〈やまのい・のりお〉(講談社現代新書、2005年)以下同】

 アブラハムの宗教入門としてオススメである。「まんが」と題しているが、実際は「大きなイラスト」で、文章の殆どが科白(せりふ)として書かれている。

 もともと部族宗教であったユダヤ教から、キリスト教・イスラム教という世界宗教が生まれた。宗教人口はキリスト教が22.54億人(33.4%)でイスラム教が15億人(22.2%)、ユダヤ教が1509万人(0.2%)となっている(百科事典『ブリタニカ』年鑑2009年版)。米調査機関ピュー・リサーチ・センターによれば、2070年にはイスラム教徒とキリスト教徒がほぼ同数になり、2100年になるとイスラム教徒が最大勢力になると予測している(日本経済新聞 2015-04-06)。


 こうして一覧表にしてもらうと実にわかりやすい。日本人からすれば殆ど差はないように見えるが、それぞれの宗教が無数に分派している現実を思えば、教義に対する解釈論争の厳しさが浮かんでくる。

 アブラハムの宗教は啓典宗教である(『日本人のための宗教原論 あなたを宗教はどう助けてくれるのか』小室直樹)。神よりも言葉が重い。そしてその言葉の解釈を巡って争いが起こる。世界とは聖書世界を意味しており、神の存在証明を目指して西洋では学問が発展してきた。

 テキストを重んじることで宗教の機能は命令と禁止に転落した。複雑を極めたユダヤ律法に異を唱えたのがイエスであった。そしてイエスの弟子たちは同じ過ちを繰り返している。

まんが パレスチナ問題 (講談社現代新書)

2015-02-16

「石を拾って」有罪のパレスチナ14歳少女、イスラエルが早期釈放


 イスラエルは13日、イスラエル人への攻撃を企てたとして6週間にわたって収監していたパレスチナ自治区の14歳の少女を釈放した。自治区の子どもを有罪とし、収監したことについて、イスラエルに対する怒りの声が上がっている。

 パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区(West Bank)のトルカレム(Tulkarem)で活動するAFPカメラマンによると、同地で釈放されたマラク・アルハティブ(Malak al-Khatib)さんは両親や親族、自治体の首長らの出迎えを受けた後、約40キロ離れた自宅のあるベイティン(Beitin)村に戻った。

 マラクさんは昨年12月31日に学校から帰宅する途中で身柄を拘束され、軍事裁判で禁錮2か月の刑が言い渡されたが、イスラエルで拘束されているパレスチナ人の代理人を務める非政府組織「パレスティニアン・プリズナーズ・クラブ(Palestinian Prisoners' Club)」によると、年齢を考慮して2週間ほど減刑され、13日に釈放されたという。

 起訴状によると、マラクさんは自宅のある村の近くでイスラエル人の入植者たちが運転していた複数の車に向かって投げ付けるため「石をひとつ拾った」ほか、身柄を拘束された場合に備え、保安要員を傷つけるための刃物を所持していたという。

 釈放後、マラクさんはAFPの取材に対し、すべての罪を否定した。

 イスラエルは西岸地区で毎年、およそ1000人の子どもの身柄を拘束している。人権団体「ディフェンス・フォー・チルドレン・インターナショナル・パレスタイン(Defence for Children International Palestine)」 によると、理由は投石である場合が多い。

 また、前出のプリズナーズ・クラブによれば、イスラエルで収監されているパレスチナ人の未成年者は推定200人。そのうち女子はわずか4人で、マラクさんは最年少だった。

 イスラエル軍の報道官はマラクさんが収監された当時、有罪判決の確定前、マラクさんには司法取引の機会が与えられたと述べていた。だが、マラクさんの父親は、自白した内容にはほとんど意味がないと話している。

 父親は苦々しく、「14歳の子どもがイスラエル兵に取り囲まれれば、何の罪でも認めてしまう」、「核兵器の保有だって認めさせることができるだろう」と語った。

AFP 2015年02月15日

2014-08-13

ガザを見よ




AsSalawat:twitter

2014-05-09

シオニズムと民族主義/『なるほどそうだったのか!! パレスチナとイスラエル』高橋和夫


 パレスチナという土地はあるが、パレスチナという国はない。そこにあるのは、イスラエルという国と【ガザ地区】と、【ヨルダン川西岸地区】である。

【『なるほどそうだったのか!! パレスチナとイスラエル』高橋和夫(幻冬舎、2010年)】

 苦難が人生を変える。よくも悪くも。大変は「大きく変わる」と書く。現実に押し潰される人と現実を切り拓いてゆく人との違いは何か? それは他者への共感性であろう。他人の苦しみに共感できる人はその時点で既に学んでいる。

