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2022-01-29

アヘンに似た天然の脳内物質の産生を活性化させる糖分/『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』デイミアン・トンプソン


『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ

 ・短期的な報酬
 ・アヘンに似た天然の脳内物質の産生を活性化させる糖分

『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』アダム・オルター
『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン
・『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング
『果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?』ロバート・H・ラスティグ

 カップケーキの「虚しさ」が、カップケーキの魅力の一部になっている、というザンシ・クレイの言葉は本当だろうか? 圧倒的な糖分は、栄養士たちが“無意味(エンプティ)なカロリー”と呼ぶもので消費者を満たす。つまり栄養素はほとんどなく、無駄にカロリーだけが高いのだ。
 ただそうは言っても、カップケーキに気分を変える力がないわけではない。糖分依存症の研究を率いたプリンストン大学の神経科学者、バート・ホーベルによれば、糖分は、アヘンに似た天然の脳内物質「オピオイド」の産生を活性化させる。彼が行った研究では、糖分をむさぼり食ったラットは、糖分の供給が停止したときに離脱症状(薬などの摂取を減らす、もしくは断った際に生じる症状、いわゆる禁断症状)を示したそうだ。「私たちは、これこそ依存プロセスを解明するカギだと考えている。脳は、モルヒネやヘロインに依存するのと同じように、自ら生成するオピオイドに依存するようになる。薬物のほうが影響は強いが、本質的に同じプロセスであることには変わりない」とホーベルは言う。

【『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』デイミアン・トンプソン:中里京子訳(ダイヤモンド社、2014年)以下同】

 砂糖の危険性については知っている。ただ、穀物などの糖質との違いがよくわからない。砂糖(ショ糖)に比べるとご飯やパンは消化時間が遅い。糖分も穏やかに吸収されると主張する向きもある。いずれにしても美味しいものを毎日食べるのは自殺行為と心得てよろしい。

 日常生活においては意図的に粗食を心掛け、どんなに不味いものでも食べることができる口を鍛えるのがよい。ボスニア紛争の際には、「革靴や革ベルトを煮て食べた」との証言がある(『この大地に命与えられし者たちへ』写真・文 桃井和馬)。草の根を食(は)む程度の訓練はしておくのが望ましい。

 快楽に関する科学は、あらゆる起業のマーケット戦略で、いよいよ大きな役割を果たすようになってきた。ショッピングモールで焼きたてのドーナツの匂いを漂わせる企業のレシピは、キッチンで生まれたものではない。それは、研究所で徹底的に研究開発されたものだ。この点において、アップルは群を抜いている。消費者に製品を押しつけるという粗野な風味を、うっとりするようなミニマリストの美学で包みかくし、これほど精妙な欲望のカクテルを生み出す技は、他社の追随を許さない。

 携帯電話~PDA~ニンテンドーDS(2004年)~iPhone(2007年)でタッチスクリーンの時代が始まった。1990年代は情報端末の歴史において既に前近代と化した。間もなく中世に格下げされることだろう。

 最初に取り上げられる依存症物質はカップケーキ、iPhone、そして鎮痛剤の三つである。ウーム、どれも無縁だ。私がスマホにしたのは3ヶ月前のことである。日に二、三度、LINEをチェックするだけで依存症からは程遠い。持ち歩くのを忘れることも珍しくない。私にとってはただの電話である。

 ただしパソコンとなると話は別だ。私がスマホを使わないのはフリック入力に慣れていないことと、小さな画面に耐えられないという二つの理由が大きい。自宅にいればインターネットは接続しっ放しである。twitterは小依存、ブログは中依存、検索は大依存という症状を呈している。ただし、以前から見ると症状は和(やわ)らいでいる。昨年末にネット回線が1週間ほど不通になったが、インターネットカフェに走るようなこともなかった。

 つまるところ、【自分の感情を操作したいと願う私たちの「ニーズ」とその「能力」が、ともに増大している】のである。

 蛍光ペンで3回くらい塗り潰したい箇所だ。テクノロジーの進化によって我々は幸福よりも、多幸感(ユーフォリア)を欲するようになったのだろう(『戦争と罪責』野田正彰)。

 かつて「操作する」側はメーカーだった。21世紀は自分で自分の心を操作する時代になったのだ。しかも実にたやすい手法で。その入口を提供するのがiPhoneなのだ。SNS、ゲーム、動画、メールに費やす時間は実生活に支障を来すレベルとなっている。更に見逃せないのは、こうしたネットコンテンツの全てが心理学や行動経済学を駆使して利用者を依存症に仕立てるべく研究に研究を重ねている事実である。そしてメガテックはメタバースに舵を切った。

 私はかつてアメリカドラマ『24 TWENTY FOUR』にハマった時期がある。当時は完全に中毒症状を呈しており、レンタルビデオ店をハシゴしたこともあった。このドラマは24時間にわたってリアルタイムでストーリーが進行する。つまり丸一日で繰り広げられる事件を視聴者は見ることとなる。

 自分の病状もさることながら、自分の生活から完全に24時間分を奪われた事実に気づいた時、深く考えさせられた。例えば『50年』というドラマがあったとしよう。まあ面倒なんでこの際、睡眠時間は無視する。ドラマ『50年』を見た50年間をどう考えればいいのか? きっと実人生よりも刺激に満ちて、感動もできるに違いない。ある人の取るに足らない50年間と、ドラマを見た50年間の違いは何だろう? 私の思考はそこでぱったりと行き詰まった。答えはまだ出ていない。はっきりしているのは、私がドラマ『50年』を見ないことだ。

 情報過多になると行為の意味が変わる。岸田秀〈きしだ・しゅう〉は「現代における男性の性行為は女体を使った自慰行為に過ぎない」と喝破した(確か『ものぐさ精神分析』)。ただし男女関係の場合は、それなりの手続きが必要で実際にアクセスできるまでに時間を要する。恐ろしい想像ではあるが、異性を軽々と超えるセックスロボットができたとしよう。きっと人類は数世紀のうちに絶滅することだろう。依存症は破滅に向かう力を秘めている。

2022-01-28

短期的な報酬/『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』デイミアン・トンプソン


『浪費をつくり出す人々 パッカード著作集3』ヴァンス・パッカード
『クレイジー・ライク・アメリカ 心の病はいかに輸出されたか』イーサン・ウォッターズ

 ・短期的な報酬
 ・アヘンに似た天然の脳内物質の産生を活性化させる糖分

『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』アダム・オルター
『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン
『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング
『果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?』ロバート・H・ラスティグ

