2013-07-15

『世界の果てでダンス』アーシュラ・K・ル=グウィン:篠目清美訳(白水社、1991年/新装版、2006年)

世界の果てでダンス

『ゲド戦記』、『闇の左手』、『所有せざる人々』を代表作とする巨匠、「SFファンタジー界の女王」ル=グウィン。本書では、自称「ハンドバッグを振りまわして戦う怒れるおばさん」として鋭い矛先を向ける。その対象は、「ヘミングウェイからメイラーに至るちっぽけなマッチョ」の作家たちから、男性中心のアメリカ文壇、妊娠中絶反対派、アメリカ先住民を迫害し、その文化を滅ぼした白人社会まで、様々だ。「フェミニズムの旗手」としても名高いル=グウィンは、女性の持ち物であるハンドバッグ、つまり「母語」を武器にして、辛口でユーモアあふれる論を展開する。

「彼は後ずさりし、前方を見る」というアメリカ先住民の言葉がある。これは岩の裂け目に後ずさりしていくヤマアラシの思考を表現したもので、未来を考えるために後ろに進むル=グウィンの思考とも重なる。

 英米の田舎への旅を回想し、名前だけ残った土地への切々たる思いを詩情豊かに歌い上げる「土地の名前」、「丘を越えはるかかなたへ」。『若草物語』のジョーやヴァージニア・ウルフなど女性作家たちを振り返り、物語や女性作家の叙述について考察する「漁婦の娘」等々。

 ル=グウィンは本書を「心変わりの記録」と呼んでいる。ぐるぐる回り、わき道にそれ、向きを変えて、もとに戻る。ヤマアラシやコヨーテのような試み――「新しい世界を作るためには古い世界からはじめるのです」――ル=グウィンは世界の果てで復活のダンス、創造のダンスを踊っているのである。

「左ききの卒業式祝辞」ほか。

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