・『メッセージ 告白的青春論』丸山健二
・20世紀の神話
・風は変化の象徴
・オオルリと世一
・孤なる魂をもつ者
・『見よ 月が後を追う』 丸山健二
・必読書リスト その一
千日の物語は「風」から幕を明ける。まほろ町に吹く一陣の風が運んだドラマだったのかも知れない。
私は風だ。
【『千日の瑠璃』丸山健二(文藝春秋、1992年/文春文庫、1996年)以下同】
風は自らの意志をもって一人の老人の命を奪い、一羽の鳥の命を救う。変化を象徴する「風」が生と死の一線を画し、新たな世界へと読者を誘(いざな)う。
天に近い山々の紅葉が燃えに燃える十月の一日の土曜日、静か過ぎる黄昏(たそがれ)時のことだった。
千の主語の冒頭を飾る「風」は、すんなり決まったに違いない。丸山はオートバイに初めて乗った瞬間に知った風の感動をエッセイに書いている。スロットルを開いてキラキラとした風の中を体験した時から、この作品に向かっていたのではないだろうか。
風は変化の象徴である。季節の移り変わりを知らせ、塵(ちり)を払いのけ、根を張らぬものをなぎ倒し、吹き飛ばす。向かい風となって前進する者の意志を試し、追い風となって帆に力を与える。
風──見えないが、確かに感じる。そこに生と死を絡めた手腕に敬服した。
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