 この傾向が人間にそなわっているわけは、そもそも人間の脳が、即座に手に入る短期的な報酬を求めるように進化してきたからだ。私たちの祖先は、高エネルギーの果実をその場でむさぼり食ったり、性的刺激にすぐ反応したりしなければならなかった。そうしていなければ、あなたも私も、今、この世にはいないだろう。
 問題は、もはや身体的にも必要としておらず、種としての存続にも何の意味もないような報酬に満ちた環境を、私たちが築いてしまったことにある。たとえ必要のないものであっても、そういったものは報酬であるため――つまり、脳の中で期待感と快楽といった特定の感情を引きおこすため――私たちはつい手を伸ばさずにはいられない。
 言いかえれば、私たちは「【すぐに気分をよくしてくれるもの=フィックス】」に手を出してしまうのだ。

【『依存症ビジネス 「廃人」製造社会の真実』デイミアン・トンプソン:中里京子訳(ダイヤモンド社、2014年)以下同】

 生存率が低い環境であれば「短期的な報酬」に飛びつくことは生き延びる確率を上げることになる。肥満しやすいのも道理である。もしも明日から氷河期が訪れれば、痩せた人間から死んでゆくことは確実だ。

 たぶん文明の急激な発達に進化が追いつかない状態なのだろう。それを今、人類はデバイスで補おうとしているのだ。視覚以外の五感情報をデバイスで感知できるようになれば、いよいよポスト・ヒューマンの時代が幕を開ける。

 依存症について語る際には、たとえそれが取るに足らないことであっても、あるいは命に関わるたぐいの問題であっても、「欲望」というコンセプトが、「快楽」のコンセプトと同じぐらい重要になる、というより、たいていの場合、欲望は快楽より重要だ。なぜかと言うと、フィックスを手にすることへの期待感は、フィックスを消費した瞬間に得られる満足感に勝るからだ。消費したあとは、期待したほどではなかったという感覚がよく生まれ、そう感じると、心の中で子どもじみた怒りが爆発することがある。フィックスは私たちを幼児化する。ゆえに私たちは子どもたちと同じように、常に――そしてやっかいなことに――もっともっとほしいと求めつづけるのである。
 信じてほしい。私は自らの経験に基づいて話しているのだから。

 進化において欲望は肯定される。欲望こそが社会の原動力であり、文明発達のエンジンだ。『浪費をつくり出す人々』の原書刊行が1960年である。とすると第二次世界大戦の復興期には既に大衆をコントロールするための広告戦略やマインドコントロールテクニック、プロパガンダが行われていたのだ。資本主義世界を回す主役は戦争から「大衆消費」に変わったと考えられる。

 依存には様々な形がある。何らかの穴を埋める行動なのだろう。私の場合だと読書と喫煙である。昔は○○中毒や○○キチと表現した。『釣りキチ三平』にその残滓(ざんし)が見える。中毒は「毒に中(あた)る」の意であると思われるが、依存症の方が適切な言葉だろう(「依存」の読みを[イゾン]に変更 | ことば(放送用語) - 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所)。

 人類全体を見回すと明らかに文明依存症であり、技術革新中毒の症状を露呈している。この加速度はシンギュラリティに至るまで止まることがないだろう。欲望は実現するごとに肥大し、破滅というブレーキしか選択肢は残されていない。

 仏教は欲望を否定した。問題は人類が欲望から離れた時にどのような社会が出現するのかを巧みに提示し得なかった点にある。いや、本当はそんなことはどうでもいいことなんだが、大衆受けしない事実は残る。

2022-01-24

日本のジャーナリズムはまだ死んでいなかった/『あの時、バスは止まっていた 高知「白バイ衝突死」の闇』山下洋平


『記者の窓から 1 大きい車どけてちょうだい』読売新聞大阪社会部〔窓〕
『交通事故鑑定人 鑑定暦五〇年・駒沢幹也の事件ファイル』柳原三佳

 ・日本のジャーナリズムはまだ死んでいなかった

昭和の拷問王・紅林麻雄と袴田事件

必読書リスト その一

 男性は続ける。
「高知のマスコミは、どこも我々の話に耳を貸してくれないんです」
 一審判決後、地元のテレビ局がインタビュー取材を申し込んできたが、数時間待ちぼうけを食わされた末、連絡が取れなくなったという。

【『あの時、バスは止まっていた 高知「白バイ衝突死」の闇』山下洋平〈やました・ようへい〉(SBクリエイティブ、2009年)以下同】

 この一点だけでも事故が政治的な処理をされたことが窺える。テレビ・新聞といった大手メディアがこの国を戦後ミスリードし続けてきた。政官財の癒着ぶりを「鉄のトライアングル」と称するが、それを覆い隠す仕事をしているのが「報」と「放」なのだ。

 私が所属するKBS瀬戸内疱瘡は、香川県と岡山県を放送エリアとする放送局だ。同じ四国とはいえ、高知県には電波が届かず、放送は流れない。エリア向けに高知の行楽情報などを伝えることはあっても、そこで起きた事件や事故を取材することは、まずない。それでも、この男性は藁にもすがる思いで、かすかなつてを頼って私に連絡してきたのだろう。

 日本のジャーナリズムはまだ死んでいなかった。当然ではあるが警察側からの嫌がらせや意趣返しを覚悟しなければならない。有力政治家が動けばスポンサーにまで手を回すこともあり得るだろう。

 1年半前の事故について聞いた。
「バスは止まっていました。そこに横からすごい衝撃があって……」
「動いていたっていう感覚は全然ないです」
「急ブレーキをかけたということはないですね」
 取材を受ける戸惑いはあっただろう。ぽつりぽつりと、しかし確かな口調で生徒たちは語り始めた。皆、「中央分離帯付近で止まっていたバスに、白バイが横から突っ込んできた」と言うのだ。
 これに対し、高知地裁の判決は、「バスが右方向の安全確認を怠り、漫然と時速5キロないし10キロメートルで道路に進出し、白バイ隊員を跳ね飛ばした」と認定していた。バスは動いていたとされた。

「裁判では、僕たちが実体験した事故とは全く別ものになっている」
 一人の生徒はこう言い切る。この食い違いは何なのか。

 本書を読む限りでは裁判所も警察とグルであると言わざるを得ない。要は、速度違反でバスにぶつかり即死した白バイ隊員の保険金を詐取するために高知県警が証拠を捏造(ねつぞう)したのだ。加害責任ありとされたバス運転手は服役し、免許を失い、仕事も失った。まったく酷い話だ。テロが起きても不思議ではない。

 本書を読んでつくづく考えさせられたのだが、いつまで経っても左翼がなくならない理由がよくわかった。権力にブレーキをかける仕組みがこの国には存在しないのだ。裁判制度の抜本的変革が必要だ。裁判をネット公開するのは簡単にできると思う。裁判官と検事を裁く法整備も必要だ。もちろん司法の完全独立が前提となる。

