このように、これらの古写真が写している明治時代から昭和時代中期までの山地・森林の状況は、現在の日本の森林の姿とはまるで異なっていたということがわかるだろう。実はこれらの古写真は荒廃の激しいところを選んで集めたものではない。場所はどこでもよかったのである。1950年代以前の、背景に山が写っている普通の農村の写真ならば、現在のような豊かな森は見えていないはずである。このころ、日本の森のかなりの部分はとても森とは呼べないほど衰退し、劣化していたのである。
【『森林飽和 国土の変貌を考える』太田猛彦〈おおた・たけひこ〉(NHKブックス、2012年)以下同】
上念司〈じょうねん・つかさ〉が『ニュース女子』で紹介していた一冊。上念の著書を読む気はないが内容を聞いてピンとくるものがあった。日本の国土は「約70%が山岳地帯で、その約67%が森林である」(Wikipedia)。ともすると「自然豊かな日本」という思い込みがあるが実は違う。戦前はハゲ山だらけだったというのだ。私が子供の時分、禿頭のことをハゲ山と呼ぶことがあったがこれもその名残りか。
近世から近代の日本で、都市近郊の山岳がほとんど禿げ山だったことはあまり知られていない。燃料を薪に依存していたためであり、大規模火災が多くて定期的に建築ラッシュが起こったためでもある。当然ながら山の保水力は低く、激甚な水害を招いた。 pic.twitter.com/jD9VsPnyV4
— ブラスコウ/秋友克也 (@sjxqr393) March 21, 2019
【近世から近代の日本で、都市近郊の山岳がほとんど禿げ山だったことはあまり知られていない - Togetter】
言い換えれば、江戸時代に生まれた村人が見渡す山のほとんどは、現在の発展途上国で広く見られるような荒れ果てた山か、劣化した森、そして草地であった。この事実を実感として把握しない限り、日本の山地・森林が今きわめて豊かであることや、国土環境が変貌し続けていることを正確に理解することはできないと思われる。
例えば奈良の大仏(745-752年)、大量の刀剣を必要としたであろう戦国時代(15世紀末-16世紀末)、本格的な貨幣経済が始まった江戸時代など金属製造には膨大な薪(まき)が欠かせない。一言で申せば「貨幣鋳造と武器製造が森林を破壊する」のだ。
ヨーロッパの場合は更に家畜文化が拍車をかけた(『環境と文明の世界史 人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ』石弘之、安田喜憲、湯浅赳男)。ブタが芽を食(は)み、ヤギは根っこまで食べた。
最も「自然豊かな日本」は現在の日本なのだ。ここでもう一つの思い込みを指摘しておこう。
「地球の肺」とも呼ばれる世界最大の熱帯雨林アマゾンで、記録的な森林火災が続いています。(中略)
アマゾンは日本の国土の約15倍に及ぶ面積550万平方キロメートルで、ブラジルやペルー、コロンビアなど南米7カ国に広がり、地球上の熱帯雨林のおよそ半分に相当します。地球上の酸素の2割を生み出しているといわれ、多様な動植物が暮らす生物の楽園です。
【「地球の肺」が呼吸困難 アマゾン火災、日本も関わりが:朝日新聞デジタル 2019年8月29日 8時30分】
全くのデタラメだ。森林は地球の酸素供給に寄与していない。
森林の大部分を占める植物は、たしかに二酸化炭素を吸収して光合成を行うが、同時に呼吸もして二酸化炭素を排出しているからだ。植物単体として見ると光合成の方が大きいこともある(その分、植物は生長する)が、森林全体としてみるとそうはいかない。(中略)
もっとも大きいのは菌類だ。いわゆるキノコやカビなどは、枯れた植物などを分解するが、その過程で呼吸して二酸化炭素を排出する。
地上に落ちた落葉や倒木なども熱帯ではあっと言う間に分解されるが、それは菌類の力だ。目に見えない菌糸が森林の土壌や樹木中に伸ばされており、菌が排出する二酸化炭素量は光合成で吸収する分に匹敵する。つまり二酸化炭素の増減はプラスマイナスゼロ。
だから森林を全体で見ると、酸素も二酸化炭素も出さない・吸収しないのだ。酸素を供給し二酸化炭素を吸収する森は、成長している森だ。面積を増やす、あるいは植物が太りバイオマスを増加させている森だけである。
【アマゾンは「地球の肺」ではない。森林火災にどう向き合うべきか(田中淳夫) - 個人 - Yahoo!ニュース】
だが、この20%という数字は、まったくの過大評価だ。むしろ、ここ数日で複数の科学者が指摘したように、人間が呼吸する酸素に対するアマゾンの純貢献量は、ほぼゼロと考えられる。
【「アマゾンは地球の酸素の20%を生産」は誤り | ナショナルジオグラフィック日本版サイト】
自慢気に紹介しているが私も最近知った次第である。成熟した森林は酸素を供給しないし二酸化炭素も排出しない。これをカーボンニュートラルという。
光合成に必要な太陽の光がとどくのは海面から70~80mぐらいですが、この海面に近いところに住む植物プランクトンや海藻によって、地球の酸素の3分の2がつくられています。
【海の自然のなるほど 「酸素は海からもつくられる」】
自然界において遊離酸素は、光合成によって水が光分解されることで生じ、海洋中の緑藻類やシアノバクテリアが地球大気中の酸素70パーセントを、残りは陸上の植物が作り出している。
【酸素 - Wikipedia】
進化の上でより下等な光合成を行うグループがあって(シアノバクテリアといいます)、それは地球上の大気に酸素をもたらしました。今、私たちが呼吸して酸素を吸っていますが、この酸素です。
【藻類(そうるい)ってなんですか? | 東京薬科大学のブログ | エコプロ2019】
細菌の中には、他にも光合成を行うグループが存在するが (光合成細菌と総称される)、酸素発生型光合成を行う細菌は藍藻のみである。藍藻は、系統的には細菌ドメイン (真正細菌) に属する原核生物であり、他の藻類よりも大腸菌や乳酸菌などに近縁である。そのため、シアノバクテリア (藍色細菌) (英: cyanobacteria) とよばれることも多い。
【藍藻 - Wikipedia】
これだけ日常的に平然と嘘を書き連ねる新聞を読む購読者が今もいることに驚く。彼らは何らかのファンタジーを必要としているのだろう。