2021-10-11

パーソナルデータは新しい石油である/『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴


『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男

 ・パーソナルデータは新しい石油である

『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ
『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール

「パーソナルデータ:新たな資産の誕生(Personal Data: The Emergence of a New Asset Class)」というやや刺激的なタイトルのレポートが世界経済フォーラム(WEP:World Economic Forum)から、2011年2月に発表されている。レポートの冒頭には次のようなくだりがある。

「パーソナルデータは新しい石油である。21世紀の価値ある資源である。今後、社会のあらゆる場面で新たな資産として登場するようになるだろう」

【『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴〈しろた・まこと〉(ダイヤモンド社、2015年)以下同】

「はぁ?」と思う人が多いことだろう。石油は古来「燃える水」として知られていた。精製することで灯油やガソリンとなり、ガスを生み、更にはプラスチック、ビニール、ナイロンなどの石油化学製品を誕生させた。一人のパーソナルデータは一滴の石油みたいなものだ。それが大量に集まると消費動向や社会現象が解析できるようになるのだ。

 クラウド~スマホ~アプリといった流れの中で個人情報はいともたやすく企業が掌握できるようになった。クレジットカードは購買情報に過ぎないが、スマホ決済は消費+行動までを辿ることができる。昨今、GメールアドレスやフェイスブックアカウントがIDとして罷(まか)り通っているが、GAFAMに情報が集積されつつあると考えてよかろう。

 これに対して欧州ではパーソナルデータの「コントロール権」を消費者に取り戻す動きがあるという。

 ここでいう「パーソナルデータ」とは、年齢や性別、職業、年収の他、趣味、関心事、所有している車、商品の購買履歴、電力やガスの使用履歴、あるいは自分の健康情報(血圧や心拍数に加え、人間ドックで測定するような詳細な情報)、さらには遺伝子情報といった究極の個人情報まで多岐に渡る。場合によっては、無償で提供するのではなく、金銭と引き換えに「パーソナルデータへのアクセス権」を提供することも想定されている。

 パーソナルデータは「便利さ」と引き換えに提供される。詳細な健康情報を与えることで病気に気づくことができる。趣味や好みを伝えることで欲しい品物がピンポイントで紹介してもらえる。つまり欲望が実現しやすくなるのだ。

「われわれはあなたがどこにいるか知っている。どこにいたかも知っている。あなたが考えていることもおおよそ把握している(We know where you are. We know shere you’ve been. We can more or less know what you’re thinking about.)」
 2010年10月、当時グーグルのCEOであったエリック・シュミット氏は米国の経済誌『ジ・アトランティック』のインタビューを受けた際、このように語っている。

 ビッグブラザーのご託宣だ(『一九八四年』)。これに対して多くの善男善女は「別に悪いことをしているわけでもないから結構だ」と考える人が多いことだろう。しかも相手はAIだ。特定の誰かが覗き見しているわけではない。この安易さが怖い。一昔前まで監視カメラはプライバシーを侵害するという理由で人々から毛嫌いされていた。ところが現在では防犯カメラという名前で人々に安心を与えている。警備会社はホームセキュリティという新しい分野を開拓し、順調に業績を伸ばしている。

 私は映画『トゥルーマン・ショー』を思い出さずにはいられない。トゥルーマンはラストシーンで舞台から去った。満たされた生活よりも自由を選んだのだ。バブル景気が崩壊し、失われた20年を経て人々の価値観は大きく変わった。我々が欲するのは「買う自由」だ。幸福とは「欲しいものを買う」ことであり、自由とは「好きな時に買える」ことを意味する。ここにおいてパーソナルデータの提供を拒む理由はなくなる。

 自分の行動を全て知られてしまえば、これからの行動をコントロールすることが容易になる。ビッグデータは行動経済学や心理学をも実装し、我々の幸福を規定するに違いない。そこに満足はあっても自由はない。

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