2021-11-22

拷問され、麻酔なしで切り刻まれるウイグル人/『命がけの証言』清水ともみ、楊海英


『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』ヴィクトール・E・フランクル:霜山徳爾訳
『アウシュヴィッツは終わらない あるイタリア人生存者の考察』プリーモ・レーヴィ
『ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記』レヴェリアン・ルラングァ
『私の身に起きたこと とあるウイグル人女性の証言』清水ともみ

 ・拷問され、麻酔なしで切り刻まれるウイグル人

『AI監獄ウイグル』ジェフリー・ケイジ

必読書リスト その一

【『命がけの証言』清水ともみ、楊海英〈よう・かいえい〉(ワック、2021年)以下同】










2021-11-20

隣国で行われている現在進行系の大虐殺/『私の身に起きたこと とあるウイグル人女性の証言』清水ともみ


『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』ヴィクトール・E・フランクル:霜山徳爾訳
『アウシュヴィッツは終わらない あるイタリア人生存者の考察』プリーモ・レーヴィ
『ルワンダ大虐殺 世界で一番悲しい光景を見た青年の手記』レヴェリアン・ルラングァ

 ・隣国で行われている現在進行系の大虐殺

『命がけの証言』清水ともみ
『AI監獄ウイグル』ジェフリー・ケイジ

必読書リスト その一

【『私の身に起きたこと とあるウイグル人女性の証言』清水ともみ(季節社、2020年)】

 清水ともみが『その國の名を誰も言わない』に続いて2019年8月にツイッターで発表・公開した作品である。作家の百田尚樹が虎ノ門ニュースで全編を紹介し、広く知られるようになった。ネット上で公開されているが、本書と『命がけの証言』は是非とも購入していただきたい。2640円の喜捨と考えて欲しい。既に新聞やテレビでは世界を知ることはできない。犠牲者の声は圧力によって封殺される。経済的な見返りのためなら臓器狩りや虐殺も見て見ぬ振りをするのが親中派政治家や経団連の流儀である。

 岡真理はパレスチナの若者を見てこう思った。「むしろ不思議なのは、このような救いのない情況のなかで、それでもなおジハードが、そしてほかにも無数にいるであろう彼のような青年たちが、自爆を思いとどまっていることのほうだった」(『アラブ、祈りとしての文学』岡真理)。国際社会は国益を巡るゲームである。ルワンダ大虐殺の時も国連は動かなかった。目立った報道すらなかった。それどころか同じ信仰を持つイスラム世界も沈黙を保っている。インドネシアではムスリムによる反中デモが行われたが、インドネシア政府はウイグル人服役囚を中国に強制送還している。

 米軍が撤退した途端、アフガニスタンをタリバンが完全に支配した。権力の真空が生まれることはなかった。中国共産党はアメリカが退いたところに進出するという単純な攻撃法で国際的な影響力を高めている。WHOなどが典型だ。

 アメリカはトランプ大統領が対中制裁に舵を切ったが、政策を引き継いだバイデン政権の動きは鈍いように感じる。言葉だけが虚しく響いているような気がする。

 ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は共産主義者ではなかったから
 社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった 私は社会民主主義者ではなかったから
 彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった 私は労働組合員ではなかったから
 そして、彼らが私を攻撃したとき 私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった

マルティン・ニーメラー

 ニーメラーの悔恨は最初の迫害を他人事と捉えたところにあった。虐殺されているのはウイグル人ではない。我々なのだ。

 




清水ともみ|note
香港でも拡散!8.6万RTウイグル漫画『私の身に起きたこと』が描かれるまで(FRaU編集部) | FRaU
ウイグルの人権問題を描いた漫画に反響 作者「怖かったけど、天命」:朝日新聞GLOBE+

2021-11-15

ラバのように子孫ができない野菜/『タネが危ない』野口勲


『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
『面白いほどよくわかる「タブー」の世界地図 マフィア、原理主義から黒幕まで、世界を牛耳るタブー勢力の全貌(学校で教えない教科書)』世界情勢を読む会
『自殺する種子 アグロバイオ企業が食を支配する』安田節子

 ・ラバのように子孫ができない野菜

『野菜は小さい方を選びなさい』岡本よりたか
『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』ゲイブ・ブラウン

 もともと地方野菜とは、よそから伝播してその地の気候風土に馴化した野菜ばかりなのだから当然である。これこそ人間が移動手段を提供したために、旅をしながら遺伝子を変化させ続けてきた、野菜本来の生命力の発露なのだ。
 生命にとって変化は自然なことで、停滞は生命力の喪失である。変化を失った生命はもう生命とは言えない。気候風土や遭遇する病虫害に合わせ、己自身の内なる遺伝子に変化を促し続けてきた地方野菜こそ、生命力をたぎらせた野菜本来の姿なのだ。

【『タネが危ない』野口勲〈のぐち・いさお〉(日本経済新聞出版、2011年)以下同】

 読んだのは2014年の7月である。衝撃を受けた。

 と書いた後、パソコンの調子が悪くなった。リフレッシュした後、インターネット接続ができなくなり、その後初期化もできず、仕方がないのでノートパソコンを引っ張り出した。画面が小さいと書く気が失せる。

 話を戻そう。7年経つと些(いささ)か説得力が弱くなっている。私は宗教と科学についてはそこそこ鼻が利くのだが、殊(こと)、食に関しては批判力が弱まる。「ヘエー、フーン」なんて感じで読んでしまうのが常だが、おしなべて狭い考え方が前面に出ており、猛々しい否定でもって「我尊(たっと)し」と主張するものが多い。例えば糖質制限なども書籍によって糖質制限以外のアドバイスがバラバラで統一見解にまで至っていない。何にも増して平均寿命が伸びている現実を無視している著者が多い。まあ、赤ん坊の死亡率減少が最たる理由であったとしても、そこに触れなければQOL(生活の質)もへったくれもないだろう。

 本書では「一代雑種(F1、First Filial Generation)」としているが、Wikipediaでは「雑種第一代:Filial 1 hybrid」となっている。どちらが正しいのかは判然とせず。

 現在スーパーなどで普通に売られている野菜のタネは、ほとんどがF1とか交配種と言われる一代限りの雑種(英語ではハイブリッド)のタネになってしまっていて、この雑種からタネを採っても親と同じ野菜はできず、姿形がメチャクチャな異品種ばかりになってしまう。

 要はラバと同じなのだ。雄のロバと雌の馬を掛け合わせるとラバができる。しかしラバは繁殖することができない。F1種の場合、2代目、3代目はできるようだが異形になるらしい。雑種強勢が働くのだからよしとするのが推進派の考え方だ。「本来の姿」を思えば、ラバもまた人間の都合で勝手に作られた畸形(きけい)と言っていいだろう。私が座敷犬を好きになれないのも同じ理由のため。