 だが共感だけだと共倒れになることがあり得る。特に女性の場合、愚痴っぽくなりやすい。共感の深度を掘り下げるのは価値観である。そう考えると他人の苦しみは他人の歴史と置き換えることが可能だ。つまり人間は歴史から学ぶのだ。

 その意味で私の精神風景を一変させたのはルワンダとパレスチナ、そしてインディアンであった。

 以前、ある教育者が「小野さんにとってのルワンダは、僕の場合、ポル・ポトなんですよ」と語った。こういう相手だと話が早い。歴史をひもとけば人類の悲惨は至るところにある。それを知らずして人間理解は不可能だろう。

 本書はパレスチナ入門の教科書本ともいうべき内容でよくまとまっている。

 ユダヤ人たちの、自分たちの国を創ろうという運動を【シオニズム】と呼ぶ。これはシオン山の“シオン”と“イズム”を合わせた言葉である。イズムとは、主義という意味の言葉である。主義というのは、この場合にはある政治的考えのための努力である。シオン山とは、【パレスチナの中心都市】のエルサレムの別名である。エルサレムは、標高835メートルほどの丘の上に建てられている。新東京タワー、つまりスカイツリーが635メートルの高さであるから、それより高い所に位置する都市である。
 ヨーロッパのユダヤ人がパレスチナに入ってくると、その土地に生活していたパレスチナ人との間に紛争が始まった。これが現在まで続く、パレスチナ問題の発端である。これは、つまり約120年間の紛争である。

 パレスチナを巡る問題には第二次世界大戦の欺瞞がシンボリックに現れている。シオニズムという言葉も1896年に考案されたものだ(『リウスのパレスチナ問題入門 さまよえるユダヤ人から血まよえるユダヤ人へ』エドワルド・デル・リウス)。すなわちユダヤ教徒は戦争というどさくさに紛れて、自分たちが創作した新しい物語を実現させたのだ。

 それでは、なぜヨーロッパのユダヤ人たちは、この時期にパレスチナへの移住を考えるようになったのだろうか。それは、ヨーロッパで19世紀末になってユダヤ人に対する迫害が激しくなったからである。では、どうしてであろうか。
 答えは、この時期にヨーロッパに【民族主義】が広まったからである。この民族主義がユダヤ人の迫害を引き起こした。

 民族主義は近代から生まれた。大雑把にいえばナポレオンフランス革命国民国家)、パックス・ブリタニカ産業革命資本主義)、アメリカ独立の三点セットだ。

近代を照らしてやまない巨星/『ナポレオン言行録』オクターブ・オブリ編
フランス革命は新聞なくしては成らなかった
歴史の本質と国民国家/『歴史とはなにか』岡田英弘
自由競争は帝国主義の論理/『アメリカの日本改造計画 マスコミが書けない「日米論」』関岡英之+イーストプレス特別取材班編
何が魔女狩りを終わらせたのか?
資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン

 つまり人類に国家意識が芽生えたのだ。産業革命で一人勝ちしたイギリスは帝国主義の刀を抜いて世界中を植民地化した。それまでは魔女狩りや戦争でヨーロッパの内側で殺し合いをやっていた連中の目が世界に向けられた時代であった。

 ヨーロッパにおけるユダヤ社会は、いびつである。なぜならば、地に足のついた生活をしている人々、つまり農民が少なかったからだ。

 土地を奪われたユダヤ人は流浪の民であることを運命づけられた(『離散するユダヤ人 イスラエルへの旅から』小岸昭)。彼らが土地(国家)を熱望した心情は理解できる。

 ユダヤ人の伝統的な仕事は、【金貸し】であり、商売人であり、仲買人であり、医者であり、弁護士であり、研究者であり、芸術家であり、音楽家であった。つまり組織に頼らず、【自分の才覚】のみで生きていた。これはユダヤ人が差別された結果であった。

 過酷な歴史がユダヤ人を鍛え上げた。資本主義が追い風となった。現在ではメディア支配にまで至っている。

 ナチス・ドイツによって600万人のユダヤ人が虐殺されたという記述があり(29ページ)、冒頭の論旨が台無しになっている。ナチスによるホロコーストをユダヤ人虐殺という文脈に書き換えたのはユダヤ資本である(『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』ノーマン・G・フィンケルスタイン)。

 パレスチナに興味を覚えた人は本書から入り、『「パレスチナが見たい」』森沢典子→『パレスチナ 新版』広河隆一→『新版 リウスのパレスチナ問題入門 さまよえるユダヤ人から血まよえるユダヤ人へ』エドワルド・デル・リウス→『ホロコースト産業 同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』ノーマン・G・フィンケルスタイン→『アラブ、祈りとしての文学』岡真理と進むのがよい。パレスチナ人は今日も殺されている(異形とされるパレスチナ人)。

なるほどそうだったのか!!パレスチナとイスラエル
高橋 和夫
幻冬舎
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2013-11-07

