2021-10-09

あらゆる行動がオンラインデータになって個人のIDとして結びつく/『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文、尾原和啓


『デジタル・ゴールド ビットコイン、その知られざる物語』ナサニエル・ポッパー
『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』山本康正
『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、ケネス・クキエ
『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』矢野和男
『パーソナルデータの衝撃 一生を丸裸にされる「情報経済」が始まった』城田真琴
『マインド・ハッキング あなたの感情を支配し行動を操るソーシャルメディア』クリストファー・ワイリー
『無人の兵団 AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』ポール・シャーレ
『データ資本主義 ビッグデータがもたらす新しい経済』ビクター・マイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ

 ・あらゆる行動がオンラインデータになって個人のIDとして結びつく

・『BANK4.0 未来の銀行』ブレット・キング
『あなたを支配し、社会を破壊する、AI・ビッグデータの罠』キャシー・オニール

『AI監獄ウイグル』ジェフリー・ケイジ
『ジャック・マー アリババの経営哲学』張燕
『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』エリック・ジョーゲンソン
『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』佐藤航陽

情報とアルゴリズム
必読書リスト その三

 近年、中国は「デジタル先進国」として注目されています。約14億人の国民が生み出すビッグデータと優秀なIT人材、政府の強力な後押しによって、新たな社会インフラサービスを高スピードで生み出しています。

【『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文〈ふじい・やすふみ〉、尾原和啓〈おばら・かずひろ〉(日経BP、2019年)以下同】

 次代の新しい顔が見える。横書きテキストを嫌悪する私が間もなく読了する。見出しデザインに何の工夫もなく、まるで教科書以下の体裁だが内容は超弩級(ちょうどきゅう)である。更に藤井は中国在住だけあって、日本を凌駕するデジタルトランスフォーメーションの実態がありありとわかる。日本の場合、張り巡らされた官僚システムとサラリーマン社長が変容(トランスフォーメーション)を阻害する。

【こうした世界の変化において一番重要なことは、「オフラインがなくなる時代の到来」です】。今まではデータとして取得できなかった消費者のあらゆる行動が、オンラインデータになって個人のIDとして結びつくのです。

 買い物をした時の動き、どこで止まって、どこで迷い、結局何を買ったか、までが掌握されるという。現在はamazonのレコメンド機能(あなたへのおすすめ)など大雑把な商品推薦にとどまっているが、膨大なデータ集積によって自分の欲望にドンピシャリの商品がピンポイントで示されるようになる。

 モバイル決済ツールの浸透、そして、シェアリング自転車などデジタル技術にひも付いた新しいサービスの普及によって、より多くの行動データが集まると、新しいことができるようになります。それが、「信用経済・評価経済の活用」です。

 一時期、中国のニュースが報じられた。個人の信用(与信)をデータ化し、ヤフーオークションのように評価されるシステムだ。

 日本でジーマ・クレジットが報道されることはありますが、その際、負の側面にスポットライトを当て過ぎているように思います。よくある報道は、信用スコアが下がり過ぎて新幹線のチケットが飼えなくなったとか、ディストピア的な管理社会につながるといった悲観的な内容です。私は実際中国に住んでいて、窮屈で肩身の狭い実感はありませ。むしろ、信用スコアのサービスは「データを提供すると点数が上がってメリットがもらえるゲーム」といった印象です。

 その背景には、中国にはこれまでまともな与信管理がなく、多くの人が信用情報を持っていない状態にあったため、個人貸付などがまともにできなかったという現状があります。さらに、都市戸籍を持つ人と農村戸籍を持つ人は生まれながらにして権利が違い、農村戸籍を持つ人が都市に住もうとすると、社会保障・生活保障制度がなく、医療保険も年金もまともに受けられず、家を借りる時にも優先されないという状況でした(現在、中国政府が2020年までにこの格差をなくすと発表し、実現方法を議論しています)。

 続けてこうだ。

 これは私の主観ですが、【信用スコアが浸透してから中国人のマナーは格段に上がった】ように感じられます。(中略)

 中国では文化大革命の後、そうした儒教的な文化や考え方が一度リセットされたのです。そうした状況で信用スコアという評価体系が登場したことで、【「善行を積むと評価してもらえる」】とかンゲルようになりました。文化や習慣ではできなかったことが、データとIT技術によって成し遂げられようとしているのです。

 善行の点数制だ。陰徳のデータ化。ありとあらゆるものが「見える」ようになったら、どんな社会が出現するのだろう? 全てのデータを管理するAIが神の位置に君臨するのは確実だ。無駄がなくなり、合理化が限界まで推進した暁に待ち受ける世界象がどうも浮かんでこない。一定の必要悪を認めなければ、何らかの圧力が社会のそこかしこに形成されることだろう。

 なんだかんだとケチをつけたがるのは私が古い時代の人間であるためだ。人間と人間は自ずと信頼関係を結べる。とは言うものの、バブル崩壊以降、人間と人間が分断されバラバラになってきたのも確かな事実だ。既に人間関係ですら非正規化しつつある。そんな世紀末状況にある中で、AIやビッグデータというツールを利用して、再び人と人とが信じ合える世界を構築できるとすれば、その推進を妨げることはできない。ただし人間の身体能力や感性が劣化しなければ、という条件付きである。

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