 東京オリンピックを契機にした高度成長時代以降、日本中の野菜のタネが、自家採種できず、毎年種苗会社から買うしかないF1タネに変わってしまった。
 F1全盛時代の理由の第一は、大量生産・大量消費社会の要請である。収穫物である野菜も工業製品のように均質であらねばならないという市場の要求が強くなった。箱に入れた大根が直径8センチ、長さ38センチというように、どれも規格通りに揃っていれば、1本100円というように同じ価格で売りやすくなる。経済効率最優先の時代に必要な技術革新であったと言えるだろう。
 これに比べ、昔の大根は同じ品種でも大きさや重さがまちまちで、そのため昔は野菜を一貫目いくらとか秤にかけて売っていた。

 消費者と販売業者と生産者の呼吸が一致したわけだ。F1種は皆の要求から生まれたことがわかる。ただし、そうした事実が消費者に知らされていない。せめて「種のならない一代限りの雑種強勢」であることは伝えるべきだろう。

 近年、全国の種苗店のみならず、ホームセンター、JAでも、F1のタネばかり販売するようになったが、野口種苗は全国で唯一、固定種のタネの専門店を自称している。揃いが悪いので市場出荷には向かないけれど、味が好まれ昔から作り続けられてきた固定種は、家庭菜園で味わい、楽しむ野菜にはぴったりだ。

 野口勲は三代目である。

伝統野菜や固定種の種の通販|野口のタネ・野口種苗研究所

 大学を中退し、手塚治虫の虫プロに入社。『火の鳥』の編集者を務めた。そんな経緯にも触れている。

 私もそろそろ農業に手をつけようと考えているのだが、その時は野口のタネを利用したい。

「一粒万倍」という言葉に示されるように、一粒の菜(な)っ葉(ぱ)のタネは、1年後に約1万倍に増え、2年後はその1万倍で1億粒。3年後には1兆粒。4年後はなんと1京粒だ。健康な1粒のタネは、こんな宇宙規模にも匹敵する生命力を秘めている。

 F1種は遺伝子組み換えではないのだが不自然なことに変わりはない。最も厄介なのは消化機能の化学的メカニズムがよくわかってないことだ。食物のカロリーが全て体内で燃焼するわけでもない。だからといって大自然万歳と言うのもそそっかしい。多くの植物が外敵から身を守るために毒を放っているのだから。

 種苗メーカーや産地指導にあたる農業センターの人の話によると、外食産業の要求は、「味付けは我々がやるから、味のない野菜を作ってくれ。また、ゴミが出ず、菌体量の少ない野菜を供給してくれ」ということだそうだ。こうして世の中に流通する野菜は、どんどん味気がなくなり、機械調理に適した外観ばかり整った食材に変化していく。

 大手チェーン店の正体見たり。そのうち絶妙な味付けをした軟(やわ)らかいプラスチックを食べさせられるかもね。有名チェーン店で食事をするのは危険だな。

 もともと日本にあった野菜はわさびやフキ、ミツバ、ウドぐらいで、それ以外は世界中から入ってきて、日本の気候風土になじんだ伝来種である。遺伝子が本来持つ多様性や環境適応性が発揮されて、3年も自家採種を続ければ、新しい土地の野菜に育ってくれる。

 では古代人は何を食べていたのか? ドングリ、栗、魚、貝は知っている。アフリカから遠路はるばる極東の地まで辿り着いたわけだから、それ相応の知識が蓄積されていたはずだ。人類の進路は食料によって切り拓かれたことだろう。食べ物が乏しい地域では皆が死んでしまったはずだ。水と食料は絶対不可欠だ。

 私が気をつけているのは、まず美味しいと感じること、次に飽きないこと、そして体が温まることの3点である。先日、初めて大根の葉の味噌汁を作ったのだが、それほど美味くなかった。が、体が温まったのでよしとする。赤味噌を混ぜたのがよかったのかもしれない。茎が硬いのには大いに閉口した。

 自然ということを踏まえれば、年がら年中米を食べるのは明らかにおかしい。秋から冬にかけて食べるのが正しいと思う。あるいは根菜もまたしょっちゅう手に入るものではないだろう。でも、そう考えると毎日食べることができるのは魚と葉っぱくらいしか思い浮かばない。そろそろ昆虫食を考えるタイミングだな。

 蜂群崩壊症候群に関してもF1原因説を唱えているが果たしてどうか?



炭水化物抜きダイエットをすると死亡率が高まる/『宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議』吉田たかよし

2021-09-17

日本の家族制度崩壊を目論む左翼ネットワーク/『実子誘拐ビジネスの闇』池田良子


『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』福田ますみ
『証拠調査士は見た! すぐ隣にいる悪辣非道な面々』平塚俊樹
『いま沖縄で起きている大変なこと 中国による「沖縄のクリミア化」が始まる』惠隆之介
『北海道が危ない!』砂澤陣
『これでも公共放送かNHK! 君たちに受信料徴収の資格などない』小山和伸
『ちょっと待て!!自治基本条例 まだまだ危険、よく考えよう』村田春樹

 ・日本の家族制度崩壊を目論む左翼ネットワーク

「連れ去り」は無罪、「連れ戻し」は誘拐犯

 2005年12月6日の最高裁判決が、諸悪の根源と言われている。
 この判決では「母親の監護下にある2歳の子どもを別居中の共同親権者である父親が連れ去った行為は略取行為に該当し、違法性も阻却(そきゃく)されない」とし、子どもの父親に未成年者略取誘拐罪を適用した。
 それまで、夫婦の間で諍(いさか)いが起こった場合、子どもを果てしなくとりあうことが数多くあった。ある会社の社長は、幼少期、自分を取り戻そうと探し続ける父親から自分を奪い返されるのを恐れる母親により、転々と住居を変えさせられ、転校を何十回とさせられたと、涙ながらに語ってくれた。
 そのような終わりのない子どもの奪い合いに終止符を打つという意味では、2005年の最高裁判決は意味があるように見える。
 しかし、この最高裁判決は、とんでもない結果を引き起こした。「実子誘拐」ビジネスという世界に例を見ない醜悪(しゅうあく)なビジネスを、この国に根付かせてしまったのだ。
 どういうことか。
 冒頭で紹介した記事を注意深く見てもらえばわかるが、この最高裁判決に基づき「未成年者略取誘拐罪」が適用されるのは、子どもと別居している親が同居している親から子どもを取り戻そうとする「連れ戻し」の時のみ、ということである。
 言い換えれば、同居している親が子どもを連れて家を出る行為には、未成年者略取誘拐罪が適用されないということだ。そればかりか、裁判所は、「継続性の原則(別居した夫婦の間の子どもが、一定期間一方の親と同居し、安定した生活を送っている場合は、その現状維持が子どもの利益とみなす考え方)」に基づき、子どもを連れて家を出た親に親権を与える判決を下すのが常。しかし、このような原則は法律上どこにも規定がない。
 裁判所が自分たちの都合で考案したルールであり、そんな不条理なルールが裁判所で堂々と使われているのである。
 その結果、どうなったかと言えば「先に連れ去った者勝ち」という状況ができあがってしまった、ということだ。
  同居中に、一方の親の同意なく子どもを連れて家を出ても、誘拐罪は適用されず逮捕されることもない。そして、一度家を出てしまえば「別居状態」を作ることができる。その後もう一方の親が子どもを連れ戻しに来た際に警察に通報すれば、警察が「誘拐犯」としてもう一方の親を逮捕してくれる。