アラファト前議長、毒殺された可能性 遺骨からポロニウム検出


 中東の衛星テレビ局アルジャジーラ(Al-Jazeera)は6日、2004年に死去したパレスチナ解放機構(PLO)のヤセル・アラファト(Yasser Arafat)前議長の死因を調べていたスイスの科学者らが、放射性物質のポロニウムによる毒殺だった可能性が高いとの結論に至ったと報じた。

 カタールを拠点とする同テレビ局のウェブサイトに掲載された108ページに上る分析結果をまとめた報告書によると、前議長の遺骨を調べた結果「死因がポロニウム210による毒殺であるとの見方を、ある程度支持するものだった」という。

 アラファト前議長は2004年11月11日、フランスの病院で75歳で死去した。医師らは死因を特定できなかったが、夫人の希望により司法解剖は行われていなかった。

AFP 2013-11-07

Life of Lt. Gen. Yitzhak Rabin, 7th IDF Chief of Staff in photos

 なんということか。1994年にノーベル平和賞を受賞したこの二人は結局殺されてしまったのだ。

 1995年11月4日、ラビン首相はテルアビブの平和集会に出席した。
 彼は「私は闘ってきた。しかし平和は実現できなかった。だが今、私たちには平和のチャンスがある」と語り、そのあと10万人の群衆とともに「平和の歌」をうたった。この歌はかつてラビン自らが軍隊内で歌うことを禁じた反戦歌だった。
 しかし壇上から下りたラビンを、ユダヤ教過激派の青年イーガル・アミールの放った3発の銃弾が貫いた。彼は73歳の生涯を閉じたのである。イスラエル国民は激しい驚きと悲しみに包まれた。

【『パレスチナ 新版』広河隆一〈ひろかわ・りゅういち〉(岩波新書、2002年)】

 イスラエルはパレスチナとの和平を望んでいないのだろう。彼らの宗教的独善性は一切の邪悪を可能にする。

パレスチナ新版 (岩波新書)

9.11テロは物質文明の幻想を破壊した/『パレスチナ 新版』広河隆一
ロスチャイルド家がユダヤ人をパレスチナへ送り込んだ/『パレスチナ 新版』広河隆一
ユダヤ人少年「みなが、その共犯者さ」

2012-12-10

外科医オーベルラン ガザの証言を出版


 パレスチナのガザ地区で爆撃による麻痺患者に手術を施すフランス人医師クリストフ・オーベルラン氏。著作『ガザの時評2001年-2011年』の出版に際して。

2012-08-01

名前のない悲劇/『終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ』木村元彦、『アラブ、祈りとしての文学』岡真理


 キーボードを一心不乱に叩きながら彼女は語る。
「一番大きな問題は私たちのこの悲劇には名前がついていないことです。世界の注目どころか、国内でも無視され切り捨てられている」
 名前さえもついていない問題。確かにコソボ難民という言い方をすれば、ほとんどの外国人はアルバニア系住民のことを指すと思うだろう。

【『終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ』木村元彦〈きむら・ゆきひこ〉(集英社新書、2005年)】

 名前のない悲劇とは現在進行形の悲劇を意味する。終わらぬ惨禍は歴史として締め括ることができない。

 人間の言葉は名詞から始まったと考えられている。ヘレン・ケラーが最初に発した言葉は「ウォーター」であった。名は体を表す。存在論であろうと唯名論であろうと名前のないものは実在を認められない。

 人類史上において名前のない最大の悲劇といえば、イスラエルによるパレスチナ略奪である。第二次世界大戦のどさくさに紛れて、ロスチャイルド家が世界中のユダヤ人をパレスチナに移動させた。実に1948年からいまだに続く悲劇だ。

 世界から忘れ去られ、苦難に喘ぐ人々がもっとも必要としているもの、言い換えるならば、世界に自らの存在を書き込み、苦難から解放されるために致命的に必要とされるもの、それは、「イメージ」である。他者に対する私たちの人間的共感は、他者への想像力によって可能になるが、その私たちの想像力を可能にするのが「イメージ」であるからだ。逆に言えば、「イメージ」が決定的に存在しないということは、想像を働かせるよすがもないということだ。

【『アラブ、祈りとしての文学』岡真理(みすず書房、2008年)】

 岡真理の指摘がシオニズムの政治的意図を鋭く射抜く。電波や活字に乗らない事件は我々にとって存在しないも同然だ。ルワンダ大虐殺も当初は報じられなかった。海外からのニュースを取捨選択するのは西側メディアであることを我々はきちんと弁える必要がある。

終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ (集英社新書)  彼女の「正しい」名前とは何か―第三世界フェミニズムの思想 記憶/物語 (思考のフロンティア)

バルカンのホスピタリティ/『終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ』木村元彦
自爆せざるを得ないパレスチナの情況/『アラブ、祈りとしての文学』岡真理