【『実子誘拐ビジネスの闇』池田良子〈いけだ・よしこ〉(飛鳥新社、2021年)】

 つまみ食いするつもりで開いたら一気に読了してしまった。当初、必読書に入れようと思ったのだが思いとどまった。筆致が福田ますみと似ていたためだ。福田本は事実を逆さまに書いているとの指摘がある。

福岡市立小学校教諭人種差別的児童いじめ事件 – 教育資料庫

 更にネット上では著者と教師が創価学会員であるという説まで浮上している。かような本を一度鵜呑みにしてしまうと、似たような文章に出会えば、そりゃ疑いたくなるというもの。しかも、本書では人権派(=左翼)弁護士~左翼知識人~裁判官のタッグが日本の家族制度崩壊を目論む様を鮮やかに描いているのだが、ものの見事に利用された公明党や創価学会系出版社にまで言及している。

 文章は絵筆と似ている。素晴らしい絵が現実を描写したものとは限らない。それと同様に文章は嘘をつける。

 いずれにせよ、左翼ネットワークの連携プレーを知る恰好の教科書であるのは確かだ。ただし、法律的な意味合いはよくよく吟味する必要があるだろう。

2020-12-22

プロパガンダ装置として作動するフェイスブック/『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー


・『トゥルーマン・ショー』ピーター・ウィアー監督
『すばらしい新世界』オルダス・ハクスリー
『一九八四年』ジョージ・オーウェル
『服従の心理』スタンレー・ミルグラム
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』ダン・アリエリー
『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』ルディー和子
SNSと心理戦争 今さら聞けない“世論操作”

 ・プロパガンダ装置として作動するフェイスブック

『アメリカ民主党の崩壊2001-2020』渡辺惣樹
『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール
『快感回路 なぜ気持ちいいのかなぜやめられないのか』デイヴィッド・J・リンデン
『もっと! 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』ダニエル・Z・リーバーマン、マイケル・E・ロング
『ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する』ジョナサン・ゴットシャル

必読書リスト その五

  「デジタルコモンズ」一大拠点で進む社会の分断

 数億人ものアメリカ人がフェイスブックユーザーになっている。写真をシェアしたり、セレブをフォローしたりできる「楽しくて無害な場所」と思って。友人とつながり、ゲームやアプリで退屈しのぎをするのに「便利な場所」と思って。フェイスブックからは、「ここは人と人とをつなげてコミュニティーをつくる場所」との説明を受けている。実はここに落とし穴がある。同社が描くコミュニティーの世界では、同類が集まるコミュニティーが無数に誕生し、それぞれが隔離されているのだ。
 フェイスブックはユーザーを観察し、投稿を読み、友人との交流を調べる。そのうえでアルゴリズムを使ってユーザーをカテゴリー化し、デジタルコミュニティーをつくる。個々のデジタルコミュニティーを構成するのは、フェイスブックが「ルックアライク(類似した消費傾向や行動様式を持つユーザー)」と呼ぶ同類だ。もちろん目的はターゲティング広告。それぞれのカテゴリー用にカスタム仕様にしたナラティブを渡すわけだ。ユーザーの大半は自分が特定のカテゴリーに入れられているとは気付かないし、ほかのカテゴリーから切り離されているとも気付かない。当然のことながら、ルックアライクごとのカテゴリー化が進めば進むほど、社会がますます分断されていく。これがソーシャルメディアの実態だ。
 アメリカはソーシャルメディアを生誕地として、ニュースフィードやフォロワー、「いいね!」、者絵などで成り立つ「デジタルコモンズ(デジタル共有資源)」の一大拠点になった。気候変動は海岸線や森林、野生生物に少しずつゆっくりと影響を及ぼしており、全体像を把握するのは難しい。ソーシャルメディアも同じで、社会にどんな影響を及ぼしているのか、全体像は簡単には把握できない。
 それでも個別事例は確認できる。ソーシャルメディアが猛威を振るい、突如として国全体を揺るがすこともあるのだ。2010年代半ばのこと。フェイスブックはミャンマーに参入して急成長し、人口5300万人の同国であっという間に2000万人のユーザーを得た。同社のアプリはミャンマーで売られるスマホの多くにプリインストールされ、国民にとって主要なニュースソースになった。
 17年8月、フェイスブック上でヘイトスピーチが拡散した。イスラム系少数民族ロヒンギャを標的にし、「イスラム教徒のいないミャンマー」といったナラティブが流れたり、地域一帯の民族浄化を求める声が広がったりしていた。このようなプロパガンダを用意して拡散させたのは、情報戦を展開する軍部だった。ロヒンギャの戦闘員が警察施設を襲撃すると、ミャンマー軍はオンライン上での支持拡大をテコにして大規模な報復に出た。何万人にも上るロヒンギャ族を殺害したり、れいぷしたり、重傷を負わせたりしたのである。軍部以外も虐殺に加担し、フェイスブック上ではロヒンギャ攻撃を求める動きが強まる一方だった。ロヒンギャの村落が焼き払われ、70万人以上のロヒンギャ難民が国教を越えてバングラデシュに流れ込んだ。
 そんななか、フェイスブックはミャンマー内外の団体から繰り返し非難された。結局、やむにやまれず行動を起こした。自社プラットフォーム上からロヒンギャの反政府勢力を排除したのだ。ミャンマー軍と親政府勢力はそのままにして。当然ながらロヒンギャに対するヘイトスピーチはその後も拡散し続けた。国連はミャンマーの状況について「教科書に出てくるような民族浄化の典型例」と糾弾していたのに、フェイスブックの耳には届かなかったようだ。
 18年3月、国連はついに「ロヒンギャの民族浄化でフェイスブックは決定的役割を果たした」と結論した。フェイスブックはフリクションレス(ストレスがなくスピーディーという意味)な設計思想に基づいているから、ヘイトスピーチを信じられないようなスピードで拡散させ、暴力を助長する格好になった。これに対するフェイスブックの反応はよそよそしく、まさにオーウェリアン(全体主義的な監視社会)的だった。4万人の民族浄化に加担したと指摘されたのに、「われわれはヘイトスピーチや暴力的コンテンツの排除に全力で取り組んでいます。プラットフォーム上にはヘイトも暴力も入り込む余地はありません」との声明を出したのだ。これを読んで世界各地の独裁者はどう思っただろうか。独裁体制を維持するうえでフェイスブックほど頼りになる民間企業はない、と結論したのではないだろうか。
 インターネットの誕生によって素晴らしい世界が到来する――。最初はインターネットに対する期待は大きかった。人と人を隔てるバリアが取り払われ、突如として誰もが世界中の誰とでも話ができるようになるのだから。
 実際には違う世界が現れ、現実社会の問題を増幅させている。人々はソーシャルメディア上で何時間も過ごし、似たような思考や趣味を持つユーザーをフォローする。そのうち地区別にキュレーションされたニュース記事を読むようになる。キュレーションを行っているのはフェイスブックのアルゴリズムであり、アルゴリズムの唯一の“道徳規範”はクリックスルー率(インターネット広告の効果を測る指標)だ。
 これは何を意味しているのか。キュレーションされたニュース記事は一元的な価値観を前面に出し、ユーザーをクリック中毒のような極端な行動に走らせる。結果として起きるのが「認知セグリゲーション (隔離)」だ。ユーザーはそれぞれの「情報ゲットー」へ隔離され、その延長線上で現実社会の分断を引き起こす。フェイスブックが言う「コミュニティー」は、実は「ゲーテッドコミュニティー」なのだ。

【『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー:牧野洋〈まきの・よう〉(新潮社、2020年)】

 鈴木傾城〈すずき・けいせい〉のブログで「フェイスブックを使うと個人情報がバレバレになる」との記述を読み、私は直ちに撤収した。半年ほどしか使っていなかったこともあり特に不便は感じなかった。少し経ってGoogle+のサービスが終了した。SNS覇権を制したのはフェイスブック、ツイッター、インスタグラムで、フリッカーやタンブラーは出遅れた感がある。

 本書はロシアゲート問題の重要な証言である。クリストファー・ワイリーはカナダ生まれで、10代から選挙運動に関わってきたコンピュータプログラマーだった。マイクロターゲティングという手法を編み出し、アルゴリズムで「特定のグループに分類された人々の行動や興味・関心、意見等をデータ解析によって予見し、そこから彼らにとって最も効果的な反応を引き出すメッセージが発信される」(Wikipedia)。

 彼に目をつけたのがイギリスのケンブリッジ・アナティリカ社(以下CA社)でワイリーを引き抜き、ケニア大統領選挙でケニヤッタ陣営の選挙運動全般を請け負い、ハニートラップをも駆使して勝利に導いた。ナイジェリアの大統領選挙にも介入し実績を積み重ねた。

 15年発表の研究論文──執筆者はヨウヨウ、コシンスキー、スティルウェルの3人──によれば、人間行動の予測という点では、フェイスブックの「いいね!」を利用するコンピューターモデルは圧倒的なパフォーマンスをたたき出す。
 Aの行動を予測するとしよう。「いいね!」10個で、Aの職場の同僚よりも正確に予測できる。150個で、Aの家族よりも正確に予測できる。300個で、Aの配偶者よりも正確に予測できる。なぜこうなるのか? 友人や同僚、配偶者、両親はAの人生の一面しか見ていないからだ。

トランプ当選のためSNSから8700万人分の個人情報を抜き取った男の手口 巧妙な「性格診断アプリ」というワナ | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

 ワイリーはフェイスブック経由で「マイパーソナリティー」という性格診断アプリをダウンロードさせることで個人情報を掌握し、更には友人関係の情報まで芋づる式に掻き集めた。アメリカから風采の上がらない中年男性がやってきた。スティーブ・バノンである。バノンはCA社にロバート・マーサーと娘のレベッカを紹介した。アメリカ保守系の超タカ派で共和党の有力スポンサーだ。CA社はマイクロターゲティングを用いてトランプ陣営のバックアップに取り組む。ワイリーは知らなかったがCA社はロシアとも深い関係を結んでいた。

 フェイスブック社のデータ管理は元々杜撰な上、データ研究を推奨していた。フェイスブックはプログラマーからすれば十分過ぎる情報の宝庫であった。

 これを「心理戦版大量破壊兵器」と呼ぶのが適当かどうかは微妙だ。なぜなら「緻密なマーケティング」とも言い得るからだ。つまりマインド・ハッキング(原題は「Mindf*ck」)か誘導かがはっきりしないのだ。これをマインドハックとしてしまえば全ての宣伝広告はマインドハックになってしまう。

 文章が巧みでIQの高さが窺えるが、如何せん初めにトランプ批判ありきで妙な政治色を帯びている。トランプ批判が具体的であるのに対して、オバマを一方的に持ち上げるのは彼がゲイであるため民主党に肩入れしているようにしか見えない。

 オバマ政権に関しては北野幸伯〈きたの・よしのり〉が前半は駄目だったが、後半は米国にとってよい政権だったと指摘している。

 尚、訳者の牧野洋は武田邦彦を個人攻撃したファクトチェック・イニシアティブのアドバイザーを務めていることを付記しておく。



CNN.co.jp : トランプ大統領、駆け込みで恩赦と減刑 ロシア疑惑で有罪の2人も
行動嗜癖を誘発するSNS/『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』アダム・オルター

2011-08-08

モンサント社が開発するターミネーター技術/『自殺する種子 アグロバイオ企業が食を支配する』安田節子


『給食で死ぬ!! いじめ・非行・暴力が給食を変えたらなくなり、優秀校になった長野・真田町の奇跡!!』大塚貢、西村修、鈴木昭平
『伝統食の復権 栄養素信仰の呪縛を解く』島田彰夫
『親指はなぜ太いのか 直立二足歩行の起原に迫る』島泰三

 ・モンサント社が開発するターミネーター技術

『タネが危ない』野口勲
『野菜は小さい方を選びなさい』岡本よりたか
『土を育てる 自然をよみがえらせる土壌革命』ゲイブ・ブラウン

 世界はカラクリで動いている。金融というゼンマイを巻くことで経済という仕掛けが作動する仕組みだ。そもそも資本主義経済は壮大なねずみ講といってよい。消費者に損をしたと思わせないために広告代理店がメディアを牛耳っている。テレビCMは五感を刺激し欲望を掻(か)き立てる。経済通は口を開けばGDPの成長を促す。生産と消費は食物摂取と排泄(はいせつ)みたいなものだ。あ、そうか、我々は無理矢理エサを食べさせられるガチョウってわけだな。

フォアグラができるまでアヒルのワルツver.

 ローマクラブが『成長の限界』で人類の危機を指摘したのが1972年のこと。これが椅子取りゲームの合図であった。エネルギーと食糧を先進国で支配し、発展途上国が豊かになることを未然に防ごうとしたわけだ。

世界中でもっとも成功した社会は「原始的な社会」/『人間の境界はどこにあるのだろう?』フェリペ・フェルナンデス=アルメスト

 先物相場で取引されるものをコモディティ(商品)というが、貴金属と非鉄金属以外は食糧とエネルギーである。元々生産者を保護するための先物相場は大阪の堂島米会所から始まったものだ。ところが現在は完全に投機の対象となっている。

 日本の食糧自給率はカロリーベースで40%、生産額ベースで70%となっている(2009年)。これは多分、アメリカの戦後支配によって誘導されてきた結果であろう。敗戦の翌年(1946年)、学校給食にパンが用いられた。アメリカ国内で小麦が余っていたためだ。

戦後の食の歴史を学ぶ:「日本侵攻 アメリカ小麦戦略」
現在のアレルギー性疾患増加は戦後の「栄養改善運動」と学校給食、そしてアメリカの小麦戦略によって作られた

 食糧とエネルギー、はたまた軍事に至るまで外国頼みである以上、日本が国家として独立することは極めて困難だ。

 そしてアメリカはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)という新ルールを日本に課すことで、カラクリを一層強化しようと目論んでいる。

中野剛志

 アグロバイオ(農業関連バイオテクノロジー〔生命工学〕)企業が、特許をかけるなどして着々と種子を囲い込み、企業の支配力を強めています。究極の種子支配技術として開発されたのが、自殺種子技術です。この技術を種に施せば、その種子から育つ作物に結実する第二世代の種は、自殺してしまうのです。次の季節にそなえて種を取り置いても、その種は自殺してしまいますから、農家は毎年種を買わざるを得なくなります。
 この技術は別名「ターミネーター・テクノロジー」と呼ばれています。『ターミネーター』という映画(1985年、米国)をご覧になった方もあるでしょう。(中略)次の世代を抹殺する自殺種子技術の非道さは、まさに映画の殺人マシーン〈ターミネーター〉と重なります。
 この技術の特許を持つ巨大アグロバイオ企業が、世界の種子会社を根こそぎ買収し、今日では、出資産業が彼ら一握りのものに寡占化されています。彼らは、農家の種採りが企業の大きな損失になっていると考え、それを違法とするべく活動を進めているのです。

【『自殺する種子 アグロバイオ企業が食を支配する』安田節子(平凡社新書、2009年)以下同】

 検索したのだが、創業者であるジョン・F・クイーニーの情報がネット上に見当たらない。完全支配の発想がユダヤ的だと思うのだがどうだろうか。種の生殺与奪を握る権限という考え方はアジアからは生まれそうにない。砂漠で生きてきた民族の思考に由来するものだろう。

 病的な発想だ。きっと宗教的な妄想に取り付かれているのだろう。こんな連中が世界を支配しているのだから、貧困がなくなるわけもない。というよりはむしろ、彼らによって貧困が維持されていると考えるべきだろう。

 途上国はおしなべて農業国といえるのですが、農業国でなぜ飢えるのか。それは世界銀行が指南してきた開発モデルに従い、債務を返済するために地場の自給農業をやめて、農地ではもっぱら先進国向けの換金作物を生産しているからです。バナナ、サトウキビ、綿花、コーヒー、パーム椰子などを生産し輸出する、穀物は米国やフランスなど先進国からの輸入に依存するという構造を押しつけられてきました。
 世界銀行やIMF(国際通貨基金)の「助言」に従って自給農業を犠牲にした結果、主食を金で買うしかない、こうした貧しい国々が穀物高騰の直接的影響を蒙ったといえます。

 世界銀行を知るには以下の2冊が参考になる。

世界銀行の副総裁を務めた日本人女性/『国をつくるという仕事』西水美恵子
経済侵略の尖兵/『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン・パーキンス

 世界銀行とIMFの仕事は発展途上国を債務超過にすることである。つまり借金漬けにした上でコントロールするのだ。これを親切に涼しい顔でやってのけるのが白人の流儀だ。

 経済とは交換(trade,swap)である。その取引(deal)においてインチキがなされているのだ。アフリカがいつまで経っても貧困と暴力に喘いでいるのは、ヨーロッパが植民地化し、アメリカが奴隷化した歴史のツケが回っているためだ。彼らは有色人種や異教徒を同じ人間とは見なさない。

 いまでは全米のトウモロコシの3割がバイオエタノール用に降り向けられた結果、食用向けが逼迫して高騰しました。トウモロコシが高値で取引されることから、農家は大豆や小麦の生産をやめ、トウモロコシへ転換するようになりました。生産量の減少で小麦と大豆も価格が上がりました。
 原油の値上がりもバイオ燃料ブームを引き起こした一因です。

 食べ物が工業用エネルギーに化けた。経済的合理性は利潤を追求するので、生産者はより高い作物を育てようとする。政治や市場はこのようにして人々の生活を破壊する。過当競争が終われば必要な物が不足している。

 特定の方向に傾きやすいのは不安に根差しているのだろう。これがファシズムの温床となる。アメリカの農業は既に工業の顔つきをしている。

 モンサント社は遺伝子組み換え技術を使った牛成長ホルモンrBST(recombinant Bovine Somatotoropin' 商品名「ポジラック」)を開発し、米国では1994年より大人の乳量増加のために使用されてきました。「ポジラック」を乳牛に注射すると、毎日出す乳の量が15~25%増えるうえに、乳を出す帰還も平均30日ほど長くなるといいます。(EUはrBSTに発ガン性があるとして輸入禁止。カナダ政府保健省はrBSTによって牛の不妊症、四肢の運動麻痺が増加すると報告した。日本には規制がないためフリーパスで入ってきた。)

 生産性を上げるためなら、こんな残酷な真似までするのだ。我々人類は。

家畜の6割が病気!

 日本の場合、屠畜上で検査されて、抗菌性物質の残留や屠畜場法に定められた疾病(尿毒症、敗血症、膿毒症、白血病、黄疸、腫瘍など)や奇形が認められることが頻発しています。その場合、屠殺禁止、全部廃棄、また内蔵など一部廃棄となるのですが、その頭数は牛・豚ともに屠殺頭数の6割にも達します(2006年度)。出荷される家畜の多くが病体であるという現実はほとんど知られていません。疾患のある内装は廃棄されるとはいいえ、その家畜の肉が健康な肉といえるでしょうか。
 私たちの身体は食べたものでできており、何を食べるかで健康は大きく左右されます。この意味からも、病体の家畜を大量に生み出す生産方式を問い直す必要があるのです。

 元々食肉業界は闇に包まれている部分が大きい。

アメリカ食肉業界の恐るべき実態/『ファストフードが世界を食いつくす』エリック・シュローサー

 ターミネーター技術とは、作物に実った二世代の種には毒ができ、自殺してしまうようにする技術のことです。この技術を種に施して売れば、農家の自家採種は無意味になり、毎年種を買わざるを得なくなります。この自殺種子技術を、「おしまいにする」という意味の英語 terminate から、RAFI(現ETC、カナダ)がターミネーターと名づけました。

 更にこの技術を進化させているそうだ。

 また業界はターミネーター技術をさらに進化させた、トレーター技術も開発しています。植物が備えている発芽や実り、耐病性などにかかわる遺伝子を人工的にブロックして、自社が販売する抗生物質や農薬などの薬剤をブロック解除剤として散布しない限り、それらの遺伝子は働かないようにしてあります。農薬化学薬品メーカーでもあるこれらの企業の薬剤を買わなければ、作物のまともな生育は期待できないのです。RAFIが、この技術を指す専門用語 trait GURT にかけて traitor (裏切り者)技術と名づけました。自社薬剤と種子のセット売りは、除草剤耐性GM作物の「自社除草剤と種子のセット売り」戦略と同じです。ターミネーター技術やトレーター技術を開発するのをみれば、アグロバイオ企業の真の狙いは種子の支配なのだと思わされます。

 最終的に彼らは太陽の光や空気も支配するつもりなのだろうか?

 遺伝子組み換え作物に導入した特性は、次世代にも引き継がれます。そのためモンサント社の種子を購入する農家は、特許権を尊重するテクノロジー同意書に署名させられ、どんな場合でも収穫した種子を翌年に播くことは許されません。毎年種会社から種を買うことが求められます。

 これをパテント(特許)化することで完全支配が成立する。実際に行われている様子が以下。

 2003年7月、市民団体が招いたシュマイザーの講演によると、北米で、農民に対してモンサント社が起こした訴訟は550件にも上るといいます。モンサント社は、組み換え種子の特許権を最大限に活用する戦略を展開しています。遺伝子組み換え種子を一度買った農家には、自家採種や種子保存を禁じ、毎年確実に種子を買わせる契約を結ばせます。そうでない農家には、突然特許権侵害の脅しの手紙を送りつけるというものです。農家の悪意によらない、不可抗力の花粉汚染であるなら、裁判では勝てると常識的に思うのですが、法廷に持ち込まれることはほとんどないといいます。農民は破産を恐れ、巨大企業モンサント社との裁判を避けるために、示談金を払うしかないのだそうです。

 こうしてモンサント社は訴訟をもビジネス化した。

 モンサント社は特許権を守るというより、損害賠償をビジネスとして展開しています。ワシントンにある食品安全センター(FSC)の2007年の調査によると、モンサント社は特許侵害の和解で1億700万~1億8600万ドルを集め、最高額はノースカロライナ農民に対しての305万ドル(約3億500万円)だったそうです。モンサント社は訴訟分野を強化するため、75人のスタッフを擁する、年間予算1000万ドルの新部門を設置したといいます(03年)。

 なぜ、これほど悪辣な企業が大手を振って歩いているのだろうか? それは多額の政治献金を行っているからだ。そして天下りも受け入れている。抜かりはない。

 また次の改定では、研究機関の新品種へのアクセスは、10年間禁止し、その後、登録とロイヤリティの支払いを求めるとしています。そしてこれを実行ならしめるため、種子銀行システムを構築するとしています。品種育成のために使用できる合法種子は、種子銀行から正式な手順に従って許可された種子だけとなり、それにはロイヤリティの支払いを伴うことになります。

 文字通り農業を根こそぎ私物化し、自分たちの言い値で販売する戦略だ。もはや戦略というレベルではなく、世界全体の植民地化といってよい。

 彼らは何を目指しているのか?

 この種子銀行システム構想の下敷きになっているのが、国際農業研究協議グループ(CGIAR)の遺伝子銀行やノルウェー領に建造された週末趣旨貯蔵庫ではないでしょうか。
 ビル・ゲイツのビルアンドメリンダゲイツ基金、ロックフェラー財団、モンサント社、シンジェンダ財団などが数千万ドルを投資して、北極圏ノルウェー領スヴァールバル諸島の不毛の山に終末趣旨貯蔵庫を建造し、2008年2月に活動を開始しています。ノルウェー政府によれば、それは、核戦争や地球温暖化などで趣旨が絶滅しても再生できるように保存するのが目的といいます。
 この貯蔵庫は、自動センサーと二つのエアロックを備え、厚さ1メートルの鋼鉄筋コンクリートの壁で出来ています。また爆発に耐える二重ドアになっています。北極点から約1000キロメートル、摂氏マイナス6度の永久凍土層深くに建てられた終末種子貯蔵庫には、さらに低温のマイナス8度の冷凍庫3室があり、450万種の趣旨を貯蔵できます。
 核戦争や自然災害など深刻な災害に世界の農業が見舞われたとき、果たして各国はこの貯蔵庫から種子を取り出し、食料生産を再開することができるのでしょうか。

終末の日の要塞 スヴァールバル世界種子貯蔵庫

 種子のマネー化である。農業の金融化。利息が利息を生んで自動的に増殖する仕組みだ。

信用創造のカラクリ
「Money As Debt」

 グローバリゼーションがニュー・ワールド・オーダー(新世界秩序)を目指したものであるならば、彼らは用意周到に恐るべき忍耐力を発揮しながら、それを必ず実現させることだろう。

 世界の仕組みを理解するための必読書であることは確かだが、如何せん最初から最後まで市民的な正義が全開となっており疲れを覚える。



モンサント社の世界戦略が農民を殺す
巨大企業モンサント社の世界戦略 遺伝子組換 バイオテクノロジー
遺伝子組み換えトウモロコシを食べる害虫が増殖中、米国
「遺伝子組換食品の脅威」ジェフリー・M・スミス
穀物メジャーとモンサント社/『面白いほどよくわかる「タブー」の世界地図 マフィア、原理主義から黒幕まで、世界を牛耳るタブー勢力の全貌(学校で教えない教科書)』世界情勢を読む会
資本主義経済崩壊の警鐘/『ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く』ナオミ・クライン
癌治療の光明 ゲルソン療法/『ガン食事療法全書』マックス・ゲルソン
アメリカの穀物輸出戦略/『この国の不都合な真実 日本はなぜここまで劣化したのか?』菅沼光弘